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閃光の瞬  作者: KK9996
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第4話 通らない装甲と仕組まれた誤認

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

第4話


“契約要項 : 非戦闘員への暴力、拉致・監禁等は固く禁ずる。これに違反した者は、直ちに資格・等級を剥奪とし、回収または討伐対象となる”


『――速報です。先日10時頃、第4地区で発生した武装襲撃について、都市警備局は外部勢力の関与の可能性が高いとして、調査を進めています』

『なお、襲撃犯は都市の治安調整部隊を装ったものと見られ、現在、一本橋と主要道路の検問の強化を段階的に進める方針です』


瞬のアパート、そのロビーのテレビが喋っていた。


「…だから、人工コーヒーは練乳と人工甘味料たっぷりで、冷やすって決まってるんだよ」


白く、甘く、冷たくなった人工コーヒーをガブガブと飲みながら瞬が言った。


「いやいや、何も入れないで風味を愉しむモンだろ普通」


対して、座愛がブラックの人工コーヒーを回し、立ち上る湯気の匂いを嗅ぎながら言った。


…座愛ももう、このアパートの住人だった。


「私ら、もしかして戦闘の相性以外はサイアク?」


「まぁそうかもな。そもそも、蜘蛛と銃が苦手だし」


「蜘蛛は益虫だし、かわいいじゃん」


「いや、見た目が怖い。脚が多すぎる」


電子が割って入る。


「瞬、座愛。ロビーで何を話してるんですか?」


「蜘蛛は脚が多くて冷たい方が美味い…間違えた」

「んんっ。コーヒーは甘く冷たい方が美味いか、温かくて苦いほうが美味いかだ」


瞬が2杯目の激甘人工コーヒーを作りながら答えた。


ロビーには、瞬たちが契約したジュースサーバーが置かれていた。

氷と人工甘味料と砂糖まで使い放題だ。


瞬は人工コーヒーのボタンを押し、出てきたそれに大量の人工甘味料と砂糖と氷を放り込む。


「カフェインと糖分を一気に素早く補給するのが人工コーヒーってわけだよ」


「いや、じっくり長く、風味と時間を味わうモンだって」


2人が揃って電子の方を向く。

どちらが正しいか決めろと言わんばかりだった。


「…どっちも苦くて苦手です。私は人工イチゴミルク派なので」


電子がサーバーのボタンを押した。

いちばん甘ったるそうな液体が、とろりと落ちてきた。


「お、おう…」


スッキリした顔になった電子が続けた。


「そんなことより瞬、座愛。今回は討伐の依頼が来ています」

「要約すると、一般市民に手を出して契約抹消になったランカーの討伐ですが…」


人工イチゴミルクで晴れていた顔が、また曇った。


「元Aランク2位…旗中破海はたなかはかいです。正直に言って格上です」


瞬がピクリと反応し、刀がカチャリと鳴った。


「Aランク…ということは報酬もそれなりにデカいか?」


「はい。固定で600万Vicksです。ただ、格上なのでパスかなと思い…」


電子が人工イチゴミルクを飲みながら続けた。


「600万か…格上だからって逃げてたら、いつまでもスラムの救済も借金返済も達成できねぇ気がする」


「それに、今は頼れる“相棒”もいるし、楽勝だろ」


座愛が会話に入ってきた。

その間に瞬はまた、激甘人工コーヒーを作り出して、ガブガブと飲んだ。


(仕事始めに…もう一杯くらいなら…)


そこへ電子が呟く。


「あと、元Aランク2位とのことですが……少し妙なんです」

「この人の実績、ランキングの変動と一致していません」


座愛が頭を傾げた。


「つまり?」


それに、瞬が即答する。


「……つまり、誰かが順位を動かしてるってことか?」


「断定はできませんが……可能性はあります」


電子の表情が曇った。

そして、切り出し直す。


「で、この討伐依頼は受けるんですか…?それなら、大量の爆発物を持った方が良さそうです」


瞬と座愛が同時に聞き返した。


「爆発物?」


「ええ。なんでも、超強化された皮膚アーマーをインストールしてるとかで、普通の攻撃が通らない可能性があります」

「ただし、潜伏先は高圧ガスのタンクが多数ある旧式施設です。」


電子が端末を弄りながら続ける。


「安易にグレネードを投げれば施設ごと誘爆する危険があります」

「使うなら、周囲をよく見てからにしてください」


その言葉に、瞬と座愛は少し笑う。


「はっ、俺たちの攻撃が通用しない相手なんて、想像できねぇな」


「ヒートシンクで最強の刀と最強の銃だぞ…グレネードだけだなんて」

「でも、私と同じ種類の皮膚アーマーなら、確かに普通の刀や銃弾は通らないかも」


電子は不安そうに頷いた。


「なので…一応、備えはしていってくださいね」


瞬はその不安を打ち消すように言う。


「わかった。念のため、爆発物は持っていくよ」

「グレネード複数に、この前、刀を研ぐついでに闇工房で作った即席のトラップ爆弾。これなら大丈夫だろ」


そう言って、瞬は自分の端末を起動して、任務確認画面の『>はい』を押した。


…この任務を受けたのは、あまりに軽率だったと知るのは、そう遠くない未来の話だ。


ここは、企業都市・ヒートシンクの“工場地域”。


現在、旗中がアジトとして張っているとされている場所だ。


化学薬品の独特の匂いを帯びた有害な煙が、張り巡らされたパイプの間を通り抜けて空に上っていく。

無数のパイプ。

無数のタンク。

“関係者以外立ち入り禁止”の看板。

“危険”の標識。


――この配管の密林の中。


旗中はソファーにふんぞりかえっていた。


「…女をさらって売るほうが楽に儲かるとは思ってたが、まさか、バレるとはな…」

「上も気が短いもんだ…だが、このアーマーがある限り、誰が来ても殺されることはない」


本物の酒を飲みながら、旗中は続ける。


「はぁ…追放されるのも悪くねぇな。本物の酒が飲めら」

「…そういや、この前攫ったあの女は?あれは高く売れそうだ」


部下が答える。


「旗中さん、女ならまだ車のトランクです。傷はついてません」


それを聞いて、旗中は息を少し荒くした。


「なら、売る前に少し楽しませてもらおうか…」


――その配管の密林を見下ろす巨大タンクの上。


「…電子。通信は良好か?」


「こちらは座愛。テス、テス」


『はい。どちらも良好です』


「それじゃ、作戦開始だ」


「作戦って、何かあるの?」


座愛が瞬に首を寄せる。

髪がサラリと揺れ、甘い香りがした。


「あるさ。その1、あの見張りを座愛が撃つ。その2、怒った手下がどんどん出てくる」

「それを座愛が撃つ。その3、ターゲットが出てくるから俺が刺す」


座愛はこの時思った。


(あれ?こいつってやっぱ脳筋だったのか?)


その顔だけで、座愛が何を思ったのかはだいたいわかった。


「それだけ、その銃とその腕前を信用してるってことだ」


この瞬の言葉と笑顔に、座愛の心拍数が少しだけ上がる。


「それじゃ、始めよう!」


座愛は背中から後ろに、4本の鉄の“蜘蛛脚”を展開し始めた。

金属の軋む音。

圧縮空気の開放音。

最後に、脚が地面を噛む音。


美少女が大きな蜘蛛へ変わる。


「カッコいいよな。その変身機構。…なんか欲しくなる」


瞬が羨ましそうに見た。


「“男心をくすぐる”ってやつ?これで反動は地面に流すんだ」


「そして、50口径弾が撃てるのか」


「そう。で、銃自体もレートを抑えてある。そんで、連射が可能ってわけ」

「いつでも行けるよ」


その言葉に、瞬は頷いた。


座愛が大きく息を吸い、止める。


途端、静寂を轟音が切り裂いた。


――ダン、ダン、ダン!


見張りは紙切れのようになって倒れた。

1発目で反動に揺れ、2発目で倒れかけ、3発目で完全に落ちた。

その動きは、まるで最期のダンスだった。


当然、警報が鳴る。


「狙い通りだな。さすがにここまでの火力は想定してないだろ」


瞬も刀を抜き、待機する。

金属音は、座愛の重い連射音に掻き消された。


敵が、配管の密林から次々に出てくる。

それを、座愛が掃射で一蹴する。


意外にも、手下たちはその火力に押されていた。


「思いのほか雑魚が多いな。よし、“それ”のオーバーヒートに備えて俺も突入する!」


「“スプラッターキャノン”ね」


「わかった。スプラッターキャノンで俺を巻き込まないようにな!」


瞬が配管の密林に突入する。

その時。


2人の敵と至近距離で鉢合わせた。


距離が近すぎる。

脚の踏ん張りと腕のバネだけで刺突する。


1人目は、そのまま崩れた。


2人目は至近距離で銃を構える。

だが、1人目の体からまだ刀が抜けない。


「まずい!」


その瞬間、座愛のスプラッターキャノンが鈍く吠えた。


50口径弾が、2人目の銃を弾き飛ばす。

火花。

銃が宙を舞う。


敵の手はその反動で痺れ、抑えるしかない。


座愛の銃口がそのまま下がる。


「次、胴体行く!」


――鈍く遅い連射音。


1発目で破片。

2発目でアーマー破壊。

3発目で貫通。


この敵もまた、最期のダンスを踊った。


気づけば、座愛は階段を降りてもう隣にいた。


「瞬!私がいなかったら何回死んでた?」


「まだ2回目だろ。それに、実際1回は死んでる」


座愛は少し驚く。

髪が揺れる。


「そのアイコニックモッドモジュール、フラッシュだっけ?」

「それって、相当なキャパシティが必要な上に、1回死なないと入れられないって噂、マジだったのか」


「死ぬというか、脳の一部置き換えだからな」


そうこうしてる間に、警報が鳴り止んだ。

静寂が戻る。


その静寂を、重い足音が破る。


ドスン。

ドスン。

ドスン。


ブーツが地面にめり込むような音と共に、“旗中”が現れた。


「これから楽しもうって時に、随分と派手にやってくれたな」


身長は190cmを軽く超える。

瞬と座愛を見下ろす巨体。

両手でライトマシンガンを抱えて、全身は見るからに分厚いアーマーで覆われている。

顔も、顎から目の下まで鉄で隠されていた。


「…死んでもらう」


旗中はライトマシンガンを腰だめで構える。


「瞬!あれの弾は斬れるのか!?」


座愛が叫んだ。


「アサルトライフルまでなら斬ったことがある!やってみるしかない!」


そして、旗中はレーザーポインターだけを頼りに乱射しはじめた。


ドドドドドドドドドドドド!


その連射が、瞬を捉える。


だが、瞬は刀を斜めに置き、ある時は横、ある時は縦に構え直した。

火花が出続ける。

そして、ライトマシンガンの掃射も斬り落としてみせた。


「はぁ…はぁ…ギリギリいける!」


裂けた弾の1発が、後ろの座愛の耳元を掠める。


ピュン!


「ひっ…!」


座愛は思わず肩をすくめた。

骨へのダメージを無効化する骨格コートがあっても、目は別だ。


「間近で見るとすごいなそれ」


驚いているのは旗中の方だった。


「バカな…こんな傭兵いたか?」


その隙に、瞬はフラッシュがオーバーヒートする前に決めようと脚へ力を込める。


力の限り踏み込み、刺突。


決まった――と思われた。


「…っ!」


刀は、少しも入らない。

貫通しないどころか、刃が進まない。


折れはしなかった。

その代わり、反動が瞬の手へまともに返る。


手首の骨まで痺れるような硬さだった。


「どけ、瞬!」


座愛がすぐに銃を構える。

瞬は飛び退く。


「何のアーマーか知らないが、50口径までは耐えられないだろ!」


ダン、ダン、ダン、ダン!


座愛のスプラッターキャノンが鈍い連射を吐く。


しかし。


同じリズムで4回、煙と破裂音が返るだけだった。


「バカな…スプラッターキャノンも通らないのか!?」


瞬も座愛も、さすがに言葉を失った。


次の瞬間、通信が入った。


『…攻撃、通りませんか!?なら爆発物です!それなら通るかもしれません!』


電子が通信越しに叫ぶ。


「電子の言うとおり、爆発物なら通るかもしれない!」


瞬は慣れない手つきでグレネードのピンを抜き、投げる。

旗中の足元に転がる。


だが、旗中は気にも留めない。


「座愛、隠れろ!」


座愛は急いで蜘蛛脚スタビライザーを格納し、砲台から普通の人間に戻る。

2人は物陰に飛び込む。


炸裂。

閃光と破片が飛ぶ。


旗中は少しよろめいただけ。


「マジ、かよ…」


旗中がまるで再起動するように、当たり前のように銃を構える。


「じゃあ、いいか?」


掃射。


しかし、瞬も負けてはいない。

ライトマシンガンの雨を全弾斬り落とした。


だが。


「刀も通らない…銃も通らない…グレネードも効かない…」

「――詰みか?」


瞬と座愛には打つ手がない。

だが、瞬の頭の中には1つだけ残っていた。


「…あのデカいマシンガンだけでも斬れれば変わる!…たぶん!!」


「銃も斬れるのかよ!?」


座愛は驚いた。

瞬はまたグレネードを投げる。


「…何度やっても同じだ。その爆発では俺は死なん」


炸裂。

小さな爆風が押し寄せる。


爆圧を受けて、旗中の巨体がわずかによろめいた。


「今だ!」


瞬が突っ込む。

いつもの刺突ではない。

刀を振り下ろす。


斬る対象は…旗中でなく――ライトマシンガン。


銃身と機関部、その継ぎ目。

アーマーみたいに衝撃を逃す構造じゃない、壊せる一点だった。


「そのアーマーは化け物じみてるが、武器まで同じってわけじゃないだろ!」


ライトマシンガンを完全に真っ二つに叩き落とした。


「よし、これでいい!ここは一旦逃げよう!」

「攻撃手段がなくても、やつに通常の攻撃は通らない!」


「で、逃げた後の考えは!?」


「無い!…が、施設内に何か使える物があるかもしれない!」


瞬と座愛は施設の奥へ走った。

全力疾走。

背後では重い足音が追ってくるが、すぐには詰められない。


「――はぁ…はぁ…ヤバいな。流石、元Aランク2位」


「ああ、雑魚とは格が違うな」


“高圧ガス 危険!”の文字がベタベタと貼られたタンクが大量に立ち並ぶ部屋で、瞬と座愛は息を切らしていた。


その時、瞬が何かに気づいた。


「これは…窒素ガス?そしてこっちは、メタンガス…?」


タンクを覗き込みながら確認する。


――はっ。


瞬が閃き、必要なものを確認する。


瞬の視線が壁を走る。

排煙ボタン。

防爆シャッター。

だが酸素マスクは見当たらない。


座愛が部屋の隅を指した。


「非常箱!この手の危険区画ならあるはずだ」


瞬が赤い箱を蹴り付ける。

中には酸素マスクが2つ。


「条件が揃った…上手くいけば、勝てる!」

「この環境なら勝てる…いや、“勝たせる”」


「…来たか。フラッシュ」


座愛が、少し驚きながら笑った。


――少しして、旗中が追いついて来た。


ドスン、ドスン、ドスン。

歩くだけで地面も空気も揺れる。

旗中が、その震えを低い声で裂いた。


「ここに居たか」


瞬が前に出る。

酸素マスクを付けている。


旗中はコンバットナイフを抜いた。


「…銃がなくても、俺にはこのアーマーがある」

「“追放後”に違法店でインストールした代物だ。そっちにデータは…無い!」


それを受けて、瞬も刀を抜く。


「…それは通らないのは見ただろう。諦めるんだな」


だが、その時、旗中は気づく。


「…その酸素マスク…なるほど」


旗中は窒素ガスのタンクに目をやった。

そのタンクには、刀の傷がある。


「…なるほど。窒素ガスを部屋に充満させて、窒息させようという策か」


酸素マスクを付けた瞬は何も答えない。


「…なんという浅知恵か。そんなもの、排煙機構でどうとでもなる」


旗中が排煙ボタンに手をかける――


その瞬間、瞬はマスク越しにニヤリと笑った。

マスク越しに、笑ったように見せた。


…旗中の手が止まる。


「…なるほど。こうやって、排煙ボタンに仕掛けていた爆弾を起爆させる、というのが本命の策か」


「…くそっ!」


旗中の目が細くなった。


「…ならば話は単純。こちらが酸欠になる前に、ナイフで決着をつけるまでだ」


旗中がナイフを構え、巨大な体を走らせようと力を入れた。


その時。


「今だ!座愛!グレネードを投げろ!」


瞬が酸素マスクを外し、隠れていた座愛に指示を飛ばす。

すぐに、座愛は旗中の足元に正確にグレネードを転がした。


「…だから、こんなオモチャは通用しないと…」


そう余裕を見せていた旗中が、さらに気づく。


…メタンガスのタンクから、シューっと音が鳴っている。


「しまった!」


「あばよ、Aランク」


窒息じゃない。

爆発だ。


瞬は目の前の防爆シャッターを、力の限り引き下ろした。


その瞬間、シャッターの向こうで大爆発。

赤とも白とも取れない閃光が目を刺し、遅れて轟音が空気を切り裂く。


部屋に満たされていたのは、窒素ガスではなくメタンガスだった。

尋常でない爆発を引き起こす。


窒素で油断させて、メタンに気づかせなかった。

排煙を止めさせるための“フェイク”。

――それが、本命だった。


「…ぐはっ!」


旗中が血を吐いた。

外からの攻撃には強いアーマーでも、爆炎と衝撃までは殺しきれなかった。

逃げ場のない圧力が、旗中の中身を叩き潰した。


旗中の巨体が遂に崩れた。

ナイフが転がる。


少し歪んだ防爆シャッターを、瞬が刀で斬ってこじ開けた。

旗中の無力化を確認するためだ。


「…うっ……こんな…バカなことが…」


旗中は息も絶え絶えだった。


「見立ては悪くなかったな。排煙ボタンには本当に爆弾を仕掛けてはいたが…」

「本当の狙いに気づかず、そこで勝利を確信して、排気しなかったのがお前の敗因だ」


瞬がそう言うと、旗中の意識は闇に落ちた。


「すごい…本当に、策でAランクを…」


座愛は鳥肌を立てた。

興奮で、髪の先までふわりと逆立つような気がした。


通信の向こうではいつものように、おかっぱ頭が小躍りしていた。


『やったぁ!Aランク、600万ですよ!!』


その時、瞬がふと思い出す。


「…そういや表に良い車が停まってたよな」


座愛も思い出した。


「ああ、ステンレスシルバーのセダン、ヤナギのS3500だ」


「あれが旗中の持ち物なら、勝った俺がもらっていいことになってるよな」


ヒートシンクでは、勝者が敗者の持ち物を奪える。

車も例外じゃない。


――任務完了を送信した端末にいつものように返事が来る。


『任務 : 完了』

『報酬 : 支払い済み』

『功績 : 閃野 瞬・善名 座愛』

『主担当 : 閃野 瞬』

『所有権の移行 : YANAGI S3500』


「よっしゃ、車をゲットだ」


「嫌な仕組みですね」


喜ぶ瞬に対し、電子はこのシステムを少し嫌そうに呟いた。


旗中から既に奪っていたキーを刺し、回す。

甘美なV10ハイブリッドエンジンが、悲しげな咆哮を上げた。


瞬が嬉しそうにハンドルを握っていた、その時だった。

トランクの方から、振動と声みたいなものが伝わってくる。


車内の空気が、一気に張り詰めた。


「…全員、油断するな」


座愛は銃を構え、瞬は刀を抜く。

そして車のトランクを開けた。


高級車のトランクは、軋みもなく、無音で開いた。


…中には、口をテープで塞がれ、鎖でぐるぐる巻きにされたセーラー服の少女が入れられていた。


「――っ!――っ!」


少女の目は、怯えだけじゃなかった。


…何かを“訴えている”目だった。


「――えーと、どういう状況?」


読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。


次回更新は平日19:20 2話ずつを予定しております。

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