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第2話 見えない攻撃と新たな居場所

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 ――瞬が切山に勝利した。

 アドレナリンで、指先はまだ震えていた。


「ああ、これで借金も返して、スラム――第6地区の救済も目指せるな」


「はい!」


 電子が跳ねるように返した。

 その横で、瞬はまだ顔に残った塗料をタオルで拭っている。


 その時、端末から通知音が鳴った。


『登録住所 : 未登録』

『報酬支払い : 50%保留』

『追加依頼受諾 : 制限中』

『(!)24時間以内に登録してください(!)』


 瞬は手を止めた。

 せっかく拾った未来を、端末の表示ひとつで止められた気がした。


「……住所がないだけで、金も仕事も止められるのか」


「はい。企業傭兵は“管理できる場所に住む”ことも契約条件です」

「前に黙って使ってたスラムのアパートとか適当に書けば、監査が来ます。監査官と勝負になったら勝てますか?」


「……今は遠慮したいな」


 その時、背後の雑踏が少しだけ割れた。


 企業CMの光が、人混みの向こうで揺れた。

 その中で、ひとつだけ動かない影があった。


 瞬と電子が報酬通知に気を取られている間も、その男だけは、瞬たちをまっすぐ見ていた。


「切山の信号が落ちた瞬間、裏の功績ログを漁った」

「出てきたよ。切山討伐――新規登録のサムライ、閃野瞬」


 ……瞬はその視線の圧のようなものを感じた。

 まるで、スナイパーから狙われている時のような背筋の寒さ。

 この圧を瞬は逃さない。


「……電子、まだ終わってない」


「……はい、依頼課ではない“誰か”が私たちの功績ログを見た形跡があります。残党でしょうか」


 電子が個人端末をいじりながら状況を整理した。

 すると、瞬の目に、その男の異様な装備が映った。


「あの男、タンクを背負って手に噴射機構みたいなのを持ってるぞ……ヒートシンクにしたっておかしい」


 その時だった。


 辺りが煙幕に囲まれた。


「まずい!何も見えない!」


「瞬!これは!?」


 手で払い除けてもまとわりつく重い煙。

 この煙の中なら、向こうも正確には撃てない。

 瞬は一瞬だけ、そう判断した。


 ――では何故?


 答えはすぐにわかった。最悪の形で。


 パァン!パァン!パァン!


 ハンドガンの乾いた音が煙幕を裂く。

 そして――瞬の腹に命中した。


 腹に鈍い衝撃が叩き込まれた。

 息が詰まる。

 着流しの布が焦げる。


「っ……!」


 貫通はしていない。

 ドクターキセノンが寄越した軽防弾着流しが、ギリギリで止めていた。

 一瞬だけ、切山に撃たれた時の痛みが脳裏をよぎる。

 瞬は、とっさに腹を押さえて走った。


「くそっ、敵は煙幕の中で正確に狙ってくる!電子、煙の中から脱出して可能な限り遠くへ逃げろ!」


 声が少し強かったのは、命令というより焦りに近かった。

 仲間に怪我はさせたくない。


 銃声で軽いパニックが起こる。

 人々は安全を求めて逃げ始めた。


 瞬も煙幕の塊の中から脱出していた。

 すると、煙を裂いて男が一人、瞬の前に歩み出た。


「切山の借り、命で返してもらう!」


 それに瞬は答える。


「ああ、確かに切山をやったのは俺だ。そして、お前は切山の残党か何かってとこか?」


「いや、親友だった!あいつはクズだったが、俺にとってはな!」


 男は銃を乱射した。


 だが。


 瞬は刀を抜き、また置くように構えて弾丸を全て斬る。


 キン!キン!キン!キン!


 撃った分だけ弾の砕ける金属音が響く。

 これがフラッシュの力だ。


「バカな!?銃弾を斬るのか!?……道理で切山も負けるわけだ。ただのサムライじゃないな」


 男は銃弾を斬られることに驚愕した。

 が、あることも見抜いていた。


 ……煙の中で銃弾は斬られていない。


「……煙の外じゃ斬る。なら、お前は弾を見てる」

「だったら、見えない状況で殺すだけだ」


 男はフラッシュの特性を言い当てた。


「だからなんだ」


「だから、こうするのさ!」


 そう言うと、男は腕から大量の濃い煙幕を噴射した。


「しまった!」


 瞬が気付くが、遅い。

 またハンドガンの音がこだまする。


 今度は脇腹を撃たれた。

 あざと衝撃が増えていく。

 ダメージが蓄積する。


「っ……くそ!なんでこの視界の中でそんな正確に狙える!?」


 そう言う瞬は、この時に気付いた。


「……なるほど、そういうモッドモジュールか。煙の中だろうが索敵ができる」


 痛みで視界が揺れても、頭だけはまだ死んでいなかった。


 それを聞いた男はまた激昂する。


「その通りだ!お前は見えなくても俺には見える!!切山と同じクリニックで、目を強化してある!」


 いつのまにか辺りは無人になっていた。


 そこに、男は銃を乱射する。


 乾いた音が無人の路地によく響いた。

 そして、響いた音は銃声だけではない。

 軽防弾の着流しが弾を砕く音。

 だが、これ以上被弾すると軽防弾では持たない。

 早く手を打たなければならない。


「くそっ!どうする!?この煙は厄介だ……」


 その時、一つのビルが脳裏に浮かんだ。

 スカベンジャー時代、巡回やギャングをやり過ごすために何度も潜った廃ビルだ。

 あの頃は生き延びるためだった土地勘が、今は勝つための地図になっていた。

 そして、あの奥には……。


 ――はっ。


「あそこには……あれがある。上手く使えれば!」


 そして瞬は走った。

 煙を抜ける。

 慣れ親しんだスラム街。

 もう、自分の庭のようになっている。


 そのビルまで、真っ直ぐ向かった。


 逃げる途中、背後から銃声が跳ねた。

 瞬は一瞬だけ振り返り、刀を背中に斜めに置く。

 火花だけが背中の後ろで散った。


「ちっ……」


 男は軽く舌打ちした。


「ならいい、止まったところを煙幕でやるだけだ!」


 そして、目的のビルに辿り着いた。

 そのビルは、ボロく、半分崩壊しているように見えた。


 そのビルの外壁をつたい、2階部分へと急いで上がる。


 そして、目的の物を見つけた。

 低い機械音が、壁の奥でまだ生きていた。


 瞬は、すばやく足元の鉄パイプを切り、古い排気設備の隙間に強引にねじ込んで止めた。

 ガキン、と嫌な音が響いた。


 そこに、男が追いついてきた。


「これで行き止まりだな」


「ああ。一騎打ちと行こう」


 男はすぐに煙幕を噴射した。

 何も見えなくなる。


「これでお前の負けだ!その着流しも、もう持たないだろ!」


 男は煙幕の中で銃を構える。

 目のモッドモジュールで瞬の位置は見える。

 これでもう一方的にやれる。


 だが。


 瞬が後ろ手で、さきほど“古い排気設備”に刺した鉄パイプを引き抜いた。


 すると、“巨大な換気扇”が回りだし、煙幕を一気に吹き飛ばした。


 凄まじい風が、白い煙を路地の外へ押し流していく。


「換気扇……しまった!壊れてなかった!?まさか、その鉄パイプをねじ込んで止めてたのか!?」


「そうだ。残念だったな」


 男はまた煙幕を出しても、次々と吹き飛ばされていく。

 視界はいつまでもクリアだ。


「み、見えたところでなんだってんだ!」


 男は瞬めがけ、銃を乱射し始めた。


 パァン!パァン!パァン!パァン!


 しかし、今は見えている。

 飛んでくる弾道が、瞬の視界に浮かぶ。


 刀を斜めに置くように構える。


 キン!キン!キン!キン!


 火花が散って弾が砕ける。

 砕けた弾は壁に突き刺さる。

 男の顔が引きつった。


「そんな……」


「惜しかったな」


 瞬が脚に力を溜める。

 足元のぼろい屋根を思い切り蹴る。


 そして、一気に飛び、男との距離が潰れる。

 最後に右腕を伸ばす。


 ――刺突。


 男の腹を貫通し、血が流れて体がその場に崩れた。


「そんな……切山……俺もすぐにそっちへ……」


「……」


 刀を引き抜いた瞬間、ようやく膝から少しだけ力が抜けた。

 だが、瞬は勝利を噛み締めなかった。

 傭兵という仕事には、こういう影がある。

 今回の襲撃で、それだけは嫌でもわかった。


「瞬!よかった!無事なんですね!」


 はしごを急いで登る金属音が聞こえた。

 電子が戻ってきた。


「電子も無事か。よかった」


 瞬が降りると電子は震える手を差し出してきた。


「傭兵になるというのは、こういうことも起こりうるんですね……」


 電子は倒れた男の体を見ながら呟いた。


「ああ、傭兵になった瞬間に、全部めでたしめでたしってわけじゃないらしい」


 そして、2人は現在抱えている問題を改めて思い出す。


「そうだ!24時間以内に住処を登録しないと、今度は監査官が来ます!監査官はこんなに簡単には倒せませんよ」


 その時、瞬は倒した男の方を見た。


「そういや、ヒートシンクでは勝者が敗者のものを奪えるんだよな」


「はい。敗者名義の登録資産なら、住処も例外じゃありません」


 瞬はまたビルに登り、男の体を漁った。

 ポケットの奥から、血に濡れた鍵束が出てきた。


 鍵には、小さな金属タグが付いている。


『松コーポビル 1302』


「電子。こいつ、第6地区に部屋を持ってるぞ」


「松コーポビル……第6地区の登録住宅です。空き部屋も多いはずです」


「なら、それをもらおう」


 住所と鍵は得た。

 あとは現場を見てみるだけだ。


 ――しばらく歩いて。


 目的のアパートに着いた。

 第6地区にしては綺麗な外観。

 まだ建って間もないのは、壁の塗料の新しさからわかる。


 だが、表にはガラが悪い見張りが立っていた。


「近寄るな」


 見張りはそう言うが、瞬は引かない。

 刀に手をかけた状態で言う。


「悪いが、ここに住んでるやつを倒して部屋はもらうことにした。1302号室だ。もう確定事項だ」


 瞬は血に濡れた鍵を見せた。


 見張りの顔色が変わった。


「あんた、あの人を倒したのか?……なら助かった……」

「あの人、家賃も用心棒代も勝手に釣り上げてた。こっちも限界だった」

「部屋は使っていい。連れの方のための空き部屋もある。もう文句を言うやつもいない。……今日から、ここはあんたの顔が利く」


 そんな見張りに、瞬は念を押した。


「……お前ら、ギャングだな。なら、今後この辺りの住人に迷惑をかけないように、俺の顔を立ててもらうぞ」


 見張りのギャングは頭を下げた。


「分かりました。親分」


 そして、電子と一緒に部屋に入ってみる。


 壁も床も分厚く、防音性能は完璧だった。


 狭くはあるが、ベッド、空調、テレビ、トイレ付きユニットバスまで揃っている。


 窓からは第1地区の雄大な摩天楼が見える。


 ふかふかのベッドに飛び込み、瞬が言う。

 この都市で、音に追われず眠れそうな場所が本当にあるとは思っていなかった。


「ここはいいな。電子もここに越してきたらどうだ?空き部屋もあるらしい。部屋代は、最初の報酬から出してやるよ」


 一人だけ安全でも、あまり意味がないと思った。


「確かに、今のボロアパートよりずっといいですね。ただ……ギャングは怖いです」


「もう噛みついてこないさ」


 瞬は窓の外を見たまま言った。


「ここは、今日から少しマシな場所になった」


 瞬が端末を起動し、住所を登録する。


『登録住所 : 第6地区2 松コーポビル1302号室』

『登録完了』


 登録と決済が終わった。


「助かる。止血剤にグレネードや接着剤なんかを持って歩くのは地味に疲れる」


 電子が首を傾げた。


「接着剤……?一体何のために……」


「昔、床に塗って敵の脚を固めたことがある。ただの一歩が致命傷になり得るってことだ」


「そういうものですかね」


 電子は半分納得した。


 そこで瞬が切り出す。


「なぁ、場所が安定したら喉が渇いたな」

「シャワー浴びたらそこにあったバーにでも行かないか?コーラくらい置いてるだろ」


「そうですね」


 瞬と電子はアパートを後にし、近くにあったバーに入った。


「――刀?」


 バーに入ると、黒髪の女が瞬の刀を見て話しかけてきた。

 ストレートの髪に、スワローテイルの礼服が妙に似合っている。


「もしかして、最近傭兵登録されたサムライ?」

「ちょっと腕前を見せてもらっていい?」


 女がコインを弾いた。


「これを投げるから、斬ってみてよ」


 コインが飛ぶ。

 瞬が黙って抜刀した。


 音のない風切り。

 直後、金属音。


 床に落ちたのは「1000」と書かれたコイン――のはずだった。


「なんだ。コインも斬れないのか」


「よく見ろ」


 床に落ちたそれは、2枚に分かれていた。


「ひっ……まさか……ただ斬るんじゃなく、裏表で割ったのか!?」


 黒髪の女は鳥肌を立てる。


「こりゃ本物だ。同じ戦場で会ったらよろしくだね」


 黒髪の女だけが、面白そうに笑っていた。


 それ以上は特に話さず、瞬と電子は短く喉を潤して店を出た。


 ――アパートに戻って眠る。

 静かだった。


“いい仕事は良い睡眠から”


 静寂。

 ふかふかのベッドに手足を広げ、瞬はその快適さを噛みしめた。


 ……熟睡した。


 朝方、着信音が熟睡を破る。

 個人端末の映像を開く。


『瞬、おはようございます!電子です!』


 妙にアップなゴスロリのおかっぱ頭。


『企業から緊急の依頼が来ています!』

『――場所は第4地区。外敵の侵攻です!市民がまだ逃げ遅れています!』


「……わかった。受ける」


『……本当にいいんですね?』


「何がだ?」


『任務中に負けたら、“回収対象”になります』


 瞬は無言だった。

 電子が、少しだけ言いにくそうに続ける。


『回収班が来る前に、別の登録傭兵が無力化に来るかもしれません』

『瞬が受けたような、“討伐依頼”として処理される可能性もあります』


 部屋の空気が、すっと冷えた気がした。


「……つまり」


『負けた瞬間、瞬も“狩られる側”です』


 少しの沈黙。


 瞬は一度だけ、乾いた喉をゴクリと鳴らした。

 それから刀を手に取った。


「――上等だ。負けなければいい」

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

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