第20話 放たれた脅威と凡人流の策
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――これでよい。私はもう直接コベナントコアを取り、計画を遂行するまで」
それを聞いた最上が尋ねる。
「でも、このエレベーターは動かねぇぜ。どうやって上へ?」
それに対して、ピリオドは不敵な笑顔を浮かべた。
ピリオドがわずかに顔を動かす。
それだけで最上は察した。
「…ああ、アレか」
「最上、お前は部下と共にここに残れ。ヤツらが来たら殺せ」
ピリオドは何もない空間から銃撃を走らせた。
壁に無数の穴が穿たれる。
その中心へ手をかけると、壁は呆気なく崩れた。
外気が一気に流れ込む。
人ひとり通れるだけの穴へ、ピリオドはそのまま身を滑らせた。
そして、浮く。
浮きながらビル外壁をつたい…登っていく。
それを見た最上が呟く。
「相変わらずの超能力者っぷりだぜ」
――ここは都市に繋がる唯一の手段、一本橋の約1km手前、予備検問。
「待て、やたらデカい荷物だな…IDを確認する」
検問係がライフルを肩からぶらさげながらそう言うと、運転手は左手を出す。
「…建設用の機材と資材だ」
運転手がそう言いながら左手の端末にIDを表示し、検問係に見せた。
すると、スキャンが開始され、『完了 : 合格』の文字が浮かぶ。
「…よし、通れ。一本橋は狭い。気を付けろよ」
「ああ、わかってるさ」
運転手は大型トレーラーを進める。
トレーラーが動き出し、軽油の燃えた匂いがあとを引いた。
――しばらく進むと、都市へ繋がる唯一の巨大吊り橋、通称・一本橋の入り口にある最終検問が見えた。
「…ちょっと待て、止まれ」
最終検問の係がトレーラーを止めた。
「…最初の検問を通過したからにはIDは問題ないんだろうが、念のため荷物を確認させてもらう」
その言葉に、運転手は聞こえない程度に舌打ちした。
「悪いが、荷物に被せている布を外させてもらう。今は、外敵騒ぎで緊張しているんだ」
「…」
運転手は黙り込む。
そして、バレないように助手席から何かを取り出した。
係が布をめくる。
覗いた先にあったのは、オレンジ色の巨大装甲とマシンガン化した腕だった。
その奥には、兵士めいた影がいくつも潜んでいた。
「っ!なんだこれは!今日こんな搬入は予定されていない!侵入者か!?非常ボタンを…」
遅かった。
トレーラーの運転手がサプレッサー付きの銃を持って静かに歩み寄って来ていた。
乾いた音が十数発。
銃声というにはあまりに小さい、潰れたような破裂音だった。
係が一人倒れる。
同時に、布の中の兵士が“起動”する。
そして、即座にナイフを抜き、サプレッサー付き拳銃も構える。
「状況は?」
「気付かれた。無音で殲滅せよ」
同じ場所に停まり続けているトレーラーを見て、不審に思った係たちが続々と集まる。
複数人。
だが、運転手と兵士は慌てなかった。
「…橋を通過するのに、荷物の重量に誤差があるようだ。今、申請した重量との誤差を…」
運転手と兵士は、最初に倒れた検問係の体をトレーラーのタイヤの陰へ引きずり込んだ。
そして、話を作っていた。
そうやって、事情を聞こうと寄ってきた係たちを、潜んでいた兵士が背後から撃ち抜いた。
サプレッサー付きの銃の小さな破裂音は、何発連射しようが全く響かなかった。
血溜まりに体が倒れる音だけが聞こえた。
「制圧完了。一本橋の都市側に護衛を展開し、障害になるものは排除せよ」
――その頃、一本橋の手前、都市側。
あいが、“(!)危険、立ち入り禁止(!)”のホログラム看板を立てて、交通や歩行者の侵入を防いで、無人状態を維持していた。
しかもそれは、建設企業の物だった。
誰もが信じて近寄らなかった。
“故郷でも、凡人だった”
“普通に学校へ行って、普通に部活して、普通に友達と帰ってきて、普通にご飯を食べて、普通に寝る”
“1日、銃なんて見ることはなかった”
“そんな私が、今――”
あいは思わず、間の抜けた声を漏らした。
「えぇー…」
あいが、ため息混じりに呟いた。
「鎮圧ユニットが一気に来ると思ってた…」
「まさか、護衛が先にこんなに展開するなんて展開、聞いてない!…展開だけに!」
あいの目の前には、当初の予定と違い、鎮圧ユニット本体ではなく、鎮圧ユニットの護衛が広がっていた。
鎮圧ユニットそのものは、運んでいるトレーラーごと一本橋の入り口付近で止まっている。
「作戦って、こんなにも上手くいかないもの!?こんなに予定外のことが起こるの!?」
あいが物陰に隠れて、頭を抱えた。
そんなあいの元に、近寄る足音。
無人になった一本橋前では、足音も聞こえた。
「…作戦領域内に一般市民確認。…スキャン中」
隠れていたあいが見つかった。
「スキャン中って…」
あいの大きな胸元で、個人識別IDカードが小さく揺れた。
「あ……」
最近の検問続きで、首から下げるのが癖になっていた。
そのままにしてしまっていた。
「…スキャン完了。例の剣士の同行者。危険因子。排除開始する」
「えーと、マジ?」
「マジだ」
その瞬間、護衛がライフルを構えた。
そして、乾いた連射音…。
――あいが、半泣きで頭を押さえている。
すると…鎮圧ユニットの護衛の方が倒れた。
「状況分析…完了。保護対象の無事を確認…」
そこには、細身のロボット。
胴体は装甲で守られ、手足の関節は金属の接続部も保護されている。
手には、アサルトライフル。
『あい!間に合いましたか!?』
電子が通信で呼びかけてきた。
「…電子ぉ!助かったよ…私もう死んだかと思ったよ!」
あいの足から力が完全に抜けた。
『なら、無事でよかった!作戦通り、忍城ビルの警備ロボットをいくらかそちらに回しました!』
『言葉は棒読みですが、強いですよ!』
瞬たちが忍城ビルのセキュリティを握ったことで、鹵獲した形の複数の警備ロボット。
それが、味方となってあいの元に駆けつけた。
総勢5台。
そして、警備ロボットはあいにやけに重たいバッグを渡す。
中身は、弾倉とアサルトライフル本体。
「作戦。私たちが敵を撃ちます。保護対象には、装填済みライフルとの交換支援を要請します」
「装填済みライフルとの交換支援を要請します」
2台目も同じことを言うと、警備ロボットはくるりと向きを変え、敵を撃ち始めた。
すぐに最初の弾倉が空になる。
警備ロボットはあいに空になったライフルを渡す。
それに対して、あいは装填を終えたライフルを警備ロボットへ素早く返した。
空になった銃のリロードをする。
「えーと、確か…ここを引っ張って外して、新しいのを挿して、最後にレバーを引く!…お、重い」
「できた!」
武器屋で座愛に叩き込まれた手順が、指先に残っていた。
警備ロボットは、あいから受け取ったライフルで、乾いた連射を放ち、敵の2人を倒した。
「私が…ちゃんと、役に立ってる!」
空の薬莢が煙を吐きながら積もる。
あいはリロードとコッキングを繰り返す。
そんな硝煙の匂いの中、また空になったライフルが渡される。
「りょーかい!」
あいが新しい装填済みライフルを即座に渡す。
それを受け取った警備ロボットは、遮蔽物から身を乗り出し、撃ち始める…が。
銃はカチカチと乾いた音を返すだけで、撃てない。
足元には空の弾倉も混ざっていた。あいはその中から、空のものを掴み違えていた。
「あー…機能停止」
警備ロボットが1台、倒された。
「え!?なんかミスった!?ごめんなさい!」
あいが、遮蔽物内で、倒れた警備ロボットに両手を合わせた。
すると、向こう側の遮蔽物の影でも、リロードを待つ警備ロボットの姿。
待ちきれず、自分でリロードしているので、攻勢が衰えていた。
「えー…マジ?この弾丸の雨の中をあそこまで走れって?」
そうやって、あいが遮蔽物から少し頭を出して様子を伺うと、風切り音が聞こえた。
ピュン!
あいは頭を引っ込めて胸を押さえる。
「…やっぱり、銃は怖い!」
心が折れかけた、その時だった。
“それでも…みんなの役に立ちたい!”
あいは涙を拭いて頭を上げ、前を向いた。
そして、走り出す。
次の遮蔽物まで、10mほど。
銃弾が飛び交う中、 あいはライフルと弾倉を持って走った。
弾丸が間近を掠める、嫌な風切り音が何度も聞こえた。
…そして、次の遮蔽物に届いた。
「ひいっ…私…生きてる?死んでる?」
まだ生きていることを確かめるみたいに息を吐きながら、あいはライフルに弾を込めた。
そして、装填完了した銃を渡す。
空になった銃を受け取り、リロード。
すると、瞬く間に敵を数人倒す。
銃撃の音が少しずつ減っていく。
「見えないけど、勝ってるの!?…頑張って、警備ロボットさん!」
あいがまた、遮蔽物の中で頭を抱えて半べそで叫んだ。
すると、そんな混乱の現場に3台のパトロール車両が来る。
「…えーと今回は本物かな?本物でありますように!本物でありますように!」
そんなあいの期待とは裏腹に、3台とも外敵…。
ピリオドの人造人間だ。
外敵――つまり、 ピリオド側だ。
鎮圧ユニットの護衛がさらに増えた。
あいから見れば、ただ敵が増えただけだった。
あいは弾倉を交換しながら思う。
(このままじゃロボットさんが押し切られる!)
だが、あいは思い出す。
“私…みんなを守りたい”
そんなあいの掌に、何か光り輝く小さい物がある。
…何かのチップだった。
――数日前。
「これを差し込めば、警備ロボットは一時的に強くなります」
「じゃ最初からそれ使えば楽勝!?」
「いいえ、使ったら、すぐに警備ロボットが壊れます。一時的な物です」
…あいは、電子から“強化チップ”を受け取った。
「ありがとう!ヤバくなったら使うね!」
「ヤバくなったら、ですよ。最初から使うと負けちゃいます!」
――そして、現在。
「これを使う!ロボットさん!ごめんなさい!!」
その“強化チップ”を最初の警備ロボット2台に入れた。
すると、警備ロボットの胸に浮かんでるホログラムが変化する。
「警告!強化戦闘モード起動!人員は速やかに退避してください!」
そうアナウンスされると、警備ロボットの胸部装甲が変形し、2台が前線に突っ込んで行く。
銃弾を浴びながら、瞬く間に敵兵を倒す。
「よし!これなら…!」
しかし、強化戦闘モードは諸刃の剣だった。
胸部装甲が強くなる。
そして、敵兵に攻撃的に突っ込んで行くが、的になりやすい。
その上、時間が経つと壊れてしまう。
だが、現在の状況では有効だった。
「あっちの2台にもいれなきゃ…って、またあの弾丸の雨の中を!?」
だが、今のあいには信念があった。
“みんなを守りたい。みんなの役に立ちたい”
あいは、また走った。
遮蔽物と遮蔽物の間の、死の10m。
弾丸が空を切り裂く音。
壁に当たり砕ける時の衝撃波。
硝煙の匂い。
全てを実感しながら走った。
弾倉と強化チップを握りしめて。
そして…なんとか元の遮蔽物に滑り込んだ。
「はぁ…はぁ…ロボットさん、お待たせ!良いものあげる!」
弾倉を交換し、装填。
銃を渡す。
そして、背中を見せたらすぐにチップを挿す。
「強化戦闘モード!」
「強化戦闘モード!」
2台が同じことを言いながら、胸部装甲を変形させ、敵陣に突っ込む。
… アサルトライフルの乾いた音が響き渡る。
あいはそんな中、遮蔽物に身を隠し、両手を組んで祈っていた。
「勝てますように!勝てますように!勝てますように!」
そんなあいに、朗報が届く。
銃弾の風切り音が減ってきた。
そして…。
「…敵の無力化、完了」
銃声が止み、棒読みが響き渡った。
「勝った…!?」
だが、その時、敵の1人が叫ぶ。
「もういい!鎮圧ユニットを放て!ロボットとその少女を無力化しろ!」
トレーラーに被せてある布が破られた。
中から、巨大な装甲が現れた。
オレンジ色の巨体。
分厚い装甲に、腕の先がマシンガンになっている。
…こちらに進んでくる。
「来た!鎮圧ユニット!」
警備ロボットが最後の力で鎮圧ユニットに銃を放つが、全く効かない。
分厚い装甲から火花が出るだけ。
そして、警備ロボットが煙を吐いて力尽きた。
ここからはあいが一人で鎮圧ユニットに対処するしかない。
ただ、あいには独自の作戦がある。
用意していた特製のタブレット型端末を見ながら、祈るように繰り返す。
「圏内に入れ!圏内に入れ!圏内に入れ!」
敵の1人が鼻で笑う。
「…なるほど。橋か接合部を狙う気か」
「無駄だ。接合部も橋自体も強化済みだ!落ちはしない」
その時、タブレットの画面が黄色に変わった。
「今だ電子!あれを街中に流して!」
『了解!』
電子が即答すると、街中のモニターに文字が表示された。
『(!)ビル爆破解体実行 振動が出ますが、安全です(!)』
敵もその表示を見ていた。
「まさか…」
あいのタブレットが緑色になった。
『(!)敵鎮圧ユニット 作戦圏内(!)』
『(!)実行しますか >はい >いいえ(!)』
これを見たあいは静かに叫んだ。
「…勝った!」
“はい”を押すと、一本橋の前、あいの背後のビルから連続した爆発音。
あいが数日前から仕込んでいた爆薬が炸裂した。
それを見た敵が悟る。
「まさか…」
「そう。狙いは橋じゃない。電子に計算してもらった“ビルの爆破解体”だ!前に倒れるよう、爆薬はもう仕込んである!」
「さよなら、鎮圧ユニット!」
あいが横に逃げる。
一本橋めがけて無人のビルが倒れる。
…鎮圧ユニットを巻き込んで。
あいが叫ぶ。
「…はぁ…はぁ…これが、凡人流だ!」
そして、あいの全身から力が抜ける。
倒れ込んだビルが、鎮圧ユニットごと地面へ叩きつけた。
埃と煙が上がる。
その下で、もう何も動かなかった。
「電子!みんな倒した!」
電子は驚いた。
そして、唾をゴクリと飲み込み、鳥肌を立てた。
『……やったぁ!!あい、本当に大手柄ですよ!』
――その頃、忍城ビルのエレベーターシャフト内
エレベーターかごが見える。
ゴールは近い。
「最後はあれを壊さなきゃな…」
座愛は蜘蛛脚をシャフトの壁へ突き立て、体を固定した。
次の瞬間、銃を連射する。
エレベーターかごの床は紙みたいに裂け、崩れ落ちた。
空の薬莢が、時間差で地面に落ちた音を立てる。
座愛が下を見る。
「ずいぶん高く登ったんだな」
最後はエレベーターかごの残骸に蜘蛛脚をかけ、身を持ち上げる。
3階層目に到達した。
その瞬間、とても重い銃声が響き渡る。
「まずい!」
座愛は、蜘蛛脚の1本を前に出し、それを盾に弾丸を逸らした。
ヘッドショットのコースだった。
すると、奥から細身でアシンメトリーヘアの刺青男が現れた。
「ようこそ!ここまで来れるってことは、君もほぼ超能力者の域だぜ!」
「俺はSランク10位の最上門。“鬼エイム”だ!君を殺す男の名として、覚えときな!」
最上は銃を振り回しながら自己紹介をした。
対して座愛も応える。
「――座愛。善名座愛。あんたたちのおかげでAランクのまま。ちなみに、あんたには殺されない!」
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。
感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。




