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第19話 降伏勧告と鎮圧ユニット

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

――忍城ビル3階層、最終エレベーター前。


「…録画の準備は」


ピリオドが唸った。

受けて、部下が即答する。


「はい、準備完了でございます」


部下たちは数名がかりで背景と照明を組み、カメラ位置を整えていた。

「準備中です」などと口にできる空気ではなかった。

急ごしらえのセットが、死に物狂いで形になっていく。


それを見ていたピリオドが言う。


「よし、都市への降伏勧告の全文を録画せよ」


ピリオドがセットの前に立つと、すぐにカメラが向けられた。

そのカメラに向かって、ピリオドが降伏勧告の演説を録画し始める。


「企業都市、ヒートシンクの住人諸君、並びに企業各位。私は企業傭兵のSランク1位、黒乃 虚空。通称“ピリオド”だ」

「…これから流す内容を、冷静に、静粛に、よく見聞きしてもらいたい」


ピリオドがゆらゆらと歩きながら、演説を続けた。


「…これより、ヒートシンクは非常時統制下へ移行する。外敵の継続的侵入、内部秩序の乱れ、既存運用の機能不全」

「これ以上、現体制に都市防衛を委ねることはできない」


ピリオドが腕を上げた。


「よって、本時点をもって、防衛、物流、契約、治安維持の各権限は統合運用に移行する」

「市民諸君には、新たな契約指示に従い、各自に割り当てられた役割を遂行してもらう」

「企業各位には、非常時再編下での生産・物流・利益分配の再調整を受諾してもらう」

「これは収奪ではない。この混乱を終わらせ、この都市を守るための再編だ…ただし、従わない者へは相応の制裁が下る」

「さぁ、共に築こうではないか!真の理想郷を!さぁ、共に向かおうではないか!新しい未来へと!」


…ピリオドが演説を録画し終えた。


すると、ピリオドの部下の1人、細身に防弾チョッキ、アシンメトリーヘアの全身刺青男が柱にもたれ、腕を組みながら呟いた。


「…よく言うぜ。つまりは、住人は奴隷化、企業からは利益をもらう」

「そして、従えない者は死ねってことだろ。…搾取以外のなんでもねぇ」


これが聞こえていたピリオドは返事をする。


「…最上もがみ、貴様はいつも一言余計だ」


細身の男、“最上”は、「おっと」と言う感じで両手を上げた。

顔全体に入れたドクロの刺青が不気味に微笑む。


最上の皮肉は、あまりに図星だった。

瞬たちが掴んだ最終計画と、ぴたりと重なる。


ピリオドが録画された内容を確認する。


「…よし。これでよい。非常時放送チャンネルで都市中に流せ」


「かしこまりました」


部下がそう言うと、アンテナの突き出た大ぶりの送信機を運び込み、カメラへ繋いだ。


それを見てた最上が言う。


「なぁ、ピリオドさん。これでマジで伝わるかな?」


「…伝わるさ。これで理解の及ばぬ者は計画に要らぬ。排除するのみだ」


ピリオドが最終スイッチに手をかけた。

カチッと音が鳴る。


その瞬間、都市中のモニターから企業広告が消え、一斉に非常時放送へ切り替わった。


『サステナブル燃料なら…大樹石油!環境性…』


『(!)非常時放送(!)』


――電子は外でこれを見ていた。


「来た!多分、降伏勧告です!やっぱり非常時放送チャンネルを使う気だ!」


通信を受けていた瞬と座愛が聞き返す。


『やっぱり来たか!…電子!なんとかできるか!?』


「はい!非常時放送チャンネルなら、割り込みコード、もう組んであります!電子がオーバーライドできます…」

「オーバーライドする内容は……はっ!あのミュージックビデオにしましょう!降伏勧告…成立させません!」


電子が個人端末に素早く何かを入力した。


『…あれか!』


瞬と座愛は無線越しに期待した。


『(!)非常時放送(!)』


『企業都市、ヒートシンクの住人諸君、並びに企業各位。私は企業傭兵のSランク1位、黒乃 虚空。通称“ピリオド”だ』


急に映し出された内容に、都市の住人は誰もが立ち止まって各モニターを見上げる。


「ピリオドだ!」


「ピリオドから何か言いたいことがあるらしい!」


「しーっ!聞こえなくなる!」


ざわめきが、波みたいにすっと引いていった。


『…これから流す内容を、冷静に、静粛に、よく見聞きしてもらいたい』


「…オーバーライド!…完了!!」


『…ワン、ツー、ワンツースリーフォー!ココココケッコ!コケコッコー♫ ドゥンドゥン ドゥン ドゥン ドゥン コケコッコー♫』


…ニワトリが軽快な音楽に合わせて踊っている。


「…?」


『ドゥン ドゥン ドゥン ドゥン コケコッコー♫』


「…ピリオドさん?」


「え、何この踊るニワトリ…どういう意味があるんだ?」


住人たちが一斉にざわめいた。

腹を抱える者までいれば、ノリで踊り出す者までいる。


この放送を見た瞬と座愛は冷静な反応だった。


「十分だ…」


さっき斬った敵の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎる。


「あいつの言葉なんて、あれくらいでいい」


瞬が落ち着いて呟いた。


『ビル内でも見えてますか?』


「ああ、ビル内にあるモニターで見えてる。“これから流す内容をよく見聞きしてもらいたい…コケコッコー ドゥン ドゥン♫”だとさ…ざまぁないね」


座愛も嬉しそうに答えた。


「――電子…やってくれたんだ!」


少し離れた場所で、放送を見ていたあいも思わず声を弾ませた。


――その放送を見たピリオドが怒っている。


「なんだ、これは」


唸った。


「それが…その…放送を乗っ取られました…」


部下が終わりを覚悟した様子で告げた。

それを見たピリオドがテーブルにある機材を手で叩き飛ばす。


「…なら戻せ。即刻。…そして永遠にだ」


その反応を見た放送担当の部下は、もう手の震えを止められなかった。


「…も、戻せません…」


『ワン、ツー、ワンツースリーフォー!コココココッケコ、コケコッコー♫ …ジャーン!』


『(!)非常時放送 終(!)』


『…美味しいお寿司を食べに行こう。代替海産物なら、ガッテン倉!今なら、人工大トロマグロが180Vicks!』


…放送が通常の広告に戻る。


「なんだったんだろ」


「さぁ?ピリオドさんも、“たまには息抜きしろ”って言いたかったんじゃね?」


…住人たちはすぐに視線を足元に戻し、また歩き出した。

何が流れても、何が起きても、今日の生活は止められない。

都市は何事もなかったみたいな顔で、また動き始める。


その頃、放送を見ていたピリオドがまた唸る。


「…まぁ、よい。もう終わったことだ。もう一度流しても同じ結果になるだろう…」


「ピリオド様、なら!」


パァン!パァン!

乾いた音がフロアに響いた。


「…ピリオド……様」


放送を担当していた部下が、腹を押さえて血を吹いた。

力が抜け、持っていた機材を床にぶち撒けて倒れる。

それを見ていた最上が息を吐く。


「容赦ねぇな。じゃ、俺も自分の仕事を…」


そういうと、腰から大きな銃を取り出し、2階層と3階層を繋ぐエレベーターを撃ち抜いた。


ドドドドド!


重く湿った音が走る。


「これでエレベーターは使えねぇ。それでも来れるなら来な」


――第2階層、エレベーター前。


「電子、緊急事態だ!3階層に行くためのエレベーターはあったんだが…使えない!」


瞬が焦っていた。


『ちょっと待ってください…調べます。…システムオフライン。…これ、3階層で物理的に壊されてますよ!』


電子がマルチタスクでエレベーターの状態を確認しながら言った。


「壊されてるって…じゃあどうやって上へ?」


『…非常階段なら行けるかもしれません!…ただ、途中の隔壁で物理的にロックされてます!』


それを聞いた座愛は、嫌そうにした。


「この連戦なのに階段!?私は、どっかの脳筋野郎と違って体力はそこまでじゃないんだ!蜘蛛脚だって軽くない!」


――はっ。


その時、座愛が閃いた。


「私は私のやり方でエレベーターを“登る”。脳筋の瞬は非常階段を使ってくれ!」


「座愛は何か登る方法があるのか?」


瞬が興味津々で尋ねた。


「こうするのさ」


座愛は、開かないエレベーターの扉を、蜘蛛脚でこじ開け、そのまま脚をシャフト内壁へ突き立てる。

次の瞬間には、脚を交互に打ち替えながら上へ登り始めていた。


「ほら、こうやって上に行ける!」


「うぇっ、本当に蜘蛛みたいだな」


蜘蛛嫌いの瞬は少し引いた。


「それじゃ、瞬。先に“上”に行ってるぞ!後で会おう!」


…座愛がそう言うと、瞬が頷いた。


「電子、座愛はエレベーターシャフトを直接登る!俺は非常階段から行くしかない!」


『直接登るって…ええー…?』


「…とにかく、直接登ってる。この目で見た。俺には、非常階段の位置を教えてくれ!」


『分かりました!…現在地から、3ブロック進んで左です!そこに、非常階段があります』


通信の銃声が少なくなってきていた。

電子の護衛ロボットが優勢だった。


『ただ…ピリオドの部下の工作で、数階おきに物理的に隔壁でロックされてます!』


電子は、物理ロックは通信やハッキングではどうしようもなかった。


「問題ない…直接斬る!」


『直接斬るって…ええー…?2人ともやりすぎですよ…あなたたち、本当に人間なんですか?』


そう言うと、隔壁前に来た瞬は、刀を取り出し、斬りつけた。


まず斜めに二太刀入れ、大きな三角を描いた。

続けて底辺を横に断つ。

最後に脚で蹴ると、切り抜かれた鉄板が向こう側へ吹き飛んだ。


「電子、これを何階分だ!?」


瞬が電子に確認を取った。


『45階分です!しかも、15階おきに隔壁があります!』


「問題ない!」


――非常階段の先、第3階層。


ピリオドが腕を組む。


「…では、鎮圧ユニットをヒートシンクに放て。放送がダメなら直接、見せしめを作るんだ」


「ピリオドさん、マジであの作戦を?もう後戻りできなくなるぜ」


それを受けて最上が片手を上げた。

それに対し、ピリオドはまた静かに頷く。


「…もう遅い」


ピリオドが一つのボタンを叩いた。


――鎮圧ユニットが都市に放たれる。




読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。


次回更新は2026/05/01 19:20を予定しております。お楽しみに!

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