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戰嫌いの皇子  作者: 淕玖
第一章 7つ目の国

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2/5

第一話 鐘は鳴らない

 城門が軋む音を立てて開いた。

七番目に征服された国――まだ血の匂いが石畳に残る王都。

その中央を、帝国軍の旗がゆっくりと進んでいく。

ここに王の帰還を知らせる鐘は鳴らない。


歓声も、祈りも、花もない。

あるのは沈黙と、敗北の重みだけだった。


旗の後ろを歩くのは、ひとりの少年。

年の頃は十五。

背丈は兵士たちの肩にも届かず、甲冑の隙間から覗く顔はまだ幼い。

整った顔立ちには感情がなく、ただ淡く光を反射する瞳だけが前を見ている。


――帝国第七皇子。

この国の、新たな王。

門をくぐる寸前、少年は小さく息を吐いた。


「……来なければよかった」

誰に向けたわけでもない、低い声。


「早く、眠りたい…」


それだけを呟くと、何事もなかったように前を向く。

感情は顔に出ない。だが、その言葉だけがやけに人間らしかった。

石畳の脇で様子を窺っていた民衆のざわめきが、波のように広がる。


「あれが、王?」


「子供じゃないか」

そして、ひときわ低い声。


「……あの歳で、小国を五つ滅ぼしたって話は、本当なのか」

ざわめきが止まる。空気が凍りついた…

母親の背に隠れていた幼い少女が、そっと顔を出す。


「ねえ、あのお兄ちゃんが、王さまなの?」

誰も答えない。兵士たちの重い足音だけが、石畳を打つ。


 少年は振り返らない。ただ静かに、城へと足を踏み入れ――

そこで、ほんのわずかに足を止めた。


(静かすぎる)


恐怖も、憎悪もある。だが、それらが均されている。

視線が足りない。少年の瞳が、わずかに動く。


城壁の上。

旗の影。

石柱の裏。


「……三人」

低い声。

――ヒュンッ


矢が風を裂く。喉元へ一直線。だが少年は半歩だけ横へずれる。

同時に、黒い影が前へ出た。


長い黒のローブが翻り、赤髪のショートヘアが陽に閃く。

少女は無言で腕を振るい、弾かれた矢が石畳を転がる。


「右、塔の陰に一人」

少年の声は静かだ。少女は振り向きもせず兵へ命じる。


「捕らえろ。殺すな」

迷いのない声。数分後、三人の若い弓兵が引き出される。顔には怒りと、涙と、覚悟。


「処刑しますか、殿下」


少女が問う。少年は彼らを見つめる。

怒りはない。軽蔑もない。ただ、理解だけがある。


「……しない」

ざわめきが走る。


「この国は今日、多くを失った」

淡々とした声。


「父も、兄も、子も」

縛られた男の肩が震える。


「ここで殺せば、また誰かが弓を持つ」

静寂。


「復讐は、連鎖する」

少年は少女を見る。黒いローブの奥、鋭い瞳が揺れない。


「解放しろ」

兵が息を呑む。


「武器だけ奪え」

少年は暗殺者たちを真っ直ぐ見た。


「今日、お前たちは生きて帰る」

兵士たちが息を呑む。


「だが次は、別の誰かが死ぬ」

その言葉は責めではない。ただの事実。


「それが望みなら、また来い」

静かな声。


「望まないなら――終わらせろ」

縛りを解け、と命じる。

兵たちは迷いながらも従い、暗殺者たちは武器を奪われたまま解放される。


誰も歓声を上げない。誰も感謝しない。ただ、選択だけが残された。

少年は背を向ける。黒いローブが揺れる。

赤髪の少女は一瞬だけ彼の横顔を見つめ、小さく呟く。


「……本当に、戦が上手い人ですね」


少年は答えない。城門が閉まる。重い音が、王都に響く。

弱そうな王。


だがその王は――

剣よりも先に、連鎖を断とうとしている。

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