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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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202/206

領主様との訓練

 結局、格闘の訓練は、ウォルフとウィリーを巻き込むだけでは終わらなくて、他の騎士や騎士見習い、衛士といった人たちも加わって、盛大なモノとなってしまった。


 この世界では、犯罪者に対する刑罰は厳しくて、即座に殺してしまうことも多い。 そこに躊躇いはない。

 城下村を作り始めた頃、そこを乗っ取ろうとした悪党どもに対して、みんなが見せた情け容赦の無さに、僕はかなり驚いたのだけど、それは僕だけが持つ頭の中の知識に引きずられてしまった感覚で、それがこの世界の普通なのだ。

 とは言っても、もちろんそこまでの対処にはならない軽犯罪もたくさんある。

 そういった軽犯罪を犯した者に対処する時、または今までは武器を使用して殺してしまったような状況でも、格闘の技術で対処して捕縛することが出来れば、その方が有効な場合もかなりある。

 そんな訳で、格闘の技術を僕ら以外にも習得させることは、領としてもかなりのメリットがあると判断されたようだ。

 それともう一つ。

 そういった訓練が、領主様の下、激しくなされているという噂が流れると、それだけで犯罪抑止の効果もあるというのだ。


 正直に言うと、僕らはそんな公式見解をは、かなり疑っている。

 単純に領主様が、僕らを相手にして体を動かす時間を作るのが楽しいからじゃないかと思うんだよなぁ。

 僕とジャンの奇襲で、一回は領主様に「参った」と言わせたけど、僕が少し僕の知っている格闘術を領主様にも教えたら、領主様は簡単にそれらを覚えてしまって、すぐに僕たちは、また全く領主様に敵わなくなってしまった。

 大体において、領主様と向き合って訓練できるのは、領主様の昔からの付き合いの武官さんとか、文官さんたちを除けば、僕たちしかいない。

 きっと、それはレベルが違い過ぎるからなのだろう。

 武官さんたちや、文官さんたちは、何を今更という感じで領主様と立ち合おうとはしない。

 そんな訳で、専ら僕たちが訓練では領主様と立ち合うことになるのだ。

 それでまあ、領主様はシスターに、「どうだ、まだまだ子供たちに負けないぞ」という姿を見せているのだが、シスターには「全く大人気ない」と相手にされていない。

 領主様とシスターでは、かなり年齢差があるのだけど、これではどちらが年上だか分からない。


 格闘の訓練を始めてから、僕は自分の見えることの中に[格闘]という項目があったことを思い出した。

 ちょっと嫌な思い出が伴う項目なのと、今まで意識する必要がなかった項目なので、自分のことを見ても完全に素通りしてしまっていて、その存在を忘れてしまっていたのだ。

 訓練をしているうちに、なんとなく格闘が一つの壁を破ったみたいに、ポンと急激に上手くなったような気がした時があった。

 そういう経験は、槍とか魔法とかでは感じたことが良くあったので、それで[格闘]という項目があったことを思い出したのだ。

 それで久しぶりに自分のことを見てみると、思ったとおり[格闘]のレベルが上がっていた。

 大発見だ。


 「ジャン、聞いてくれ。 [格闘]という項目のレベルが上がっていたんだ」


 「そうなの、そんな気はしたんだよね。 ナリート、急に強くなったりしたから」


 「やっぱりジャンから見ても、そう感じられたんだ」


 「ナリート、僕も見てくれる? 僕にもなんだか[格闘]という項目が出来て、そのレベルが上がっているんじゃないかと思うんだ」


 「本当? じゃあ、見せてもらうよ」


 ジャンを、こっちも久しぶりに見てみると、確かに[格闘]の項目があって、やっぱりそのレベルが上がっていた。


 「本当だ。 ジャンもだ」


 「やっぱり、そうだったんだ」


 僕が自分のことも、そしてジャンのことも見てみるのが久しぶりだったのには理由がある。

 僕はもちろんだけど、ジャンたちもかなりレベルが上がってしまって、昔のように簡単にレベルが上がるということはなくなってしまったからだ。

 それにある程度レベルが上がってしまうと、[全体レベル]が1つくらい上がっても、日常において何か変化があるということもない。

 レベルが一桁の時には1違えば、大きな違いを色々感じた気がするのだけど、もうそんなことはないのだ。

 だから、何かしら大きなきっかけがないと、僕はもう自分たちを見ることなんてほとんどなかったのだ。

 もう大アリの巣の退治に行ったくらいでは、僕たちはレベルが上がらなくなってしまっているんだよなぁ。


 この辺は、僕とルーミエの違っているところで、ルーミエはもうほぼ無意識にみんなのことを見ている。

 ルーミエは常に自分の周りの人の健康をチェックしているのだ。

 本当にほとんど無意識にしているらしくて、誰かの健康に問題があると、本人より先に気づいてしまう感じなのだけど、気づいたことによって、自分が見ていたことを意識するという具合だ。

 普段自分たちの[職業]なんて、最近は意識することないけど、ルーミエのこういうところは、やっぱり[職業]聖女の影響なんだろうなぁ。


 もう一つ僕が自分と自分の周りの人を見ることが、ほとんどなくなってしまっていた理由がある。

 今回のことでわかったのだけど、僕は一つ大きな考え違いをしていたことに気がついた。

 僕は、色々なレベルが上がるのは、[全体レベル]が上がる時に一緒に上がるのだと勘違いしていたのだ。

 レベルが低かった時、全体レベルが上がるのと一緒に、たのいくつかの項目も上がっていたし、それに合わせて残ポイントを付け加えていたから、そういうモノだと思い込んでいたのだ。

 つまり全体レベルが上がらないと、他の色々な項目も上がることはない、と。

 実際には、その色々なこともレベルが上がったように感じることはあった訳だけど、それでも見て違いが数値として分かるようになるのは、全体レベルが上がる時でないとダメなんだと思っていたのだ。


 でも、今回[格闘]のレベルは明らかに上がっていた。

 僕だけでなく、以前はその項目がなかったように思うジャンも、しっかりと[格闘]という項目があって、レベルも上がっていたから、確実なことだ。

 これではっきりした。

 全体レベルが上がらなくても、個々の項目の数値はちゃんと変動するのだ。

 なんだか僕は、これは本当に久々に、見ることで興奮してしまった。

 見えるということは、僕だけの特殊性ではないし、後天的に見えるようになる部分もあるみたいなので、どう捉えて良いかは微妙なところだ。

 でも、そのことで興奮したりすることがあると、ちょっと得した気になる。

 僕はちょっとだけ、前よりも訓練に熱が入った。


 「ね、ね、聞いて、聞いて。 僕に新たな項目が出来た。

  なんか久しぶりだから、すごく嬉しくて」


 「何が嬉しいんだよ。 俺は死にそうだよ。

  領主様の相手なんてしてられないぜ、本当に」


 「で、ジャン、どんな項目が出来たんだよ。 今更新しいのって出来るのか?

  ナリートが相手している間、休みながらなら聞くよ」


 「うん、ウォルフ。 実は[格闘]という項目が出来て、レベルも上がっている。

  これ、ナリートも持ってはいたのだけど、忘れていたような項目なんだけど、ナリートも、これのレベルが上がって、驚いたり、嬉しがったりしているよ」


 「それでか、今、ナリートの奴、なんだか嬉しそうに領主様とやり合っているのは」


 「僕も次に領主様と戦おうと思うんだ。 それが一番[格闘]のレベルが上がりそう。

  それからやっぱり、ナリートと技の研究だな。 ナリートも頭の中にあるだけじゃ、実際はダメらしい。 色々やってみて、実践してみないと」


 「なんだかジャン、楽しそうだな。

  おい、ウィリー、俺たちも混ざろうか。 なんだかレベル上げなんて久しぶりで、本当に楽しそうだ」


 「ウォルフ、お前にはあるのか[格闘]という項目」


 「一緒にやっているんだから、きっと二人もあるよ。

  後でナリートに見てもらいなよ。 [全体レベル]だけじゃなくて、細かく見てもらうと、もしかしたらまだ何か発見があるかも知れない」


 領主様に、しっかりKOを食らって、ジャンと交代したら、ウォルフとウィリーが、

 「俺たちにも[格闘]の項目があるかどうか見てくれ」

と言ってきた。

 当然だけど、二人にもしっかりとあった。


 「おおっ、本当にあったのか。

  これで久々にレベル上げが楽しめるぞ」


 「ナリート、抜け駆けは無しだぞ。 ちゃんと四人で技の研究をして領主様と戦って、レベルを上げるんだぞ。

  今のところは、先に始めたお前たちの方が上だろうが、ウォルフ、追いつくぞ。

  [全体レベル]じゃ、ナリートに追いつけないだろうが、職業に関係すること以外で、ナリートに勝てる可能性があって、四人で同じ立場でレベルの競争が出来るなんて面白いじゃないか、なあ」


 ウィリーだけじゃなくて、ウォルフもやる気満々のようだ。 僕も負けないぞ。

 こういうのも、ちょっと楽しいよね。



 「おい、カトリーヌ、悪いがヒールをかけてくれ」


 「あらあら、どうしたんですか。 かなりやられているじゃないですか」


 「四人となると、やはり結構大変だな。

  あいつら、ここのところ妙にやる気なんだよなぁ。

  相手してやるのも、なかなか骨が折れるんだよ」


 「あらあら、そうなんですか」


 領主様の、愚痴っているのか、甘えているのか分からない言葉とは逆に、上機嫌な様子なのを見て、シスターもなんだか嬉しそう。

 ルーミエはそう思いながら、フランソワちゃんと一緒に四人にヒールをかけに行こう、と考えた。

 アリーは私たちと違って、魔法をあまり鍛えていないし、エレナもどちらかというとヒールなんかの魔法は苦手だ。 マイアは私たちほどじゃないけど、ヒールは結構得意だけど、今は仕事と子育てで忙しくて、ウィリーのことまで手が回らないだろう。

 ま、男たちは、意外にナリートだけじゃなく、ヒールはみんな使えるだけじゃなくて得意にしているから、自分たちだけでも掛け合えるだろうけど、私たち二人が掛けてあげれば、きっと喜ぶだろう。

 それにしても領主様も含めてだけど、男たちは何を嬉々としてやっているのだろう、と思ってしまう。

 まだシスターみたいに、そういうのを嬉しく思ったり、可愛いと思ったりは出来ないなぁ。



 そんな日々がしばらく続いた。

 ウォルフとウィリーにとっては、衛士になった時に直々に鍛えられた時以来。 まあ、その時が凄く大変だったらしくて、最初この訓練はとても嫌がっていたのだけど、今は頑張っている。

 僕は考えてみると、もっと前のことだ。 ルーミエと領主館に通った頃に、遊びで戦闘訓練の真似事をした時以来という感じだ。

 そしてジャンは領主様とこういう形で触れ合うのは初めてだ。 なんだかジャンが一番嬉しそうに訓練に励んでいる気がする。

 目的の[格闘]のレベル上げは、最初はやり始めが早かった僕とジャンが上だったのだけど、ウォルフとウィリーは衛士時代に鍛えられた蓄積があるからか、すぐに追いつかれてしまった。

 ウォルフとウィリーはそんな感じでどんどん上がりそうだし、ジャンは一番熱心だし、僕は技の知識が頭にあって、それを後から確かめて練習しないとモノにならないというハンデはあるけど、技を三人に教えるというアドバンテージがあるので、なんとか三人と同じペースという感じだ。

 つまり僕たち四人の[格闘]に関しては、レベルも何も、どんぐりの背比べという感じで、明らかな優劣なんて出てこなかった。

 だから余計に楽しくなって、夢中になってしまったところがある。

 それに気をつけていないと、その僕らが会得した技を領主様が真似して、逆に僕らに仕掛けてきたりするから、そこも気が抜けなくて楽しいのだ。


 もちろん、僕たちが完全に会得した技は、他の騎士、見習い騎士、それに衛士たちにも教える。

 絶対に有用だからね。


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