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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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199/206

文官さんの懺悔

 北の村に、とりあえずの支援住宅を建設して、緊急時の僕らの出動は一応の区切りとした。

 まだまだ支援を続けないと、北の村の村民の生活は立ちいかないのだけど、ここからはなるべく北の村の村民の努力を支えるということになる。 表面上は。


 現実的には、とりあえずの収入源とする為に、土砂に流されて埋まっている木を掘り出したり、これ以上の災害を防ぐための工事では、僕らの土魔法を利用することになるだろう。

 村人たちだけの力で、それらの事を行うのと、僕らが手伝うのとでは、あまりに掛かる時間が違うからだ。

 僕たち城下村の者は、気軽に魔法を使って工事を進めるけど、それは僕らに限られていて、他の者がそうは簡単に真似することは出来ないのだということを、最近になって僕たちは学んだ。


 いや、以前から僕たち以外には土木工事や畑仕事に魔法を使う人はいないことは知っていた。

 生活魔法は、本当は誰でも使えるのだけど、プチファイヤや、女性が避妊にクリーンの魔法を使うのが普通なくらいで、魔法は生活にほとんど利用されていなかった。

 そもそも魔法を使う練習を全くしていないので、ほとんどの人がほとんど魔法を使えないのだ。

 城下村の元孤児の村民は、孤児院を出て、この城下村に来た時から、常に魔法を使うように訓練されて、その[全体レベル]上げもされるので、どんどん魔法が使えるようになる。

 それもあって、僕たちは誰でも魔法を使う練習をすれば、どんどん僕たちと同じように使えるようになるのだと思い込んでいたのだ。


 その常識が覆されたというか、幻想が打ち砕かれたのは、干拓事業を始めてからだ。

 僕らは、最初に魔法を常に使っての土木作業、生活方法を教えれば、冒険者をしていた孤児院の先輩たちは、すぐにどんどん作業を進め、普段の生活も同じように出来るようになるだろうと思っていた。 ところが、そんな訳にはいかなかった。

 僕らがそんな風に楽観視していたのは、先輩たちの[全体レベル]が高かったからだ。

 城下村開拓の最初からの僕たち中核組にはレベルは及ばなかったけど、後から城下村に来てレベル上げを行った孤児たちに比べては、引けを取らないというよりも、さすがに中堅冒険者がほとんどということだろうか、先輩たちのレベルは同じくらいどころか高いくらいだったのだ。

 冒険者をしていれば、怪我の治療の為にヒールも覚えるだろうし、火魔法、風魔法も攻撃に使うだろうし、水魔法は必需なのでは無いかと思う。 当然、魔力も豊富だろうと思った。


 レベルなんかを勝手に詳細に見るのは気が引けることもあって、僕は先輩たちをほとんど見ていない。

 それじゃあなんでレベルが高いか分かるかというと、ルーミエは健康状態を把握するために、僕はこれは[職業]聖女だからじゃないかと思うのだが、意識しないでいても自然と見えてしまうからだ。 ルーミエが見えるのは、[全体レベル]と[体力]、それに[健康]という項目に、ほぼ限られるのだけど、それらの項目は意識してなくても見えてしまうので、ルーミエは[全体レベル]は全員しっかりと把握しているからだ。

 工事中のちょっとした怪我を、先輩たちは自分たちでヒールで治療しているのを、僕も見たこともあって、「やっぱりな」と思ってしまったのもある。


 もう一つ、先輩たちが干拓作業を始めてからも間違った認識がなかなか変わらなかったのには理由がある。 先輩たちの作業や生活の指導をトレドさんたち3人に任せてしまっていて、僕たちがほとんど関わることがなかったことも大きい。

 トレドさんたち3人は、この領に戻って来てから、僕たちが直接指導した訳ではないのに、きちんと今の僕らのような魔法の使い方、生活方法に順応した。 城下村に定住するのではなく、僕らと同じ出身地である東の村に定着したのが、かえって焦ることなく順応出来るきっかけになったのかも知れない。

 最初、この村に来た時には、年下の僕らの方が全てにおいて自分たちよりも上回っていると、酷く落ち込んだらしい。 東の村で、新米シスターに頼りにされて、なんて言うか、いくらか自尊心が回復して、僕らと同じように出来るように努力する気力が湧いたらしい。

 「それまでと違い過ぎて、かなり俺たちは苦労したんだぞ」との事だった。

 その経験を生かしてもらえると考えて、先輩たちの指導を頼んだのだ

 トレドさんたちは、自分たちも苦労したし、少し時間も掛かったので、先輩たちも少し時間が掛かるだろうと初めから踏んでいた。 でも、自分たちが出来るようになったので、先輩たちも同様に少し時間は掛かるけど出来るようになると思っていた。

 それに、トレドさんたちが先輩たちを指導していて、当面の大きな問題になったのは、全てに優先して、自分たちの子供を持つことを先に進めようとする先輩たちの動きを、止めることだった。 そちらが大変過ぎて、他のことは隠されてしまっていたのだ。

 そうして、かなりの時間が経ってから、干拓事業の計画が遅れていて、その理由が先輩たちが魔法を駆使しての工事に関して、上達する速度があまりに遅いことが原因であることが明らかになったのだ。


 トレドさんたちは、少し時間はかかったが自分たちは城下村の元孤児たちのやり方に適応出来たから、同じ冒険者をしていた先輩たちが出来ないとは思ってもいなかったのだ。

 僕も、トレドさんたちがそう考えるのは当然に思える。 だって自分たちがこの領に戻ってきた時よりも、先輩たちの方がレベルが上だと思われたからだ。

 「レベルっていう言い方も、こっちに戻ってから俺たちは覚えたんだけどな」


 とにかく当時の自分たちよりも上のレベルの人たちなので、自分たちよりも速く今のここのやり方が出来るようになるだろう。 そう考えていたのだ。

 ところが、自分たち以上に上達しない。 トレドさんたちは、自分たちの教え方に問題があるのではないかと疑った。


 まず相談を受けたのはジャンだった。


 「いったいわざわざ何ですか? ロンさん」


 「いや、お前たち新しく入ってきた卒院者に魔法を教える時って、どんな風に教えているのかな? すまないが教えてくれ」


 「えっ、別に普通ですよ。 最近はどこの孤児院でも生活魔法くらいは教えているのですけど、やはり土魔法はあまり使ってないので、まずはソフテンをしっかり教えて、あとはもう毎日限界まで使わせるだけです。

  他の魔法、水魔法というか、お湯を出したりするのは、風呂で毎日のように見てますから、自然と覚えているみたいですね」


 「やっぱり、そうだよなぁ。

  先輩たち、ソフテンは知らなかったから、ソフテンを覚えてもらって、限界まで毎日使ってもらっているのだけど、ほとんど上達しないし、魔力が増えると言うこともないんだよ。 どうしてなのか分からないんだ。 何が悪いんだろう」


 「どうしたら良いか教えてくれよ、ジャン」


 「フロドさん、そんなこと言われても、僕にも分かりませんよ。

  そもそも干拓工事の為に戻ってきた先輩たちを、僕はあまり見てさえいないですから、僕の方がもっと分からないですよ」


 「一度、先輩方の了承をとって、ナリートに見てもらって、何か原因がないか調べてもらった方が良いかな。

  俺たち、本当にお手上げなんだよ。 最初は上手くいっていると思っていたんだけど、こうも予定通りにならなくて、どうにもならなくなるとは思わなかった」


 「うーん、それしかないかも知れないですね。

  先輩たちのことは、領主様やシスターも、干拓に戻ってきた先輩たちを上手に指導しているって、評価していたんですよ。

  だから、きっと先輩たちの問題ではないですよ」


 そんな訳で、僕は開拓に応募してこの領に戻って来た元孤児の先輩たちが、どうして考えていた以上に魔法に苦戦して、そのせいで干拓作業が遅れてしまっているのかを探ることになった。 とにかくは、了承も取れていることから先輩たちのレベルを見ることから始めた。


 すぐに理由は判明した。 先輩たちのほとんどは、魔力のレベル、土魔法のレベルがほとんど上がっていなかったのだ。 特に酷いのが男性の先輩方で、干拓の土木作業はその人たちが主力なのだから、トレドさんたちがいくら頑張っても、成果が出ないはずである。

 比較すると女性の先輩たちの方は、それなりの魔力レベルがあって、僕は女性の先輩方がソフテンなんかの土魔法を覚えれば、それなりには使えるのではないかと思った。 それでも、女性の先輩たちでも、城下村の孤児たちと比べると魔力のレベルが低い。


 これは本当に予想外の事態だった。

 全体レベルは、僕ら一部の者を除けば、ほとんどの城下村の元孤児たちよりもレベルが高いくらいなのだ。 一度は鉄級の冒険者になったフロドさんたちと同等レベルが多いのだ。

 それでいて、魔力レベルはずっと低いなんて、考えてもみなかった。


 「つまりさぁ、先輩方って、今までほとんど魔法を使わずに生きてきたんじゃないかな。 生活魔法だって、僕たちは何でも使うようになっていたけど、普通は初歩の火魔法のプチファイヤくらいしか教わることもないらしいよ。

  女性の方が、クリーンを使ったり、冒険者だとヒールを使うのは女性の役目だったりして、使う機会が多いから、魔力のレベルが上がっていたんじゃないかな」


 ジャンがそんな風に僕に説明してくれた。


 「魔法なんて、普通の全体レベルが5程度の村人では、使おうとしてもプチファイヤとクリーンくらいなのよ。 それが普通だから、ここみたいに全体レベル上げもして、魔法も常に使わされて鍛えられて、なんて環境は普通はないから、冒険者をして全体レベルが上がっても、きっと、魔法を使う、魔力を上げるなんてこと、今まで考えたこともなかったのよ」


 フランソワちゃんにも、そんな風に言われてしまった。


 僕とジャンはトレドさんたちに相談して、トレドさんたちに干拓工事の計画の見直しを、文官さんにしてもらうように勧めた。 どう考えても今の状況で考えると、文官さんの立てた予定で沼地の干拓が出来て、元沼地だった土地の開拓が進むとは思えないからだ。

 沼地の干拓から始まって、大々的に農地にするという計画は、文官さんが考え進めてきた計画だからね。


 その話を僕たち二人もトレドさんたち三人に付き合って、文官さんに話に行くと、文官さんにとっては完全な想定外だったようだ。

 文官さんは当初、冒険者だった先輩たちの指導を僕らが行わず、トレドさんたち三人に任すことになったから、その指導が上手く行くかを心配していたらしい。 それが領主様も評価するするような指導力をトレドさんたちが見せたので、これでこの事業はもう上手く行くと思って関心が薄れてしまっていたらしい。

 ま、ここに来て北の村の災害なんかもあって、色々と他に気を取られることも多かったことがあるだろう。 マイアも復帰してきたばかりだし、復帰したと言っても、さすがに以前と同じ仕事量をこなせている訳でもないし。


 「なるほど、彼らはレベル、いや、ちゃんと言わないと駄目ですね、全体レベルは高いけど、魔力は高くなく、土魔法のレベルはなかなか上がらないのですか。

  ちょっと、それは想定外だったですね。

  うーん、確かにもう少し慎重に考えていれば、こういう事態は逆に私なら予想していても良い事態だったのですよ。

  ほら、ナリートくんとジャンくんは覚えているでしょう。 私と領主様がここに来た最初の頃、私たちは風呂にお湯を入れることも苦労していたのですよ。 自慢じゃありませんが、領主様ほどはいきませんが、私もそこそこレベルは高いのですが、その私がお湯を入れることに苦労したのを、喉元過ぎれば熱さ忘れるというヤツで、全く忘れていました。

  元冒険者で、そこそこレベルが高くても、私がお湯に苦労した以上に、使ったことも無かった土魔法を、城下村の元孤児たちのように使える訳が無かったのです。

  どうも私は、元孤児で、冒険者をしていたのでレベルもそこそこ高い。 それだけで、城下村の元孤児たちと同じように作業が出来ると、勝手に決め込んで考えていました。

  これはもう完全に私の誤りです。 トレドくん、ロンくん、フロドくん、色々と悩んだりしてしまったことでしょう。 申し訳ありませんでした」


 「いえ、僕たちもなかなかその原因に気がつかなくて、どうして先輩たちはなかなか土魔法を使いこなせないのだろう。 自分たちの教え方の問題かと、悩んだだけで、謝ってもらうことじゃないです」

 ロンさんが、文官さんに謝られて、慌てて、そう言った。


 「いやいや、ちょっと話が飛ぶのですが、各村や集落に行った女性陣が学校を作ることを強力に勧めてきた理由が、なんだか凄く解った気分ですね。 読み書きも計算を覚えることも重要ですけど、魔法も小さいうちから色々使えるようにする必要があるのですね」


 うわっ、そっちに発想が飛ぶのか。 やっぱりさすがだな、と僕は偉そうに思ってしまった。 ま、でもそっちに関しては、エレナの代やシスターたちの任せておけば大丈夫。 僕やジャンが口を出す話じゃない。


 「そうそう、計算外というか、予定外のことは他にもあって、この領への移住者を次々と増やす計画だったのですが、それも上手く行っていません。

  私の予想では、この領から外に出た人は、この領で移住者を募集していると聞けば、どんどん戻るかと思ったのですが、そんなことは無かったようです。 糸や布という産業も少し確立してきたので、そういう噂を聞きつけて、他領から移住して来る人もぐんぐん増えるかと甘く思っていたのですが、そうはならなかったですねぇ。

  この領の大きな問題点の一つに、広さの割に人の数が少ないということがあるのですけど、その解消が図れるかと思いましたが、なかなかそういかないですね。

  ま、人の数というのは、それぞれの領にとっても表面には出ないですが、一番の資源ですから、実はその移動は厳しく制限されているので仕方ないのですけど。

  それにまあ、干拓が遅れて、農地としての利用も先のことになるとなると、食糧生産も遅れる訳で、かえってそれは混乱を生まずに良かったかもしれないですね。 うん、怪我の功名です」


 文官さんがちょっと自虐モードに入ってしまったようなので、僕は一つ良いことの報告もした。


 「今回、改めて、元冒険者のい先輩方を詳しく見ることになったのですが、それで発見したことがあります。

  元冒険者といっても、その[職業]は、みんな農民か村人ということだったんですけど、詳しく見てみたら、他の[職業]の人も何人もいたんです」


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