地滑りの原因と
結局、北の村の災害現場の応急の工事だけで、それから一週間が掛かってしまった。 応援の人員は西の村から受け入れただけで、他からの人は気持ちはありがたいけど、効率と安全を考えて断った。
北の村からは城下村からの支援物資だけでなく、西の村と東の村からも送られて来た。
西の村ではミランダさん、いやもうシスターに戻ったからシスター・ミランダだな、とにかく西の村の教会と孤児院が中心になって、援助物資を集めて持って来てくれた。
東の村はもちろん、フランソワちゃんの父である村長が中心になって、大急ぎで援助物資を運んで来た。 城下村の第2陣の援助物資よりも早かったくらいだ。
他の小さな集落でも援助物資を集める動きが広がったけど、それは領主様が止めた。 そういう小さな所では、自分たちの生活をかなり切り詰めないと、援助物資を集めることが出来ないからだ。
町は物資を消費する所で、支援食糧や薪などを集めて持って来るという訳にはいかない。 そこで町は義援金の募集が広がって、こちらはかなり額が集まっているということだ。 長期的に見ると、一番の北の村に対しての贈り物かも知れない。
そんな中、南の村からは何の音沙汰もなかった。
南の村は一時的な特需が無くなって、そっちへの対応に手一杯で、他への援助どころではないというのだろう。
しかし、「そういう所なんだよなぁ」と僕は思ってしまう。 きっと僕だけじゃない。
小さな集落も、自分たちの生活を切り詰めてでも援助しようとしていたのに、自分たちの生活を守るのに手一杯だから、何も考えないというのでは、周りの者がどんな風に感じるか、考えるかを、全く考慮しないのだろうか。
きっと南の村は、他からは今まで以上に無視される存在になっていくのではないだろうか。 そんな気がしてしまう。
結局、領主様と僕たちは10日以上を北の村の災害の応急処置に費やして、ほとんど城下村に戻ることもなく過ごすことになった。
実際に作業を請け負う者たちは、次々と交代して作業したが、まだ地面が安定していない中の作業だから、指揮監督する僕らは休む訳にいかなかったからだ。
さすがに疲れたので、城下村に戻った僕たちは、領主様たちも含めて、2日間の休養を取ることになった。
僕たちはその2日間、初日は寝て過ごし、2日目ものんびりと過ごして、疲れを取った。
僕たちとジャンたちは、久しぶりの露天風呂を楽しんだりもした。 うん、一番体が休まる感じがするなぁ。
僕らが入っていると、後からウィリーとマイアも子連れでやって来た。 赤ん坊は体も小さいし、そんなに長く湯に入っていられる訳ではないのだけど、マイアの代わりにルーミエ、フランソワちゃん、アリーが抱いてあやしていると、マイア以外に世話されることにも慣れているからか、ご機嫌だった。
マイアは北の村には行かなかったけど、こっちで中心になってずっと動いていてくれたはずだから、きっと同様に疲れていたことだろう。 露天風呂にゆっくり浸かって、いくらかでも疲れを抜いてくれ。
「ウォルフは誘わなかったの?」
ジャンがウィリーに聞いた。
「ウォルフは来たがったのだけど、エレナが嫌がってしまったんだ。
エレナは、腹が大きくなった姿を見せるのが恥ずかしいだってさ」
ウィリーが、やれやれという感じで答えた。
僕ら孤児院組、いや実際はフランソワちゃんもアリーも違うのだけど、僕らは慣れてしまっていて、混浴とか全く気にしないのだけど、唯一エレナだけは気にするんだよなぁ。
ウォルフは当然気にしないで、一緒したい派なので、最近はエレナも混ざっていたのだけど、妊娠して体型が変化したら元に戻ってしまったみたいだ。
「別に気にすることないのにね。 妊娠したら体型が変化するのは当たり前だし。
私なんて、やっと妊娠したわよって、みんなに見せつけていたんだけどなぁ」
はいはい、マイアはそうでした。
僕ら男性陣は、最初は大きくなっていくのが不思議というか、珍しくて、マイアの体型変化をまじまじと観察していたのだけど、すぐに飽きて、いや慣れて、ほとんど気に留めなくなった。 そしたらマイアは、わざわざ自分から見せつけて、ちょっと前とどう変わったとか、お腹の中で動くのを触らせたりして、誇らしげにしていた。
ウィリーは、そんな時、我関せず、というか、お前ら頑張れという感じだった。 きっと僕らにする以上にウィリーはされていて、辟易としていたのだろうなぁ。
そんなこんなで休みの二日間は、あっという間に過ぎてしまって、僕らは次の行動をどうしようかと思っていた。 出来れば干拓事業か、領境の壁作りに戻りたいなぁ、それからまだ新道も取り敢えず開通しただけで、当初の計画の最短には遠くて直していきたいし。 なんて夢想していたけど、そんな風になる訳ない。
すぐに僕たちは領主様に呼ばれてしまった。
「なんだお前ら、呼ばれて不服そうだな」
「いえ、不服という訳じゃないんですけど、やっぱり呼ばれたかと、ちょっと諦めの境地になったというか」
僕らが、やれやれという感じで呼ばれた部屋に集まっていたから、領主様に小言をもらったのだけど、それにウィリーが代表して答えた。
「ま、気持ちは分からなくはないが、もう諦めろ。 お前らはすでにこの領にとっては重要人物だ。 こういった時に、俺が相談相手にするくらいにな。
本題に入るぞ。 お前ら北の村の様子を見て、どう思った?」
「かなり厳しいですね。
村の畑の全てとは言わないけど、かなりの部分が土砂に埋まってしまっています。 あれでは村の人たちが、自分たちで食べる食料を確保することが難しいでしょう」
ウォルフが領主様の問いに、即座に答えた。 きっともう考えていたのだろう。
「そうだな、残った畑だけでは、北の村の住人の食い物を賄うのは無理だろうな。
それで、潰れてしまった畑の復旧は出来ると思うか?」
うん、問題はそこなんだよなぁ。
そんなに難しくなく、また畑として利用できるようになるなら、少しの間援助していれば、自力で暮らしが成り立つようになる。 でもそうでないと。
それと北の村は他と違う特殊事情もある。 元々自分たちの村の畑で収穫出来る作物は、谷間の村であることもあって少なくて、不足分を町で薪などを売って得た収入で補っていた。 その収穫がガタッと減って、必要なだけの食料を得ることが、長期的に出来るかどうかが問題だ。 頼みの綱の、薪などを得る森が地滑りを起こして崩れたのだ。 この状態で前以上に売り物にする薪などを生産できるだろうか。
僕たちは互いに、どう思う? と目で会話した。 みんな、無理そうだよな、と一致した。
ジャンが領主様に答えてくれた。
「無理だと思います。
埋まった畑を、元の状態に近いまで掘り起こして戻すのは、絶対に無理だと思うので、崩れて流れて来て、変わってしまった土地を、最初にしたように開墾するしかないと思うのですが。 大きな木の根や石なんかもたくさん混ざっていますから、それも大変な作業になると思います。 あの土地を開墾するなら、他を開墾する方が楽じゃないかという気がします」
「やはり、お前たちでも、そう考えるか。
実はな、北の村の村長から、『諦めて、新たな土地に村として移住したいので、どこか良い場所はないか?』と相談を受けた。
しかし、それもまた問題なんだ。
北の村が無くなって、北の村から薪なんかを売りに来る者がいなくなると、今度は途端に町が困ってしまうのだな」
確かにそうだ。 町の暮らしは北の村が供給していた薪や柴が支えている。 それがなくなると煮炊きにも困る。 急に他から調達といっても、なかなかそうはいかない。 僕らが昔、東の村で余った薪や柴を町に持って行って売ろうかと考えたけど、そんなに急に大量に供給できる物でもない。 それに距離の問題もある。 たまに持って行って売るくらいなら、そのくらいの距離は少しの苦労だけど、継続するとなると距離は結構問題だ。
僕はちょっと思いついたことを口にした。 別に解決策ではない。
「北の村は、町に薪や柴を売ることを、村の収入の大きな柱にしていた。 だから、村の周りの木を、丁寧に利用していた」
「まあ、そうだな。 流れて来た土砂に混ざった木の根っ子は、どれも大きくて立派だった。 当面は、あれを掘り出して、乾かして、小さく切り分けて売れば収入になるんじゃないか」
ウィリーが僕の発言の方向を取り違えて、そう言った。
「うん、確かに言われてみるとそうだね。 あの根っ子を掘り出せば、そういう使い方は出来て、当座の資金にはなるかも知れないね。
でも、僕が言いたかったのは、そこじゃないんだ。
あの木の状態が、今回の土砂崩れというか、地滑りを引き起こしたんじゃないかということ」
「ん、ナリート、どういうことだ。
災害なんて、何時何処で発生するかなんて、分かることではないだろう」
「はい、まあ、それはその通りなのですけど。 今回の災害も、雨が少し続いたことが直接の原因であることは確かだと思うので、そんなことは事前に分かる訳じゃない。
でも、あれだけ大きな地滑りになった理由には、僕にはこの問題があったからじゃないかと思うんです」
「この問題って、どういうこと? 僕には全く分からないよ。 ナリート、とりあえず詳しく説明してみて」
ジャンにそう言われて、僕は「あ、そうか」と思って、自分が考えたことを詳しく説明してみることにする。
「土砂に混ざった木の根っ子だけど、僕にはみんな同じ木だったような気がするんだ」
「確かにそんな気はするな」 ウォルフが考えながら肯定してくれた。
「それで、あの木って、炭を作るのに都合が良いからと、鍛治師さんたちが今積極的に植えている木だと思うんだ」
「ああ、言われてみれば、確かにそんな気がするな」 今度はウィリーだ。
「あの木が都合が良いのは、時期を選んで、ある程度根本から高さをとって伐ると、次の春には伐ったところから新芽が出て、また木として復活することだろ。 そして多過ぎたりする枝もどんどん伐っても大丈夫だから、結果計画的にたくさんの炭に出来る木材が採れる。 別に炭にしなくても、そのままで薪や柴としても売ることも出来るよね。 それで売るのでも優秀な木だと思うんだ」
「確かにそうだね。 つまり、北の村では薪や柴として売るにも都合の良い木として、村の周りには優先的にその木を植えて、利用していたってことかな?」
「うん、ジャン、きっとそうだと思う。
それで、大事にして、ずっと長くそれを繰り返してきていたんだと思うんだ。 あれだけ大きな根っ子なんだからね。
だけど、木にも寿命がある。 そうやって使い続けてきた木は、きっともう寿命が尽きる間際になっていて、元気が無くなっていたんじゃないかと思うんだ。 そうすると根を張る力も弱くなって、今回の雨で地盤が柔らかくなるとそれで一気に崩れてしまったんじゃないかと思うんだ」
「おいおい、ナリート、木に寿命なんてあるのか?」
「そりゃ、ありますよ、領主様。 木だって、生き物なんだから、他の生き物と同じように寿命があります。 ただ他の生き物に比べると大きくなる木は寿命が長いから、あまり意識されないだけで。 それと、枯れた木が寿命で枯れたのか、それとも何か他のことが原因で枯れたのかなんて、見ただけで分かることではないですから、見逃してしまっていることもあるかも知れないです」
「なるほど、確かに言われてみれば、そんな気もするな」
「それと、これは僕はあまり北の村を知らないから、推測でしかないのですけど、薪や柴を採るために、森に入ることが多いので、きっと昔からの習慣そのままに、それらの木の周りは、スライムを恐れて、綺麗に草は除去されていたんじゃないかと思うんですよね。 もしかしたらじゃなくて、ほぼ確実だと思うけど、小さな灌木とかも取り払われていたんじゃないかと思います。
そうなると、表面の土壌は簡単に雨で流されますし、木のある場所の保水力も無くなります。 少し前の西の村の山がそんな感じでしたよね」
「分かったぞ。 そうなると木は水を求めて、岩の隙間に根を伸ばそうとして、岩も脆くなっていく、でも木自体は寿命で弱くなっている。 そしてちょっとしたきっかけで全体が崩れてしまうということか」
「はい、まあ、きっとそんな所かなと思います。
木もある程度の年数で、若い木に更新していく必要があるのですよ。 それにその木の周りには、草や灌木も生えさせて、土壌を豊かで保水力を高く保つ必要があるのです。
今までは、それをスライムに対する恐怖から無視していたんです。 フランソワちゃんが新農法の一部として、草の重要性を教えて回ったので、だいぶ草は村の周りでも復活しているのですけど、こういうちょっとした所は、昔のままになっていたりするんですね。 僕も今回のことで気がつきました」
「そう言えば、西の村の近くの山は、植林した後は草を生やすようにしているよね。 堆肥を作るのに必要だからというのもあるけど」
ジャンが確認するように言った。
「うん、北の村はさ、元々畑も広い訳じゃないし、農業に一生懸命という訳じゃなくて、薪や柴を採る方が盛んだったから、それも影響して堆肥作りも盛んにやっていたという訳じゃないのかも知れないね」
僕たちは、こういう影響も出るんだなぁ、なんてつい話していた。
領主様は渋い顔のままだ。
「今回の災害の一因については理解したが、さて、北の村をどうしたもんかなぁ。 村長はすっかりと諦め気分になっているらしいが」
僕たちも、頭を北の村の問題に戻した。 どうしたものだろう。
「しかしこれ、考えようじゃないか。 元々、北の村は畑に出来る土地が少なくて、村で自給自足という訳にはいかなくて、町で薪なんかを売って、その金を食料に換えていたのだろ。 今回の災害で、その少ない畑の適地がもっと少なくなってしまったから、もう無理だということだけど、元々他の村とは違って、無理だったんだ。 それが確定したということさ。
でも、北の村の人たちは、他の領内の人と違って、木を育てて利用するということには長けている。 木も年老いるということを、今までは忘れていただけだし、草や灌木の効用も知らなかっただけさ」
「ウォルフ、何が言いたいの?」
「いや、今は領内の植林は鍛治師の人たちが中心になってやっているけど、ずっとそういう訳にはいかないだろ。
この領にとって、一番不足しているのは、森や林で、それこそが一番の問題なのは確かなんだろ。 そうなると植林は長く続けていかないといけない事業じゃないか。 それなら木を育むことに長けた北の村の人たちには、農業で活躍してもらうのではなくて、植林で活躍してもらうというのはどうかなと思ったんだよ」




