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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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196/207

北の村からも

 数日、雨が続いていた。


 以前ならば、この城下村と町の間はこれだけ雨が降ると、湿地帯というか沼地の中の乾燥している部分を縫うようにして、少しだけ強化していた道が水をかぶってしまい、ほとんど通れなくなっていたところだ。

 今は、干拓という開拓事業の最初に、川筋をきちんと作って、増えた水をきちんと流すようにしたので、この雨でも、まだ工事は途中ではあるけど、なんとか馬でも町との間の行き来は維持できる状態になっている。 もう少し工事を進めて、雨が続いても、きちんと荷車の行き来が普通に出来る道を、町との間に通すのが目標ではある。

 ま、城下村と町の間が問題にならなくなっても、現実的には関所と城下村の間の道は、これだけ雨が続いて川の水量が増えると、橋が水に沈んでしまうので、流通は途絶えてしまう。


 根本的な問題は、雨が降れば、即座に水量が一気に増えて、雨が止めば、またすぐに水量は減るという、この土地の特性だ。 これは土地に保水力がなくて、雨として降った水が即座に川を流れるからだ。

 全ての問題は、この領地には木が少なくて、ほとんどが良くて草原、ちょっと条件が悪い土地は雨量が全体としては少ないこともあって荒地という土地柄から来ている。

 僕が躍起になって、植林を進めたいと思っているのは、炭にする原料が欲しいからというだけでは無い。 木を増やせば、木だけでなくその周りには草も生え、土地の保水力が上がる。 そうすれば川の水量の変化も少なくなるし、普段一定して流れる水量は増える筈だからだ。 今現在は、川の水を引いて農地を増やすということはほとんど出来ない。


 城下村は小さな川、先に行くと沼に流れ込むというか、川のままで、この領を分けている本川に流れ込むことが出来ない程度の水量の川の水を引いて、利用している。

 それが出来るのは、小川ではあるけれど、城下村のよりも上流側は糸クモさん、つまりデーモンスパイダーの生息地だったことから分かるように、森となっているので、ある程度一定した水量があったからだ。

 でもまあ、城下村で利用した結果として、沼地に流れ込む水量が少なくなり、湿地帯の乾燥化が少し進んだ。 それもあっての干拓事業でもあるのだ。


 あとこの状況の改善策としては、溜池を作って、降った雨を流さずに、溜めて利用するという方法だけど、これは西の村で試している真っ最中である。

 西の村は、元からの水源かつ燃料の柴の供給源だった山側の森を伐採し過ぎて、禿げ山にしてしまい、井戸は枯れそうになるわ、利用していた小川流れが途切れて枯れてしまうわで、廃村一歩手前の危機にまでなってしまったのだが、植林の成果もあり、だいぶ持ち直した。 これは単純に植林したからというだけでなく、斜面の表土がだいぶ流れて少なくなってしまっていたため、植林した木の周りの土が流れないように土魔法で囲ったせいも大きかったみたいだ。 その囲いが一時的な貯水の役をすることで、雨水が表面を流れずに浸透することになったようだ。

 この二つの策が相乗的に上手く効果が上がり、西の村は急速に元々の状況に、いやそれ以上の状態に発展している。


 僕らが元居た東村も、川の主流ではなく支流の側にある村なのだが、そこも近くに林があって、柴なんかの供給源になっている。 生活を維持するためには燃料は不可欠な物だから、ある程度の木がなければ、村など普通は作れない。 それは当然のことだ。


 町だけは例外だ。 町は少しだけ離れているけど、本流の川に近い場所にある。 川のほとりにある訳じゃないのは、やはり水量の多い時と少ない時の差が大き過ぎるので、近過ぎると危険だからだろう。

 その町だけは、周りに林や森がない。 それでも一番人の数が多くても生活を維持出来ている理由は、北の村の存在だ。

 北の村は町に一番近い場所にある村だが、距離的には近いのだが、環境は全く違う。 町は当然だけど開けた場所にあるのだが、 北の村はこの領内としては珍しく、山に分け行った先の谷間というような場所なのだ。 周りは木に恵まれていて、町で使う柴などの一大供給源となっているのだ。 つまり町で燃料として使われている柴や薪は、北の村がそのほとんどを供給しているのだ。 逆にそういう立地だから仕方ないのだが、平地が少ないために、自分の村のみでは食料を賄いきれない。 だから逆に食料は町に依存している。


 と、まあ他の村と比べると、かなり違った立ち位置の北の村なのだが、村のあり方としては確立していて、今までに何か問題があるということもなかった。

 逆に言うと、北の村は町との関係をとてもしっかりとしていたので、他の村は薪や柴を売るということでは町に全く食い込めないような状況となっていたのだ。 ま、距離も一番近いから仕方ないのだけど。



 そんな問題がない優等生的な北の村から、まだ雨が降っている最中に、緊急の要請が領主様の元にもたらされた。


 「大変です。 北の村を囲む山が崩れ、北の村は半分埋まってしまいました」


 今回の雨によって、どうやら大規模な地滑りが北の村を襲ったらしい。 こういった自然災害はいつ何が起こるか分からない。


 「直ぐに救助に行く。

  大急ぎで出発出来る者から、どんどん現地にむかえ。 詳細はまだ分かっていないのだな?」


 「はい、大きな災害が起きたことはわかっていますが、その時点で救援を願うために、村から離れてしまい、詳しくは全く分かりません」


 「良い。 良い判断だ。

  まずは騎士を偵察に向かわせろ。

  ナリート、土魔法に熟達している者を選抜して、急いで向かえ。

  ルーミエ、怪我をした者が多数いるかも知れん、お前もカトリーヌと共に、シスターとシスター見習いを連れて来い。

  マイア、この村のことは任せる。 援助物資を集めて、輸送できるように手配しろ。

  以下、それぞれ出来ることを急いでやれ」


 それだけ大急ぎで命令すると、領主様も自分の周りを固める者たちを連れて、現地に向かってしまった。

 ウォルフとウィリーは一番に現地の偵察に向かってしまっている。


 僕はジャンと共に、城下村の元孤児たちの中の年長者の方から、全体レベルが高く、また土魔法、魔力共に高いメンバーを選抜した。

 僕とジャンがメンバーを選抜したり、選抜したメンバーにこれからのことを説明している間に、マイアはもう人を動かして、とりあえず持っていく物の用意をしていてくれた。


 「スコップや鍬なんかの用意はしていると思うけど、きっと現地では土嚢を作る必要があると思うわ。 そのために今ある俵とかを集めたけど、きっと全然足りない。 後で俵を作ったり、筵を縫い合わせたりして届けるから、とりあえず今ある分を持って行って」


 ルーミエとシスターは、一緒に行く普段は薬作りや薬草の栽培などをしている、一応研修生という肩書きになっているシスターや見習いシスターを選抜して、持って行く道具などを大急ぎで準備しているようだ。 一応、声をかけて、僕らは出発する。 どうやらフランソワちゃんも、そっちに混ざるみたいだ。

 エレナの代が、みんな宣言通りに今は妊娠しているので、城下村で指揮を執るのがマイアだけになってしまい大丈夫かなと、少し心配になったのだけど、キイロさんが声を掛けに来てくれた。


 「ナリート、こっちは任せておけ。 俺とタイラがマイアに協力して、城下村に残っている奴らは動かす。

  シスターたちは、交代で動くように半分は残ることにしたみたいだ。

  救援の土木作行も、疲れたら交代出来るように、第二陣を俺が編成しておく」


 僕たちは、城下村をマイアとキイロさんたちに任せて、大急ぎで領主様たちの後を追った。 まだ小雨が降っていたが、道は通行が困難になるという程の場所はなかった。 少し泥濘みがあった程度だ。 直したい気がしてしまったが、今後のことを考えて魔力・体力温存のために放置だ。 それに急いでいるしね。



 北の村に到着してみると酷い状況だった。 村の半分くらいが土砂に埋まっている。


 「ナリート、待っていたぞ」


 一番先にウォルフが声を掛けてきた。


 「状況は?」


 「見ての通りだが、幸いにも家が密集している所には土砂が達してなくて、ほとんどは畑だった場所を埋めてしまっただけだ。

  だが10人近くの住民が行方不明というか、巻き込まれているみたいだ」


 ウィリーもやって来た。


 「ナリート、お前の空間認識で、巻き込まれて埋まっている人がどこにいるか分からないか?

  俺やウォルフの索敵では、敵やモンスターの気配は広く感じるのだけど、単純に埋まっている人を探すのは上手く出来ないんだ」


 そうか、普段僕は自分の空間認識と、索敵の違いは鉱物や、都合の良い石を探したりにしか違いを感じることがないのだけど、そういう大きな違いがあるのか。 ウィリーに言われなければ、その違いを忘れていて、自分の能力を役に立てられないところだった。


 「解った。 大急ぎで探してみる」


 僕がウォルフとウィリーと共に、災害現場の中心に急いで行こうとすると、ウォルフが気がついたように言った。


 「ジャン、お前は、領主様たちの所に行って、簡易の居場所をまずは作ってやってくれ。 何かしら持って来ているだろ。 領主様たちも、まだ雨が降っている中、立ちっぱなしなんだ。 せめて雨を凌いで、座ることが出来るようにしてあげてくれ」


 ウィリーも付け加えた。

 「大急ぎで頼むぜ。

  人の救出は二次災害が怖いから、まずは騎士と騎士見習いでやる。 それが終わったら、これ以上被害を拡大しないように、直ぐに応急処置に取り掛かるぞ。 それには連れてきた奴らを積極的に使うからな」


 「了解だよ。 巻き込まれた人、早く見つかって助かるといいな」

 ジャンは、そう言って手を振ると、城下村から連れて来たみんなを連れて、領主様たちがいるらしい方向へと急いで向かって行く。


 僕らは、それよりも大急ぎで現場に向かう。

 現場では、騎士と騎士見習いが、一斉に大声を出して呼びかけたり、逆に静かにして耳を澄ましたりを繰り返している。

 土の中から掘り出されて助けられた人だろうか、何人か全身泥に塗れて横たえれて、雨に打たれている者がいる。 ちょっと可哀想だけど、今はそれ以上構っている暇がない。


 どうやら北の村の中心部を離れた位置に何軒かまとまって建てられていた家が、数軒土砂に呑まれてしまったらしい。

 僕には土地勘もないし、押し寄せた土砂によって地形も変わってしまっているので、どの辺りに元々家があったのかさえはっきりしない。

 現場に居た騎士の1人が、「この辺りに家があったらしいです」と教えてくれたので、その辺りから土砂が流れた方向を空間認識で探って行く。

 地上なら、と言うか、モンスターが何処にいるかを探っている時なら、かなり広い範囲が即座に判るのだけど、地面の下の土の中となると、そう広範囲が一気に判るという訳にはいかず、ゆっくりと歩を進めて付近の様子を探る。 見落とすと、それは大変なことになるのだから、逸る心を抑えて、慎重に進む。


 「いた。 たぶんまだ生きているぞ。

  崩れた家の中に閉じ込められた形になっている。 大急ぎで、ここを掘って救出しろ。 だけど、屋根が被さって土砂を防いで空間を作っている形だから、その空間に土砂が流れ込まないように注意して作業しろ」


 その場では幸運にも3人を救出することが出来た。 同様にして、それからも全部で7人を救出することが出来たが、残念だけど他2名は堀り出した時には、もう息をしていなかった。


 それ以上は見つからなかったので、最初に見た救出されていた人に、他には人は居たかを聞きに行ったのだが、そこにはシスターとルーミエたちも到着していた。 2人の治療のおかげだろうか、雨に打たれて寝かされていた人は、さっき見た時には声も出せないような状態だったけど、今は僕らの問いにしっかりと答えることが出来た。


 「はい、それで全員だと思います。

  最初に助けられた私らは、自分が助かったことは幸運だったと思ったのですが、他はもう絶望だろうと考えていましたから、2人は残念ですけど、こんなに助かって、嬉しく思います」


 良かった、これ以上の行方不明者はいないようだ。

 こんな風に思ってしまうのはいけない事だと思うのだが、この規模の災害で死者が2名だけで済んだのは奇跡的だと思ってしまった。

 土砂に埋まった人の救出作業が終わると、それに合わせるように雨が完全に上がって、陽射しが僕らに降り注いだ。

 辺りは荒れてしまった風景なんだけど、その陽射しは綺麗に煌めいている感じがした。


 それから数日の間、僕たちは領主様も含めて、これ以上の被害が出ないようにするために、土嚢を積んで防御壁のようなモノを作ったり、崩れた水分の多い土地に水抜きのための溝を掘ったりし作業に明け暮れた。 二次災害を起こさないように注意しての、気を使う疲れる作業だった。 作業は、土魔法、水魔法が使えることを前提で進めたので、城下村の若手を除く可能な全員が、順番に参加することになった。 西の村に行ったロベルトたちも手伝いに参加したが、それ以外は現実的には魔法も使っての作業に慣れていないので、参加していない。

 ま、作業の打ち合わせとかで時間を取られることは無くて、楽ではあったのだけど、城下村で鍛えた元孤児たちと、一般の領民の実力差みたいなのが、自分たち以外にもすごく明らかになってしまった感じだ。


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― 新着の感想 ―
このなだれ、普通に天災なのか西の村ほどでなくても伐採が進みすぎた結果なのか、その間の無計画な伐採なのか、冒頭のはげ山化させた話があるだけに気になるところ。 ただ確実なのは、これまで話にさえほぼ出てきて…
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