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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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ウィリーとマイアの家

 ウィリーとマイアは、もうかなり以前からずっとウォルフとエレナと同じ家に住んでいた。

 僕とルーミエとフランソワちゃんが、ジャンとアリーと同じ家に住んでいるのと同じことで、城下村開拓の中のその時々で、最も手間のかからない、その時に出来る方法でみんなの住居を作っていたら、そういう結果になっていたということだ。

 そもそも僕らは孤児院では、男女に部屋は一応別れてはいたけど、基本的には大部屋に何人も一緒に寝起きしていたのだから、その形態でなんの不満もなく今までは暮らしていた。 その時その時の必要で部屋を移ったり、家を増やしたりして来て、その中で僕らはこの形に落ち着いていたのだ。


 ところがマイアが子を産んで、その形に問題が出て来た。


 「いや、赤ん坊は可愛いんだ。

  マイアが産んだウィリーとの子どもだけど、なんだか俺たちの子どもという感じでさ、もう可愛いとしか言いようがない。

  それはナリートとジャンも分かるだろ。

  だからピーピー泣いたりしていても、オムツかな、オッパイかな、それとも何か他に問題があるのだろうかと、少しヤキモキしたりはするけど、そんなことは全然気にならない。

  だけどなぁ、なあ、ウィリー、お前もだろ」


 「まあなあ、助かっている部分ももちろんあって、俺の立場ではなんとも言いようがないのだけど、ま、確かになぁ」


 2人が問題視しているというか、困っているのは、彼らの家にエレナの同期の女性陣が常に入り浸っていることだ。

 僕らは、つい忘れてしまうのだけど、エレナの同期たちは、みんな次の子作りは自分の番だと考えて、ウィリーとマイアの子育てを手伝うことで経験を積もうとしているのだ。 これはエレナも全く同じだ。


 違うのは、僕らが彼女たちのことをつい念頭から忘れてしまう原因でもあるのだが、初期メンバーの中で、彼女たちは僕らとの関係が薄くて、今までほぼ接点がないことだ。


 エレナは開拓を始める前から、僕らと行動を共にしていた。 マイアは、ウォルフとウィリーの代で唯一の女性だ。 やはり立場が違う。

 もちろん彼女たちも孤児院の仲間だから、元から面識はあったのだけど、エレナの代は女性しか開拓に加わらなかったこともあって、男の僕らとの接点があまりなかったんだよ。 マイアとエレナは、それぞれウィリーとウォルフの妻にもなっているしさ。 それに家もその代の女性で固まって住んでいたし。

 ま、簡単に言えば、あまり今まで親しく接したことのない女性たちが、常に家の中にいるというのは、ウォルフとウィリーにとっては、特にウォルフにとっては、かなり気詰まりな状況なのだ。


 そりゃそうだよね、僕とジャンもその気持ちは良く分かる。


 「ま、他にもシスターもよく来てくれるし、あとマイアが一番頼りにしているタイラさんもよく来てくれる。

  だから、エレナの同期たちだけという訳でもないんだよ」


 ウィリーが、ウォルフのフォローだか、エレナの同期のフォローだか分からないことを言っている。

 ウォルフにしてみると、エレナの同期のことは言えるけど、シスターやタイラさんが気づまりの原因とは言えないよな。 僕はチラッとジャンと目で会話する。


 「俺としては、だからその問題はとりあえず我慢するというか、横に置いといて」


 そのウィリーの言葉に、ちょっとウォルフがムッとした顔をしたけど黙ってはいる。


 「もう一つ、もっと大きな問題があるんだよ。

  ほら、俺たちの家って、基本1階に煮炊きにはほとんど使わないけど火を使う場所と、みんなで過ごす場所、それに物を入れる場所という感じで、2階にそれぞれの部屋というか寝室という作りになっているじゃんか。

  そうすると、子どもを育てるのに1階を使うか、2階を使うかという問題が出てくるんだ」


 えーと、良く分からない。 ウィリーは何が言いたいんだ。

 僕とジャンがわからないという顔をしていたら、ウォルフの方が説明してくれた。


 「これは子どもが産まれる前に、マイアのお腹が大きい時から感じていたのだけど、大きいお腹で2階に行ったり来たりしていると不安になるんだよ。 子どもを抱いていたら、余計に不安になるし、赤ん坊が居れば汚れ物が出たりもしょっちゅうだから、上り下りの回数もずっと増える訳だ。

  不便を感じもするが、それ以上に階段で転ばないかが不安にもなるのよ。

  それでまあ、これは家の作りを少し変えて、子どもが少なくとも普段過ごす場所は1階にするようにするか。

  それとももう、将来のことを考えて、子育てのための家を別に作った方が良いか、とも俺とウィリーは思い始めた訳なんだよ」


 なるほどなぁ、理解した。

 そうして思い返してみると、キイロさんの家を作った時には、炉のある作業場のことばかり僕らは気になっていたけど、キイロさんとタイラさんの生活の場となる家の方は、2人のというかタイラさんの希望で、僕らが普通に作る、下は土間の1階の2階建てではなくて、平屋の家だった。

 僕らは開拓を始めた頃は、床を作る面倒を避けるためと、その方が都合も良くて、1階を土間のままにして、2階を寝室にするというのが普通だったのだった。

 そうか、そういう家は、子育てもする家としては、使い勝手が悪かったのか。


 「でも、なんて言うか、ウォルフは軟弱ね。

  そうは思わない?」


 ウォルフとウィリーは、僕らの家に来て、話をしていたのだけど、女性3人は気を使ってなのか何なのか、今まで口を挟まなかったのだけど、フランソワちゃんが急にそう言って、ルーミエとアリーに同意を求めた。

 ルーミエは少し苦笑気味に誤魔化したけど、意外にもアリーがフランソワちゃんの言葉に簡単に同意した。


 「うん、確かにそう思う」


 「そうよね。 だって、ウォルフは普段昼間は家に居ないじゃない。

  夜はさすがに彼女たちだって、それぞれの家にみんな戻るでしょうから、ウォルフが彼女たちと一緒になるなんて、休みの日だけじゃない。

  それでそんなに深刻そうに、困った顔をするなんて、軟弱以外の何者でもないわ」


 「いやいや、フランソワちゃん。

  せっかくのたまの休みなんだぜ。 その貴重な時間に、あの小うるさい女たちが押し寄せて来ているんだぜ。 そりゃ、たまにはエレナの同期だから、そういうのもありなんだけど、毎度となると、こっちは静かに休める時がなくなるじゃないか。

  それに、彼女たちが来ることが分かっていたら、エレナもそれに合わせちゃうし、それより何より、俺もウィリーも赤ん坊に近づくことも出来なくなるんだぜ。

  そりゃ確かに、普段は昼間は離れて仕事しているから関わっていないから、俺たち2人の方が役に立たないのかも知れないけど、だからこそ、休みの日にはゆっくりと俺たちも赤ん坊をあやしたりもしたいじゃないか」


 あ、なるほどね、そういう不満もある訳か。

 あれ、休みの日も入り浸りって、彼女たちの夫となった騎士見習いの人たちも、もしかしたら不満が出てるんじゃないかな。 僕はそんなことも思った。


 「ほら、やっぱりウォルフは軟弱は言い過ぎだよ、フランソワちゃん。

  私は少しウォルフの気持ちが分かる気もするよ。

  確かにせっかくの休みにあの人たちが来ていてワーワーいつもされたら、私もちょっと毎回だと嫌だと思っちゃうかも。

  エレナと違って、あの人たちは基本的に固まるとすごい喋るし」


 僕らの代は人数が少なくて、3人だけで、ルーミエは僕にべったりだったから、ジャンとも話すけど、年上の人とそんなに話すことはなかったからなぁ。 かえってウォルフとウィリーの方が話していたと思う。 エレナとも狩なんかで一緒に行動するようになったから話すけど、エレナは基本無口な方だし。 ま、フランソワちゃんとも僕以上に一緒の時間が多くて、話し相手に困らなかったのもあるよね。 シスターと一緒することも多かったし。

 つまりは僕らと一緒で彼女たちとはあまり接点がないから、僕らの気分が分かるのだろう。 フランソワちゃんも同じはずなんだけどな。

 アリーは、糸クモさんの関係で、家というか城下村を離れることがなかったから、逆に彼女たちとは親しくなっているのかな。


 「で、2人としては、特にウィリーだけど、どうしたら良いと考えているの?」


 2人して、わざわざ僕たちの家に来て話をしているということは、ま、家に居る女性陣に聞かせたくないのかも知れないけど、何かしらの案というか意見を持ってやって来たのだろう。


 「今の家とは別に、ウィリーとマイアの家を、キイロさんの所を参考にして作るということかな」


 ジャンが2人より先に、対処する案を言った。 まあ、そういうことだろうと僕も思った。


 「それはダメよ。 それじゃあ、これから対処できなくなる。

  ね、フランソワちゃん、アリー」


 ジャンの案は、即座にルーミエに否定されてしまった。


 「そうだな。 俺も最初は単純にそれが良いかと思ったのだけど、よくよく考えてみると、確かにウィリーとマイアの所はそれでも良いけど、これからの事を考えると、それは無しだなと判断した」


 何だか勿体ぶった言い方だな。 それがダメという理由が分からないのって、僕とジャンだけ?


 「なんだナリートとジャンは分からないのか、今年はマイアだけだけど、来年はエレナをはじめ、エレナの代は、みんな子どもを産もうとすると思うぞ。

  そうしたら、子どもが出来た所は全部家を作るのかよ。 そんな場所どこにあるんだよ。 離れた場所にしたら、色々と厄介が増えるのは目に見えているだろ。

  そして、その次のお前らの代はお前らしかいないから大丈夫だろうけど、その下からは数が増えるぞ。 そこまで俺らが考えてやる必要はないだろうけど、すぐに困るぞ」


 そうだよね、僕らより下の代は、より一層孤児院時代の共同生活に近い様式の生活を今でもしているもんなぁ。

 文官さんが湿地帯になっていた場所の開拓を進めてきたのは、その辺も考えてのことだったのかな。 現状、元孤児院のメンバーは新たな開拓はせずに、今ある耕地での農業の他は、領としての作業をしている感じになってしまっているから。


 「じゃあ、どうするの?」


 ジャンが自分の案を否定されたので、代案を要求した。


 「そこでだ、ま、これは前から文官さんに勧められていた案なんだけど、マイアが子どもを連れて行っても仕事を出来る場所を、先に作ろうかと思うんだ。

  今のところは、俺とマイアの子だけだけど、きっと来年にはもっと増えるだろ。 エレナの代も、エレナを除けばみんな文官みたいに最近はなってしまっているから、ま、それは夫になったのが騎士見習いだけど、どっちかというと文官見習いみたいな人たちだから、そうなっているということだけど。

  いや、実際のことを言うと、夫になった騎士見習いよりもエレナの同期の方が役に立つんだな、これが。

  だから文官さんも、マイアと同じように、子どもを産んでも領の事務仕事をさせたいという理由もあるのだけど。 ま、俺も、それは賛成なんだけどな。 今、あいつらに完全に抜けられたら、目も当てられない」


 「おい、ウィリー、話がどんどんズレてきているぞ。

  マイアがしていた仕事をお前がしなければならなくなって、それが大変で、切羽詰まってて、文官さんともどうしたらと話しているのは分かるが、今はそれがメインの話じゃないだろ」


 「そうだった、すまん。

  だからまあ、つまりは育児所兼仕事場にする建物を建ててしまって、マイアにも今まで昼間は仕事場に行っていたのと同じように、昼間はそっちで育児をするようにしてもらって、彼女たちは俺たちの家ではなく、そっちで育児に協力してもらうことにしようかと思うんだ。 子どもも早めに環境に慣れることが出来るし、彼女たちにとっても将来の環境を先に体験することが出来る。

  うん、良いことづくめだ」


 「えーと、エレナの同期には家には来ないで、そっちに行ってもらうことにするという訳」


 「おう、ジャン、その通りだぜ。

  そうなっていれば、基本的には家の方には来ないということにしても、問題ないだろ。

  俺の心の平穏も保てるという訳さ」


 ウォルフはニコニコ顔で答えた。

 何かこれ、すごく落とし穴があるような。 大丈夫か?


 「で、その案なんですけど、マイアさんは何て言っているのですか?」


 そう、そこだよ。 アリーは簡単に訊ねたけど、これって下手したらマイアの逆鱗に触れるんじゃないのかな、と僕は思った。

 だってさ、この案て、マイアに仕事に復帰しろと言っているのと同じなんだよ。

 そのマイアがしていた仕事をこなすのが大変で、ウィリーがマイアの早期の復帰を画策していると捉えられたら、マイアの怒りの炎が僕の方には向いて来ないのを祈るばかりだ。

 あ、急にジャンが自分は関係ないという感じで、存在感を消し出したぞ。 いやいや逃さないよ。

 一番危ないのは、元々マイアに仕事を振った僕なんだよ。 これって、下手をしたら完全にとばっちりを喰う流れだよ。


 「もちろんマイアには相談したよ。

  そしたらさ、『良いかもね』で終わったんだ。

  俺も少し緊張しながら聞いたんだけどね」


 僕とジャンと、それにフランソワちゃんは、目を丸くしてウィリーの言葉を聞いた。

 アリーは、うん、良く分かってないな。

 僕は絶対に僕らと同じように驚くと思っていたルーミエが驚かなかったことが意外だった。


 「うん、私、なんとなくマイアの気持ちが分かるかも。

  仕事してて大変だった時は、もちろん不満で一杯だったと思うよ。 ナリートに押し付けられた仕事だし。

  でも、少し離れてみて、大変そうで四苦八苦しているけど、夫のウィリーが自分の代わりに何とかかんとかその仕事をこなしているのを見て、ウィリーのことを頼もしく思うと共に、ちょっと何ていうか、自分の存在意義を脅かされてしまったような気にもなったと思う。

  それで、子どもを産んで、今度は子育てに頑張らなくっちゃという気持ちが一番なのは確かだけど、やっぱりみんなが頑張っているのに、自分だけが子育てだけしかしていないということになると、少し寂しい気持ちになってしまうんじゃないかと思う。

  それがさ、子育てをしながらも、仕事も出来るかも知れない環境が出来るかも知れないと思ったら、とりあえず試してみようという気にもなると思うのよね。

  それに、やっぱりマイアもさ、助かるけど、常に来られるというのは、男2人ほどじゃないけど、やっぱりちょっと嫌なんじゃないかな。 私だとそうだもの」


 「そうね、言われてみると、そうかもね。

  私もこの家の人以外が、寝てる時以外いつでも誰かいたら、疲れるかも」


 フランソワちゃんが同意するのは、そっちなんだな。 仕事が、の方じゃないんだな。


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