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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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結構大事に

 無法者の死体を見た僕たちは、新人たちがまともに動けなくて一緒に来ていないから、自分たちだけで壊された部分の補修をした。

 スライムに群がられている無法者が刺さっている竹杭の部分は、流石にまだ手を出したくないからそのままだけど、壁の一番上の斜めに突き出した竹槍の壊れた部分なんかは修理出来るから。


 どうやら無法者たちは、一番最初はロープを投げてそれに絡めて、そのロープをつたって壁の上部まで登ろうとしたらしい。 ま、その行動は予期した通りで、こんな簡単な罠に引っ掛かるのか、と僕は思ってしまったのだが、ロープを登ろうとしてある程度の力が掛かった途端、ロープが絡みついていた竹槍は根本が崩れて、竹槍は土壁から落ちた訳だ。 当然ロープをつたって登ろうとしていた無法者は、竹杭が植えてある堀に真っ逆さまだ。

 その勢いでロープを支えていた無法者も落ちたのかも知れない。 そして助けようとした無法者も、夜で良く見えていなかったのかも知れないが、堀の中が単純に竹槍が杭のように植えられているだけでなく、細かく四角に区切られて穴が掘られているので、足を取られて自ら刺さりに行ったような形になったのだろう。

 死体の有りざまから、そんなことだろうと思う。


 壁の最上部の威嚇の竹槍の部分が壊れたままだと、この簡単な罠を見破られる可能性が高まるので、補修は早い方が良い。

 堀の中の、無法者が刺さって壊れた竹杭や、小さく区画して掘られた穴の乱された部分なんかは、無法者の死体をスライムが完全に処理してくれてからにしようと思う。 そっちは急ぐことはないだろう。



 「それにしても、俺たちが毎日工事をしている事くらいは分かっているだろうけど、それでも俺たちの裏をかいて侵入しようとする奴がいるんだな。

  ちょっと驚いたというか、もっと警戒心を強めないといけないな」


 「確かにそうだね。 悪いことをしようとする奴らは、僕たちの想像以上にいるのかな」


 ウォルフとジャンがそんなことを話しているけど、僕も2人の言うことに同意だ。 あんな簡単な罠に引っ掛かるとも思っていなかったのだけど。


 僕らは作業基地を作るかどうかも含めて、城下村でそんな話をしていたのだけど、どうやら今回の罠に掛かった無法者のことが、領主様たちにも知られてしまったようで、呼び出されてしまった。

 うん、まあ知られない訳はないよな。 新人たちが一斉にダウンしたら、その原因が何だったのかなんてのは調べられるだろうし。 そうしたら今回の件が耳に入らない訳がない。


 「お前たち、何があったか、しっかりと説明しろ」


 領主様の命令に、3人の中で僕が主に答えることになってしまったのは仕方ないのかな。


 「建造中の壁の、とりあえずほぼ形が出来上がった部分で、主にモンスターや獣の類が掛かるかなと思っていた罠に、どうも無法者たちが掛かってしまったみたいなんです。 その経験値で一気に新人たちがみんなレベルアップして、レベルアップに慣れていないから、ダウンしてしまったという訳です」


 「新人の子たちがダウンした理由に関しては了解した。

  しかし、その原因となった罠に掛かった無法者たちという話をもう少し詳しくしろ」


 「詳しくと言われても、そんなことだろうと思うというだけで、それ以上の報告が出来る訳じゃないんだけど」


 「僕らが見た時には、もう既にかなりスライムに溶かされてしまっていて、それ以上のことは分からないのというが、本当のところなんです。

  僕らはその半分以上溶かされた死体と、壁と堀の壊れている部分を見て、こんなことだろうと想像したというだけなんです。

  絶対にそれが本当のことかと問われれば、絶対とまで言い切る自信はないのですけど、たぶんそんな所じゃないかなと思います」


 僕だけじゃなくて、ウォルフも答えてくれて、ジャンも頷いている。

 この点に関しても領主様だけじゃなくて、周りの人も了解してくれたみたいだ。


 「それで、その無法者だと思われる死体はどうしたんだい?」


 文官さんの1人が僕たちに問いかけた。


 「そのままです。

  スライムが群がっていましたから、面倒だし、ちょっと怖かったので、そのままに放置しました。

  たぶん、もう何も残ってないと思います」


 今度はジャンが答えてくれた。 自分だけ黙っているのは悪いと思ってくれたみたいだ。


 「ま、それは仕方ないだろう。 俺だって、スライムが群がって、半分もう溶かしてしまっているような死体を、そのスライムの群れの中から取り出すようなことは嫌だからな」


 「必要があれば、私はやりますよ」


 「いや、よっぽどのことがなければやらないだろ。 少なくとも俺は、単なる無法者のためにそんな仕事はしたくはないな。 いや、しない」


 領主様が、「仕方ない」「自分も嫌だ」と言ったら、取り巻きの中のいかにも武官という感じの1人が、「自分ならやる」と言ったが、他の人にすぐに反論された。 どちらも真剣な調子ではない。 軽い冗談口なのだろう。 領主様とその取り巻きの人たちとの、仲の良さが分かるね。


 「それはまあともかくとして、これはきちんと対処しなければいけませんね」


 いつもの文官さん、もう名前も何度も聞いているのだけど、つい文官さんと呼んでしまう。 ま、その文官さんが、そんなことを言った。


 「そうだな、警戒レベルを上げる必要があるだろうな」


 ついさっきとは全く違う真剣な声で、武官のような人も文官さんに賛成した。


 僕たち3人は、何だか話が大事になってきて、ちょっと驚いた。 僕の感覚としては、バカな無法者が、まだモンスターも普通の獣も引っかかっていない罠に、一番最初に引っ掛かっちゃったよ、というものだったのだ。 その引っ掛かった姿はちょっとグロかったけど、領主様たちが真剣に話し合うような事とは思っていなかった。


 「それでナリート、お前たちは新道側の壁を伸ばす為に、途中に作業基地を作って、そうして今後の工事を進めようと考えているんだな」


 「はい、そうです」


 「と、なると、作業基地を作るのは、この辺りですか?」


 いつの間にか文官さんが、エレナたちが作った、たぶんこの世界ではかなり正確な地図を持って来て、みんなの前に広げて質問してきた。


 「はい、そのとおりです」


 僕とウォルフとジャンは、文官さんの示す場所を確認して、3人で目で会話して、ウォルフが答えた。


 「だとすると、この場にはほぼいつも誰かしらが居ることになるので、ナリートくんたちの索敵能力を考えると、そうなるとこちら側からの侵入はかなり難しくなりますね」


 「とすると、もしかすると今回の事で壁を越えるのは懲りた連中は、反対側に回る公算が大きいな」


 「反対側に回ると、単なる野盗だったら、獲物がいなかったり、遠くなったりで、旨みがないけどな。 それ以外の者なら、人目がほぼ無いから、関所でのこっちの領に入る審査が厳しくなった今は、利点が大きいか」


 ああ、そういうことか。 僕たちが関所の機能強化を考え始めた時は、他領からのスパイのような不審人物を入れないことを主目的に考えていたのだけど、エレナたちが商隊を襲う野盗を撃退してからは、意識が、そういうことをする者を入れないに、取り代わってしまっていたようだ。

 領主様たちは、全くそんなことはないのだろう。


 こういうところ、やっぱり僕たちはまだまだ子どもなのか、それとも経験が足りてないからなのかな。


 「それでは、とりあえず出来る事として、こっちの新道側は良いから、反対側の騎士や衛士による巡回を増やせ。

  そのくらいしか打てる手はないだろう」


 「そうですね。

  孤児院を出て、この村に来た新人たちは、壁と堀作りで厳しく鍛えられているのですから、それよりも年上の新たな衛士や騎士見習いたちが、厳しい任務で鍛えられても文句は出ないでしょう」


 領主様の言葉に文官さんが応えると、騎士見習いや衛士たちを直接監督する立場になるのであろう武官のような人が苦笑している。


 「それからお前たち、作業基地を作ったら、そこに交代で新人たちを泊まらせるつもりなのであろう。 その時には必ず、お前たち歳上の者何人かも泊まるようにするのだぞ。

  お前たちに関しては、まあ余程のことがないと対処出来ないなんてことはないだろうが、新人たちではそんな訳にはいかないだろうからな。

  お前たちも無謀なことをするんじゃないぞ」


 領主様からは、指示だけじゃなくて注意も受けてしまった。

 僕らは、単純にレベルではもう他のほとんどの大人よりも上になってしまっている。 僕なんて、きっと領主様の次にレベルが高いんじゃないかと思う。 知っている限りでは僕より上は、この地では領主様と院長先生しかいない。

 僕はみんなよりも少しだけレベルが高いけど、他のみんなも似たり寄ったりで、他の人たちと比べるとレベルが高いのは、ひとえに大蟻の討伐を引き受けていたからだと思う。 大蟻の討伐を危険なく出来るのは、その方法を発見して、それが出来るだけの魔法が使える僕らに限られていたからだ。 そして大量の経験値が得られる女王蟻の討伐のタイミングは、みんなで順番に分け合ったからね。


 でも、レベルが上だからといって、何も強いという訳でもない。

 剣だって、槍だって、弓だって、そして魔法だって、それぞれの[職業]によって上達速度の違いなんてのもあるけど、結局は練習とか訓練とかの努力をしないと上手くはならない。

 それに投石器で石を投げるのと、弓で矢を射るのと、どちらが強いかというと、そんなの時と場合による。 僕は弓ならば、ウォルフとエレナの次くらいの腕が今ではあると思っているけど、投石器で石を投げるのは、多くの歳下の子たちに負けるんじゃないかと思う。 そっちはあまりやってないんだよな。

 特に、新作の専用の弾の投石器なんて、考案者の僕よりもフランソワちゃんの方がよほど上手い。

 それよりも何よりも、僕は今でも寄生虫の除去はできないけど、フランソワちゃんはシスターの称号も得たからなのか知らないけど、しっかり出来るんだよな。


 えーと、何が言いたいのかというと、つまり無法者が襲ってきたりした場合、きっと可能性としては僕らはその多くよりもレベルは上だろうけど、決して油断できることではないということだ。

 僕らが、城下村を盗賊から守るために、罠を仕掛けて戦った時は、まだ僕らの多くは盗賊よりもレベルが低かった。 それでも盗賊が僕らの罠に引っ掛かったこともあり、僕らは盗賊に完勝した。

 そういうこともあるのだ。 油断なんて出来る訳がない。 領主様は、僕らを当然心配してくれているのだ。



 「反対方向はとりあえず俺らではなくて、騎士見習いや衛士の巡回に任せることになったな。

  俺たちは、今はとにかく壁と堀を伸ばしていくことに専念するべきだ。 植林の方も進めていかなくちゃいけないけど、壁と堀だって今作っているのは、まだ簡易的な簡単な物だ。 ナリートが最初に計画していたように、コンクリートで表面を固めるなんてことはしてないしな。 高さも足りないだろ」


 ウォルフの言うとおりだ。

 僕たちはどうも、何でも自分たちでやらなければいけないと思っている部分があって、他の人を頼ったり、任せようなんていう風に考えることがない。 でも僕らの出来ることなんて当然限られている訳で、他の人を頼る部分もたくさんあるはずなんだ。

 そういうことを僕らは、特に僕は忘れてしまうことが多いと感じた。 反省しなくちゃ。


 とにかく今は僕は壁と堀作り、そして索敵を頑張ろう。


新たに、「気がつけばラミアに(なろう訂正版)」の連載を始めました。


R18指定でミッドナイトで連載している「気がつけばラミアに」を、全年齢対象に書き直しています。

ストーリー上、どうしても外せない残酷シーンがあるので、残念ながらR15は外せませんが。


時間に余裕のある方は、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。

なお、R18版を既に読んでいる方も、またストーリーを振り返ったり、違っているところを見つけに、読んでいただけたら、すごく嬉しいです。

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