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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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意外なことに

 とりあえず僕たちは、今は新道周りの警戒と、壁作りをしている。


 エレナたちに鍛冶屋さんたちの護衛を頼む必要があったので、新道で商隊を襲おうとする無法者たちを警戒する人手がなくなり、その代わりを僕たちが務めなければならなくなったのだ。

 僕たちというのは、僕とジャンとウォルフ、それにどうしても加わると言ってきたルーミエとフランソワちゃんだ。 僕とジャンは、まあそこは当然なのだけど、ウォルフが加わっているのは、関所からまずこちら側に伸ばそうとしている壁作りは、そんなに難しいことをしている訳ではないので、ずっとウォルフが監督として張り付いていなければならないということはないからだ。


 「ウィリーも加わりたかったみたいだけど、ま、仕方ないな」


 ほぼ初期メンバーで見回りという感じだったからか、それとも今の仕事が辛いからか、ウィリーも僕らに加わりたがったのだけど、マイアに即座に却下された。 マイアの仕事の代わりを務められるのはウィリーしかいない。 頑張れ。

 ウォルフはエレナと別行動だけど、そこは気にしていないらしくて、単純にウィリーに同情している。


 一番張り切っているのはフランソワちゃんだ。 僕らは前に狩のために出歩いていた時と馬に乗っていること以外は大差ないのだけど、フランソワちゃんはその頃、狩には同行していなかったから、自分もそれに加わることに少し興奮しているのだ。

 そう無法者を警戒しての巡回は、狩も兼ねている。 新道の商隊を襲うのは何も人間だけに限る訳ではない。 スライムと一角兎程度は道の両側の壁で防げるけど、平原狼や大猪となると、道の両側の壁程度では防げない。 かと言って、平原狼や大猪まで防ぐことが出来るような高さと頑丈さを備えた壁を、新道全線に作るのは無理があるし、道としての使い勝手が悪くなり過ぎる。

 それで僕らは、そういったモンスターを見かける毎に狩って、その脅威を排除しているのだ。 無法者つまり盗賊とか強盗の類との遭遇戰なんて滅多に起こらないだろうけど、こっちはかなり出会す。


 僕たちの装備としては、基本は今まで通り、ウォルフと僕、それにルーミエも弓で、長距離攻撃を担当する。 近づいた敵にはジャンが槍で当たるが、それに僕も槍、ウォルフは剣で加わるという形が多い。 近付かれるとルーミエも槍を構えて、やる気まんまんなのだけど、流石に接近戦に女の子を加えるのは気が引けるので、後ろに回ってもらっている。 フランソワちゃんを守る都合もあるからね。

 ルーミエは王都の帰りに襲われて以来、バリアの魔法を戦闘にも使うようになって、守りが堅い。


 こう書いているとフランソワちゃんは単なるお荷物の様だが、実際は今現在一番活躍しているのはフランソワちゃんだ。

 フランソワちゃんには、新たに試作した武器の試用をお願いしている。 基本的には投石器の応用なのだが、投げる物を石では無く、少し大型の鏃のような物にした武器だ。

 フランソワちゃんは最初、自分は投石器と難色を示したが、使ってみると、その使用に嵌った。 普通の投石と比べると、有効射程も精度も、そして威力もずっと上だったからだ。


 普通の投石器と違って、専用の弾を器具の先にセットして投げる形なので、一投毎の準備に時間がかかることが問題点ではあるけれど、その威力は考案して作った僕が驚くほどだった。 フランソワちゃんは、近くの軽い的当てから始めて、すぐに兎を狩った。 そして平原狼を一発で仕留めるようになった。

 ここまでは僕も予想していたのだけど、フランソワちゃんは、というかこの新兵器の威力は予想を超えていた。 なんとフランソワちゃんは、突進して来る大猪の頭を一発で撃ち抜き、仕留めて見せたのだ。 大猪は毛が堅いし、皮も丈夫で弓で射てもそうそう刺さらないし、致命傷を与えることもできない。 中でも頭は硬くて、矢がまともに刺さることもない。 普通なら、囮役が引きつけて、何らかの罠にかける。 僕らの場合は、僕が囮になって引きつけて、魔法で熱い湯を大猪の頭にぶつける、それで怯んだ隙にジャンが横から槍で仕留める。 ジャンでもたまに仕留め損なうので、その時は2撃目としてウォルフが剣を振うことになる。 本来はウィリーがその役だけど。

 それなのに向かってくる大猪に向かって、フランソワちゃんが力一杯投げると、弾は大猪の堅い頭の骨を突き破り、大猪を仕留めてしまったのだ。

 これには僕らはみんな呆気に取られてしまった。 大猪が大物だったので、運搬に困って、結局ウォルフが台車と運搬のための人員を呼びに行ってくれた。 自分でも予想外の活躍に興奮したフランソワちゃんのお守りから逃げた気がしたのは僕だけだろうか。


 この新兵器にはもう一つ利点があって、矢の場合はかなりの高確率で一度使うと軸が折れてしまったりして、回収してもそのまま使えないことが多いのだが、これの弾はそんなことはほとんどない。 的を外して、どこに行ってしまったか分からなくなることはあるけど、そうでなければ獲物から取り出して洗浄すれば、そのまま再使用に耐えるのだ。 軸や羽根がない分、携帯性も上だし、これは武器としてはかなりの利点となる。 ま、普通の投石器は投げるのはそこら辺に転がっている石だから、この点ではもっと有利なんだけど。


 ということでモンスターの狩に関して一番活躍しているのはフランソワちゃんなのである。


 「何だか私が一番何の役にもたっていない」

 「いや、ルーミエ、それを言ったら僕も役に立ってない」

 「俺も何もしていないぞ」


 ルーミエ、ジャン、そしてウォルフがそんなことを言っている。


 「それを言うなら、僕も何もしていない。 僕やウォルフは、わざわざ矢をダメにしたくはないから」


 ルーミエは僕とウォルフより流石に射程が短いから、弓を射るのは僕ら2人よりも後だから、僕らが射ないのに射る訳がない。 ジャンは基本弓は使わないから、余計に出る幕がない。


 「ナリートはそれでも索敵をしているからな。 俺らの中でその距離が最も広いからな」


 「いや、索敵は全員ちゃんとしようよ。 僕だって見落としと言うか、気づかない敵がいるかも知れないじゃないか」


 ま、僕の場合は索敵というか、空間認識レベルが上がって、少し意識していれば見落とすことはないのだけどね。 だからと言って、他の人が索敵をサボったり、その能力の強化に励まなくても良い訳ではない。


 「私もフランソワちゃんみたいに、新しい投石器の練習しようかな」

 「僕もそうしようかな。 このままだと本当にただ一緒に歩いているだけになっちゃいそうだ」


 結局、僕たちは全員が新兵器の練習をすることになった。

 その事自体は、僕の中では予定通りの行動だったのだけど、予想以上にフランソワちゃんが上機嫌だ。 新型の投石器の使い方を教えるのは、もちろんフランソワちゃんな訳で、フランソワちゃんは自分が僕らに、特に僕とルーミエに教える立場というのが凄く嬉しいらしかった。 考えてみると、フランソワちゃんに物を教わるのは随分と久しぶりな気がする。



 さて、僕たちももちろん新道周りの巡回をしているだけじゃない。 半分は関所から伸ばしている壁作りへの参加だ。


 ウォルフとジャンは純粋に壁作りの監督をしているのだが、ルーミエとフランソワちゃんは違う。

 ルーミエとフランソワちゃんは正式にシスターとして登録されてはいるけれど、[職業]シスターという訳では無いからか、シスターの特殊技能である「真偽の耳」という技能は使えない。 それだから関所で働いているシスターの替わりをすることは出来ない。 そこで2人は主に怪我人の治療をしている。

 壁作りは、僕らにとっては慣れたモノの土魔法を使っての作業ではあるのだけど、土を掘って、盛って、突き固めるということが主体の結局は肉体労働だ。 そんな作業をしていると、やはりちょっとした怪我は絶えないのだ。 それを2人は治療している。

 それに加えて、関所を通る旅人も小さな怪我や体の軽い不調を訴える人は少なく無いので、そういう人の治療にも当たっている。


 これらは単純に2人が治療しているだけで無くて、その機会を利用して、新人たちに魔法も教えている。 治癒系の魔法も、ヒールをはじめとして、シスターなどの元からそれらの魔法に適した職業の人で無くても覚えることが出来るからである。 僕らはみんなヒールは使えるし、フランソワちゃんなんて僕以上にイクストラクトが上手いからね。 そのフランソワちゃんの[職業]は単なる村人だ。 [称号]には中級シスターなんてのもあるけどね。 つまりはそういうことだ。 [職業]によって、どうにもならない事もないことはないけど、ほとんどのことは自分の努力でどうにかなるのだ。

 フランソワちゃんは、それを一番体現している様な気がする。 村長さんの家のお嬢さんだったはずなのだけど、自分の努力で今を作ったのだ。


 僕やルーミエは、そんなフランソワちゃんや領主様と比べると、ちょっと特殊な[職業]の影響が大きいんじゃないかと思うんだよな。


 残りの僕が何をしているかというと、新人たちに完全に混ざって工事の作業をしている。 もちろんそこには意図がある。

 今回の堀と土壁は、領外から不法者が入ってこれないようにすることが一番の目的だ。そこで空堀の中に竹槍を設置し、壁の最上部にも斜めに竹槍が突き出ていて威嚇する形になっている。


 もう少し詳しく説明すると、空堀の中の竹槍は単純に竹槍が並べて設置されている訳ではなくて、一本毎に四角錐を逆さにした形に土を掘って、その一番深い先から槍が出ている形に作ってある。 何故かと言えば、そうすることで歩行が困難になり、通り抜けるのがより困難になるからだ。

 壁の最上部に斜めに取り付けられた竹槍も少し工夫されていて、こちらは力をかけるとすぐに抜けてしまうようにしてある。 その竹槍に縄を巻き付けて壁を登ろうとしたり、手をかけて登ったりは出来ないようにする為だ。


 基本的には侵入者避けの設備ではあるのだけど、僕はそれに掛かるとしたら、平原狼や大猪といったモンスターか普通の獣ではないかと思う。 でも、掛かったとしたら、その経験値は活用しないと勿体無いと思うのだ。 僕らにとってはもう、大猪や平原狼が掛かっても、その経験値くらいは大したことは無くて、レベルに反映することなんてまずないだろうけど、新人たちは違う。 1匹2匹でも掛かれば、その経験値はきっと役に立つだろう。

 それらの設備を罠として、みんなに経験値が齎されるようにするには、僕がそれらの設置に関わらないといけないのだ。


 工事の主力の新人君たちに、僕はとても不評だ。

 魔法を使って土を柔らかくして、掘った土を盛って、叩いて固めて塀というか、壁を作っていく作業に、堀の底に面倒な細工という仕事を付け加えた訳だから、不満に思うのは仕方ない。 そして自分たちを直接指導監督してきたウォルフやジャンが、僕の指示に従って、その追加の工事をすることに、全く反対することなく同意したことも不満の種になっているのだろう。

 ま、彼らにしてみれば面倒が増やされただけで、何のメリットも感じられないのだろうから仕方ない。 ウォルフやジャンは、僕が考えてやることだから何かしらの意味があるのだろう、いやそれだけではなく、表面的な対人の脅し的な意味だけでも、その細工に意味があると考えているのかも知れない。

 スライムの罠とは違って、こんな小細工をしても、それが経験値になるかどうかも分からないから、新人たちにメリットをきちんと説けないんだよなぁ。


 それでも工事は結構良いペースで行われている。

 壁のこちら側には、糸クモさんの餌になる木を植林する計画だったのだが、その計画が少し変更になった。


 元々は、壁の外側となる土地に植林するのと同じように、内側というかこちら側の木も、苗木を植えるつもりだった。 糸クモさんの餌になる木は、もうかなり前から増やすことを始めているので、苗木もかなり育てている。

 ただ苗木を植えて、目的である大きくなった糸クモさんに住んでもらえる大きさになるには時間が掛かる。 それは仕方のないことと考えていたのだけど、アリーから計画の変更を持ちかけられたのだ。


 今は前から比べるとずっと多くの糸クモさんを城下村では飼育しているのだけど、基本的にその糸を、布にする細さの糸を採る間は、糸クモさんには人間が採取した葉を与えることになる。 その葉を採取する木が大きくなると、葉が取りにくくなるので、なるべく小さいままなるように木を育てているのだけど、やはりずっとというのは無理があるらしい。

 木を無理矢理小さいままにしておこうとしても、出る葉が固くなったり、木に勢いがなくなったりしてしまうらしい。 そこである程度は、どうしても少しづつ木を大きくしていかないと上手くないということだ。


 で、アリーの提案は、その少し大きくなってしまった木を移植できないか、ということだった。 移植できたら、空いた場所に新たに苗木を植えれば、葉の採取が楽になるだけでなく、若く柔らかい葉を小さい糸クモさんに与えることが出来る、とのことだ。


 移植自体は試してみたら、少し大変だけど、出来ない事もない。 掘り上げることは、魔法で土を柔らかくすることの出来る僕らには、そう困難なことではなかった。 もちろん根の広がりと深さが苗木とは違うし、持ち上げるのに工夫しなければならなかったりとかの困難はある。 でも一番の困難は、植える壁近くまで持っていくことだった。 苗木を持って行くのとは重量も違うし、台車への乗せたり降ろしたりも工夫が必要だった。

 でも、ある程度大きくなった木を移植するのは、村の方にとっても、壁の方にとってもメリットがあるので、糸クモさんの木を植えるのは、この方式が取られることになった。 思っていたより、どうやら壁の内側の糸クモさんのための林は早く出来そうだ。


 反対に、普通の木での植林を考えている外側は、難航している。

 西の村でロベルトが用意してくれている苗木は、まだ苗木として移植できるほどは育っていないので、鍛冶屋さんたちとエレナたちの探索結果次第なのだけど、その成果があまり上がっていないのだ。

 元々、領内に森林が少なくて問題になっていたのだし、西の村の近くの山を植林する時に、既に目ぼしい場所は探索済みなので、なかなか見つからないのは仕方ない。

 領外からの購入を考えるべきかなぁ。 そんな予算あるのかな?



 関所の位置から伸ばしていっている工事区域が、関所からかなり離れてしまい。 僕たちはあまりに効率が悪いので、新道の途中から仮設の道を作って、作業基地のような場所を作ろうかと相談していた。

 そんな時に、新人たちが一気にみんな具合が悪くなるという事態が起こった。


 「これはあれだな。 仕方がないな、慣れるまで休ませよう」


 ウォルフが落ち着いた調子で、具体的な対処を提案した。 ま、それしかないよね。 新人たちは初めてのことで何が起こったか良く分からず困惑しているけど、僕らには良く知っている事態だからね。 一気にレベルアップしたことに、体が慣れないだけのことだ。


 「でも、これだけ多くが一気にレベルアップしたということは、何が掛かったんだろう? 見にいってみない?」


 ジャンが、そう言って僕らを誘った。 さすがにジャンやウォルフまで調子が悪くなるということはなかったみたいだ。 それはそうだ、新人たちとはレベルが大きく違う。


 「バカな大猪が掛かったか、それとも平原狼が群れで突入してしまったかな」


 ウォルフが予想している。 ということは、行く気だな。



 「これは、予想外だったな」


 掛かっていたのは、モンスターや普通の獣ではなくて、人間だった。

 壁がある程度伸びたので、僕らの警戒周回は壁のない場所に近い方を重点的にしていたからだろうか、敢えて裏をかいて、壁を越えるという選択をした無法者たちがいたようだ。 そいつらが罠に嵌って、それも数人が死んでいた。


 細かいことは、はっきりしない。

 何故なら、その死んだ無法者にスライムが取り付いて、もうあまり原型を留めていない状態にまで溶かしてしまっていたからだ。


 うーん、後で嫌がらせにここの堀にはスライムが増えるようになれば良いな、なんて考えてはいた。 でも、関所の辺りではスライムを見なかったので、どこかからスライムを調達して放さないとダメかな、なんて考えていた。

 いや、スライム、やっぱりいるじゃん、ここにも。


 それにしても、こんな光景を見ると、やっぱりスライムって怖っ!!!


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