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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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久しぶりの西の村

 関所に、ちょっと予定していなかった物資である竹を、この城下村だけでなくて他からも集めて持って行く仕事をウォルフにお願いして、僕はジャンと2人で西の村に向かった。 なんだかジャンと2人でというのは久しぶりだ。 前は良く2人で行動したけど、最近は互いに多くの人に囲まれていることが多いので、2人でとはなかなかならない。 僕に、ルーミエやフランソワちゃんが同行することが多いのあるけど、ジャンはアリーと一緒に行動することは少ない。 アリーが糸クモさんの仕事、いや布全体の仕事が忙しいからだ。 なんといっても布を作る仕事は、この領にとって一番大きな収入源だからね。


 僕たち2人は西の村に向かってゆっくりと進んで行った。 ゆっくりと言っても、前とは違って2人とも馬に乗って進んでいるので、歩くのと比べるとずっと速い。 重い荷馬車や、畑を耕している農耕馬なら、人が歩く速度とそんなに変わらないのだけど、僕らが乗っているのは一応人が乗って走らせることを前提とした馬だ。 何しろ僕の立場は良く分からない立場になっているけど、ジャンの公式の立場は騎士だからね。 馬に乗るのは当然なんだ。


 「僕はあまり西の村には関わらなかったのだけど、随分と変わったよね。

  結局ロベルトは西の村に行ったきりになっちゃって、今は公式に西の村の代官だっけ」


 「そうなんだよな。 とりあえずのはずだったんだけど、結局ロベルトはずっとあっちだもんな。

  それに西の村の孤児院の院長というか、西の村の教会関係の代表はミランダさんだし、マーガレットもこっちに来ちゃってるし」


 僕とジャンは、そんなことを話しながら西の村に向かっている。 ロベルトが西の村の代官になってしまって城下村を離れてしまったから、ロベルトがしていた仕事の代わりを誰がするかで大変だったんだ。 最初は仕方なしにジャンが受け持っていたけど、最近になってやっと下の者に任せることが出来るようになった。 でも、やっていたこと全てという訳ではなくて、水路のメンテは誰、織り機作りは誰と誰という風に、仕事をもっと細分化してだけど。 何気に目立ってなかったけど、ロベルトは有能だったということだよね。


 「で、今回は鍛冶屋の親方に、植林を頼みに行くんだよね。

  鍛冶屋の取りまとめをしている親方って、今はキイロさんの親方だった人だよね。 それなら町にいるんじゃないの?」


 「あれっ、ジャンは知らなかった。 親方さん、今は半分は西の村に来ているらしいよ。 それにさ、植林の取りまとめは西の村の鍛冶屋さんが主体になっているそうだよ。

  一番最初に植林することになったのは、西の村の近くの山だかららしいけど」


 鉄を得る為の高炉を稼働させるためには、高温にするのに魔法を使っているとはいっても、原材料として木炭が必要だ。 僕らの領内は、たぶんスライムや一角兎のせいじゃないかと思うのだけど、極端に木が少なくて、材料となる炭をほとんど作れない。 だから今までは鉄を作ることが出来なくて、鉄は全部他領から買っていた。

 鉄のインゴットは、当然だけど作るのに手間もお金もかかっているし、重いので輸送費も高い。 その上、武器の元となる戦略物質でもあるので、簡単には多く売ってはもらえない。 つまり、かなり値段が高いのだ。 そんな訳で、ま、鉄に限らず金属全般なんだけど、僕らの領では、木だけじゃなくて金属類もとても不足していた。

 僕らが鉄自体は、僕らの領にもあって、その精錬も魔法を利用すれば、かなり木炭を節約して出来ることを証明したら、鉄不足に常に困っていた鍛冶屋さんたちは、ま、なんと言うか、僕らの製鉄に飛びついてきた。 そこで盛り上がって、僕らが植林をしていたこともあって、自分たちでどんどん植林をするぞ、ということになった。


 ま、でも最初はその盛り上がりのまま、適当な場所に勝手に木を植えてしまったため、問題となり鍛冶屋さんたちは文官さんたちに怒られる羽目になってしまった。 うん、物事には計画性は必要だよ。

 そんなこともあった後、一番最初の植林場所に選ばれたのが、西の町の枯れかけた川の水源だったと思われる山というか丘だ。 木が伐られて無くなってしまった結果として、スライムは少なくなったけど、一角兎は爆発的に増えて、ほぼ荒地となってしまっていた場所だ。 そこに木を植えることによって、上手くいけば枯れかけた川の水量も戻るのではないかという期待もある。

 でまあ、地元ということもあって、植林の取りまとめは西の村の鍛冶屋さんとなったらしい。



 僕らが西の村に着くと、ロベルトとマーガレットが出迎えてくれた。 今の西の村は、多くの大人たちは家も畑も元の西の村にあるから、現在中心となっている新しい方の村には少なくて、以前の城下村のように若者と子どもたちが主体の村に見える。


 「なんか懐かしいような雰囲気だよね」


 ジャンがそう言うと、ロベルトと僕は同じように感じるので頷くだけだったのだけど、マーガレットは違った。


 「えっ、そうなの? 昔は城下村もこんな感じだったの?」


 マーガレットはいくらか察してか推測してか、そんな風に尋ねてきた。


 「私は王都のシスター養成校に最初は行っていたから、最初の頃の城下村は知らないから、そういう感想は持たないのだけど」


 そうだよね、マーガレットが戻ってきたのは、もうある程度城下村が発展してからだったから。


 「いやいや、城下村の最初はもっとずっと小さかった。 泉があるだけで他には何もない所に、小さな土の家を作るところから始めて、周りを開墾したんだ」


 「今から思うと楽しかったなぁ、やっている時は大変だったけど」


 「俺たちが合流した時も、まだ今のここまでにもなってなくて、しなければならないことが山積みだった。

  でも、なんて言うか、毎日成果が見える感じで、やっぱり俺も楽しかったな」


 「で、ロベルトはその楽しさが忘れられなくて、今では西の村の代官になっている訳?」


 「いやまあ、こっちに来て、今現在楽しいのは本当だけど、それだけという訳でもないよ。 俺は歳はお前たち2人より一つ上だけど、能力的にはお前たちや、ウォルフとウィリーなんかには敵わないから。

  そもそも、最初からのメンバーじゃなくて、2番目のメンバーだし。 同じ2番目のメンバーでも能力もあってウィリーと暮らしているマイアとも立場が違うし、エレナの同期の女の子とも違う。 なんて言うか、ちょっと浮いている感じが自分でもしたんだよなぁ」


 「いやいや、ロベルトは城下村で色々な役をしていたじゃん。 ロベルトが西の村の代官になって、城下村の仕事から離れたおかげで僕がどれほど苦労したと思っているのさ。

  そんなロベルトが浮いていた訳ないじゃん」


 ロベルトの言葉にジャンが反論したけど、ロベルトの言っていることも僕は分かるような気もするんだよな。 仕事の上では確かにそうなんだけどさ。 ジャンはロベルトが抜けた影響を最も受けちゃたからなぁ。


 「私はロベルトの言うこと分かるよ。 私も後から城下村に行ったからか、そういう感じを受けちゃったもん。

  だけど、ロベルトはまだ自分の仕事はしっかりと持っていて良かったけど、私なんて自分の受け持つ仕事も無かったんだよ。 いや、仕事が無くはなくて、もちろん日々の仕事はあったのだけど、もう私が特別に担当するというような仕事は無くてという意味だけど。

  もちろんそれは後から行ったから仕方ないことなのだけど、学校で一緒していた、ま、ナリートはともかく、ルーミエやフランソワちゃんが色々と担当してバリバリ先頭に立って仕事しているのに、私はそんな風な仕事の仕方はしていない。 やっぱり、ちょっと考えちゃうよ」


 なるほど確かにそうかも知れない。 今まで忙し過ぎて、周りの人がどんな風に感じているか、考えているかなんて、全く考えてこなかったかもしれない。 幾らかは考える時もあった気もするけど、すぐに頭の中で脇に退けてしまっていたかも知れない。


 「シスター・ミランダも、そうだったと思うのよね。

  自分が任されている仕事は、トップにシスター・カトリーヌが居れば他の人でも用は済むのではないかって。 それならば自分は違う場所で、自分の出来ることをしようと。

  それなら私は、そんなシスター・ミランダを手伝おうと思って、一緒にここに来たのだけど、来てみたら割と忙しくて、キイロさんが城下村に戻ってからはロベルトが1人で奮闘していて、それでまあ仕方ないから手伝っていたら、なんとなくこうなっちゃったし」


 マーガレットの話は、最後の方はなんだか惚気話になってしまった。

 そう、いつの間にかマーガレットはロベルトと一緒に暮らし始めていたのだ。 まあ、なんだかんだ言っても2人とも今が幸せならそれで良いのだけど。 僕もジャンも、元孤児としては、そういった面では求める最高の幸せを得ているから、同じように何も文句はない。 ウィリーとマイアの間には、もうすぐ子どもが生まれるし。


 なんだかちょっとした近況報告が少しズレて行ったけど、マーガレットの最後の惚気話で落ち着いて、僕らはさっそく、西の町の鍛冶屋さんの家に向かった。 長々と無駄話している時間はないからね。

 僕とジャンは現在の植林の様子から話を聞いた。


 「当初私たちが考えていたよりも植林というのは大変で、やっとそのやり方が分かってきて、今現在は西の村の山の植林がやっと終わったところです。

  ま、私たちは植林だけをしている訳にはいかないので、より時間が掛かったのですけど、それよりもやり方が分かっていなかったことの方が大きいですね」


 どうやら鉄の精製が出来て、この地でも地金が自分たちの手で手に入ることにテンションが上がって始めた植林だけど、適当な場所に最初植えてしまった以外にも、たくさんの試行錯誤があったみたいだ。


 「何しろ、植林をすると言っても、苗木を用意することから始まって、こんなに大変だとは思っていませんでしたからね」


 マーガレットが口を挟んだ。


 「西の村では、普通の作物だけじゃなくて、苗木を育てることも始めたんだよ。 西の村自体は人が減ってしまったけど、元の村の分の畑でも、きちんと水さえまかなえれば、村人たちの自給は十分出来るから、他の換金性の高い物を育てることも考えたけど、これからの領全体のことも考えて、植林するための苗木も育てることにしたのよ」


 「ま、ドングリを発芽させることからしてるから、苗木として移植できるのはまだまだ先だけどな。 でもどんどん準備しておかないと、苗木が無くて植林が出来ないということになってしまうから」


 マーガレットの自慢げな言葉に、ロベルトが現状の問題点と、将来的な見通しを付け加えた。 全くその通りなんだけど、僕らが今まで見落としていたというか、気がまわっていなかったことだ。 うん、こういう事前の準備というようなことにまで気がまわっていないのが、僕らの本当にダメな点だ。 マイアには指摘されて怒られるけど、ロベルトはフォローに回ってくれる。 やっぱりロベルトたちも西の村の代官じゃなくて、違う立場で、なんて甘いことをつい考えてしまう。


 「ま、そう言った訳で、今のところは植林をするためには、森の中でそのままにしておくと枯れてしまうような小さな木を探して移植しなければなりません。 森の中に入って探すとなると、私たちだけでは安全に問題があって、ちょっと前まではエレナさんたちに同行してもらったりしてたんですよ」


 へぇ、そうなんだ。 エレナと子分たちの狩猟組が少し前忙しくしていたのは、そんなこともしていたからなのか。 知らなかった。 あ、ジャンも僕と同じ顔をしているから知らなかったな。


 「それじゃあ、またエレナたちにも頼む必要があるね」


 ジャンがそう簡単に言ったけど、だとすると関連して問題が出るよなぁ。


 「それに山に植える時になったら、その時も斜面に土留めをしたり、スライム避けの囲いを作ったりで、土魔法の必要性が出てきて、それも私たちは上手く出来なくて、ロベルトくんたちに手伝ってもらうことになったんですよ」


 「あ、それは下の子たちにとっては良い魔法の練習にもなりましたし、全然構いませんよ。

  それに鍛冶屋の皆さんも、土魔法はだんだん慣れて上手になりましたよね。 元々、メルトの火魔法なんかを使い慣れていて魔力量がありますから、慣れれば若い子たちよりも使えますよね」


 「ま、そうなんですけど、そのまあ土魔法を今更使えるようになったことが、鍛冶屋たちはちょっと自慢になっていて、余計に植林はもっとやりたいと思っているみたいなんですよ。

  ですから、領主様からの仕事として、関所付近の植林も委託されるとしたら、喜んで引き受けることになると思いますよ。 ちょうどそろそ西の村の山の植林はある程度終わりましたから」


 僕とジャンが今回西の村まで来た目的は、割と簡単に達成出来たようだ。


 「あのね、ナリート。 最近は枯れかけていた元の村の井戸が、少し復活してきたんだよ。

  植林する木のための土留めとか、スライム避けで植えた木の周りを囲んだりしたら、雨が降るとそこに今までと違って水が一時的に溜まるじゃん。 それで雨水が一気に流れてしまうことが無くなったからか、枯れなくなってきたんだよ」


 「それと今までよりも、スライムと兎が少なくなったからか、前よりも草も増えたこともあるかも知れない。 山は前は禿げて茶色や灰色っぽく見えたけど、今では緑に見えるようになったから」


 マーガレットとロベルトが嬉しそうに報告してくれた。 うん、僕らも西の村の周りは緑色が増えたのはすぐに気づいたよ。 草が増えれば、堆肥作りも捗り、畑ももっと良くなるはず。 ロベルトとマーガレットも、もちろんそんなことも考えているのだろう。



 城下村への帰り道、僕は少し複雑な気持ちで馬に乗っていた。


 西の村に行った目的、鍛冶屋さんたちに関所の周りの植林を手伝ってもらう件は簡単に話がついて、達成することが出来た。

 だけど、それをしてもらうには、下準備として、当たり前だけど苗木を手に入れなければならなくて、現状では森や林に入って行って、自然に生えている小さな木を探してくる必要がある。

 その作業も鍛冶屋さんたちがしてくれるそうだけど、護衛が必要で、その護衛はエレナと子分たちにしてもらうことになるだろう。 そうなると今している、新たな道の本ルートの探索作業は一旦諦める必要がある。

 それだけではない、現状はその作業前にエレナたちが行う索敵が、今の城下村から関所まで直通の道付近に潜む不審者を見つけ出して、道の安全を保っている。

 と、いう事はエレナたちが、今の本来の仕事であるルート探索の前に毎日しているその行為が無くなると、道の危険が増して、また商隊が襲われる可能性がある。

 直通の道の安全性を増すことを第一の目的として考えた工事をするために、その道の今の安全性を下げてしまって、道の利用者を危険に晒すのは本末転倒だ。 エレナたちを今の仕事から一時的に外すなら、何か対策を講じないとならない。


 「なんだかロベルトとマーガレット、楽しそうにしていたね。

  城下村を作り始めた時のことを思い出しちゃったよ」


 色々考えてしまって、黙って馬に揺られていたら、ジャンにそう話しかけられた。


 そうなんだよ。 ロベルトとマーガレットだけじゃなくて、他の城下村にいた奴らもみんな、なんか楽しそうだったんだよ。

 ロベルトとマーガレットは、川の水も前より少し安定して流れているから、もう少し池を大きくして、水が無くなった時により大丈夫なようにしたい、なんて計画も楽しそうに教えてくれた。


 そうなんだよー。 そうやって少しづつ自分の居場所を発展させて行ったりするのが、本当に楽しいし幸せな気分なんだよなー。

 僕たちも城下村を作り始めた時は、同じ風に感じていたのに、なんだかいつの間にか忙しかったり、多くのことを考えるのが大変になっていたりしている。

 どうして領全体のことを考えないといけなくなっちゃったのかな。 僕は自分たちがのんびり暮らせる場所があれば、それで良かったのに。


 そんな風に考えてしまっている自分がいる。

 うーん、モヤモヤする。


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