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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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方針変更

 ルーミエはここのところ少し燻っていた。 もちろんルーミエが遊んでいた訳もなく、様々な仕事が振られていたのだけど、今までの活躍と比べると、今一つパッとしない状況だったとは言えるだろう。

 マイアの代わりの事務仕事なんていうのが最たるもので、ルーミエの今までの実績を考えれば、慣れれば十分に代役が務まると周りでは見ていたし、任せる本人のマイアも自分が出来ていたことだから、補佐役というか一緒にフランソワちゃんもやるので、ルーミエなら全く問題ないだろうと思っていたみたいだ。

 ところがやはり物事には得手不得手というのはあるもので、ルーミエはマイアがしていたような行政的な事務仕事は全く向かなかったのだ。


 それでルーミエは、その担当から外れて、新たに立ち上げる各村々に学校を作るという教育関係の事業をシスターと共に担当することになった。

 まずは各地を回って、現状の視察と根回しの話し合いということになるのだが、ルーミエは周りの者が即座に分かるくらい、生き生きと活動する様になった。

 シスターと一緒に各地を回るというのは、前にもしていたことだし、今では二人とも馬に騎乗しての移動なので、行動もとても素早いのだ。 徒歩で移動していた昔は、スライムや一角兎でも気をつけないといけない相手だったが、馬に乗っての移動となれば、そんな物は無視できる。 そもそも今では二人ともレベルが上がっているので、一角兎どころか平原狼でも脅威にならないし、察知能力も上がっているので、不意に襲われる可能性が無いので、対処に困ることがないのだ。

 颯爽と気持ち良く馬を駆けさせていくルーミエは、上機嫌そのものだ。

 能力的にはともかく、ルーミエには室内の仕事というのは、きっと向かないのだろう。 外に出て人と関わる仕事こそがルーミエの役割なのだろう。


 シスターとルーミエには、一応護衛と秘書と雑務担当を合わせた様なことをする騎士と騎士見習いが同道するのだけど、二人の速度に合わせての移動はなかなか大変なようだ。


 「普通、領主夫人と娘、それもどちらも聖女と呼ばれる様な女性が移動するとなれば、誰でも豪華な馬車で、と思うと思うんだよ。 だけど、ここでは二人ともズボンを履いて、どちらも騎乗で、俺たちより巧みに馬に乗ったりするんだよ。

  近くにモンスターがいる時には、護衛より先に気がついて注意されるし、なんか立場ないよなぁ。 まあ、ルーミエ様は銀級冒険者でもあるから、当然なのかも知れないけど。

  その上、仕事もテキパキとこなしていって、それを補佐するのも俺たちの役目だけど、完全に事務方の文官だよ俺たちは」


 仕事内容は、想像していた物とはかなり違っていたみたいだ。


 ルーミエがそっちに転進してしまった煽りをモロに受けてしまったのが、ウィリーと僕だ。

 ウィリーはマイアの代わりなのだから、それは仕方ないと思うのだが、僕まで大きく影響を受けるのは誤算だった。 もうウィリーは領政に関わる文官に完全に転進してしまえば良いのに。


 「いや、ナリート、それは違うだろう。

  そもそも領政に関わるのは、領主様の養子になったお前の方が本筋だろ。 そもそもマイアがしていた仕事だって、元はお前の仕事だったのを仕方なしに引き継いでいたことだろ」


 「いや、最初は確かにそうだったけど、でも、マイアに代わってもらった時にしていたのは、ここ城下村の村長みたいな仕事だけだよ。 それも今よりずっと狭い範囲の。 領内の政治的なことにまで、仕事の内容が広がったのは、マイアが有能だったからであって、僕のせいじゃないよ」


 ウィリーと二人で言い合っても意味ないのだけどさ。 とにかく早くマイアに復帰してもらえるようにならないと。 そのためには育児をしながらでも仕事が出来る環境が必要なのだけど、うーん、どうしよう。


 マイアの件はこれからのことだけど、ルーミエが嬉々として仕事に取り組んでいるのは良いことだ。 シスターと一緒に出掛けるというのが、性に合っているのか、以前の様で嬉しいのかも知れない。



 僕とウィリーがマイアの代わりの事務仕事の一日を終えて、疲れた顔で風呂に向かっていた時に、同様に風呂に向かっていたエレナに会った。 エレナはエレナで、なんだか浮かない顔をしている。

 エレナは前と同じで、なるべく真っ直ぐになる道のルートを探す仕事をしていて、その仕事自体は子分たちと楽しくしていたはずなのに、どうしてだろうと思った。


 「あ、ナリート、ちょうど良かった。 ちょっとどうしたら良いか、相談にのって」


 エレナから相談を持ちかけられるのは珍しいので、ウィリーも興味を持った様だ。


 「前にさ、商隊がならず者の襲撃を受けていたのを助けて、衛兵を呼んだことがあったじゃない」


 僕とウィリーは単純に知っていると頷いた。


 「あれから少し気になるので、道の探索に出るとその仕事を始める前に、狩りをする時に斥候をさせるように、子分たちを少し広範囲に索敵に出してみているのよ。 そしたらもう、引っかかるは引っかかるは、3日と空けずに変な奴がいるのよ。

  まだ何かをした訳じゃないから、とりあえず威嚇だけして追い払っているのだけど、段々一度に見つける数が増えている状態なのよね。

  それで子分たちが言うには『俺たちの存在を知って、邪魔だからまずは俺たちを排除しよう、なんて考えているんじゃないかな』だって。

  正直、私たちもそこそこレベルは上がっているし、そいつらが襲ってきても簡単には負けない自信はあるけど、それでも誰かに何かあったら嫌だし、どうしたら良いかなと考えていたのよ」


 なるほど確かに僕らはレベルが上がっていて、諸々の能力値もかなり高くなっている。 エレナとその子分たちは、狩りを主にしていたから索敵能力も高く、不意を突かれるなんてこともあまり考えられない。 だから、「簡単には負けない自信はある」という言葉になるのだろう。

 でも、道もない草と灌木がほとんどの荒地を移動して来てるのだから、その変な奴らの実力も、少なくとも鉄級ではなく銅級の冒険者程度の実力はあるのではないかと思う。 僕らは銀級でその上なんだけど、銅級となるとかなりの実力者と普通は見なされるんだよな。

 そして僕らの方が実力が上だったとしても、その実力が全てという訳じゃない。 領主様から前に注意されたけど、実力が上だって何だって、死ぬ時には死ぬし、人間としての弱点というのは、そんな実力には関わらず同じであって、悪事を働く様な者はそういったことは熟知しているのだ。

 決して軽視して良い問題ではない。


 前に襲われた商隊をエレナたちが助けた時は、エレナたちの方が予定外に戦いに加わった形だから、実力そのままにエレナたちが圧倒する形になったけど、最初からエレナたちを排除することを目的に行動されたら、どういうことになるか分からない。 もしかすると前回のことで相手はエレナたちの実力を把握し、それを回避して襲う様な計略を用いてくる可能性もあるのだ。 そういう輩の悪知恵を侮ってはならないと思う。


 エレナも、そんな可能性を考えるから、浮かない顔で相談してきたのだろう。


 「深刻な問題だな」 「そうなのよ」


 ウィリーの真剣な顔をしての言葉に、エレナは逆に気軽な感じで答えたけど、それは表面だけだろう。


 商隊の安全は、その商隊の責任なのだからと突き放してしまうことも出来るのでは、と一瞬考えたけど、それは領政に関わる身として取るべき道ではないと即座に思い直した。 商隊が自分たちの安全の為に、より強固な警護を付けることになれば、それは即座に商隊がもたらす商品の値段や、商隊の行き来する頻度に関わって来るのだ。


 「まったく何でならず者たちはこの領地で略奪をしようとするんだよ。 別にここじゃなくても構わないだろ。 この地を出てからにしてくれれば良いのに」


 ウィリーが自分たちがこんなことで苦労するのは理不尽だ、と言わんばかりに不平を言った。


 「普通は道は一番安全な場所を通っているからね。 ウチの領地を出てからは王都まで、ウチと隣の領地の間が何もない平原なのを除けば、あとは襲えるような場所はないよ。 そんな輩でも、その程度のことは分かっていると思うよ」


 僕は領主様と王都に何度か行っているので、その辺のことは実感を持って理解出来ている。 ウィリーは知識としては理解しているけど、領内から出たことはないので、そういう不平が口から出たのだろう。


 「それなら、隣の領地との間の平原でもいいじゃん」


 エレナがもっと有り得ないことを言った。


 「エレナ、馬鹿だな。 そんなこっちからも隣からも良く見える場所で、隊商を襲うようなことをしたら、こっちだって隣だって、領の威信をかけてその賊を討滅にかかるに決まっているじゃないか。 放置できないから、確実に両方から兵が出るぞ。 そしたら賊は逃げ道さえ危うくなる。 そんなことする訳ない」


 「あ、そうか。 間でやられたら、出ないと領の面目が潰れることになるのか。

  子どもの面子の張り合いみたいだけど、そういうことね」


 「ま、そんなもんだけど、意外に無視できないらしいよ」


 「でもそれじゃあ、ならず者たちにとっては、私たちが作ったこの平原を通る道というのは、襲うんだったら絶好の場所ということなのね」


 つまりはそういうことなんだよなぁ。

 道を作る時に、モンスターなんかだけしかいない平原というイメージで、モンスター対策の土壁は最初から考えていたけど、人間のならず者のことなんて考えてなかったからなぁ。 そもそも商隊がすぐに使用したがるなんてことさえ、僕は考えていなかった。 城下村から関所まで、僕らが最短の時間で移動出来るという観点ばかりだったんだよなぁ。

 モンスターが徘徊している平原に、そうそう入り込んでくる人間がいることなんて想定していなかったんだよ。 モンスターの脅威を、つい一般人レベルで考えてしまっていた。 自分たちと同じように、スライムや一角兎、それに平原狼くらいのモンスターなら問題にしないという集団は他にもいるということを、完全に忘れていたことが問題の根本だ。


 「エレナ、これはもう僕たちだけでは、ちょっと手に余ることの気がするよ。 領主様にきちんと相談しよう」


 「そうだな、俺もそう思う。 エレナも元衛士だから、そう考えて悩んでいたんだろ。 これはもう、領として騎士や衛士が関わらないといけない事態だ」


 僕たちは結局、すぐにこの事態を領主様たちに説明して、どう対処したら良いかを相談した。


 「お前たちだけで考えずに、きちんと説明・相談に来たことはとても評価できるぞ。 何でも自分たちでやれば良いということではないからな」


 その場で即座に領主様は側近の人たちとも相談して、道を通した平原を、騎士と衛士たちで武力偵察することにした。 平原に潜んでいた者たちは、強制的に捕縛され、徹底的に取り調べられることになる。 抵抗すれば、武力行使を厭わない形だ。

 平原に潜んで、犯罪を企てていた者たちは、騎士と衛士の集団を見つけると、一目散に逃げていった。 領として本気で対応されたら抵抗のしようがないからだ。


 僕たち、僕とウィリーだけじゃない、ウォルフとジャンも騎士ということになっていたから、この行動に同行させられた。 エレナも、衛士をもう辞めていたはずだけど、衛士として同行することになった。 領主様たちは、この武力行為を僕たちに見せたかったのだと思う。 きっと現実を直視させて、これからの行為の参考にさせるつもりなのだろうと思う。


 「今のところ、隣の領と繋がる道には関所があるけど、他は道近くを除くと、多少の起伏はあるけれど、基本は草地の平原がそのまま繋がっているだけだからな。 こっちの領に入ろうと思えば、モンスターを避けなくとも構わないならどこからでも入れてしまう」


 「それに、関所のある場所は丘の谷間だから、逆に視界は遮られていて、変な動きをしている者を見つけにくいよ」


 ウォルフとジャンもそんなことを言った。

 関所以外の場所に向かう人がいたら、隣の領の関所からならすぐに見つけられそうな気がするけど、わざわざそんなことをこちらに通達して来る訳がないよなぁ。


 「もし見つけたとしても、一角兎でも、そうでなくて普通の獣でも狩ろうと追っていましたと言われたら、こちら側の領内に無断で入って来ても咎めることが出来ないしな」


 「そうだよね。 『こっちの領内に勝手に入ったなんて気づきませんでした』と言われたら、簡単に罪に問うわけにもいかない。 関所で厳しく取り締まっても、関所を避けられてしまって、そのことを罪に問えないとどうしようもない」


 「それだ。 それだよ!!」


 続いていたウォルフとジャンの言葉を聞いていて、僕はふと思いついた。


 「そうだよ、隣の領との境は一応関所を超えた平原の間ということになっているけど、明確にはなっていなくて、道になっていない所に狩に出たりする人もいる。 それがまあならず者たちの隠れ蓑にもなっているのだけど、道以外でも割と簡単にこっちに入れてしまう。 境がはっきりしてないから、『気が付いたら入ってました』という言い訳を認めることになるし、その言い訳が出来ると思うから、簡単に入り込もうとするんだ。

  僕らの元々の計画では、関所を砦化してからきちんとした壁を作ることにしていたけど、少し計画を修正しよう。 砦化よりも境の壁作り、林作りを先にしよう」


 「そうは言っても、そうそうきちんとした壁を作れはしないぜ」


 ウィリーがそう反論してきた。 きっとウィリーの頭の中に描いたのは、僕らが最初から計画していた壁の上を人が歩ける幅のある高い壁のイメージだ。 確かにそんな壁を作るとしたら、今の状況を変えるような物を作るにはかなりの時間がかかるだろう。


 「いや、そうじゃなくて、壁と言っても計画していたようなきちんとした物じゃなくて、村の畑を守るために作るような土壁で良いんだ。 将来的には計画通りきちんとした高くて厚みのある壁にしたいと思うけど、とりあえずはここから先は確実にこっちの領内だと分かるだけの簡単な物で良いんだよ。

  それだけで、もしこっちの領内で潜んでいるところを見かけたら、不法に入って来たことから問答無用で攻撃することが出来る。 そうされてもおかしくないという威圧になる。 エレナたちは、ならず者の斥候を見つけても、威嚇して追い返すだけの対応だったけど、それが問答無用で攻撃して構わないということになるのさ。 ならず者たちは、自分たちがその壁を越えたら、そういう対象になるのだと、すぐに悟るだろうさ。 そうしたらちょっと今までと同じとはいかなくなるんじゃないかな」


 「そんなことで、ならず者たちが入り込むのを躊躇するか?」


 ウォルフが実効性に疑問を表明した。


 「確かに疑問だな。 そんな土壁は簡単に乗り越えられるし、壊すのだって簡単だ。 意味ないだろ」


 「うん、確かにそれだけだと実効性はほとんどないと思う。 ならず者たちが壁を越えるくらい躊躇う訳がない。

  だからさ、壁に沿っての植林を、他の場所よりも優先してもらったらどうかと思うんだ。

  植林を頼むことの利点は大きくは2点、第1としては植林するために壁の近くに人が何人かいれば、その目を気にして、作業をしている間は壁に近づけないこと。 第2に、夜間など人がいない時に壁を越えたとしても、その形跡を発見出来るだろうこと。

  僕にはならず者たちが、壁を越えた形跡を解らないように補修できるとは思わないんだ。

  そうしたら、もし商隊を襲ったとしても、その成果を持ち出さなければならない訳で、僕らは襲おうとする時と、持ち出そうとする時と、2度罠を張ることが出来る。 そしたらまず逃さずに済むんじゃないかな。

  それからさ、壁作りで溝を掘って、植林で最初のうちはある程度根付くまで水を撒いたりもする必要があって、そんなことしてるとスライムが棲みつきそうだよね。 もちろん壁のこっち側は、これは最初の計画にもあったけど、糸クモさんのための木を植えて、その木が少し大きくなったら、大きくなって糸を貰うのに適さなくなった糸クモさんの住処にすれば、ならず者たちは入って来れなくなるだろうし。 ま、そうなるのときちんとした壁が作れるのと、どっちが早いかということになると思うけど」


 少し頭の中の想像が先に進み過ぎた。


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