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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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本当に出た

 僕らが計画した道よりも、建設速度を重視したせいでかなり曲がりくねった道になったけど、一応城下村と関所の直通の道を通すことが出来た。 これで本格的に関所の砦化に着手できる。


 「でも、この道はあくまで仮の道だからね。 本格的な道は当初の計画通り、なるべく直線的にして、城下村と関所を最短で繋ぐものにするのだから。

  エレナの測量班は、ここのところは少しでも困難がある場所を避けて道のルートを決めたけど、本来の立ち位置に戻って、引き続き出来るだけ直線的にできるルートを探して杭を打って行って」


 「ナリート、つまり簡単に避けてしまった所が、少し手を入れるというか大掛かりな工事をすれば避けずに真っ直ぐに出来るかを確かめて、より直線になるように改良できる場所を探すということ?」


 エレナの質問に僕は少し考えた。 それが現実的に正しい方向性だとは思うのだけど、理想は捨てたくない。 それに将来的に考えたら、ちまちまと改善して行くよりも、さっさと可能な限りの最善の道を本格的に作ってしまった方が良い。 うん、その方が良いよね。


 「いや、そうじゃなくて、領主様から速度重視での建設に変更させられた時の場所に立ち返って、それまでと同じように可能な限り最も直線的になるように道を敷設出来るルートを探して欲しい。

  これからは関所の砦化の工事もあるから、今までとはちょっと違って、ルートを考えながら同時に道を作っていくのではなくて、ちゃんと先にルートを決定したいと思うけど」


 ウォルフとジャンがやれやれという顔をしている。 いや、そんなに僕は我儘に振る舞って自分の意見をいつでも通していないと思うのだけど。

 エレナの部下の一人から質問された。


 「少し手を入れれば真っ直ぐに通せる場所か、それとも無理な場所かの判断はどうするのですか?」


 「エレナや君たちだって、これまでのん経験から僕たちが大体どのくらいのことが出来るかは分かるだろ。 それで判断してくれれば良い。

  ただまあ、ここはどうだろう? できないかな、もしかしたらギリギリ出来るかな、と迷うような場所があったら、僕やジャン、ウォルフなんかに相談して欲しい。 そしたら検討してみよう」


 エレナたち測量班は、引き続き城下村と関所の間の調査・測量をすることになった。

 道を作っていた若手部隊は、2つのグループに分けられて、関所の砦化の仕事をすることになった。 それぞれをウォルフとジャンが率いる。


 ウィリーが関わっていないのは、マイアのお腹が目立つような大きさになり、今までと同様のペースでは仕事が出来なくなったからである。 当初はルーミエとフランソワちゃんが手伝っていたのだけど、マイアの仕事は城下村の村長という感じの事務仕事に留まらず、領全体の行政官というような仕事にまで手を広げさせられていたこともあって、2人では補佐が出来なくなったのだ。 ま、今まで行政関連の事務仕事は、2人は僕の手伝いを少ししていた程度で、本格的には関わってこなかったからなぁ。 それでもフランソワちゃんは村長の娘として、村の行政を見てきていた下地があったからか、そういった仕事もそれなりにこなしていたが、ルーミエは苦手にしているようだ。


 フランソワちゃんは、ルーミエは全くそんな意識はなかっただろうけど、今まではほとんど僕やルーミエに教わったり、遅れをとることばかりだという劣等感があったらしい。 ここにきてルーミエにも弱点があって、自分の方が出来ることがあって、ちょっと嬉しいみたいだ。


 とはいえ、マイアの行政に関する事務能力は僕らの中では飛び抜けてて、フランソワちゃんのフォローだけでは足りなかった。 出産となり、少なくとも最初のうちは子育てでマイアが行政官としての仕事を完全に休むとなると、フランソワちゃんの補佐だけでは全く足りないのは明白だった。

 で、結局、ウィリーが道の敷設や関所の砦化の仕事から外されて、マイアが復帰するまでの代わりをすることとなった。 ウィリーは、今までも何かと裏方として目立たなかったけど、マイアの仕事を手伝ってきていたからだ。

 ウィリーは事務仕事でも有能だったのだ。


 「おい、ウィリー、お前、騎士じゃなくて、文官の方を目指すか?」


 「いえ、領主様、俺は学校も出てないですし、それは無理ですよ」


 「学校を出てないのはマイアも同じだろ。 それにお前たちは、学校を出てないといっても、学校を出ている以上の知識を持っているじゃないか」


 「ま、孤児院ではシスターなんかに教えられましたから。 ナリートとルーミエ、それにフランソワちゃんは僕らに、『学校で教わったことは全部ここでも教える』と言って、孤児院で教えてくれていましたからね。 

  ナリートなんか、かなり難しいことまで教えてきて、後でルーミエとフランソワちゃんに聞いたら、学校でも教わってないことだって。 ナリートの奴、学校で免除になっていた科目が多かったから、どこまで学校で教えているのか、知らなかったらしい」


 「それだって、お前たちが理解出来ていたから教えたのだろ。 つまりはお前たちは学校を出た以上の知識を持っているということさ。 十分に文官としてやっていけると儂は思うぞ」


 「いえ、俺は今の立場がいいんですよ。

  必要とされれば、時には道を作ったり、壁や堀を作ったり、鍛冶を手伝うこともあるし、こうして文官の真似事をすることもある。 もちろん騎士として、領主様の側に侍る仕事もしますよ。

  そんな風に自由度が利く、今の立場が良いんですよ」


 「そうか、頼りにしているぞ」


 「はい。 自分の出来ることはなんでも一生懸命にやります」



 少しして、王都から勧誘した商店の店主さんが、わざわざ正式に僕に面会を申し込んで来た。 僕だって、その店に立ち寄ることあるのだから、その時にでも声を掛けてくれれば良いのに、と思った。


 「ナリート様、わざわざお時間を取らせて申し訳ありません」


 「いえいえ店主さん、そんなに改まらなくても、僕が店に行った時にでも普通に声を掛けていただければ、それで良いのに」


 「いえいえ、そういう訳にはいきません。 今日はお願いをしに参ったのですから、きちんと正式にお話をしなければなりません」


 お願いって、僕が店主さんにお願いされなければならないことなんてあるだろうか。 僕は急に緊張した。


 「お、お願いってなんでしょう?」


 うっ、恥ずかしい。 急に緊張して言葉が上擦った。 初めから何か予想していたり、覚悟していたりすると、こんなことはないのだけど、予想外なことだったから。


 「はい、お願いというのは、ナリート様たちが作られた新しい道。 私どもにも使わせていただけないでしょうか」


 へ、何を言っているの? 別に作った道は、僕らが専用で使うと決まっている訳じゃない。 自由に使ってもらって構わないのだけど。


 「はいっ? 新しく城下村から関所まで繋げた道ですか? 別に構いませんよ。 自由に使ってください」


 「構わないのですか。 それにナリート様が今即答で、そんな許可を出してしまって良いのですか?」


 「許可も何も、最初から誰でも自由に使える道と考えて作っていたので、何も問題ないです。 領主様もそのつもりでしたし」


 「そうなのですか。 それなら安心して使わせていただきます。

  ここから近い部分だけを遠目で見せていただきましたが、あのような路面の道がずっと関所まで続いているのですか?」


 「ええ、そうですね。 路面は一応固めてあるのですが、あまり強くないので、僕らが行き来する時に気になる所があれば補修はしていますから、大体は同じような感じだと思います。 もちろん破損している箇所があったら教えてください、直しますから。 路面に限らないですけど。

  ただ、今の道はまだ仮の道なので、あまり道の幅が広くなくて、荷車が行き交えない場所も結構あります。 そういう所も片方がちょっと待避できるような場所は作ってありますから、そんなには時間にロスが出ないとは思いますが」


 「はい、分かりました。 近くと同じ路面の道が続くなら、王都までの行き来はとても楽になります。 ありがとうございます。

  ちなみにナリート様たちが道を使うのは、どのくらいの頻度となるのでしょうか?」


 「そうですね、僕らは2-3日に1度、朝か晩に荷車が行き来するという感じでしょうか。 騎馬が駆けたりは、もう少しあると思いますけど、それは商隊の馬車の邪魔になるということはないでしょうから気にされないでしょうから」


 「かしこまりました。 ナリート様たちの往来の邪魔にはならないように気を付けて、私たちもその道を使わせていただきます」


 店主さんはホクホク顔で帰って行った。


 実は城下村と関所を結ぶ道は、以前にほんの少しだけ触れたけど、もう一本ある。 商店の人たちが作った道だ。

 商店の人が道を作った理由は、城下村と町を結ぶ途中にある湿地帯だ。 僕らが村作りの最初の頃に、道を作るのに苦労させられた場所だ。 あの頃はまだレベルが低くて魔力量も少なかったので、工事を強制する文官さんが鬼に思えたものだ。


 この湿地帯というのは、僕らの村のすぐそばを流れる川のなれの果てだ。 山からの流れが、この領を区切っている川に合流するまで維持できず、その手前で湿地帯を作ってしまっているのだ。

 それで、なるべく乾いているところを選んで道がクネクネと通っているのだけど、雨が多かったりして川の水嵩が増すと、道も水没したりして泥道へと変わってしまったりする。

 それに歩いたり、騎馬だったり、もう少し人力で押したり挽いたりする程度の台車なら問題なくても、荷物を満載した荷車となると重量の関係で、車輪がはまってしまうこともある。

 その面倒を避けるために、商店ではその湿地帯を通らないルートを作ったのだ。


 とは言っても、商店がたとえ何軒かが力を合わせたとしてもい長い道を作るなんて無理があって、商店が作った道は関所からかなり町に近づいたところで元の道と別れて、橋に向かわずに湿地帯を通らずに済む場所で川を渡るようになっている。 川をどうやって渡るかというと、浅い場所で川の水の中に表面がある程度平らな少し大きめの石を、車輪の部分にだけ敷いて、川の中に道というより石のレールのような形で並べた。

 川の水に浸からねば渡れないし、水嵩が増すことがあると敷いた石が動いたり、邪魔な物が塞いでしまったりということがあり、補修が欠かせない。 そもそも水量が少し増えると渡ることがすぐにできなくなってしまうのだが、橋を作るよりはずっと簡単に荷馬車を渡る場所を作ることが出来る。 川の水量が増す時は、どうせ湿地帯は泥濘んで通行が難しくなってしまうのだから、川の増水で足止めされてしまうのは同じことと割り切った考えだ。


 この方法で川を渡るのは、橋を作るよりもずっと簡単で、楽に作れるので、僕らのルートの川を渡る場所も、この方式でも良いかとも考えたのだけど、川の水に毎回足を濡らして渡るのは、夏場はともかく冬場は辛い。 それを考えて僕は橋を作ることにしたのだ。

 僕は歩いて渡ることも当然考慮したけど、商店の商隊の場合、商人さんは御者をしているか馬車に乗っているかだから、そこはもしかしたら問題では無いのかも知れない。 でも、護衛の人とかは普通に歩いていると思うのだけどね。


 商人さんが僕らの作った道を使いたいと考えたのは、道の路面を平らに整地して固めてあるからだろう。 道が平らであるということは、乗り心地が良いだけでなく、スムーズに馬車が動くことになる。 平均速度も上がるし、揺れも少なくなるので、荷物が壊れたりする危険も少なくなる。 ということは荷物の固定が楽にもなるし、より多く積めるということになる。 実際は関所までの道が滑らかでも、それを越えると普通の道になるので、それを考えると積み方や量は変えられないはずだから、速度が上がることが一番のメリットだろう。

 僕らの作った道は当初の計画通りとはいかなかったから、距離に関しては短縮された度合いは小さくなってしまった。 それでも関所まで、かなり楽に行けると考えているのだろう。


 商店が、新たな道を少しの距離しか作らなかったのは、もちろん作るのに資金と労働力という経費がかなり必要だからだけど、もう一つ、新たな道となるとスライムや一角兎、それ以上のモンスターの危険が付き纏うからだ。 元からある道は、そういった魔物の危険をなるべく避けられるように普段から警戒や駆逐がされているけど、新たな場所に道を作ると、そういったことはないので、安全性が低くなってしまう。 僕らはもうスライムや一角兎に脅威は感じないが、それ以上の危険性のあるモンスターだと完全に安心して対処出来る者はやはり少なくなる。 僕らの作った道は、ま、これは練習の一環でもあったのだけど、両側に土壁を構築して、その点もある程度対処している。 商人さんにしてみれば、安全が考慮されていることも魅力だろう。


 商人たちが僕たちの作った新しい道を利用しだして、まだそんなに経たない時だった。 領主様のところ、きちんち言えば領政府に、エレナから衛士で良いから派遣して欲しいという知らせが昼前に届いた。

 エレナも元衛士だから、元同僚の派遣を要請してきた訳だけど、今までにない事柄だったので、何事かと思って僕も行ってみることにしたら領主様まで付いてきた。 当然、側近の文官さんなんかも一緒だ。 少し大掛かりな話になってしまって、派遣される衛士の人たちが緊張している。


 僕たちよりも衛士の人たちは先行して城下村を出たのだけど、僕たちは騎乗して馬で向かったので、途中で追い抜くことになった。 まだまだ新しい道の通行量は少ないし、通行しているのは商人にしても城下村に関連する人たちだからか、みんな僕らのことは見知っている。 特に領主様の騎乗している姿を遠目にでも見れば、誰でも道を空けてくれるから、馬を走らせる速度を落とす必要があることも無かったこともある。 それ以前に、どことなく緊張した雰囲気で、隊商はその多くが道の脇の方で停止していたのだ。


 僕たちがエレナたちのいる現場に到着すると、そこは凄惨な現場となっていた。 遠目にも戦闘があったことが分かったので、エレナたちは無事だろうかと急に心配が込み上げて焦って駆けつけたのだけど、エレナたちは無事で、死んだり深手を負って横たわっているのは敵対する者ばかりだった。 こちら側と思われる人は、商隊の護衛だと思われる人が軽い手傷を負っているだけのようだ。


 「エレナ、何があった?」


 「はい、領主様。 私たちが普段の仕事にかかろうと道から離れ探査と測量を始めようとしていた所、探査に向かっていた者の1人が異様な気配に気づきました。 それで注意深く辺りを探索していたところ、無法者が商隊を襲い荷を強奪しようとする現場に遭遇しました。

  すぐに戦闘態勢をとり、商隊に危険を知らせようと声を上げたのですが、残念ながら少し間に合わず、商隊の護衛に怪我人を出してしまいました。 声を上げたことで、無法者たちは攻撃先を私たちの方に向けましたが、こちらは余裕を持って、ほぼ弓と投石で撃退することが出来ました。

  不意を突かれたことで混乱していた商隊の護衛たちも、敵の矛先がこちらに向いて余裕が出来ると落ち着いて、私たちの遠距離攻撃で傷ついた無法者に対して、とどめを刺して行く働きをしました。

  今、縛られている者共は、勝ち目がないと武器を手放して降参した者たちです」


 「そういうことか。 エレナ、良くやった。 お前たちも、頑張ったな、良い働きであった」


 領主様はエレナだけでなく、エレナの子分たちも褒めた。 エレナも嬉しそうだが、領主様から直接声を掛けられる機会なんてほとんどない子分たちはとても嬉しそうだ。


 前にも思ったけど、この世界の人たちは容赦がないな。 弓や投石で攻撃されて、それが当たったら、その時点で戦闘力は失っていたのではないかと思うのだが、そうなった者は皆とどめを刺され殺されていた。


 それにしても文官さんの予言が、こんなにも早く当たるとは思わなかった。

 新しい道は、今までの道のように騎士や衛士が行き来していなくて、警備が手薄だと無法者たちには判断されたのだろうか。

 僕は、一角兎はともかく、平原狼になると対処出来る人は限られてくるから、そうそう原野だった場所を通した新しい道で、強盗を企ている者が出てくるとは思っていなかった。 僕はモンスターの力を、と言うより、犯罪を企てる無法者の力を甘く考え過ぎていたのだろう。


 関所の砦化と、その両脇の壁と林の構築を急がないといけないな、と僕は改めて考えた。


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