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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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先に関所の業務が少し変わると

 僕たちの領と隣の領の堺には、以前からこちらの領の関所があった。

 こちらの領のとことわるのは、隣の領では関所を設置しなかったからだ。 僕は領地の境の関所なんて、どういう物なのか、自分には関係のない事だと思っていたので、よく知らなかったのだが、普通は接する互いの領が共同で運営していたりすることが多いらしい。 これは僕も王都に行くようになって知ったことだ。 ま、王都に行くのは領主様と一緒だったから、関所もほぼ素通りで、普通はどうなのかを知るということではなかったのだけど。


 僕らの領と隣の領の間では、隣の領ではこちらとの境に、今までは関所を設置していなかった。 必要がないと考えていたということだ。 僕らの領から隣の領に行く人数なんて多寡が知れていて、関所を設置して運営する意味がないと考えたのだろう。

 最近は布やら薬関係だとか、商人の行き来が増え、それに連れて他の人の往来も増えたので、新たに設置されるのではないかと思われる。

 隣の領でも関所を設置するとしても、僕らの領との共同で運営するのではなく、自領の側に新たに作ることになるだろう。 そもそも僕らとの領との境は完全に確定している訳ではないけど、荒野の中央付近ということになっているのだが、その付近に関所を設置することは出来ないからだ。


 僕らの領で関所を設置していたのは、実際のことを言えば、領内の治安維持というか、無法者を領内に入れないぞという威嚇のためだった。 僕らの領は、元は平民の領主様が男爵になって得た領地であることもあって、王都から最も離れた地の一つだ。 だからからか、王都周辺で問題を起こした人物・集団が流れて来る可能性が高かったらしい。 領主様の武勲が有名になっていたから最初は抑えられるだろうけど、そういう者たちを領内に入れない姿勢を見せなければならないと、設置されていたのだ。



 機能を拡大して砦化することが決まっているので、最近の僕らの間では関所ではなくて砦と呼ぶことが多くなってきているのだけど、基本的には関所である。 でも今までは関所としてきちんと機能していたかというと、それはかなり疑わしい。 一応衛兵が常駐しているので、確実に怪しい者を抑止する効果はあったと思う。 そういう人や集団が、関所で問題を起こして、武名がかなり高い領主様に最初から喧嘩を売る訳がない。 他にも目指せる場所はあるだろうからね。

 だけど、そこまでではない、ちょい悪の冒険者崩れとかは、簡単に通してしまっていた訳だから、領内というか領民を守るという役目を果たしていたとは、とても言えないと思うのだ。


 僕たちが新たな道作りで、橋を架けるのと、その先の段差を乗り越えるのに手間取っている間にも、関所の機能の強化は始まっていた。

 ごく簡単にだけど、関所の施設も強化されて、そこを通過する者のチェックもきちんとされることになった。 僕らの領にやって来た目的と、出て行く目的の確認をするだけの簡単なことだけど、その簡単な取り調べのやり取りの場に、シスターも常駐していて加わって行う体制が、きちんと作られたのだ。


 シスターには、その職業の特殊技能の『真偽の耳』という能力があり、嘘を見抜くことが出来る。 実際には、自分よりもレベルが上の者のことは判断が出来ないらしいが、この特殊技能のことは、職業による特殊技能の中では比較的一般に知られていて、特に問題行動を起こしたりした者には知られている。 それでシスターが同席するということだけで、かなりの抑止力になるのだ。


 シスターが同席するという体制を作ることが出来たのは、僕らの城下村に、たくさんの見習いシスターや下級シスターが、研修に来るようになったからである。 薬作りを行ったり、ヒールなどの魔法の実践経験を積んだりだけでなく、関所の取り調べにも交代で参加してくれることになったのだ。


 「ナリート、予想していたよりも、ずっと多くの問題者、犯罪者を発見することになったぞ。 今まで、こんな者共が自由に往来していたのだなと、改めて感じたぞ」


 「変ですね。 シスターが同席すると分かれば、その取り調べを避けようとするのが普通だと思うのですけど」


 「どうやらな、同席するシスターが若いから大丈夫だと勘違いする者が多いようだな」


 レベルによって、自分がそのシスターより上ならば判断出来ないということは、裏社会には広く知られてしまっていることのようだ。 関所で同席するシスターは、見習いシスターや、下級シスターばかりで、皆若いからそれを見て、後ろ暗いモノを持つ者たちはは浅はかにも大丈夫だバレることはないと判断したようだ。 残念、城下村で鍛えられたシスターは、製薬を仕事としていることと魔法を常に使うような環境に鍛えられて、他の地にいるシスターよりも、レベルは高かったりしている。 年齢と階級だけで、甘い判断をしたことによって、あっさりと嘘を見抜かれてしまうのだ。

 その結果が、多くの者の検挙ということになった。 塩作りが捗ることだろう。 検挙された者は、製塩所で塩水の桶運びの苦役が最初に待っているのだ。 それから入念に取り調べられることになる。


 「しかし、正直ここまで変なのが多くやって来るようになっていたとは思わなかったぞ」


 「今までは何の魅力もない土地でしたからねぇ、悪いことを考える者たちも、こんな辺鄙なところには、旨みも何もなければ来ませんよ。 でも今は、特産のスパイダーシルクの布だけじゃなく、色々と物が動いていますからね。 物が動くようになれば金も人も動く。

 今まで辺鄙で人も少なかったので、悪い奴らを取り締まる組織も人員も整っていないだろうと判断して、良い狩場だと思う馬鹿は、結構多いと思いますよ」


 文官のアルハイドさんが、領主様の言葉に対して、直接ではないけれど、『何、甘いこと言っているのですか』という非難を滲ませて応えた。


 「あ、いや、俺もな、そういう事が分からない訳じゃないんだ。

 だが、そういった悪い奴らとの戦いは、前に散々したし、その一つが終わった褒美として、俺は男爵なんてのになってこの地に来た。 正直、遠くに追いやられたという気持ちもあったが、逆にもうそういう世界とは離れた場所に来たという気持ちもあったんだ。

 だからもう平穏に暮らしたいという希望というか期待、いや願望か。 とにかくそんな気持ちがあってな。

 いや、話を現実的なことに戻そう」


 アルハイドさんの指摘に対して、領主様はくだくだと言い訳を始めたけど、アルハイドさんから外した視線がチラッと僕を捕えると、ちょっと慌てたように態度を改めた。

 領主様とアルハイドさんの間の会話って、時々そういった立場の垣根がとても低くなる感じがする。 きっと、もしこの場に僕がいなかったら、領主様はもっと言い訳をして、それをまたアルハイドさんに責められたのではないだろうか。 僕はそんな気がした。


 「今の状況を考えると、ナリートたちが関所を拡大して、砦化しようという計画を立てたことは、とても意味のあることだろう。 この計画は早急に進めなければならない。

 その前提となる、ここと関所を直接繋ぐ道の敷設の進捗はどうなっている?」


 「川にやっと簡単な橋を架け終えて、対岸側の崖にやっと道を作ったところです。 どちらもやっと荷馬車一台が通れるだけという、まだ仮のモノではありますけど。

 川とその先の崖という以上の障害は、これから先には無いと思うのですけど。 正直、計画の甘さを実感しているところです。 もっと事前に調べておいて計画を立てるべきでした。 地図作成班が先行して調べていけば、道の敷設班は十分に余裕を持って、その仕事が出来ると思っていたのですけど、地図作成班が思っていたよりも先行出来なくて、難所の突破に時間がかかってしまっています」


 「私たちは普段の生活では、町や村、それに小さい部落のすぐ周り以外は、それを結ぶ道の周りしか知らないですからね。 わざわざモンスターのいるかも知れない場所に入っていく必要はほとんどないですから。 

 実際に未知の場所に入っていけば、予想と違う場所があるのは仕方ないです」


 アルハイドさんが僕たちの失敗を、仕方ないと慰めてくれた。


 「ま、俺もお前たちの計画を認可したのだから同罪だな。

  ただ、ナリート、少しだけ計画の変更を命令する。 計画では、ここと関所の間をなるべく直線で結ぶ道を作ることになっているが、それは将来的な目標とする。

  これから後は、少しは迂回することとなっても、難所に思われる場所は避けて、なるべく早急に、ここと関所を繋げる道を作ることを優先しろ。 ま、仮の道を可能な限り速やかに作れ、ということだな。 直線で結ぶ本格的な道はその後だ。 とにかく関所を砦に拡充することが重要だ」


 ちょっと方針変更だけど仕方ない。 僕たちも計画が甘かったなと思ってはいたから、変更を受け入れられないという気持ちはない。 うーん、今回の事業は最初の関所の砦化を考えた時から、マイアに計画の甘さを指摘されたり、何だかグダグタだ。 思いつきを即座に実行する夢ばかりを考えるのではなく、もっと地道に調査とかして、きちんと考えられている計画を最初から立てられるようにしないといけないな。 反省ばかりだ。


 「将来的に、本格的な道はお前らが最初に計画したように、なるべく直線で結ぶような最短のきちんとした道が望ましいのは当然だ。 その道を作るには工事も大掛かりな物となり、時間がかかってしまうだろう。 今はだから、とりあえずの道だ」


 領主様は僕らに対して、計画を変更させるということを少し申し訳なく感じたのか、単純に気を使ったのかは分からないけど、あくまで本格的な道は直線的に作ると強調した。


 「道はとりあえず速やかに繋がることを優先して、とりあえずの道を作ることで決定ということで良いとして。 話は少し戻りますが、関所で弾かれる者がかなり出てきている、捕まる者が多数出たということで、関所を通らずにこの地に入り込もうとするならず者が出て来るかも知れませんね」


 アルハイドさんがそんな心配をした。


 「でもアルハイドさん、道のないところから入り込もうとすると、モンスターなんかに襲われる危険がありますから、今まではそんな命知らずのならず者はいなかったんじゃないですか。

  僕らの道作りでも、先行する測量班は班員は元々はエレナ率いる狩猟班ですから。 測量するために先行しながら、危険なモンスターがいれば対処することになっています。 それに本隊の道作り班だって、率いているウォルフやウィリーやジャンはもちろんですけど、それ以外の作業を担当する若い子たちも、投石なんかの訓練もして、スライムや一角兎程度なら大丈夫にしています。

 土塀を作りながら道を進めていることと共に、僕らはそれだけ気をつけて進める必要があるのですけど、そんな場所にならず者が入って来ますか?」


 「ま、今までなら、そんな危険を冒すならず者はいなかったでしょうね。 そこまでして得られる利益があるとは考えなかったでしょうから。

  でも今は話が違って、かなりのお金になるだろう荷車が行き来している。 それだけの人や金、物が集まって来ている。 その割にまだ治安維持する人員が整っていない。 ならず者たちにとっては好条件じゃないですか。

  考えてみてください、ナリート君。 エレナ君率いる狩猟班なら、この地のほとんどのモンスターに対処出来る、とまあ我々は考えている訳ですけど、その班員たちは鉄級の冒険者です。 ナリート君たちは銀級ですけど。 つまり鉄級クラスの冒険者としての能力があれば、道以外の場所から、この領内に侵入することが出来るのです。

  そういう者がもうすぐ出て来るかも知れないですね。 もう少ししたら、そういう者の対策も考えないといけなくなるかも知れません」



 アルハイドさんの嫌な予言もあったけど、それは後の問題として、今の問題は他にもある。 その問題に対してはキイロさんに協力を求めてあった。 それがある程度形になったので、僕らが呼ばれたのだ。

 僕とジャンの2人でキイロさんの鍛冶場を訪ねようと思っていたら、ウォルフとウィリーも一緒について来た。


 「なんだナリートとジャンだけじゃなく、ウォルフとウィリーも来たのか」


 「キイロさん、そりゃ無いぜ。 ここへはナリートとジャンより、俺たち2人の方がずっと足繁く通っていたじゃないか」


 キイロさんの言葉にウィリーが文句をつけた。 確かに鍛治の手伝いは僕とジャンよりウィリーとウォルフの方がしていたからなぁ。 キイロさんも笑っている。


 僕がキイロさんに頼んでいたのは、荷車の車輪に嵌める鉄輪だ。 それと車軸の部分の強化だ。

 今まで僕は馬車の乗り心地の悪さには辟易として、結局馬車ではなくて、自分で馬に乗ることを覚えた。 ルーミエとフランソワちゃん、それにシスターまで、僕に追随して自分で馬に乗ることを選択してしまった。 それに僕は自分の生活の中では、荷車を使うという機会があまり無くて、荷車の問題をあまり考えていなかった。

 いや、考えたことはあるよ。 馬車の乗り心地は改良するべきだとか、車輪や車軸の問題もすぐに気が付いてはいた。 そんなことの知識だって、僕の頭の中にはある。 でも、それを自分がしなければならないという必要に迫られていなかったんだ。


 最近問題となったのが、荷車の車輪の損耗率が高過ぎることだ。

 道作りのために毎日荷車に荷物を積んで移動するのだが、その荷車の車輪がすぐに擦り減って壊れるのだ。 車軸の部分も同様だ。 当然だけど、どちらもこの地では貴重な木で作られているので、その補修が大変なのだ。 損傷度合いがひどくなると、補修では用が済まなくなって、他領から買わねばならないことになる。

 特に測量班の荷車は、道なき場所を無理やり押したり弾いたりして移動するので、すぐにダメになる。


 という訳で、僕は車輪に鉄の輪を嵌めて補強することと、車軸とその受けの部分も鉄で補強することを提案し、キイロさんに依頼したのだ。


 「ま、ウォルフとウィリーも来たのは都合が良かったな。

  よし全員で、この鉄の輪っかを熱くするぞ」


 別に形を変えるという訳ではないから、鉄をハンマーで叩く時のように赤熱させる必要はない。 ただ熱くするだけだから、2人余剰の戦力がなくても問題ないのだけど、キイロさんのリップサービスだ。

 鉄の輪っかを熱くすると、少し鉄の輪が広がる。 車輪の大きさぴったりに鉄輪は作られているので、熱くしてから鉄輪を車輪に嵌めて冷やせば、鉄輪は車輪にピッタリと嵌まり込むという寸法だ。

 車軸にも台車の受けと当たる部分に輪を嵌める。 本当なら、というか僕の頭の中の知識としては、車軸の受けの部分にはベアリングを用いて、滑らかで楽に動くようにしたいのだが、さすがにそこまでのことは今は出来ない。 その代わりに、受けの部分には油に漬けておいた革を貼って、少しでも滑らかに動くことと、車軸と台車の受けの部分が直接に擦れて摩耗することを防ぐようにした。


 「台車の動きは別に変わったとは思えないけど、きっと車輪は今までよりも持つんじゃないか」


 車輪や車軸を改良して組み立てた台車を動かしてみて、ウォルフがそう評した。


 「当たり前だ。 そんなに変わる訳ないだろ。

  それでも荷物を乗せて動かせば、軋み音だって違うはずだ」


 キイロさんが怒ったように言って、ウォルフが『しまった』という顔をした。


 実際に改良版の荷車を使ってみると、車輪や車軸の強度が増したから、損耗率はずっと低くなった。

 だけど今度は別の問題が出た。 荷車は壊れにくくなったのだけど、道の方が壊れるのだ。


 僕たちの作っている道は、平に均した後は表面にハーデンを掛けただけだ。 ハーデンを掛けるのは、路面を固めるという意味よりも、路面の表面を硬くすることによって、草の生えるのを阻止しようという意味合いの方が強い。 後は雨が降った時に水を両脇速やかに流して、路面を軟弱化させないようにという意味もある。

 でもまあそれだけで、つまりは路面にあまり強度がない。

 今まで、木でできた車輪では、それで問題ではなかったのだけど、鉄の輪を嵌め込んだ車輪だと、簡単に表面が削れて、轍というか車輪で溝が出来てしまうのだ。

 溝が出来ると、雨が降るとその溝に水が溜まって、路面全体が軟弱化してしまう。


 うーん、溝が出来ること前提で、ある程度の感覚で水が路肩の方に流れるように横溝でも作っておくのがとりあえずの解決策かな。 本格的な道ではどうしようかな。


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