選択
俺は、次の時間設定を考え始めた。
実家へ帰る日を決めるタイミングでは、ダメだった。要は、遅かれ早かれ真琴を失う事に変わりがないという事だろう。
そうなると次に考えられるのは、結婚までの手順を話し合った日というのが妥当かもしれない。
…いつだっけ?
確か、プロポーズしたのが8月だったから、9月には今後の進め方を話し合った記憶がある。
…問題は、何日のことだったか、まったく覚えていないということだ。
しばらく、思い出そうと考えたが、土曜日だったことくらいしか思い出せない。
とりあえず、『手順を決めた日』というイメージで、設定を考える。
…変化がない。
やはり、日付がはっきりイメージできないとダメなのだろうか?
そうなると、かなり難易度が上がる。なんせ、漠然としてしか時期なんて覚えてないのだから。
そもそも、実家へ帰る日を決めた日だって、その日から2週間後に実家に行くと決めたから、日付を覚えていただけなのだ。
日々の暮らしの中で、これがあったのはこの日で、なんてはっきり言える日なんて、実際はそんなにない。
俺の記憶力が低いせいなのかもしれないが、多くの人々も大して変わりがないだろう。
そう考えると、この試練というものは、かなり底意地が悪い。それくらい乗り越えないと、過去なんて変えられないという事かもしれないが、嫌になってくる。
あと、はっきり覚えているのは、プロポーズした日と告白した日、そして初めて真琴と会った日くらいだ。
プロポーズを回避したとしても、実家へ行く日を決めた日のように、遅かれ早かれ結果は変わらない可能性が高い気もするが、まずはその日に戻ってみる事にする。
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普段は行かないような、高級なレストランで赤ワインを飲みながら、牛肉料理のフルコースを堪能していた。
それぞれの学校でのエピソードや、勉強会で知りあった共通の知人の話など、楽しい時間が流れていた。
楽しそうに笑う真琴の笑顔が眩しくて、目を細めてしまう。
当時は、デザートの時にプロポーズしようと決めていたので、かなり緊張していた記憶があるが、今はプロポーズしないで、そのまま家に帰る形にしようと、若干の罪悪感を感じながら椅子に座っている。
何事もなく、デザートを食べる。
とりあえず、プロポーズしないという選択肢を選んでみた。さっきまでのループだと、失敗の場合は、このタイミングで戻るだろうと思っていたが、一向に戻る気配がない。
そうこうしているうちに、最後のコーヒーが運ばれてきた。
…これは成功か?
ドキドキしながら、コーヒーを飲む。真琴もコーヒーを口にしている。
…どうなる?
「…ねぇ、私達付き合って、結構長いよね?」
真琴が、静かに話し掛けてくる。
なんだ?
「…そうだね」
なんだろう?
嫌な予感がする。
「…雄大は、今後の事って、どう考えてるの?」
「…今後の事って?」
「…」
なんだ?
この流れは。
「…私の事、ちゃんと考えてくれてる?」
「…もちろん、考えてるよ」
「…じゃあ、ちゃんと言って欲しい。
もし、雄大にその気がないのなら、私…」
そこから、真琴は無言になって、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。慌てて、目を逸らしてしまう。
気まずい沈黙が降りてくる。
さぅきまでの楽しかった空気が嘘のようだ。
店内の他の客達の談笑が、二人を茶化すように耳に残る。
向かいに座っているはずの真琴が、急に遠く感じる。
いたたまれなくなった俺は、慌ててジャケットのポケットから、指輪の入った箱を取り出す。
「まこ
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と!」
気がつくと、下げられたはずの肉料理が目の前に現れた。
「…なぁに?急に、『と!』って」
真琴が笑いながら、こっちを見ていた。
慌てて、周りを見回す。
レストランだった。
料理と真琴を見る。
…ループだ。
そして、俺は悟る。
プロポーズを断念しただけでは起きなかったループが、真琴の雰囲気にいたたまれなくなってプロポーズしようとした瞬間、…ループした。
それは、途中から効率的になったループの事を考えると、プロポーズしなければ、ループを回避できる可能性があるという事ではないだろうか?
…だが、あの雰囲気。空気。真琴の表情。
おそらく、今日、プロポーズしなければ、真琴は別れを切り出そうとしていたのではないだろうか。
だから、俺はいたたまれなくなってしまったわけで。
プロポーズを選んでしまったわけで。
密かに悩んでいる間にも楽しい時間は、刻一刻と終わりへ向かっている。いっそ、この時間を何度もループしていたいという気持ちが湧いてくる。
『欲望に溺れる』
邪のセリフが脳裏に浮かぶ。
おそらく、これは別れかループかの選択なのだ。
…別れたくない。
なんのために、過去を変えたいのか?
それは、真琴と二人で幸せになるためではないのか?
別れを選べば、真琴が死ぬ事はなくなる。
だが、それを選べば、二人で幸せになる事はなくなる。
真琴の事、試練の事を考えれば、別れるのが正解だ。
でも、別れたくない。
そう、別れたくないのだ。
…でも、プロポーズを選んでも、結局二人に幸せな未来は訪れない。
いっそ、妖化してしまえば、こんな想いはしなくてもすむのだろうか?
…。
気がつくと、頬を涙が伝う。
「ねぇ、どうしたの?
…急に…」
俺が涙を流している事に気付いた真琴が、声を落として、聞いてくる。
俺は、精一杯強がって、満面の笑みを浮かべる。
「…真琴、これからの話をしよう」
震える声で、真琴に話し掛ける。
どうせ、一緒になれないのなら、
二人で過ごす未来がないのなら、
…せめて真琴には生きていて欲しい。
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気がつくと、暗闇の中にいた。
暗闇の中で仰向けになっているようだった。
思わず、手を上に伸ばすと、すぐ上に壁があるような感触があった。そのまま、壁をそっと押す。
バリッ。
その壁は、かなり脆かったようで、簡単に壊れてしまった。パラパラと何かが顔に落ちてくる。壊れた部分から眩しい光が見えた。
目を細めながら、壁の向こうを覗こうと、さらに壁を壊していくと眩しさが増す。
その先には、眩しい照明のようなものが見えた。
…天井?




