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試練

 ループしている…。


 今までの出来事が、すべて夢というのは、少し楽観的過ぎる。となれば、ループしていると考えるのが妥当だろう。何故、ループなんていうフィクションのような事が起きているかは不明だが、今までの経緯から考えると、真琴の身に危険が訪れた時点で、必ずこの時間に戻ってくるようだ。


 さて、どうする?


 要は真琴に危険がなければいいのだ。だが、一人で帰すと事故。送っていくと家が火事。そうなると、単純に家に帰さなければいいという事だろう。

 あとは、この部屋に泊めるか、俺の実家に泊めるかの二択となる。


 実家に泊める事を考えると、電車で行く意味がない。だが、車で帰省すると事故に遭う可能性が高い。話が盛り上がって、終電を逃すという状況でなら泊まる事は可能だが、親が『電車は大丈夫か?』と、聞いてきたら破綻するし、真琴が終電の話をするかもしれない。


 …賭けの要素が強すぎる。


 そうなると、この部屋に泊めるのがベストだろう。


 俺は、前回のループと同じように、親の体調不良を理由に実家へ行くのを中止し、なんとか説得して、真琴を部屋に泊める事に成功した。


 結果は、真琴の死が次の日に延びただけに終わり、再びループが始まった。


 …真琴が帰宅してからの火事が原因だった。


 ここまで来ると、このループは真琴を生かす気がないのではないか?と思えてくる。

 そもそも、このループはなんなんだろう。

 何度も何度も真琴の死を味わい、驚き、悲しんでいる。


 結局、試練を越えても、過去を変えられないのだろうか?


 そこまで考えて、引っかかりを感じる。


 試練?


 猿の手が書いていた試練についての記述の事を思い出す。


『過去と向き合う事』


 確か、その後に試練の攻略法を聞き出そうとした際に文字化けしていたのと、邪から聞いた『試練について教える事は出来ない』という言葉から、試練について書かれた内容を軽く見てしまっていた。


 もし、あれが最低限伝えられる範囲の内容だったとすると、鏡に受け入れられる事が試練の合格だと思い込んでいたが、それは間違いという事になる。


「ねぇ、聞いてるの!?」


 真琴が、怒りながら問いかけてくるが、それどころではない。


 …もし、このループという有り得ない状況が試練だと言うのなら、『過去と向き合う事』という猿の手の回答と一致するような気がする。


 では、どうすればいい?


 言葉通り、『過去と向き合う』のが正解だとすると、…結局、このループを抜ける事が試練の合格という事になる。


 では、どうすればループから抜け出せるのか?


 普通に考えると、真琴が死なない未来を掴み取る事ができればいいという事になるが、今までのループから考えると、かなりの無理ゲーのように感じる。


 …一つ、手がないわけではない。


 実家に向かう車の運転を俺がやればいいのだ。そうする事で、真琴は生き残る事ができるはずだ。ただし、それが成功すると、俺は死ぬ事になる。


 真琴が自分の命を捨ててまで、生かしてくれた命を捨てる事になる。だから、それは最後の手段にとっておきたい。…が、これが試練だとすると、時間制限があったはずなので、悠長にしていられない。


 とは言っても、普通に考えると制限時間は12時間程度で、ループが始まってからは、とっくに過ぎている時間でもあるのだが、特に妖化と思われる現象は起きていない。

 邪が言っていた時間の流れが違うという事が、今回も適用されていると考えたい。

 ただ、そうなると制限時間はあるが、いつその時間が来るかわからないサドンデス状態という事だろう。


 焦りだけが生み出される意地悪なシステムだ。

 だが、焦りは禁物だ。しっかりと考えよう。


 何か、ヒントはなかったか?


 猿の手の回答。邪との会話、馬場教頭との会話、山校長との会話を思い出せ。


 ….任意の場面設定の段階で…。


 ふと、山校長に止められた馬場教頭の言葉を思い出す。


 任意の場面設定?


 あの時は、変えたい過去は自分で選ぶ事ができる程度の認識だったが、試練がループだとしたら…、そして、山校長が止めた理由。


 要は、ループする時間を選ぶ事ができるのではないか?


 …だとすると、ここで変えるべき過去はどの時間だろう?


 実家に行くと決めた日はどうだろう?


 そうだ。実家に行く日を決めた時点に戻ってみてはどうだろう。


 俺は、何やら怒っている真琴を無視して、その時の事を思い出す。その時の事を意識を集中して考える。


「ね〜ぇ〜、ちゃ〜んと〜は〜な〜し〜を〜」


 ふと、真琴の声が低く、スローになる。


 ジジジと視界に昔のテレビの砂嵐のようなノイズが走る。


 その後、一気に視界が暗転して、気がつくとシチューの皿が置いてあるテーブルの前に座っていた。

 目の前には、真琴の姿。


 それは、実家に行く相談をした日の食卓だった。


「ねぇ、今日のシチュー、美味しくできたと思わない?」


 真琴が、楽しげな声で語りかけてくる。


「今日は、気合いを入れて、玉ねぎをキツネ色になるまでしっかりと炒めたからね?

 玉ねぎの甘さがしっかりと出てるでしょ?

 …ねぇ、ところで、いつ雄大のお母さんに会いに行く?

 すっごく緊張しそうなんだけど…」


 できた!


 ループの起点を変える事が出来たんだ!


 さぁ、いつ実家に行く事にする?


 …ふと、考える。


 結局、日にちを変えたところで、その日に事故が起きてしまうんじゃないのか?


「とりあえず、年明けの挨拶の時に一緒に行かない?」


 年末は避けてみた。けど、これで本当にいいんだろうか?


_______________________


 「ねぇ、今日のシチュー、美味しくできたと思わない?」


 真琴が、楽しげな声で語りかけてくる。


 みじかっ!!


 あっという間にループした!


 …間違いだったみたいだ。


 そこから、いろんな日にちの提案を試してみたが、ことごとくループしてしまっていた。


 当然、実家に行くのをやめる提案も試したが、喧嘩になった後、再びループした。

 要は、どの選択肢を選んでも、真琴の死を覆せないという事だろう。


 きっと、この場面ではないのだろう。


 俺は、戻るべき時間設定の検討を始めた。

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