回避
「……てるの?」
なんだか頭がボヤーッとしていた。後ろから誰かが声を掛けているのがわかったが、何を言っているのか、はっきり聞き取れないでいた。
…なんだっけ?
何かしようとしていた気がするが、それが何か思い出せない。
とりあえず、声を掛けてきたのは誰だろう?と思い、振り返って言葉を失った。
振り返った先にいたのは、死んだはずの真琴だった。
思わず、抱き締めそうになる衝動をグッと抑える。
状況がわからないからだ。
「ねぇ!さっきから…、ちゃんと話を聞いてるの!?」
話?
話ってなんだったっけ?
「…いや、ごめん。なんかボーッとしちゃって…」
とりあえず返事をしたが、状況が掴めない。
なんで真琴が?
そこまで考えて、試練の事を思い出す。
!
そうだ!
試練だ!
試練は、どうなったんだ?
覚えていない。
でも…、目の前には、死んだはずの真琴が生きて立っている。
…覚えてないけど、クリアしたの…か?
「だからぁ、今日、雄大の実家に行くんでしょ?
私が運転するから、雄大は久しぶりにお父さんとお酒でも飲んだら?って、言ったの!」
そう言って、一升瓶を見せてくる。
なかなか手に入らない稀少な日本酒だ。
それを見て、今がどういう状況かを理解した。
そう、この状況は事故に遭う前の状況だ。真琴を実家に連れて行き、結婚の話をする予定の日だ。
キッカケは、実家に手土産として購入した日本酒について、いかに稀少で手に入れるのに苦労したかという話をした事だった。
そんな稀少なお酒なら、飲んでみたいんじゃない?という話になり、真琴が運転してくれる事になったのだ。
そこまで考えて、ひょっとして…と思えてくる。
試練とは、あの鏡に受け入れられるかどうかって事だったのではないか?
と、いう事は、今はすでに過去を変えられる段階なのではないだろうか?
となると、する事は一つだ。
真琴に運転はさせない。
「そうだね。でも、親父は真琴とも一緒に飲みたいんじゃないかな?この日本酒は、飲みやすい奴だから、お袋も一緒に4人で飲んだ方が、きっといいと思うんだ」
「え?
…じゃあ、どうするの?」
真琴が眉をひそめて聞いてくる。
やばい。抱き締めたい。
「だから、予定を変えて電車で行こう!」
自分が運転する事も考えたが、それだと真琴が過去を変えた事を無駄にしてしまう。
それに俺は、真琴だけが生き残る世界もありっちゃありだが、やっぱり二人で生き残る未来を選びたい。
そして、俺達は電車で実家に向かうことにしたのだ。
歩いて5分の所にあるバス停からバスに乗り、20分ほど掛けて、大きな駅に向かう。そこから電車に乗り換えて、およそ30分。駅からは10分ほど歩き、実家へと到着した。
少し、警戒していたが、何も問題なく実家へと到着した。
実家では、親父とお袋がご馳走を用意して、待っており、最初に真琴を紹介し、今後の話を一通りしたところで宴会へと突入した。
普段、滅多にお酒を飲まないお袋も一緒に、持ってきたお酒を楽しんだ。
あの時も、こうしていればよかったのだ。
帰りの電車の中で、俺は幸福感に包まれていた。
大きな駅で真琴と別れた。真琴の家に帰るには別の電車に乗り換えた方が早いからだ。俺は来た時と同じようにバスで帰る。
真琴と別れた後、俺は福徳小学校の事を考える。
あの世にある小学校。
幼い頃に亡くなった子供達のための学校。
そして、過去を変える事のできる試練と七不思議。いや、六不思議か?
とても不思議な体験だった。
何ヶ月か、あそこで死者達に授業を教えていたのだ。
思わず、笑ってしまう。
いつか、自分が死んでしまった時、もう一度、あの学校で教職ができないだろうか?
黒田先生や沢田先生、谷口先生。そして、山校長と馬場教頭。
もう一度、雇ってもらえたら…。
…そういえば、篠宮少年の試練はどうだったのだろう?
彼も鏡に受け入れてもらえたのだろうか?
ただ、彼の場合、過去を変えて生き残っても、幸せになれるのだろうか?
どの地域に住んでたか聞いておけばよかった。時間軸はよくわからないが、もし同じ時代に戻っているのなら、なんとかしてやれたのではないだろうか?
そんな事を考えながら、家路に着いた。
玄関の鍵を開けて部屋に入ると、まるでタイミングを測ったかのように携帯が鳴った。
見知らぬ番号からだった。
「…もしもし?」
「あ、もしもし、失礼ですが、こちら溝口雄大様のお電話で、間違いないでしょうか?」
「はい」
「私、間山総合病院、救急センターの者です」
その電話は、最寄駅から家に帰る途中の道で、真琴が交通事故に遭ったという内容の電話だった。
目の前が、真っ暗になり、音が聞こえなくなった。
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「……てるの?」
後ろから声を掛けられて、慌てて振り返る。
そこには不思議そうな顔をした真琴が立っていた。
「ねぇ!さっきから…、ちゃんと話を聞いてるの!?」
それは、数時間前に体験した、実家に行く直前の状況だった。




