表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
福徳小学校の七不思議  作者: スネオメガネ
怪5 鏡の世界
22/35

ヘビとカエルとナメクジと

 篠宮少年が、不安そうにこちらを見ている。


「大丈夫です。心配いりません」


「ふむ。

 大丈夫という言葉は、大丈夫じゃない奴もよく使う言葉である」


 カエルが、間髪入れずに突っ込んでくる。


「…確かに、私の中には邪がいます。

 でも、それはそういう契約なんです。

 すべての条件をクリアして試練を受けるには、これが一番効率が良かったんです。

 篠宮さんも、変えたい過去があるなら、わかりますよね?」


「ふむ。

 邪は、実に誘惑が上手である。

 言葉巧みに思考を誘導するのである。

 自分は間違えない、しっかりと考えれば正しい結果になる、と信じて疑わない者ほど、思考の誘導を受けると脆いものである。

 故に、君の思っているような理想の結果には繋がらないと、助言するのである」


「…契約って、どんな契約なの?

 いつ邪と遭遇したの?

 本当に大丈夫なの?」


「大丈夫です。

 我魔と遭遇して無事に戻るには、邪の協力が必要だったんです。

 現に、邪の能力を使う事で、このカエルと遭遇する事ができたんですから…」


 私は、我魔の匂いを辿って、この手洗い場に来た事を思い出す。

 舌を出し入れする事で、匂いのする方角を割り出したのだ。

 …図らずとも、蛇がチロチロと舌を出す理由を実感できた。嗅覚を強く感じる器官は、口の中の鼻腔とつながっている(…と思われる)部分にあるようで、舌を出し入れする事で、より強く匂いを感じる事ができたのだ。


「ふむ。

 試練を餌に憑かれたか?

 残念ながら、邪に憑かれた状態では、試練を受ける権利は得られないのである」


「それは、想定内。

 邪を取り除くアテはあるので、心配無用です」


「ふむ。

 たかが人間に邪を取り除く事が出来るとは思えないのである」


『ごちゃごちゃ、うるせぇ〜!』


 自分の喉から、意図せぬ言葉が飛び出した。


『…会いたかったぜぇ、引きこもりのヒキガエル野郎よぉ。

 こいつの言っている事は、本当だ。

 俺は、てめぇをギッタギタの挽肉にしてやりたい。

 こいつは、試練を受けるために、てめぇに会いたい。

 お互いの利害が一致したって訳さ。

 いわゆる、ウィンウィンって奴さぁ』


 自分の喉から、次々と紡がれる言葉。

 きっと、邪が喋っているのだろう。


「ふむ。

 吾輩、君にギッタギタにされる理由に見当がつかないのである」


『…あるさぁ。

 試練を受けたい奴は、さっさと受けさせてやればいいのさぁ。

 それを、いつもいつも邪魔しやがってぇ』


「ふむ。

 これは奇な事を。

 我々だけは、試練を受けた者が失敗したとしても、解放される立場ではないはずである。

 閻魔様より受けた命に従い、粛々と、試練を受けるに値するかどうかを見極めるのが使命のはずである。

 何故に試練を受けさせたがるのであるか?」


「はっ!

 そんなん決まってらぁ。

 試練に失敗して、物言わぬ妖に変化する様が見たいからさぁ。

 その方が面白いからさぁ」


「ふむ。

 誠に悪趣味である」


「待った!

 待て待て待て待ってください!

 私の口を勝手に使って、自分達だけで会話するのはやめてくれませんか?

 今、ちょっと気になる事があったんですが…、解放されないってどういう事ですか?」


 なんとか、話に割って入る。

 話によっては、試練を失敗した時のリスクが増える事になるからだ。


「ふむ。

 人間ごときが我々の会話に入ってくるとは…。

 …まぁ、いい。教えてやるのである。

 吾輩、邪、大ナメクジの三体は、元々妖なのである。

 故に、解放される事がないのである。

 他の試練に失敗した奴らと、一緒にされては心外なのである。

 我々が、解放されるのは、閻魔様の気が変わった時だけなのである」


 それを聞いて、少し安心した。

 その答えは、試練を失敗したとしても、いつかは解放されるという事と同義だったからだ。


「…ふむ。

 その顔は、試練を失敗したとしても、いつかは解放されると思っている顔なのである。

 その思考は、浅はかと言わざるを得ないのである。

 解放云々ではなく、妖化自体が地獄の責め苦なのである」


『それ以上、余計な事、言うんじゃねぇよ!

 こいつの気が変わって、試練を棄権でもしたら、面白くねぇだろうがぁ!』


 邪が、私の口を使って、威嚇をする。

 自分の口が、勝手に喋るという現象は、なかなか慣れないものだ。

 そんなに妖化ってのは苦痛を感じるものなのだろうか?


 …。


「…あの、閻魔様って…。

 試練ってのは、閻魔様も絡んでるの?…ですか?」


 篠宮少年が、沈黙を破って口を開く。


「ふむ。

 試練は、閻魔様による深い慈悲によって、執り行われるものなのである。

 自分の過去を変えるなど、そんな(ことわり)に反する願いを聞き入れるのである。

 閻魔様ほどの力がなければ、叶えられるわけがないのである」


「…試練について、知っている事を教えてくれませんか?」


 思い切って、聞いてみる。


「ふむ。

 試練については、口にできない決まりがあるのである。

 それは、『猿の手』も同じなのである。

 彼奴に聞いてみたとしても、その答えは返って来ないのである」


 …。


 試練については、受けてみなければわからないという事か…。


『まぁ、いい。

 お喋りはここまでだぜ。

 せっかく、引きこもりのヒキガエル野郎に会えたんだ。

 とりあえず…、てめぇをブッ飛ばす!

 じゃねぇと、今まで散々邪魔されてきた腹の虫が治まらねぇからなぁ!』


 そう言うと、勝手に足が動き出す。

 我魔に向かって…。


 シャー!


 喉が勝手に鳴る。

 勝手に喋るだけでなく、体まで操れるのか?


 …それは想定外だった。


「ふむ。

 ここらが潮時なのである。

 人間よ。せいぜい足掻くがいいのである」


 我魔が、そう言った瞬間、我魔の身体が光り輝き始める。

 眩しくて、目を細めていると、世界が白く染まっていった。


 …。


 …気が付くと、元の北階段の踊り場の鏡に向かって、篠宮少年と立っていた。

 鏡には、右下に『記念贈呈』と普通の文字で書かれていた。

怪5完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ