森の賢者
「…あと3回」
思わず呟く。
そして、今日回収したプリントに書かれていた『あと4回』という言葉を思い出す。
これだ。
後藤少年は、今日提出したプリントも、この百葉箱を使って提出したのだ。
「…あと3回って何?」
篠宮少年が、話しかけてくる。
普通に考えたら、回数制限のように思える。
この百葉箱は、あと3回使ったら、もう使えなくなるということだろうか?
「…これも七不思議の1つなのかな?」
何も答えない私に対して、篠宮少年が続けて質問してくる。
それを聞いて、篠宮少年に聞かなければいけない事があった事を思い出した。
「篠宮さん、以前『ツクエツムリ』を見かけた時に、あと1つ、七不思議を知っていると言っていましたよね?
それは、これとは別なんですか?」
「…うん。僕が知ってる、もう1つの七不思議は、怖いヘビの話だよ。
こんなんじゃない」
「どんな話なんですか?」
「この学校にいるヘビで、どこにいるかはわからないけど、出会った時にヨ、ヨコシ…マ?な心があると、飲まれちゃうんだって言ってた」
「邪…悪い心があると、飲まれるって事かな?」
「そうそう。だから、さっきの毛むくじゃらな手の話じゃなかったよ」
毛むくじゃらな手…。
どこかで見た事あるような毛だった。
なんだろう?
あの赤茶色の毛並みは…。
「…なんか…オランウータンみたいな手だったね?」
そう言われて納得した。
あれはオランウータンの毛に似ていたんだ。
「ねぇ、このプリント置いていった子って、まだ運動場にいるのかな?
いるんなら、聞いてみない?
アレが何なのか」
「…探してみましょう」
私は、プリントは放置して、百葉箱の扉を閉めた。
篠宮少年と運動場に向かうと、後藤少年が他の生徒と遊んでいた。
誰かが持ってきたであろうサッカーボールで、サッカーをやっているようだった。
「後藤さん!」
とりあえず、大声で名前を呼ぶと、後藤少年がこちらを見た。
「少し、お話しがあるのですが、いいですか?」
「なぁに?先生」
後藤少年が駆け寄ってくる。
話が話だけに、他の生徒に聞かれたくないので、一緒に少し移動する。
篠宮少年もついてくるが、途中で外してもらうことにした。
二人で歩き、小運動場に着いたところで、本題に入る。少し迷ったが、ストレートに聞く事にする。
「さっき、百葉箱の中にプリントを入れましたよね?
それはなんで?」
「…それは…」
言葉に詰まりながら、困った顔をする。
「今日提出したプリントも、百葉箱にやってもらったのかな?」
そこまで言うと、驚いた顔をして、こちらを見てくる。
「先生も知ってるの?」
なにを?とは、あえて聞かない。黙ったまま、後藤少年の目を見ながらうなずく。
「本当に賢者が、宿題をやってくれるとは思わなかったんだ。
試しにプリントを置いただけだったんだけど、次の日には全部答えが書かれてて…」
「賢者?」
「うん。森の賢者が百葉箱の中にいて、なんでも質問に答えてくれるんだ。
だから、宿題もやってくれるよって言われて…」
森の賢者?
オランウータンは、『森の人』だったよな?
『森の賢者』は、フクロウやゴリラだったような気がする。
いや、それよりも今、『言われて』って言ったぞ。
誰に言われたんだ?
「誰に聞いたんですか?」
「谷口先生だよ」
谷口先生が?
「後藤さん。
いいですか?
宿題は、自分でやるから意味があるんです。
今後、二度と賢者にお願いすることは禁じます」
「…」
「…わかりましたね?」
「…」
「返事は!?」
「…はい」
バツの悪そうな顔で答える後藤少年。
「わかったなら、いいです。
プリントは、新しいのを渡しますから、一緒に職員室まで来てください。
さっきのプリントは、先生が回収しておきますから、今日は百葉箱には近付かないように!」
「…はい」
職員室で、後藤少年に新しいプリントを渡した後、後藤少年を運動場に送る。
その際に、同じく運動場でブラブラしている篠宮少年を呼ぶ。
嬉しそうにやってきた篠宮少年に、後藤少年から聞いた話を聞かせる。
「へぇ、谷口先生が?
今度の登校日に聞いてみようかなぁ」
「いや、もっといい方法がありますよ」
「え?」
「百葉箱の中にいる賢者は、なんでも質問に答えてくれるそうですよ」
私はそう言って、笑いながら篠宮少年を見る。
篠宮少年は、私の言いたい事がわからないようで、ポカンとした表情をしている。
「紙に『この学校の七不思議の内容を全部教えてください』って書いたら、賢者はなんて答えてくれるんでしょうね?」
ようやく理解した篠宮少年が笑う。
「さっそくやってみましょう。
うまく行けば、七不思議が全部わかりますよ」
私はそう言って、篠宮少年とともに、紙と鉛筆を取りに職員室に走った。




