第9話【2日目】距離を縮める
2日目の朝になった。
よく眠れたな、と冬真は思いつつ身支度をした後に朝食をとった。
各自が朝8時30分までに準備をすませて宿泊棟の入口付近に集合することになっていた。
8時20分頃に冬真が集合場所に行くと、既に水無瀬親子が待っていた。
清々しい空気の中で、冬真は朝日に照らされた2人が眩しく思えた。
お互いに朝の挨拶をして山本さんと青木さんを待つことにした。
「チャットでも送ったけど、今日の第6から第10チェックポイントのミッションは好きな順番でまわっていいらしいで」
「特にどの順番かのこだわりは無いから順番通りでいいんじゃないかな」
と冬真は言ったが、
「最初に行くチェックポイントはウチに決めさせてもらってええかな?」
と玲央奈ちゃんが頼むのでそれでもいいよ、と了解した。
8時25分頃に山本さんと青木さんが一緒に来た。
挨拶もそこそこに玲央奈ちゃんがみんなに説明した。
「昨日、ウチが言ってた若い男の心当たりやけど、今日最初のチェックポイントで合流したいから、まずそこに向かうことにするで」
みんながうなずいた。
「体力+が付いてるわけじゃないけど、運動がそこそこできるはずやから体力系ミッションで頼りになるはずやで。クラスはM2L(男性20代前半)やから、クラスかぶりも無いしちょうどええと思ってる」
なるほど、それは頼もしいな。20代前半ってことは玲央奈ちゃんの高校の同級生や先輩とかじゃないってことか。
彼の位置情報を玲央奈ちゃんがスマホでチェックしているので適当に雑談しながら、待つことにした。
ふと、玲央奈ちゃんが顔を上げた。
「グラウンドに向かってる。たぶん第7チェックポイントやな。みんな、いくで」
冬真たちはグラウンドへ向かった。
グラウンドに到着した。もうあと10分程度で朝9時なので各ミッションの開始時刻だ。
参加者達がまばらだけど集まってきている。今日もよく晴れているな、暑くなりそうだ。
玲央奈ちゃんがお目当ての男性を見つけて、真っ直ぐ彼のほうへ向かった。
身長が高そうだ。180cmぐらいあるかもしれない。穏やかで安心できそうな雰囲気だ。
なぜか、山本さんと青木さんも玲央奈ちゃんの少し後ろについて行っている。
「すいません、よろしければ私達とパーティーを一緒に組んでいただけますか? 女性が多いパーティーなのでこのチェックポイントが心細くて。お願いします」
一人称、ウチじゃないんかーい。
……と、いうか玲央奈ちゃんの知り合いじゃないのか? どういうことだろう。
「あ、えっと……僕は今、パーティーを組んでないので問題は無いですけど……」
彼は少し戸惑っているようだ。急に声をかけられたので動揺しているのかもしれない。でも、玲央奈ちゃんに話しかけられてちょっと嬉しそうだ。
「是非、お願いします。あなたのように運動ができそうな人が一緒にいてくださると頼もしいので」
青木さんが追撃した。
「いえ、特にスポーツ万能ってわけじゃないですよ。趣味でフットサルをやってるぐらいでして……」
セリフとは裏腹に青木さんの頼みにまんざらではない、という嬉しさを隠しきれない表情になっている。
もしかして、俺も青木さんと話してる時ってああなってるのか? と冬真は自分のことが心配になった。
「普段から運動習慣がある方なんですね。大歓迎です。試しにこのミッションだけでもどうかお願いします」
山本さんが普段、冬真に見せるのとは違う、魅力的な女性の笑顔を全面に押し出して畳み掛けた。
……落ちたな。
彼は3つ返事で首を縦に振り、パーティーに加わることにしたようだ。
「山本蒼大と申します。よろしくお願いします」
スマホで情報を確認すると、彼は大学生だった。
姓が山本さんとかぶっているな。彼は蒼大君と呼ぶことにしよう。
お互いに自己紹介した後、早速、第7チェックポイントにとりかかることにした。
グラウンド付近のテントに行き、ミッション用のQRコードを読み取った。
<第7チェックポイント【体力】>
・ミニフットゴルフ
※基本ルールは別項を参照すること。
・全ホール終了時の打数で獲得スコアを決定する。
<獲得スコア:全ホール終了時の打数36±4以内:100>
<ボーナススコア:打数36を5下回る毎に+10>
<減点スコア:打数36を5上回る毎に-10>
※なお、本ミッションでは競技に参加していないパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・パーティー全員(最大4名)が順番にサッカーボールを蹴り、カップインを目指すこと。
※パーティー同盟の場合は代表者4名を選ぶこと。
・制限時間は1時間。タイムアップの場合、時間内に回れなかったコース数×5打を打数に追加する。
・全9ホール。各ホールの規定打数は全て4打とする。
「蒼大さん、早速、フットサルの腕前を活かせそうですね」
青木さんが目を輝かせて蒼大君に期待しているので、彼は照れている。
「まぁ、距離もそんなに無さそうなので僕ならある程度、狙った場所に蹴ることができると思います」
「サッカーボールをあの目玉焼きの真ん中をくり抜いたみたいな穴に入れればええみたいや。蒼大さんに第1打を任せて近くまでボールを落としてもらうのが良さそうやな」
玲央奈ちゃんがだいたいの流れを説明した。
ちなみに、目玉焼きの真ん中をくり抜いたみたいな穴はカップキットと呼ぶらしい。
「じゃ、メンバーを決めるか」
と言って冬真は考えた。
いつものように悟さんは辞退した。
「1打目は蒼大君、2打目は玲央奈ちゃん、3打目は俺。4打目は山本さんにしよう。スニーカー履いて張り切ってるし」
「はい、私は見学でお願いします」
青木さんは同意した。
早速、1ホール目の場所へ向かった。ちなみに番号順に回る必要はなく、空いてるホールから順番に回ればいいらしい。
各ホールには審判用のスタッフが待機している。
だいたい、各ホールとも30mから50mぐらい先にカップキットが設置してある。グラウンドなのでコースの起伏はない。さほど難易度は高く無さそうだ。
蒼大君が第1打を蹴った。ボールはほぼ真っ直ぐ進み、カップキットからだいたい7m~8mぐらいのところでボールが止まった。ナイスショットだ。
「わー、すごい、素敵!」
「かっこいー」
「ええ感じやん!」
女性3人で蒼大君を褒めまくるので蒼大君が照れて下を向いている。
今まで俺もあんな感じでデレデレしていたんだろうか……、いや、そんなことはないはず……、と冬真はどうでもいいことを考えていた。
2打目は玲央奈ちゃんが蹴り、カップキット手前1m付近まで近付けた。
「ここで外したら恥ずかしいよー。ちゃんとかっこよく決めてねー」
山本さんが冬真にいらないプレッシャーをかける。
冬真がボールを蹴り、見事3打目でカップキットの穴に入れることができた。
ほっ。なんとか入れることができたな、と冬真は安心したが、女性3人からのお褒めの言葉は無かった。冬真はなんだか寂しさを感じた。
2ホール目以降も同じ要領でどんどん進めた。
蒼大君のボールコントロールは優れていて安定している。
フットサルで激しく動きながらボールを蹴ることに比べれば、止まっているボールを蹴って狙った場所に落とすぐらいのことは楽勝なのだろう。
そして地味に玲央奈ちゃんも安定してカップキットそばへボールを止めていて、やっぱりすごいなと冬真は感心した。
この2人のおかげで冬真は楽に最後の1打を決めることができていた。
「わたしの出番なくてつまんないなー」
山本さんがぼやくが、冬真が外して山本さんの出番ができたら、それはそれで、情けないんだからーとか文句を言いそうなので困ったものだ。
そして、5ホール目は特に上手くいって、たったの2打でカップインすることができた。
そうして順調に進めていったのだが、8ホール目でアクシデントが起こった。
第1打の蒼大くんがカップキット手前5mぐらいにボールを運んでくれたのだが、第2打の玲央奈ちゃんが蹴る直前に少し軸足のバランスを崩してしまったので、ボールの軌道がずれてしまいカップキット付近を通り過ぎてオーバーしてしまった。
「ごめんな。奥村さん、挽回頼むで」
と玲央奈ちゃんが謝ったが、とはいえ、致命的ではない。第3打は残り3mぐらいだからなんとかカップインを狙えるだろう。
「奥村さん、がんばって」
青木さんが笑顔で応援してくれている。
「これ外したら、おしおきだよー」
山本さんがまたいらないプレッシャーをかける。
冬真は意を決してボールを蹴った。
ボールは残念ながら手前50cmぐらいのところで止まってしまった。
「あーあ。こーゆーときに決めきれない男なのよねー」
山本さんが辛辣なことを言う。
玲央奈ちゃんと青木さんは笑っている。
「どんまい。気にしないでください」
蒼大君が慰めてくれた。いい奴だな。
「いよいよわたしの出番ね」
と、山本さんが言って、あっさりとカップインした。
「ま、わたしにかかれば、こんなもんよ」
冬真は呆気にとられたが、みんなは拍手で山本さんを褒め称えている。
いや……あの距離で外さないだろ……、と冬真は思ったが口に出すのはやめておいた。
いよいよラスト、9ホール目。
「このホールを2打以内で決めることができたら、ボーナススコア+20になるで」
玲央奈ちゃんが気合を入れている。
今回も蒼大くんがカップキット手前5mぐらいのところにボールを運んだ。
第2打の玲央奈ちゃんが深呼吸して集中している。
そして2打目を蹴った。ボールはまっすぐカップキットに向かって、見事カップインした。
「やったぁ」
青木さんがとても喜んだ。
みんなで玲央奈ちゃんとハイタッチして喜びを分かち合った。
第7チェックポイント受付のテントに戻り、見事スコア120をゲットすることができた。
無事にクリアできたところで、山本さんが蒼大君に問いかけた。
「このパーティーの雰囲気はだいたい分かったよね。良かったらこれからも一緒に行かない?」
「はい、是非、お願いします」
蒼大くんは嬉しそうに了承した。
「でさー。わたしも蒼大くんも山本姓だから、わたし達、下の名前で呼び合うってことでいいよねー」
「はい、僕は構わないです」
山本さんが冬真の近くに寄ってきた。
「ねね。これを機会にさー。わたしのこと、なぎさって呼んで欲しいんだけどいいよね?」
「いや、普通に蒼大君と山本さんにしておくよ」
冬真は断ってみた。
「ちょっと、ちょっとー。さっきの8ホール目でさ、ダーリンが失敗しちゃったけど、わたしのリカバリーのおかげで事なきを得たんだよ? もう忘れちゃった?」
「いや、忘れては無いけど……」
「本来はおしおきなんだけど、ここはわたしの可愛いお願いを聞くってことで許してあげようってわけよー。海よりも広い心のなぎささんに感謝してほしいんだけど?」
どうやら返事は〝はい〟と〝YES〟しか許されない問いかけだったようだ。
「……はい、なぎさ様、承知しました」
「あ、それなら私のことは奈緒って呼んで欲しいです」
青木さんが真剣な目で冬真に頼んできた。
青木さんに頼まれたら断れないにゃー。
「うん、じゃあ奈緒さんって呼ぶことにするよ」
「じゃあ私は冬真さんって呼びますね」
青木さんが笑顔になったので冬真も嬉しくなった。
「あ、わたしもこれからは冬真さんって呼ぶからよろしくねー」
なぎささんからもそう言われてしまい、なんだか照れるな……。思わずにやけてしまう。
「もしかして……僕もさっきまであんな顔になっちゃってましたか?」
と蒼大君が悟さんに確認している。
「うん、蒼大さんも奥村さんも、すっかり骨抜きにされた顔になってたから見ていて微笑ましかったよ」
それを聞いて、冬真と蒼大君はがっくりとなった。
奈緒さんが笑いながら、
「蒼大君も私のことは奈緒って呼んでね」
と言ったので早速、蒼大君は、はい、と言いながらにやけた顔になっていた。
うん、こうなるのは仕方ないことなんだよ……。
「じゃあウチも蒼大さんって呼ぶね」
「うん、いいよ。玲央奈ちゃん、よろしくね」
蒼大君は喜びに溢れてデレデレしている。
女性3人の尻に敷かれないようにお互いがんばっていこうな。
冬真は戦友ができたような気がして嬉しかった。




