第8話【Stella of Dragon】冒険を楽しむ
夜。空にのぼった十三夜月が煌々と辺りを照らしている。
赤い月の色が、ここが地球ではないことを示していた。
すぐ近くにある湖が月からの赤い光を反射し、幻想的な雰囲気を演出している。
わたし達は湖のほとりで野営することにした。
湖の近くには森がある。森の中で野営するよりは見通しのよい湖のほとりのほうが安全を確保できるだろう。
さきほど、師匠が炎の魔法で難なく着火した焚き火のそばで、わたし達2人は休息をとっていた。
昼間の戦闘で消費したMPを回復し、明日に備えなくてはならない。
師匠の名前はトーマス(Thomas)だが、わたしが勝手に弟子入りしたので師匠と呼んでいる。
師匠は人間属の男性で見た目は短い黒髪の青年だ。職業は魔法剣士。攻撃・回復魔法に加え、敵の弱点をついて戦う魔法剣を使うことができる。
ちなみにわたしは小人属の茶髪ボブカットの少女だ。身長は師匠の腰より少し高いぐらいだ。もし大人になっても身長は低いままである。
フィジカル面で人間属に劣るが魔法を使うことに関しては適性が高い。わたしの職業は回復魔法を得意とする治療術士なのでぴったりである。
師匠のほうをちらりと見る。敵対勢力の獣人達からの戦利品としてゲットした無骨な造りの軽鎧を身にまとっている。
正直、非常にカッコ悪いが、野営ではお洒落に気を遣うよりも実用的な防御力を重視するのは止むを得ないだろう。
「焚き火をしているから、知能の低い魔物は寄ってこないだろう。ちょっとトイレに行ってくるよ」
と、師匠が言ったが、休息状態の姿勢から動かない。〝中の人〟が用を足しに行くという意味である。
わたしは湖を見つめた。今日は火曜日だから月が赤い。赤く光る湖もいいが、他の曜日の時も来てみたいな。
おっと、いけない。師匠がいない間に魔物が襲ってくる可能性がある。
わたしは魔力感知で周囲の状況を探ってみた。
真東に5つの気配、森方面から、こちらに何かが向かってきている。なかなかの速度である。
確信をもってこちらに来ている動きだ。おそらく、わたし達を襲うつもりだろう。
「3時の方向、5」
と言ってわたしは立ち上がった。師匠は休息状態のままだ。まだ戻って来ていないのだろう。
早く戻って来て欲しい。大きい方じゃないといいけど……。
森から狼が5頭でてきた。が、大きい。ただの狼ではない、人狼属だ。
レベルは師匠や私よりも低いようだが、満月近い月齢なので知能が大きく引き上げられ、フィジカル面のステータスも向上しているだろう。
数も多い。わたしは苦戦を予感した。
まずは数を減らさなければならない。わたしは睡眠魔法を詠唱し、1頭眠らせた。
そして、師匠も睡眠魔法を詠唱し、更に1頭眠らせた。よかった、戻って来たようだ。
クールタイム(再詠唱待ちの時間)があるため、連続してすぐに次の睡眠魔法を詠唱することはできない。
わたしと師匠は背中合わせのフォーメーションで盾を構えて残り3頭の人狼からの攻撃に備えた。
3頭の人狼はコンビネーション攻撃も交えてわたしと師匠のHPを削りに来た。
時々、後ろの2本脚で立ち、必殺技も使ってくる。
師匠はわたしに、わたしは師匠へ回復魔法をかけてしのぐ。
クールタイムが過ぎたので、わたしと師匠で睡眠魔法を詠唱し、更に2頭の人狼を眠らせた。
動ける人狼が残り1体となったため、攻撃に転じる。師匠は片手剣を抜刀し、炎の魔法を付与した。
師匠が炎の魔法剣で人狼を攻撃し、わたしは回復魔法で師匠を回復する。
途中、最初に眠らせた2頭の人狼が目を覚ましたので再度、睡眠魔法で眠らせる。
そして、やっと1頭の人狼を倒した。残り4頭。
師匠が炎の魔法剣で2頭目の討伐にとりかかった。師匠のMPが残り少ないのが気になる。
最大MPの高いわたしはまだ少し余裕があるが、師匠はさきほどの短い休息時間では十分なMPを確保できていない。
2頭目の人狼を倒した。残り3頭。
わたし達は他の人狼が再度目を覚ましたところを寝かしつつ、3頭目の処理を進めているが、師匠のMPがこのままでは保たないだろう。
「ナオ(Nao)、3頭目を倒したところでコンバートするから回復を頼む」
「おっけー」
コンバートとはHPとMPを変換する魔法剣士の能力である。
MPが無いとポンコツになる魔法剣士の継戦能力を高めるための能力ではあるが、残り少ないMPとHPを変換すると当然、HPが瀕死状態となるので非常にリスクが高い。
使用するにはパーティー内で息のあった連携が必要となる。
3頭目を倒した。
「コンバート3秒前」
師匠が合図するのでわたしが回復魔法を詠唱する。
師匠のコンバートが発動し瀕死状態となったが、ちょうど詠唱の終わったわたしの回復魔法がすぐにHPを回復させた。
その直後、目を覚ました人狼が師匠を攻撃したが無事にしのいだ。危ないところだった。
師匠は更に回復魔法を自分にかけてHPを全快した。
4頭目の人狼も倒し、残り1頭。
わたしは杖から片手棍棒に持ち替えて人狼を師匠と2人で挟んだ。
治療術士は刃物で敵を攻撃できないため、殴って物理攻撃をする。
最後の人狼は2人で攻撃したのであっさり倒すことができた。
人狼を倒したところで再び2人で休息する。
「ふう。なかなか手ごわかったな。ありがとう、ナオ。おかげで無事に切り抜けられたよ」
「いえいえー。師匠の自慢の弟子ですから、とーぜんですよ。ふっふーん」
「私が不在のときの対応が的確だったから、初動がスムーズで助かったよ」
師匠は優しくて頼りになるなー。
「師匠、好き」
「うん、ありがとう」
夜明けまで地球時間であと10分弱ほどだ。
2人交代で魔力感知を使って周囲を警戒しながら夜明けを待った。
無事に夜が明けたので目的地の森に向かう。
わたし達は近くの村の錬金術士からの依頼で、満月付近の月齢期間でないと採取できない月見魔草を探しに来たのだ。
2人で森をうろうろして探す。2人が離れている時に魔物に襲われたら困るので手分けして探すことができないのがもどかしい。
師匠と雑談しながら気長に探すことにする。
もっと、師匠のこと知りたいなー。
「ねね、師匠のトーマスって名前なんだけどさー。一見、ありふれた西洋風の名前だけど、もしかして、師匠のリアルネームってトウマだったりする?」
「ナオこそ、ナオミだったり、ナオコだったりするのかな? それともそのまま、ナオか」
むむ。質問を質問で返してくるか。
「うーん。猫の鳴き声かもねー」
2人で雑談しながら探していたら必要な量の月見魔草を確保できたので村へ向かうことにした。
森の中を歩いて村に向かう途中、少し開けた広間に出た。
広間はだいたい直径20mぐらいの広さで、中央に大木がある。
が、大木には目や口が付いていて、足元をよく見ると根がうねうねと動いて移動できるようになっている。
「トレントだな。おそらく2人なら勝てなくはないが、強敵だ。避けて進もう」
と、師匠は言うが、あいにく、広間付近は木々が密集していたり行く手を阻むほど植物が生い茂っているので、森の中は進めそうにない。広場を通って向こう側へ行くしかなさそうだ。
「広場の隅を通ってそーっと行く感じ?」
「その通り。ただ、見た目通り、視覚感知があるが、聴覚感知もそこそこ広い範囲を持っている。トレントの後ろ側をゆっくり歩いて進もう」
わたし達は広間の隅を、トレントの後ろ側からそっと歩いて進んだ。
そして広間を無事に通過することができた。
その後、村に到着した。
わたしはギルドチャットを開いた。
ここでいうギルドとは、ファンタジーでよくある冒険者組合のようなものではなく、同じ目的を持つ仲間たちが集まって結成する集団のことだ。
わたしと師匠は普段、気軽に集まって遊びたい人達が集う〝仲良しグループ〟のギルドに所属している。ちなみにギルド名はミックスペンギンだ。
ミックスペンギンのチャットに参加しているメンバーに話しかけた。
「コペルくーん、月見魔草をこれから錬金術士に渡しに行くよー。そろそろ来てくれるー?」
「うん、分かった。今行くよ」
「コペルちゃん、私が移動魔法で村まで送るね。一緒に行きましょう」
「コットンちゃん、助かるよ。お願い」
わたしと師匠は錬金術士の家に向かった。
向かっている道中、わたしは装備を戦闘用のものから、おしゃれ着に変えた。
師匠は相変わらず無骨な鎧のままである。着替えるという発想は無いらしい。せめて見てるだけで暑苦しそうな兜は脱いで欲しいところだ。
錬金術士の家に到着し、依頼者に月見魔草を渡したが、今度は沼地に行って巨大毒ガエルから採取できる胃酸を持ってきて欲しいとのことだ。
事前情報でこういう展開になることは分かっていたので、ここで新たに2人のメンバーと合流して一緒に行くことになっている。
村の入口付近で待っていると、コペル(Koperu)君とコットン(Cotton)ちゃんが到着した。
この2人は事前に月見魔草を錬金術士に渡しているため、これから4人で沼へ胃酸を取りに行くという段取りだった。
コペル君はわたしと同じ小人属で、金色の短髪少年だ。ただ、職業は魔法を使えない探索士である。
探索士はファンタジーでよく登場するレンジャーやスカウトに相当する。
わたしの魔力感知より広い範囲で索敵ができたり、罠を解除したり、初めて足を踏み入れるダンジョンでも大凡の構造が分かったりする。
職業名の通り探索には欠かせない存在だ。
ちなみにミックスペンギンのギルドリーダーでもある。
コットンちゃんはすらりとした長身のエルフ属で、金髪ロングヘアの若くて美しい女性だ。
師匠の中の人がデレデレしてるんじゃないだろうか。職業はわたしと同じ治療術士だ。
小人属ほどでは無いが魔法の適性があり、わたしよりもHPが高いため多少はタフである。
この世界では治療術士が需要に対して少なめで、わたしもコットンちゃんも世間では引っ張りだこ状態である。
パーティーに貴重な治療術士が2人もいるのは回復面で万全の体制となり安心である一方、攻撃面が心もとない。
コペル君も師匠も純粋なアタッカー職というわけではないので、粘りながら戦うスタイルになるだろう。
わたし達4人で村を出て沼地へ向かった。
道中の魔物はわたし達4人の戦力だと相手にならない雑魚だったので何の問題もなく沼地に到着した。
沼地は全てが沼というわけではなく、ところどころぬかるんだ地面が表出していて道らしきものを形成している。
沼の水深は、大半の場所で膝が浸からないぐらいであることが村での聞き込みで分かっている。
見渡してみると一見、魔物がそんなにいないような感じがした。
ちらほらとわたしの身長より少し低い蟹の魔物が見えるが、適当に避けながら奥へ進んでいけそうだ。
コペル君が探知能力を使って周囲を調べているようなので沼地の入口で立ち止まって待つことにした。
「見た目より多くの魔物がいる。この一帯は蟹の縄張りみたいだ。おそらく水底の土を掘って潜って待ち伏せしてる」
コペル君が、周辺で目視できる蟹の位置を確認して考え込んでいる。
「どうやら、見えている蟹の近くに隠れてる蟹が数匹いる。あと見えている蟹と蟹の間を避けて進もうとすると、蟹が水中に数匹潜んでいるルートを通ることになる」
「へー。蟹のくせになかなか考えた布陣で待ち構えてるじゃない」
わたしは感心した。
「囲まれて危なくなったら逃げるのもありなんじゃないかな? 蟹だから横方向にしか素早く動けないでしょうし」
コットンちゃんが蟹の弱点をついた提案をした。なるほどねー。
「沼地では足を取られて移動速度が落ちるから、こちらもそんなに素早く動けない。面倒だけど確実に倒しながら進もう」
と、師匠が言うとみんなうなずいた。
「コペル、ルート選定は任せるから先導して進んでほしい。あと、蟹は装甲が硬いから私の魔法剣はともかく、コペルの短剣は相性が悪い。戦闘になったらナオとコットンも蟹を一緒に攻撃してほしい」
「はーい」
「分かりました」
わたしとコットンちゃんは武器を杖から片手棍棒に持ち替えた。
蟹の硬い装甲も棍棒のような打撃属性の物理攻撃ならダメージが入りやすいだろう。
コペル君が先頭に立ってわたし達は沼地を進んでいった。
コペル君が1匹の蟹に攻撃を仕掛けると、周囲の水中から他に蟹が3匹出てきて襲いかかってきた。合計4匹だ。
まずコペル君が盾を構えて4匹の蟹を引き付けた。回避能力に優れるコペル君が蟹の攻撃をまとめて引き受けることになった。
次に師匠が適当な蟹1匹を攻撃してコペル君から引き剥がした。そして少し離れて待機していたわたしとコットンちゃんの方へ連れてきた。
3人で1匹の蟹を囲んで攻撃する。師匠は雷の魔法を付与した魔法剣で攻撃している。水棲の魔物には雷がよく効くからだ。
わたしとコットンちゃんの棍棒攻撃もそれなりに有効で、3人で攻撃すると蟹をあっさりと倒すことができた。
同じ要領で2匹目、3匹目と倒し、最後の4匹目を4人で取り囲んで攻撃して全部倒すことができた。
「蟹は攻撃力がそんなに高くないし、かなり格下の相手でコペルちゃんが攻撃を回避しやすいから、回復魔法をそんなに使わなくてすみそうですね。MPを温存しながら進みましょう」
とコットンちゃんが提案した。
「そうだね、他にも想定外の難敵が潜んでいるかもしれないから消耗を抑えながら慎重に行こう」
コペル君が同調した。
4人で蟹を倒しながら奥へ進んでいった。コペル君が時々、周辺の探知と地形の確認をしながらゆっくり進む。
しばらく沼地を進んで行くとコペル君が立ち止まった。
「どうやら蟹の縄張りを抜けたようだよ。もうしばらく奥へ行くとカエルの縄張りに入りそうだ」
コペル君が報告した。
「その前に面倒な敵がいるようだな」
師匠が前方を指差して言った。
師匠ぐらいの背丈がある巨大なナメクジが3匹、カエルの縄張りの前で立ちはだかっている。
道が狭いので避けて進むことは無理そうだ。
「周囲はナメクジの他に敵影無し。ナメクジを倒して進めってことみたいだね」
コペル君が断言した。
「私、ナメクジ苦手です……」
コットンちゃんは戦うのが嫌そうな感じだ。
「わたしもー。女の子だしー」
わたしも可愛く言ってみた。
「ナメクジは棍棒の打撃攻撃が通りにくい。私とコペルで攻撃しよう。コットンとナオは少し離れて支援に専念してほしい」
師匠は冷静にみんなに指示を出した。
「ちょっと、師匠。か弱い女の子2人がナメクジを前に可愛いらしく怖がってるんだから、思いやるセリフの1つや2つや3つぐらい言いなさいよー」
わたしは師匠へダメ出しした。
「さっきまで楽しそうに蟹を撲殺してたのに、どこがか弱いんだ……」
師匠はデリカシーの無いセリフを吐いた。
「トーマス君って戦うのは得意だけど女の子の扱いは苦手だよね」
コペル君が呆れている。
「私はトーマスさん、頼りになるし素敵だと思います」
コットンちゃんが師匠を褒めたのできっと、〝中の人〟はデレデレしてることだろう。まったく、もう。
そしてコペル君が先陣を切ってナメクジに突っ込んで戦闘を開始した。
まず、ナメクジ3匹の内、2匹をわたしと師匠の睡眠魔法で寝かせた。
コペル君が残った1匹のナメクジの攻撃を引き受けるが、今度は盾で防御に専念するのではなく、短剣で攻撃するので防御が手薄になりコペル君のHPがどんどん減っていった。ナメクジのレベルはまぁまぁ高いようだ。
コットンちゃんとわたしでコペル君の回復をする。
ナメクジを1匹ずつ師匠の雷魔法剣とコペル君の短剣で攻撃する。
師匠の方がコペル君よりも弱点を突いた有効なダメージを与えているので、ナメクジの敵対心が大きくなり、ナメクジは師匠を攻撃するようになった。
それでも、師匠はこの4人の中で一番防御力が高いので問題なく耐えていた。
1匹目のナメクジを倒し、2匹目にとりかかったところでナメクジが粘液攻撃をしてきた。
正面の師匠にヒットし、麻痺してしまったようだ。
すかさずコットンちゃんが治療魔法を詠唱し、師匠の麻痺を解除した。
「コットン、ありがとう」
「うん。任せて」
これ以降も数回、ナメクジの粘液攻撃があって師匠が麻痺したけどわたしとコットンちゃんで治療しながら戦った。
ナメクジはHPが多く防御もそれなりに高いので長期戦になったが、無事にナメクジ3匹を倒した。
「ふう、なんとか倒したね。あとはあいつを倒すだけだね」
コペル君が奥の方を指さした。
3mぐらいはありそうな巨体で、青黒いグロテスクな色をしたカエルのシルエットが見える。
おそらく、あれが巨大毒ガエルだろう。
「MPを回復してから行こう」
と師匠が言い、コペル君に回復魔法をかけてHPを満タンにしたあと休息状態に入った。
わたしとコットンちゃんも休息状態に入りMPを回復する。
コペル君は念のため探知能力で周囲を警戒している。
「ボク達に襲いかかってきそうな魔物は周辺にいないようだよ。あと巨大毒ガエルの周辺にカエルの魔物が5匹いる」
「ボスの他にお供が5匹もいるのか。ちょっときつそうだな。睡眠魔法は巨大毒ガエルにレジスト(抵抗されて無効に)される可能性が高い。かと言って、巨大毒ガエルの攻撃を受けながら、睡眠魔法を使ってお供のカエルを寝かせつつ戦うのは数が多いからジリ貧になりそうだ」
師匠は言ってから少し考えて、
「今回は私が開幕でクイックキャストを使ってお供5匹を倒すことにしよう」
と提案した。
クイックキャストは師匠の必殺技で1時間に1度しか使用できないけど、1分間だけ魔法を無詠唱かつクールタイム無しで連続で使用することができる。
弱点の雷攻撃魔法を連発すれば短時間でカエルの数を減らせるだろう。
「じゃあボクはボスとお供の攻撃を引き付けておくよ」
コペル君が師匠の提案にのったようだ。
作戦を話し合ってるうちにMPが全快した。
準備ができたのでいよいよ戦闘開始だ。
コペル君が先陣を切ってカエル達に突っ込んでいった。
そして、必殺技のミラージュステップの能力を発動した。
能力の影響で、巨大毒ガエルとお供のカエル達のコペル君への敵対心が一気に上昇した。
カエル達がコペル君に一斉に襲いかかる。が、必殺技で大幅に強化された回避率の影響でコペル君への攻撃がほぼ当たらない。
続いて師匠がクイックキャストを発動し、雷攻撃魔法を連発してお供のカエル達の殲滅を開始した。
お供のカエルを3匹倒したところで師匠のMPが残り少なくなっている。
お供のカエルはあと2匹残っているがMPが不足しそうだ。
「コンバート3秒前」
MPにまだ少しだけ余裕があるけど早めにコンバートすることにしたようだ。
師匠がコンバートを発動し、わたしとコットンちゃんが回復魔法を詠唱して素早く師匠を回復する。
お供のカエルはあと1匹になった。もう少しでその1匹も倒せそうというところで、師匠のクイックキャストの効果時間が切れた。
師匠は雷の魔法剣で、お供のカエルの最後の1匹を倒し、コペル君がキープしてる巨大毒ガエルへの攻撃を開始した。
コペル君のミラージュステップの効果も切れているので、コペル君は盾を構えて防御に専念する。
師匠が巨大毒ガエルの後ろから雷の魔法剣で攻撃し、少しずつHPを削っていった。
時々、毒の粘液がコペル君を襲って毒状態になるので、わたしとコットンちゃんで毒を治療しながら戦いを進める。
巨大毒ガエルはHP、攻撃力、防御力がどれも高くて強いが、治療術士が2人もいるので安定して戦闘を進めることができた。
時間がかかったが、なんとか討伐することができた。
戦利品として胃酸を4つドロップしたので4人で1つずつ分けた。
「やったぁ」
コットンちゃんが歓声をあげる。
「無事に倒せてよかった。村へ帰って報酬を受け取りに行こう」
師匠が余韻に浸るまでもなく言うので、
「ちょっとー。ここは美少女コンビの回復のおかげで助かったよー、とか言っとく場面だよー?」
とわたしは言ってみた。
「コットンとナオのおかげで助かったよ。コペルも開幕でカエル達を引き付けてくれてスムーズに戦闘を開始することができた。みんなありがとう」
師匠はお礼を述べた。
「うん、どういたしまして。トーマスさんもかっこよかったです」
「コットンちゃん……。そんなこと言うと、師匠の鼻の下が伸びすぎて地面に突き刺さっちゃうよー」
このセリフがコペル君にウケたようだ。
「あははは。金髪ロングのエルフの美女から、かっこいいって言われて良かったね」
「……」
師匠は何も言えないようだ。
「あの、トーマスさんはどんな髪型が好きですか? ロングヘア好きですか?」
とコットンちゃんが尋ねた。
「え……。うーん、そうだな。髪が長いのいいと思うな」
「へー。もしかしてリアルでもそんな感じー?」
「うん、そうだね。黒髪のセミロングが一番好きかな」
と師匠が言うので、やっぱりねー、と思った。
「いかにも女の子にもてなさそうな答えだねー」
わたしが素直な感想を漏らした。
「ひどい……」
師匠がうなだれているが、コットンちゃんとコペル君は笑っている。
「じゃ、そろそろ村へ行くよー」
わたしは移動魔法を詠唱して4人を村の入口付近へ瞬間移動させた。
村へ到着し、早速、錬金術士の家に4人で向かった。
胃酸を渡すと報酬のソルトジェネレーターをゲットした。
「これでクエスト終わりっと。みんなお疲れ様」
コペル君がみんなを労った。
「これって何に使うのかな? 1人1つしか持てない制限がかかってるアイテムみたいだし」
コットンちゃんが不思議そうにしている。
「敵に投げつけると周囲に塩を大量に生成する効果って説明欄に書いてあるから、ナメクジに投げて使うのかもしれない」
師匠が真面目に答えている。
「でも1人1つしか持てないんじゃ、使い所が限られそうだねー。正直、しょぼい報酬だよねー」
わたしは少しがっかりして言った。
「最近、実装されたクエストだからとりあえずやってみたけど、報酬がいまいちだから、他のプレイヤーもあんまりこのクエストやってないっぽくて、ネットであまり事前情報が収集できなかったんだ。でも、楽しめたから良かったんじゃない」
とコペル君が言うのでみんなうなずいた。
「今日も楽しく冒険できてよかったな。解散しよう。みんな、またね」
師匠が最後を締めてパーティーを解散した。
そろそろご飯の時間だなー。
「わたし、そろそろ落ちるねー」
わたしはミックスペンギンのギルドチャットで挨拶してログアウトした。
ノートPCでStella of Dragonのゲームアプリを終了し、わたしはふうっとため息をついた。
ノートPCの傍らで黒猫のぬいぐるみが画面を見守っている。わたしはぬいぐるみを優しく撫でた。
そしてノートPCの近くにある手鏡を手に取ってわたしを映してみる。
明るい茶色に染まったロングボブの自分の顔が映っていた。
「ご飯できたよー」
リビングから律が呼ぶ声が聞こえてきた。
「今、行くー」
わたしは手鏡を置いてリビングへ向かった。




