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第7話【1日目】ビジョンを決める

 冬真達が宿泊棟に向かって歩いてる道中、不意に山本さんが思いついたように言った。

「まだ夕ご飯までだいぶ時間あるし、どこかで集まって今後の方針を決めない?」

 冬真は確かにそうだと思った。

「でもどこで話そうか。さっきのプレハブ棟の会議室は第5チェックポイント実施中だから使えなさそうだし」

 と、言うと玲央奈ちゃんが、

「それなら食堂でええやん」

 と提案してくれたのでみんなで食堂に向かった。


 食堂はあまり人がいなかった。

 日が陰り始め、柔らかい光が差し込んでいて、どこかゆったりした雰囲気だった。

 これなら落ち着いて話せそうだ。

 みんな、コップに水を汲んでから席に座った。

 開口一番、山本さんが言った。

「まず、リーダーを決めたいんだけど。わたしは奥村さんがいいと思う」

 なんだかんだ言って頼りにしてくれているらしい。

「ウチはお父さんがええと思う」

「私も悟さんがいいと思います」

 玲央奈ちゃんと青木さんが口を揃えて言う。

 うーん、俺も年長者の悟さんに任せたいなぁ。

 ……と思っていると悟さんが話し始めた。

「ちょうどいい頃合《ころあ》いだから話をしておこう。私はこのパーティーのリーダーは奥村さんに務めてもらいたいと考えている」

 と言い切った。悟さんからも評価してもらえているってことだろうか?

「私はマネージャーをするつもりだ。奥村さんには各ミッションで皆を指揮し戦術を実行してもらいたい。私はこのパーティーが成長していけるように支援する役目を担うよ」

 なるほど……。リーダーよりも一段高い目線で管理してくれるわけか。

「うん、分かった。お父さんがそう言うならそれでええよ」

 玲央奈ちゃんは父親のことを信頼しているようだ。

「他の人はどうかな?」

 悟さんが確認する。

 冬真、山本さん、青木さんがそれでいきましょう、と全員うなずいた。


「ではここからは私が進行する。まずは現状把握から始めよう。差し迫っているやらねばならないことと、今の我々の状況を確認して問題が無いかどうか確認しよう」

 と、悟さんが言ってみんなを見た。

「差し迫っていることと言えば3日目終了時点の足切りスコアのクリアやな」

 玲央奈ちゃんが言う。確か足切りラインは1500だっけ。これを満たさない参加者は4日目以降のミッションに参加できない。

「じゃあ今のみんなのスコアを確認してみましょー」

 と山本さんがスマホを操作した。パーティー管理アプリでメンバーのスコアを確認できる。

 冬真:550、山本さん:560、青木さん:580、悟さん:520、玲央奈ちゃん:570。

 第3チェックポイントの結果の影響でスコアがばらけている。

「1日あたりのノルマを500と仮定すると全員が足切りラインをクリアできそうなペースだな」

 冬真はひとまず安心した。

「足切りラインを超えた後、4日目にバトルロイヤル形式のミッションがあるんでしたよね」

 と青木さんが確認する。

「せや。準々決勝に進む8つのパーティー同盟をバトルロイヤル形式で決めるみたいやから、3日目までにできるだけパーティーの人数を増やしておいたほうがええな」

「人数を増やしていくならパーティーポイントを確保しておいたほうがいいよねー。今は何ポイントあるんだっけ?」

 と山本さんが質問した。

 パーティーポイントは20代前半までの若者や40代以上の年配者をパーティーに入れると加算される。

 単純な戦力面の視点でいくと、脂の乗った30歳前後の社会人同士で固まってパーティーを組む方向になってしまうため、そうでない世代がパーティーを組みやすくするための配慮だ。

「ウチが+2ポイント、お父さんが+2ポイント、奈緒さんが+1ポイントで合計5ポイント。いま、5人でパーティー同盟を組んでるから2ポイント消費して残り3ポイントやね」

 と玲央奈ちゃんが報告した。

「と、いうことは更にパーティー同盟を増やしたり、クラス重複するメンバーも入れたりできそうだな」

 パーティー人数を増やしていくことにも問題無さそうなので冬真は安心した。

 現状把握の結論としては、現時点で特に問題点は見当たらない、ということで悟さんがまとめた。


「ねね、ところでさ、メンバーを増やす件なんだけど、若い男性の優先順位を高くしたほうがいいと思うんだよねー」

 と山本さんが提案した。

「素敵な男ならダーリンがおるやん。もう浮気するん?」

 玲央奈ちゃんが笑いながら言う。

「うーん、ダーリンだけだと体力系ミッションがきついと思うんだよねー。ドッジボールの時も女子供でがんばったわけだし?」

 冬真は、俺もがんばったわけだが……と言いたかったが今日で散々学習したのでやめておいた。

「確かにドッジボールは、ほんまにきつかったな……。もしも奈緒さんがおらんかったらかなり厳しかったわ」

 と言って玲央奈ちゃんがスマホを確認しだした。

「私は……。オリエンテーリングの時もドッジボールの時も、奥村さんがいてくれて頼もしかったです」

 青木さんがちらりと冬真を見てうつむいて言った。

 可愛い……。青木さん、マジ天使。

「ほーら。すーぐ、ニヤニヤしちゃう男に頼ってられないでしょー」

 山本さんがピシャリと言う。もう少し、この幸せを噛み締めていたかったのに……。

「若い男の人選やけどウチに任せてもらえる? 今、心当たりを調べたらパーティー組んで無かったから明日の朝、誘いにいくで」

 と玲央奈ちゃんが提案したので、じゃあそれでいくかということになった。

 心当たりってどういうことだ? 男友達がトリニティミッションに参加しているのだろうか? それとも彼氏だろうか? 彼氏ならなんで今日合流しないんだろう?

 ……と、気になったが口に出すと山本さんから何か言われるだろうし、青木さんからも減点をくらうかもしれない、やめておこう。


「次に、パーティーを導いていくためのビジョンを設定したい。皆で共通のビジョンを持つことでチームワークの基礎固めを行いたい」

 と悟さんが提案した。

「ビジョンってよく聞くけどぼんやりとしたイメージで何を決めればいいかよく分からないです……」

 青木さんが素直な感想を漏らした。

「この場ではパーティーとしてあるべき姿、我々が目指す目標のことだとして捉えて欲しい」

 悟さんが補足する。

「ウチとしては神崎さんみたいな強い相手と対戦して勝ってみたいかな」

「神崎さんの波動を見た感じ、見るからに強者って雰囲気でした。勝つのはすごく難しそうだなと思いました」

「うーん、そうだねー。正直、強者の壁みたいなのを感じたなー」


 ふむ、と悟さんはうなずいて冬真を見た。

「奥村さんは振り返ってみてどう思う? もっとうまくやれる余地があったとは思わなかったですか?」

「そうですね。今、振り返ってみると1戦目の〝ターン〟時点で玲央奈ちゃん以外のメンバーでフォールドしたのがまずかったと思います」

 と、冬真は話し始めた。

「まだ〝リバー〟が残っているのに早々にフォールドしたので玲央奈ちゃんに相当強い役がきたと推測されてしまったのだと思います。だから神崎さんのパーティーが全員フォールドしてしまって敗者を出せなかった。玲央奈ちゃんがフルハウスで勝利しても実質的には負けていました」

 玲央奈ちゃんがへー、と感心した目で冬真を見た。

「その通りだ。あそこで流れが神崎さんパーティーに傾いた。1戦目で彼らに敗者を出して1人減らしておけば2戦目以降の流れが変わっただろう。うまくやれる余地が生まれたはずだ」

 悟さんが見解を話した。更に、

「1戦目を受けて、2戦目以降の流れがどうなったか奥村さん、説明できるかな?」

 と冬真に続きをうながした。

「はい2戦目について話します。今度は俺達全員が〝リバー〟まで残りました。神崎さん達はこれで、〝今回はフルハウスより弱い役〟だろうと判断したのでしょう。だから確信を持ってフラッシュで勝負したのだと思います」

 青木さんと山本さんも冬真の話を真剣に聞いている。

「最後の3戦目。俺達全員が〝リバー〟まで残ったので、同様にフルハウスより弱い、更に2戦目を受けておそらくスリーカード以下の役だと神崎さんは推測したと思います。ホワイトボードにスペードが3枚あったので、ブラフで2戦目で印象に残したフラッシュだと思わせて俺達全員をフォールドさせました」

「なるほど。そんな駆け引きがあったわけやな。ウチらは神崎さんの手のひらの上で踊ってたわけや」

 玲央奈ちゃんがしょんぼりしているように見える。

 悟さんがうなずきながら言った。

「さすが奥村さんですね。私も奥村さんの説明の通りだと思う。運も実力の内、という言葉があるが、強者はその場の流れすらも味方につけて力に変えることができる」


 悟さんがみんなを見た。

「さあ、どうしますか? それでも先程、玲央奈が言っていた〝強者に勝てるパーティーになる〟というビジョンを設定しますか?」

 みんな黙った。冬真にはそのビジョンは身の程知らずかもしれない、と思えた。でも……。

 ちらっと山本さんを見た。神崎さんは山本さんを引き抜こうとしていた。

 メンバーを守るためには強者に対抗する術を持たなくてはならないのではないか。

「奥村さん、迷ってる? トリニティミッションはデスゲームじゃないから失敗しても死なないし、迷ってるならやってみたらー?」

 と山本さんは気軽に言うけど……。

 冬真は少し考え、躊躇《ちゅうちょ》して言った。

「あの、悟さん」

「気になることがあるなら何でも聞いて欲しい」

 悟さんは優しく微笑んだ。

「俺達が強者に対抗することは可能なんでしょうか?」

 ふむ……。と言って悟さんは真剣な顔になった。

「対抗できる可能性がある、といったところかな。相当困難な道になるだろう。安易に〝ここにいる皆さんなら出来ます〟とは現時点で言えない」

 悟さんはみんなを見回しながら言った。

「もしも実現するとしたら何が必要ですか?」

 食い下がって聞いてみた。

「まず、ビジョンの共有、皆の納得を得ることが必要だ。そして皆をビジョンへ向かって導く力、ビジョンを具現化する実行力が必要だ」

「一言で言っちゃうと、みんなで心を1つにして強者と戦おー、って感じかなー」

 山本さんが口を挟んだが、悟さんは、

「その通り」

 と肯定した。

「みんなを導くためにはどうすればいいですか?」

 と冬真は聞いてみた。

「まず、ビジョンへ向かって困難な道を乗り越えていくための勇気を持つこと。そして何よりもメンバーから信頼されることが大事だ。そのためには、自分自身を受け入れるための心の強さ、他者を受け入れるための度量を備えることが条件になる」

 冬真は今の俺には難しそうだ……と思った。でも。

「どこまで出来るか分かりませんが、目指すだけならやってみようかなと思いました」

 気付けば口から出ていて自分でも驚いた。

 玲央奈ちゃんが笑顔になる。

「ほな、ウチらのビジョンは〝強者に勝てるパーティーになる〟で決まりやな」

「がんばろー」

 なぎささんは気合を入れたようだ。

 良かった、みんなの士気が上がった気がする。冬真は自分の判断が正しかった、と思うと同時に責任の重さを感じた。

 青木さんが尊敬の目で冬真を見る。

「奥村さん、かっこいいです。私もできる限り協力しますね」

 と言ってくれたので、冬真は俄然《がぜん》やる気がでてきた。

「ダーリン、かっこいー。ずっとついていくねー」

 と山本さんが言うので、冬真は何か裏があるんじゃないかと思った。

「奥村さん、かっこええなぁ。そういうところ、すごく好きやで」

 と玲央奈ちゃんが言ったところで、冬真はこれは遊ばれているな、とやっと気付いた。


「では、取り急ぎ決めるべきことは決めたので、いったん解散としよう。奥村さんと山本さんは個別に面談させてほしい」

 と悟さんが言った。

「まずは奥村さんと面談しよう。すまないが食堂に残って欲しい」

「青木さんとは面談しなくてもいいんですか?」

 冬真が聞くと既に午前中に済ませたからいいとのことだった。

「わたしはどうしたらいいですかねー?」

 と山本さんが聞くので、

「山本さんはあとでスマホのWeb会議を使って面談するから先に宿泊棟に戻ってください」

 と悟さんが答えた。


 日がさっきよりも大分傾いてきていて、綺麗な夕焼けが窓から見える。

 みんなが食堂から出た後、悟さんが問いかけてきた。

「まずはお疲れ様でした。今日、1日過ごしてみてどうだったかな。率直な感想を教えて欲しい」

「うーん、そうですね。いい雰囲気のパーティーが組めて良かったなと思いました。きっと山本さんから、からかわれるのでみんなの前では言い難いですが」

「そうか、それは良かった」

「あと、玲央奈ちゃんにはだいぶ助けられたな、と感じました。まだ高校生なのにとても敵《かな》わないな、と感心しました。俺にもあんな才能があればもっと違った人生だったのかなと思いました」

 ふむ……。と言って悟さんはじっと冬真を見た。

「今の人生に満足していないということかな?」

「はい。もっと自分に才能があれば不本意な就職をしなくてすんだんじゃないかって時々思います。他人から見ると努力不足だろうって言われると思いますが」

 冬真はここまで話すとうつむいて、そして話を続けた。

「でも、自分なりには毎日できるだけのことはやってきたつもりだし、就職してからは毎日疲れてるけどそれでも無理して一生懸命やってきてるので」

 ふふ、そうか、毎日お疲れ様です、と悟さんが労《ねぎら》ってくれた。

「会社では一生懸命やってることもあって同期より早めにプロジェクトリーダーに昇格しましたが、トリニティミッションに参加してみて玲央奈ちゃんや神崎さんみたいな人達を見ると才能のある人には全然敵わないなって」

「神崎さんはともかく、玲央奈はまだまだ子供だよ。確かに玲央奈は賢い。しかし、学校ではインプットする力を鍛えられてもアウトプットするための実践的な力を鍛えることが難しい。そちらの面では社会人経験を積んでいる奥村さん達にうまくサポートしてもらいたい」

 と頼まれたので冬真はうなずいた。

「でも、俺のような凡人にどこまでできるか分からないですよ。何しろステータスが空欄だし」

「いや、その件だがね。奥村さんは同年代の社会人と比較して明らかに標準層よりも上のレベルだ。山本さんや青木さんも優秀だと思う。ステータス欄の表示がある人はかなり突出した力があると想定している」

「そうでしょうか」

「肌感覚だが、このトリニティミッションの参加者は〝平均未満〟の人が少ないのではないかと思っている。だから奥村さんのように優秀な人であっても周囲のレベルがそもそも高いから、能力だけでアドバンテージをとるのが厳しいバランスになっていると思う」

「なるほど。それでパーティーを組むように仕向けてるわけですね」

「私はそう予想している」

「納得できました。ありがとうございます」

「役に立てたのなら何よりだ」

「本当に今のパーティーを組めて良かったなって思いました。このトリニティミッションへの参加を上司から打診されたとき、『若いときはいろいろな経験を積んでおいたほうがいい』からって言われて、しぶしぶ参加してたんですが、今は参加して良かったと思います」

 ふーむ、と悟さんは一拍《いっぱく》置いて話し始めた。

「私は『若い時の苦労は買ってでもしろ』という、ことわざに個人的には納得できなくてね。避けられる苦労は避けるべきだと考えている。自分だけじゃなくて周囲も巻き込んでしまう場合もあるしね」

「でも、それでも避けきれない場合がありますよね」

「どうしてもやらなければならない、という状況になったら、どうせやるなら前向きな理由をがんばって探すほうに舵《かじ》を切るのが私のスタンスだ」

 なるほど……。冬真はなんとなく納得した。

「面談ありがとうございました。なんだかすっきりした気分です」

 面談が終わったので悟さんと一緒に宿泊棟に移動した。

 お互いに明日もよろしくお願いします、と言って悟さんと別れた。


 夕食後、冬真が自室でくつろいでいるとスマホに着信があることに気づいた。

 悟さんからパーティーメンバー全員に発信されたチャットだった。

 冬真はチャットを確認した。



--

 山本さんと面談しました。アパレルメーカーでMD(マーチャンダイザー)を務めているとのことでした。

 社外、及び社内の様々な部門の人たちと連携をとって進めていく仕事であることから折衝《せっしょう》能力が高いと判断しました。

 よって、山本さんにはパーティーの外交役として動いてもらうことにします。

 コミュニケーションアプリを活用して他のパーティーとの交流を進めてもらうつもりです。

--



 なるほど。山本さんのキャラに合っていそうだな。

 なんとなく窓のカーテンを開けて外を見てみる。

 雲が無く月がはっきりと見える。おそらく後少しで満月という頃合いだろう。

 明日も晴れるかな。

 カーテンを閉じて机にスマホを置いて充電し、ベッドに座ってぼーっとしていると……。

 ……なんだか急に疲労感が襲ってきた。今日は早めに寝よう。

 冬真はベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。


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