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第6話【1日目】強者に挑む

 奈緒子達は第5チェックポイント会場のプレハブ棟の前までやってきた。

 プレハブ棟はまだ新しい。おそらく今回のトリニティミッション用に建設されたのだろう。

 平屋でかなり広い建物だ。内部には多数の会議室がある。

 内装は質素で、ほんのり新築特有の人工物っぽい匂いがする。

 中はエアコンが効いていて快適だ。

 奈緒子はドッジボールで火照《ほて》った体が冷やされていくのを感じた。

 入口から入ってすぐにロビーがあり、第5チェックポイントの看板が見えた。

 折りたたみ机の上にミッション用QRコードを記載した紙が置いてあるので奈緒子達はスマホで読み取った。



 <第5チェックポイント【運】>

 ・テキサスホールデムポーカー

 ※基本ルールは別項を参照すること。

 ・任意の対戦相手と試合すること。

  3戦行う。

  後述する〝勝者〟1名が所属するパーティー側が勝利となる。

 <獲得スコア(1戦毎):勝利時30 引き分け時20 敗北時10>

 <ボーナススコア:3戦目終了時点で生存メンバーの人数×+10>

 ※なお、本ミッションでは試合に参加していないパーティーメンバー、及びパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。


 以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。

 ・最大4名まで参加者を選ぶことができる。

 ・チップは使用しない。

 ・勝者はショーダウン(手札公開)時に最も強い役を揃えた1名とする。

  勝者以外は味方の参加者を含めてすべて敗者とする。

  勝者の判定はディーラーが行う。

  判定の結果、引き分けとなった場合、その1戦は勝者・敗者共に無しとして扱う。

 ・敗者へ以下のペナルティを課す。

  ◇次の戦いに進めない。

   例:1戦目の敗者は2戦目、3戦目に挑めない。

  ◇味方が全員敗者となり参加可能なメンバーが0名になった場合、自動的に相手側の勝利となる。

 ・ショーダウンまでにフォールド(勝負を降りる)した場合、敗者とならない。

 ・味方が全員フォールドした場合、相手側の勝利となる。



 なんだか難しそう。ポーカーの役なら知ってるけど。とにかく強い役を作ればいいんだよね。

 ちょっと不安だけど玲央奈ちゃん達が良いやり方を考えてくれるよね。

 と、奈緒子が考えていると、ちょっと神経質そうな30代前半ぐらいのイケメン男性が悟さんに声をかけてきた。

「水無瀬さん、ご無沙汰《ぶさた》しております。神崎です」

 悟さんの知り合いみたいだ。この人の波動は自信とそれを裏付けているであろう実力に満ちている。

「あぁ神崎さんか。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「水無瀬さんもトリニティミッションにご参加されていたんですね。もしも対戦相手がまだ決まっていないなら我々と勝負していただけますか?」

「うん、たぶん私は参加しないけどそれで良ければパーティー内で相談してみますよ」

「えー、それは残念ですね。ま、それでもいいですけど」

 と神崎さんがガッカリしたところで、玲央奈ちゃんが悟さんの隣にきた。

「神崎さん、お久しぶりです。3年ぶりぐらいですね」

「もしかして、玲央奈ちゃん? すごく大きくなったね。見違えるようだ」

 奥様に似て綺麗になりましたね、と神崎さんが悟さんへ言うと玲央奈ちゃんが照れながらも、それってルッキズムですよ、と返していた。

「玲央奈ちゃんとの勝負なら、少しは楽しめるかもしれないな。是非、お願いします」

 と神崎さんが言ったところで、なぎささんが奈緒子のほうを見た。

 奈緒子がうなずいたので、なぎささんが自分のスマホを神崎さんに向けて出して言った。

「では対戦手続きをしましょう。こちらのQRコードの読み取りお願いします」

 神崎さんがなぎささんを見て、はっとした顔になった。波動を確認するまでもなく、好意を抱いているのが分かった。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 神崎さんが了承して対戦手続きした。

 奥村さんが、俺への意思確認はやっぱり無しか……というような表情だったのでちょっと面白かった。

 みんなで会場の会議室に向かった。


 会議室に入ると40代ぐらいの男性の運営スタッフが待機していた。

「佐伯《さえき》と申します。ディーラー役を務めさせていただきます。よろしくお願いします」

 と言って出迎えてくれたのでこちらもよろしくお願いします、と挨拶した。

 なぜか悟さんが佐伯さんのスタッフ証をじっと見つめている。

「よろしければテキサスホールデムポーカーの流れを一度実演して説明しますがいかがでしょうか?」

 と、佐伯さんが言ってくれたので奈緒子は奥村さんをつんつん突付いて小声で言った。

「お願いしたいです」

 奥村さんがうなずいた。

「お願いできますか? ルールをよく分かっていないメンバーがいますので」

 と奥村さんが頼んでくれた。

「承知しました。参加者はお決まりですか?」

「我々はちょうど4人のパーティーなのでこのメンバーで参加します」

 と神崎さんが言った。

 神崎さんのパーティーは全員男性だった。みんな賢そうだし、手強そうな雰囲気だ。

 悟さんが奥村さんに私は不参加だ、と言ったので

「こちらは私と、こちらの女性3名が参加します」

 と奥村さんが答えた。


 折りたたみ机が会議室中央に2つ置いてあり、その間を佐伯さんが通れるように2つの机の間に隙間が空いている。

 それぞれの机の前に各パーティーの参加者が分かれて座った。

 佐伯さんがトランプを2枚ずつ参加者に配り、更に正面のホワイトボードに3枚のトランプをマグネットで止めた。

「テキサスホールデムポーカーでは手持ちの2枚とこちらのホワイトボードに貼った共通カードの中から任意の3枚を組み合わせて役を作ります」

 奈緒子は手持ちの2枚とホワイトボードの3枚を組み合わせるとワンペアの役ができていた。

「今が〝フロップ〟と呼ばれる状態です。これ以降、勝ち目が無いと判断したらフォールド(降りる)を宣言して手札を置いてください」

 そして佐伯さんがホワイトボードに1枚トランプを追加した。

「今が〝ターン〟と呼ばれる状態です。フロップと同様、フォールドが可能です」

 更に佐伯さんがホワイトボードに1枚トランプを追加し、合計5枚になった。

「そして最後の〝リバー〟と呼ばれる状態です。フォールドするなら最後のチャンスとなります」

 奈緒子は手持ちの2枚とホワイトボードのトランプを組み合わせるとツーペアの役にランクアップしていた。

「最後がショーダウンです。みなさん、トランプをオープンしてください」

 全員、トランプを机の上に置いた。

「あなたのツーペアが一番高い役ですね。あなたが勝者となります」

 と佐伯さんが奈緒子を手で指した。

 やったぁ。

「他は全員敗者となります。敗者になるのを避けたい場合は〝リバー〟までにフォールドしてください」

 なるほど、だいたい分かった。

「なお、パーティー内で手持ちの2枚を自由に見せ合っていただいて問題ありません。説明は以上となります。何かご質問はありますか?」

 質問は無いようだった。

「ところで、もしも試合前に作戦を立てたいなら、最大10分まで許可できますがいかがでしょうか?」

「お願いします」

 と奥村さんが頼んだので佐伯さんが承知しました、と言って別の会議室に案内してくれた。

 神崎さんたちも別の会議室へ移動したようだ。


 会議室に入ってから、玲央奈ちゃんが口火を切った。

「まず、基本的な方針を決めていくで。勝者がたった1人ってことは、最後のショーダウンに残るのはこちらのパーティーで最も強い役を作った人だけにすべきや」

 みんながうなずく。

「あと、敗者が次の勝負に進めないという厳しいペナルティを考えると1戦目、2戦目は弱い役で勝負するのはなるべく避けたいところや。最悪の場合は無理せずに全員フォールドすることも考えたほうがええ」

 なるほど。そういえば生存ボーナスもあったっけ。

「どのぐらい強い役が出来たら勝負するかを決めておこう」

 奥村さんが意見をうながしたので、なぎささんが、

「最低ツーペアか、できればスリーカードぐらいじゃない? 相手が4人揃ってる時とかにワンペアで勝負するのはきつそうだよねー」

 と答えた。

「ほな、ウチらの生存人数、相手の生存人数、何戦目かも考慮して、奥村さんに勝負するかどうか決めてもらうことにするで」

 と玲央奈ちゃんが決めた。

「あと、奈緒さんに1つ頼みがあるんや」

「相手が自信ありそうかどうか私がチェックするんだよね」

「そうや。相手に強い役が揃ってそうかどうかは重要な情報や。普通は表情とかで判断するもんやけど、神崎さんは手強いで。今回は奈緒さんのアドバンテージを活かして戦うんや」

 悟さんが珍しく口を開き、

「神崎さんは間違いなく強者だよ。心してかかってほしい」

 と、みんなに注意をうながした。

「対戦相手のステータスをチェックしましょーかねー」

 なぎささんがスマホを見始めたので、奈緒子もチェックしてみた。

 神崎さんが知力++、他のメンバーは知力+が2名、体力+が1名だった。

「とんでもない相手とやることになっちゃったねー」

 なぎささんがため息をついた。

 とはいえ運のチェックポイントだ。結局は強い役が揃ったほうが有利だ。更に奈緒子の共感覚もある。十分対抗できるはずだ。


 みんなで先程の会議室に戻った。少し遅れて神崎さん達も戻ってきた。

 そして試合が始まった。佐伯さんが進行していく。


 1戦目。

「フロップ」

 佐伯さんがちらっとみんなを見る。続いて、

「ターン」

 と進めていく。

 あ! 玲央奈ちゃんにフルハウスが揃った! しかし玲央奈ちゃんは表情を変えない。

 奥村さんがフォールドのジェスチャーをした。なぎささんも私もあと1枚でフルハウスを超える役は揃わなさそうなので残っても仕方ないか。

 玲央奈ちゃんだけを残して私達はフォールドした。

「リバー」

 神崎さんパーティーが全員フォールドした。

「よっしゃ」

 玲央奈ちゃんがガッツポーズする。

 1戦目はこちらの勝利だ。


 2戦目。

「フロップ」

「ターン」

 なぎささんにスリーカードが揃った。

「リバー」

 奥村さんがフォールドのジェスチャーをした。

 なぎささんだけを残してフォールドした。

 神崎さんパーティーも1人を残してフォールドしていた。

 奈緒子は残った1人をじっと見る。

 自信のある波動。強い役が揃ったようだ。

「強い役がきてそうです」

 小声で隣の奥村さんの耳元に囁《ささや》いた。

 理由は分からないが奥村さんから喜びの波動を感じる。

「よろしいですか?」

 と佐伯さんが確認する。

「はい」

 と奥村さんが答えた。こちらはスリーカードで勝負だ。

「ショーダウン」

 なぎささんと神崎さんパーティーの人がほぼ同時にトランプをオープンした。

 神崎さんパーティーは格上の役、フラッシュで勝利となった。なぎささんが敗北となり離脱することになった。

「あちゃー。奥村さん、これは後でおしおきだねー」

 と言ってなぎささんが奥村さんを小突いた。


 3戦目。

「フロップ」

「ターン」

 今度は奈緒子の役がスリーカードになった。

「リバー」

 奥村さんがフォールドのジェスチャーをして、奥村さんと玲央奈ちゃんがフォールドし、奈緒子が残った。

 相手パーティーは神崎さんが残っている。

 自信のある波動。勝利を信じて疑わない表情。

 静まり返った会議室の中で、奈緒子と神崎さんの視線が交錯《こうさく》した。

「強い役がきてそうです」

 小声で奥村さんの耳元で囁いた。

 奥村さんは喜びの波動を出しながらホワイトボードをちらっと見た。

 5枚の内、スペードが3枚。さきほどと同じ、フラッシュかもしれない……。

 奥村さんがフォールドして生存ボーナスを狙いましょう、とつぶやいた。

 やっぱりそのほうがいいよね。

 奈緒子はフォールドした。

 全員フォールドしたので神崎さんパーティーの勝利となった。


 玲央奈ちゃんが神崎さんのところへ歩いていった。

「流石《さすが》です。やっぱり強いですね。ところで役を見せてもらってもいいですか?」

 と言うので神崎さんは持っていた2枚を玲央奈ちゃんに渡した。

「ワンペアか……。ウチらの完敗です。ありがとうございました」

 なんとフラッシュじゃなかった。ワンペアなら勝負していれば奈緒子が勝っていたのだ。

「なかなか楽しめたよ、玲央奈ちゃん。また機会があったら勝負しよう」

 神崎さんは余裕の笑みを浮かべている。

 奈緒子はポーカーが運だけではなく知力で戦うゲームなのだと思い知らされた。


 試合が終わったのでお互いありがとうございました、とお礼を言って別れた。

 神崎さんがなぎささんに声をかけた。2人で話がしたいみたいだ。

「ロビーで待っててー」

 と、なぎささんが言うのでロビーで待つことにした。


 しばらく経ってなぎささんがロビーに来たので、みんなで宿泊棟へ向かって歩いた。

 気になったので、

「差し支えなければ何の用事だったか聞いてもいいですか?」

 と奈緒子は質問した。

「ストレートに、『好みのタイプなので一緒に行動したいです。こちらのパーティーに来て欲しいです』って言われたよー」

 なんと引き抜きの話だったようだ。

「『さきほどの勝負でこちらの実力がよくお分かりになったと思います。お試しでもいいからお願いします』、だってさー」

「で、断ったわけやな」

 玲央奈ちゃんが笑って言った。

「まーねー。『わたしには心に決めた人がいるので無理です』、ってはっきり言ってやったわ」

 良かった。そして、奥村さんのほうをじっと見てみる。動揺から安心の波動に変わった。うふふ、素直だなぁ。


 なぎささんが奥村さんの隣に来た。

「ねね、ダーリン。何、とぼけた顔してるのよ。なぎさは渡さない! ぐらいのセリフをかっこよく言っとく場面だよー」

 玲央奈ちゃんが吹き出した。

 なぎささんは笑顔だったが、目は笑っていないように見えた。

「え……。なんで……」

 奥村さんはやっぱり気が利かないなぁ。

「じゃーさ、じゃーさ、ナオは渡さない! でもいいよ。ちゃんと心をこめてね。早く、早く」

 となぎささんが奥村さんをせかした。

 奈緒子はこらえきれずに吹き出した。

「青木さんは渡さない!」

 !!! ……かっこいい。嬉しい。

「はい、正解! よくできました」

 と言って、なぎささんが奥村さんのみぞおちにパンチした。

「ごふっ……。なんで……」

 玲央奈ちゃんが笑い転げている。

 悟さんが、

「奥村さんは女性の扱い方をもっと勉強する必要がありますね」

 と言ったので女性3人で首がもげそうなほど、うなずいた。


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