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第5話【1日目】役に立つ

 食堂を出ると眩しい日差しが奈緒子を包んだ。

 暑いけど、気温と一緒に気持ちも上がってきている。

 いい雰囲気だよね。

 奥村さんをちらりと見て奈緒子は自分に言い聞かせた。

 玲央奈ちゃんのおかげで無事に奥村さんと合流できて良かった。

 想像通り頼りになる人だったし、優しいし。

 奈緒子だけにじゃなくて、パーティーメンバーみんなに優しいのがいいな、と思う。

 トリニティミッションが終わるまでにもっと仲良くなりたい。

 奈緒子は第4チェックポイントへ向かいながらそんなことを考えていた。


 でも、ずっとのんきにはしていられない。

 奈緒子もそろそろちゃんと役に立たなくては。

 次のミッションで奥村さんにいいところを見せたい。

「あそこみたいやで」

 玲央奈ちゃんがグラウンド付近の第4チェックポイントの看板を見つけた。

 そばにテントが設置してあり、ミッション用のQRコードが貼り出してあったので、奈緒子達はスマホで読み込んだ。



 <第4チェックポイント【体力】>

 ・ドッジボール

 ※基本ルールは別項を参照すること。

 ・任意の対戦相手と試合すること。相手の内野を全滅させると勝利。

 <獲得スコア:勝利時100 引き分け時50 敗北時80

 <ボーナススコア:内野生存2名で+10 内野生存3名で+20>

 ※なお、本ミッションでは試合に参加していないパーティーメンバー、及びパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。


 以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。

 ・内野は最大3名、外野は1名で開始する。(最低2名以上の参加が必須)

 ・外野が内野に対し攻撃成功しても内野へは移れない。内野→外野の一方通行。

 ・制限時間は最大10分とする。10分で決着がつかない場合は引き分けとする。

  敗北よりも引き分けのほうが獲得スコアが低くなるため注意すること。



「よっしゃ、着替えてきてよかった」

 なぎささんがガッツポーズしている。その直後、奈緒子の方を見て心配そうに聞いた。

「あー……。奈緒さんは服が汚れそうだしやめとく?」

「いえ、大丈夫です。ビブス付けるみたいだし、多少汚れても構わない服なので」

 と奈緒子は答えた。

 やっと活躍できるミッションがきたかもしれない。なんとしても参加しなくては。

「ちなみに……シャツよれよれ男は別に汚れてもいいわよねー」

 となぎささんが奥村さんのほうを見て言った。

「はい、ダイジョブです」

 奥村さんはまるでYESしか回答が許されていないロボットのように答えた。

 玲央奈ちゃんと悟さんも服装のほうは問題なさそうだ。

 しかし、

「年寄りの私は不参加とさせてもらいます。ここは若いみなさん達でお願いします」

 と悟さんが辞退した。


「じゃあ内野と外野の配置を決めますかね」

 奥村さんが言ったところで奈緒子はすかさず、

「あの」

 と言って手を上げた。

「私、運動はそんなに得意じゃないですけど、ドッジボール避けるのだけは得意です」

「そっか、相手の攻撃を事前に察知できるわけやな」

 玲央奈ちゃんの言葉に奈緒子がうなずく。

「じゃあ内野1人目は青木さんでいきましょうか」

 奥村さんが確認し、みんなでうなずく。

「ウチ、運動けっこう得意やで。内野がええと思う」

 玲央奈ちゃんが立候補した。

「じゃあ内野2人目は玲央奈ちゃんに任せましょうか。3人目は……」

 と言って奥村さんがちらりとなぎささんを見て続けて言った。

「いちおう男性の俺がやりましょうか」

「ちょっと待ったー!」

 なぎささんが止めた。

「え? 山本さんの要求通り、女性をリードしてみたんですけど」

 奥村さんは不満そうだ。

「うーん、なーんか、奥村さんって鈍感だから避けるのに向いてない感じがするのよねー。ここはスニーカーに履き替えて軽快に動けるようになった、このわたしに任せなさい。奥村さんは外野でよろしくー」

 となぎささんが有無を言わさない感じで言いきった。

「それもありかもしれへんな。時間切れの引き分けが一番最悪やから男性で攻撃力のありそうな奥村さんは外野から攻撃に専念してもらうのもありやな」

 玲央奈ちゃんが賛同したので、これで決まった雰囲気になった。

 奥村さんは一瞬、固まっていたけどすぐに気を取り直して、

「じゃあ決まったところで対戦相手を探しますか」

 と少し寂しそうに言った。


「あ、ちょっと待ってくれへん?」

 玲央奈ちゃんがいったん止めてから続けた。

「2つ、奈緒さんにお願いがあるんやけどええ?」

「なんでしょう?」

「1つ目から説明するで。まずは攻撃や。ドッジボールの攻撃って内野と外野でパス回しをして相手を翻弄《ほんろう》してから当てにいくって戦法あるやん。で、パス回ししてる最中に攻撃ターゲットの集中力が弱まったら合図してほしいんや。その合図で仕留めにいく」

「うーん、一度に激しく動き回る複数の人を見るのはちょっと無理かなぁ」

 奈緒子が不安そうに言うと、

「誰か1人でええで。誰を狙うかは奈緒さんに任せるわ。対象の人をじっと見る必要があるやろうからウチらも奈緒さんが誰をターゲットしたかすぐに分かると思うわ。まず、相手の数を減らすのが先決や。奈緒さんの主観でええから一番鈍そうな人からターゲットして欲しい」

「そういうことならできると思います。じゃあ攻撃のタイミングで、うなずきますね」

 と奈緒子が提案した。

「それでええと思う」

「もしも奈緒さんが相手チームに居たら、奥村さんは真っ先に狙われちゃうねー」

 なぎささんが奥村さんをからかうので、奈緒子もつい笑ってしまった。

 奥村さんの方を見ると不思議なことに幸福の波動が出ている。

 午前中も何回かそういうことがあったけど、どうしてだろう?


 「2つ目は防御や。攻撃の時とは逆に、相手チームがパス回ししてる最中に攻撃の意志を感じたら合図して欲しいんや」

「じゃあ、攻撃されそうになったら〝来ます〟って言いますね」

 奈緒子の提案にみんながうなずいた。

「とりあえず決めるべき事はこれで終わった?」

 なぎささんが確認する。

「うん、これで終わりや」

「じゃあわたし、対戦相手を探してくるねー」

 となぎささんが言ってスタスタとテント周辺にたむろしてる人達の方へ向かった。


 ほどなくしてなぎささんが対戦相手を連れてきた。

 男性2名、女性2名、計4名のパーティーだ。

「この方達がわたし達と対戦してくれることになりました」

 なぎささんが紹介した。

 お互いに、よろしくお願いします、と挨拶してから、テントで運営スタッフさんからビブスを受け取る。

 その後、みんなでコートへ向かった。

 試合前のじゃんけんで奥村さんが負けたので相手に最初のボールが渡った。

 なぎささんが奥村さんをひじで小突く。

 各パーティーがそれぞれ配置についた。

 相手パーティーは内野が男性2名、女性1名。外野が女性1名の配置だった。

 そして試合が始まった。


 相手パーティーはパス回しから始めた。

 ただ、奈緒子が見たところ、外野の女性からは攻撃の意志が感じられない。

 内野により多くの注意を向けたほうがいいだろう。

 数回目に相手パーティーの男性にボールが渡る直前、奈緒子は、

「来ます」

 と言った。

 男性が一瞬、驚いた表情になってボールを投げて攻撃してきたが、勢いが少し弱い気がした。

 玲央奈ちゃんが難なくキャッチした。

 奈緒子は心が少し痛んだが、まず内野3名の内、女性を見た。

 奈緒子たちのパーティーもパス回しから始めると予想しているのだろうか、油断しているようだ。

 玲央奈ちゃんが奈緒子をちらりと見たのでうなずいた。

 玲央奈ちゃんが少し横に動いて女性に攻撃した。

 女性は驚いてなんとか避けたが、避けた先の正面に奥村さんがいてボールをキャッチした。

 奥村さんがバランスを崩した女性の足元を狙ってボールを当てて仕留めた。

 ボールが女性に当たった後、ボールが外野の奥村さんのいない方へ、転がっていったので運営スタッフさんが代わりのボールを奥村さんに渡した。

 内野に残った2名の男性は今の攻撃で気が引き締まったようだ。


 奥村さんは内野の玲央奈ちゃんにパスした。

 奈緒子は残り2名を主観で、インドア派っぽいメガネ男性をメガネさん、アウトドア派っぽいたくましい男性を筋肉さんと呼ぶことにした。

 奈緒子はメガネさんの方をじっと見た。まだ注意力が高そうだ。

 奥村さんと玲央奈ちゃんでパスを回す。

 パスの上限回数が近付いたが、まだメガネさんの注意力が落ちない。

 玲央奈ちゃんが筋肉さんを攻撃した。

 ボールは筋肉さんの正面から少しだけ外れたコースを通ったので、少しだけ避けられて余裕で回避されたが正面に奥村さんがいてキャッチした。

 メガネさんの注意力が落ちた。奈緒子がうなずく。

 奥村さんがメガネさんの足元に向かってボールを投げて仕留めた。

 内野の残りはあと1名になった。


 当たった後のルーズボールを相手チームの内野に唯一残った筋肉さんが確保した。

 今度は相手側の攻撃だ。

 内野の筋肉さんと外野のメガネさんでパス回しが始まった。

 今度は内野外野どちらからも攻撃がきそうだと奈緒子は感じたので、両方に注意を向ける。

 何回目かのパスが筋肉さんに来る直前、

「来ます」

 と奈緒子が言った。

 なぎささんが狙われたが余裕で回避した。

「また来ます」

 外れたボールをメガネさんがキャッチし、なぎささんに再攻撃を仕掛けた。

 なぎささんはなんとか避けた。

「また来ます」

 3連続攻撃だ。再び筋肉さんが外れたボールをキャッチし、体制を崩していたなぎささんの足元にボールを当てた。

「くやしー!」

 なぎささんが外野へ移動した。

 相手パーティーの外野の女性2名がハイタッチして喜んでいる。


 なぎささんに当たった後のボールを玲央奈ちゃんがなんとか確保した。

 玲央奈ちゃんと奥村さんでパス回しをするが、筋肉さんはなかなか油断してくれない。

 最後の1人になったので集中力が高まっているようだ。

 パスの上限が近付いたので玲央奈ちゃんが攻撃した。

 さっきと同じように正面から少しだけ外したコースで筋肉さんを狙ったようだ。

 後ろに奥村さんが正面でキャッチできるように構えている。

 しかし、今度は筋肉さんが避けずにキャッチされてしまった。


 そして筋肉さんが奈緒子を狙った。

 ボールを相手が投げる少し前に奈緒子は身体を動かし始めているので余裕で回避する。

 しかし、さっきなぎささんが仕留められた時のように、メガネさんと筋肉さんに奈緒子が挟まれて連続攻撃を受ける。

 奈緒子は連続攻撃を回避し続けた。

 不意に筋肉さんが投げるフリをしてフェイントを仕掛けたが、奈緒子には通用しなかった。

 再度、奈緒子への連続攻撃が再開される。

「奈緒さん、姿勢を低くして! 動かないで!」

 玲央奈ちゃんが叫ぶ。

 奈緒子は筋肉さんが攻撃しようとしているが、回避せずに低く身構えた。

 相手がボールを投げる直前に玲央奈ちゃんが奈緒子の正面に割り込んだ。

 小柄な奈緒子が姿勢を低くして更に的を小さくすることで、玲央奈ちゃんは相手の投げるボールの軌道を予測しやすくしたようだ。

 速い球を玲央奈ちゃんがレシーブしてほぼ真上に打ち上げた。

「奈緒さんお願い!」

 奈緒子は玲央奈ちゃんが打ち上げたボールをキャッチした。

 やっとこちらのターンだ。


 奈緒子は外野の奥村さんへパスした。

 そして奥村さんが玲央奈ちゃんへボールをパスで返した。

 玲央奈ちゃんがすぐにパスを出すフリのフェイントを仕掛けながら奈緒子をちらっと見た。

 なるほどそういうことね。

 更に流れるようにステップフェイントを仕掛け、奈緒子がうなずくと、そこから素早く筋肉さんの足元にボールを投げた。

 不意を突かれた筋肉さんは避けきれずに見事仕留められた。

「やったー!」

 奈緒子と玲央奈ちゃんはハイタッチした。


 試合終了後、奈緒子達は相手パーティーの人達とお礼を言い合って、第4チェックポイントのテントに向かった。

 奥村さんが試合の審判スタッフからもらった試合結果が記載されたカードをテントの運営スタッフさんに渡すと、勝利用のQRコードと内野生存2名ボーナス用のQRコードを提示されたので、みんなでスマホで読み込んだ。


 奈緒子は汗だくになったので、テントでミネラルウォーターを受け取って、ごくごくと飲んだ。

 冷たい水が体に染み渡り、落ち着いてきた。

「青木さんのおかげで勝てました。ありがとうございます」

 奥村さんからお礼を言われて奈緒子は嬉しさよりも、やっと役に立てたというほっとした気持ちが勝り、力が抜けた。

 奈緒子は、

「玲央奈ちゃん大活躍だったね。賢いだけじゃなくて運動もできるなんてすごい。なんでも出来そうだね」

 と感心した。

「うーん、大人の男性が相手やと、やっぱりきつかったわ。奈緒さんがいなかったら勝ち目無かったと思うわ」

 玲央奈ちゃんが謙虚に言った。


「今日のミッションは残り1つだねー。最後も気持ちよくクリアしちゃおー」

 さ、行きましょ、と言ってなぎささんが先頭に立って歩いた。

 奥村さんがその後ろについていく。

 奈緒子は奥村さんとなぎささんをじっと見た。心地よい信頼の波動で満たされている。

 なぎささんに負けないようにしないとね。

 奈緒子は早歩きで奥村さんに追いつき左隣に並んで歩いた。

 悟さんと玲央奈ちゃんは更にその後ろを付いて行く。


 奥村さんが左隣を歩く奈緒子に気付いた。

 先頭を歩いていた、なぎささんが後ろを振り返って奥村さんの右隣にきた。

 なぎささんが何か言いかけたけど先に奥村さんが、

「両手に花で嬉しいですっ」

 と言わされた感満載で、感謝した。

 なぎささんが、

「うんうん。やっと教育の成果がでてきたねー。えらいえらい」

 と言うので、奈緒子が思わず笑ってしまったが、なぜか奥村さんから、また幸せの波動がでた。


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