第4話【1日目】信じて打ち明ける
第3チェックポイントの体育館に到着した。
屋外よりは多少マシだが、他の参加者達が大勢いることもあって、蒸し暑い。
さきほどの第1チェックポイントの時、隅のほうにいくつか設置されていた折り畳み机が中央寄りに移動されていて、各机毎に運営スタッフの方々が配置されていた。各机には参加者達が固まっているので、おそらくミッションが机上で行われるのだろう。
冬真たちは、第3チェックポイントと表示されている看板付近まで進み、ホワイトボードに張り出されている紙に記載してあるQRコードを読み取ってミッション内容を確認した。
<第3チェックポイント【運】>
・3択問題。
3つの紙コップの中に1つだけ当たりのコインが入っている。
任意の紙コップ1つを選択し、当たりを引けば正解とする。
・参加者がコップ1つを選択時、運営スタッフが外れのコップを除外する。
このタイミングで、コップを再選択することが可能。
・10回繰り返し、当たりの回数に応じてスコアを加算する。
<獲得スコア:正解数5回で100>
<ボーナススコア:正解数5回を上回った回数分+10>
<減点スコア:正解数5回を下回った回数分-10>
※なお、本ミッションは同盟メンバーも含めて全員参加すること。
「知力、体力ときて運かぁ。お父さん、運マイナスやし心配やな」
玲央奈ちゃんがやれやれのポーズをしている。
「確率が約33%なのに正解数5回を基準にしてるのはずいぶん厳しいね」
冬真は冷静なコメントを出してみた。
「コップを再選択できるって書いてあるし、わたしは再選択したいかな。なんか気分的にそっちのが当たりそうな気がするなー」
山本さんが気分屋なコメントを出した。
まぁそもそも確率は物理的に決まってることだし、何をどう選択しても問題無いだろう。
青木さんはなぜか黙っている。
「再選択か……」
玲央奈ちゃんが急に考え込み始めた。
山本さんの気分屋コメントに何かあると思ってるのだろうが、おそらく彼女は何も考えていないと思うで。そんな真剣に考えなくてもええんやで。
冬真はなぜか関西弁っぽい思考になった。
でも、口に出すと山本さんから殺意の波動を浴びそうなので黙っておいた。
「ごめん、みんな。ちょっとウチに時間ちょうだい」
玲央奈ちゃんが手帳を開けてメモ欄に何やら書き始めた。
冬真がふと周囲を見ると、他の参加者達がコップの中身で一喜一憂して歓声をあげているのが聞こえた。
ここで時間をつぶしてしまってもいいのだろうか。
いや……そもそも何をどうやっても確率自体は変えられないだろう。
「別に時間が差し迫ってるわけじゃないけど、午後のミッションもあるし、食堂が混む前に早めにお昼を食べたほうがいいと思う。余計な労力を使わずにさっさと行こう」
と冬真は言ったが、直後にちょっと冷たかったかなと後悔した。
案の定、山本さんが冬真を鬼の形相で睨んで何かを言いかけたが、青木さんのほうが早かった。
「奥村さん、玲央奈ちゃんを待ってあげてください。玲央奈ちゃんって本当に賢いんです。第1チェックポイントは暗算で正解してましたし。無駄なことはしない子だと思います」
青木さんに頼まれてしまったら冬真の選択肢は〝はい〟か〝YES〟の2択しか無くなってしまう。しょうがないにゃぁ。
それにしても、アレを暗算で解くって、玲央奈ちゃんは天才少女なのか?
「では待ちましょう。ただ、あと15分ぐらいしてまだ時間がかかるようなら、その時にもう1度どうするか話し合いましょう」
青木さんはありがとうございます、と言って可愛い笑顔で冬真を見た。
「にやにやしちゃってー。だらしない」
山本さんが冬真を見て呆れている。
しばらく待ってると玲央奈ちゃんが、
「できたで」
と言って手帳を広げて冬真達に見せた。
「まず結論から言うで。再選択するほうが、しないよりも2倍の確率で当たる」
そんな馬鹿な。賢い子が難しく考えすぎて変な答えにたどり着いたんじゃないのか。
これはシンプルに考えるべき問題だろう。
「樹形図を書いて再選択した場合の全てのパターンを検討したんや。そしたら、確率は2/3、約67%になる」
冬真は玲央奈ちゃんに解説してもらいながら彼女の手帳をじっくり眺めた。
確かに2/3の確率で当たるな……。でも冬真はそれでもまだ信じ切れなかった。
「つまりわたしの最初のインスピレーションが正しかったわけよ。ふっふーん」
山本さんの手柄じゃないのになぜか得意げだ。
「信じられへんのやったら、まずウチからやったるわ。見とき」
玲央奈ちゃんが折り畳み机に座ってる運営スタッフに声をかけた。
そして10回の内、8回正解した!
運営スタッフが8回正解時のQRコードを提示したので、玲央奈ちゃんがそれを読み取った。
「スコア130ゲットやで」
玲央奈ちゃんがガッツポーズで喜んでスマホをかかげた。
青木さんがすごーい、と拍手している。
続いて、山本さんが7回正解した。
「まぁ日頃の行いってやつよねー」
玲央奈ちゃんのおかげなのに……。
そして次は青木さんがやるという。
ん?
青木さんはなぜか紙コップを選択する前に、まず3つの紙コップを1回ずつ指差している。
それが終わった後、紙コップを選び、更に再選択していた。
そして……。青木さんはなんと9回正解した。
「惜っしぃい! あと1回でパーフェクトやったのに」
玲央奈ちゃんが残念がっていた。
そして冬真の番になった。
ここまで実績で証明されてしまったら玲央奈ちゃんの結論に従うしかあるまい。
……。冬真は6回正解だった。
「ほぼ確率通りだな」
冬真は冷静にコメントした。
「日頃から鈍感で女の子を泣かせてるから、こーゆーときにしょぼくなるのよ」
山本さんから辛辣なコメントを頂戴した。
なんでそこまで言われなきゃいけないんだよっ。
ラスト、悟さん。
玲央奈ちゃんが心配そうな顔で見守っている。
そして期待に応えて……。3回だった。
「やっぱり駄目やったかー」
玲央奈ちゃんががっくりしている。
運マイナスは伊達じゃないようだ。
これで全員分終わった。
午前中は、なかなかいい感じで終われたのではないだろうか。
「ほな、お昼ご飯行くでー」
玲央奈ちゃんが先頭に立って5人で食堂に向かった。
食堂に到着すると、まだ早めの時間なので思ったより空いていて、楽に5人一緒に座ることができた。
エアコンが効いていて涼しい。それに人が少ないので体育館よりも、ずっとくつろげそうな雰囲気だ。
しばらくここで休めそうなので冬真は安堵した。
セルフサービス方式なので、それぞれが好きな食事を取ってテーブルに集合した。
「みんなお疲れ様。午後もがんばりましょー」
山本さんが水の入ったコップをかかげた。
みんなが山本さんのコップに自分のコップを当てて乾杯した。
いや、まだ今日のミッションは終わってないから、乾杯は早いだろ……。
と突っ込みたかったが、山本さんに〝はい、喜んで〟もしくは〝イエス・マム〟しか言えない体に調教されそうな予感がして冬真は黙った。
青木さんが申し訳なさそうに、
「あんまり、みなさんのお役に立ててなくてごめんなさい。お荷物にならないようにがんばるので午後もよろしくお願いします」
と言っておじぎした。
冬真が慌てて、
「いや、青木さんのおかげですごくいい雰囲気でミッションがこなせてると思いますよ。あと、さっきのミッションで青木さんが止めてくれなかったら、俺のせいでミッションがうまくいかなくなるところだったし。助かりました」
とフォローした。
「ま、このよれよれシャツ男が奈緒さんのおかげで、すごくいい気分になってるのは間違いないよねー」
山本さんがにやにやして言う。
まぁ正直、それは否定できない。
青木さんが思わず吹き出して笑った。
冬真は再び、〝青木さんが幸せならオーケーです〟の境地に至った。
もしかしたら今日中に悟りを開くことができるかもしれない。
「あの……」
青木さんが言いかけて黙った。
みんなが静かに次の言葉を待った。
「みなさんにお伝えしたいことがあります。ただ、あまり人に知られたくない事なので、みなさんの心の中にだけ、留めておいていただきたいです」
冬真は姿勢を正して続きを待った。他の参加者達が雑談している声が聞こえてくるが、うるさくは無い。
近くには幸い、人がいない。青木さんも安心して話せるだろう。
「実は私、共感覚の1種を持ってます。人をじっと見てるとその人の波動が視覚で分かるんです。その人の考えとかがはっきり分かるわけじゃないんですが、ぼんやりとした雰囲気ぐらいは感じ取れるんです。ミッションで私の共感覚がみなさんのお役に立てるかどうか分からないですが」
と言って青木さんはうつむいた。
「お役に立てるで」
玲央奈ちゃんがきっぱりと言った。
「さっきのミッションの意味が分かったわ。奈緒さんはまず、各コップを1回ずつ指差しながら運営スタッフさんの波動を見てたんやな。で、一番外れっぽいコップをまず選んだ。そしたら運営スタッフさんは残りの2つから更に外れを取り除くから、うまいこと当たりだけが残るってわけや」
青木さんは目を見開いた。
「すごい……。はい、その通りです。でも確実じゃないので1回外してしまいました」
そういうことだったのか……。
「これはミッションの内容次第で、かなりのアドバンテージをとれるで。言いにくいことを教えてくれて奈緒さん、ありがとう。絶対秘密にするから安心してや」
玲央奈ちゃんが笑顔になった。みんなも、うなずいた。
青木さんは、ほっとして体の力が抜けたようで椅子にもたれかかった。
山本さんが、
「わたし、宿泊棟に行って着替えてくるねー。スニーカーも履いてこないとだし。みんなここで待っててー」
と言って足早に宿泊棟の方へ向かった。
それをみんなが何気なく見送ったあと、青木さんが、
「なぎささんってオシャレですよね。スニーカーまで用意してて準備も周到だし。しっかりしてるし。私もなぎささんみたいな立派な社会人になれるかな」
と羨ましそうに話した。
「あとは可哀そうなモテない男性にも優しくしてくれれば言うことないんですがね」
冬真は山本さんがいないのをいいことに、我儘を言ってみた。
「えー。奥村さんはモテモテやと思うけどなぁ」
と玲央奈ちゃんが笑う。
青木さんが玲央奈ちゃんの方をちらっと見てうつむいた。
「はい。美女3人に囲まれてありがたき幸せにござりまするっ」
と冬真は丁寧におじぎした。
「なぎささんは今おらんし、そんな卑屈にならんでもええやん」
玲央奈ちゃんが呆れている。
「奥村さんは、なかなかの好青年だと思いますよ。自信持ってください」
悟さんが珍しく口を開いた。
「悟さんにそう言っていただけて嬉しいです」
うーん、照れるな。よし! 青木さんに好青年アピールがんばらなきゃね。
……と、他愛のない話をしていたら山本さんが戻ってきた。
「みんな、お待たせー。じゃ、次のミッション行きましょー」
と言ってみんなに席を立つようにうながした。
「順番通り次は第4チェックポイントにしますかね。グラウンドみたいですが」
と冬真は言ってみた。
「じゃあレッツゴー。みんなしっかりウチについてくるんやで」
玲央奈ちゃんが言って先頭を歩き、すぐに山本さんも続いた。
冬真は青木さんとなんとなく顔を見合わせて、そして2人で笑った。




