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第3話【1日目】感謝する

 強い日差しが、冬真の前に立った若い女性を眩しく照らしている。

 冬真よりも少し身長が低いが女性としては背の高いほうだろう。大学生ぐらいに見える。

 一見、すっぴんに見えるがナチュラルメイクってやつか。ポニーテールで美しい顔立ちをしている。

「次の第2チェックポイントはパーティー同盟で挑むほうが有利なんです。そちらの2名と私達3名を合わせて5名になるのでちょうどいいと思っています」

 ポニーテールの後ろを見ると、40歳前後ぐらいのメガネ男性と20代前半ぐらいの可愛い女性がこちらへ来てポニーテールの横で立ち止まった。

 可愛い女性はダークブラウンに染まったセミロングが似合う、冬真の好みのタイプなので、できれば避けたい相手である。

「お誘いありがとうございます。ちょっと2人で相談するので少し待っていただけますか?」

 冬真はとりあえず判断を保留し、山本さんに目くばせしてポニーテール達から距離をとった。


 あれ? なぜか山本さんが冬真に付いて来ない。

 山本さんは失礼します、と言ってポニーテールの参加証を素早く手に取りスマホでQRコードを読み込んだ。

 ポニーテールがひるんだが、おかまいなしに残り2人にも失礼します、と言いながらQRコードを次々と読み込んで、それが終わると冬真のそばにやってきた。

 でた! 山本さんの得意技、無断QRコード読み取り。

「QRコード読み取るの強引すぎるでしょ」

 冬真が嗜《たしな》めたが、山本さんは、

「別にいーじゃない。検討材料として相手の情報が必要でしょーよ」

 と涼しい顔で言う。


 冬真は山本さんのスマホを見せてもらって3人の情報を確認した。

 ポニーテールはなんと高校生だった。ステータス欄に知力+と表示されている。

 ステータスってこんなふうに表示されるのか……。

 冬真や山本さんのステータスは空欄である。

 そして40歳前後だと思っていた男性は50代のようだ。

 ステータス欄は知力-、体力-、運-と負の3拍子が揃っている。

 しかも無職らしい。思いっきり地雷っぽいぞ。

 最後に20代前半の可愛い女性はステータス空欄で銀行員。

 パーティーを組む相手としては無難そうである。冬真の好みであることを除けば……。

「未成年とステータスマイナス表示の男性だと、組む相手としてはあんまりよくないと思うので断りませんか?」

 本当はそれよりも可愛い女性と組むのが嫌なのだが、それは伏せておいた。

「クラスが私達と重複してないし、ちょうどいーじゃない。それとも他にパーティー同盟を組むアテがあって言ってる?」

 と山本さんに返されて、冬真は困ってしまった。

「いや……。アテは無いけど、第2チェックポイント付近に人が集まってると思うから、その中から探せばいいんじゃないかな」

 山本さんは冬真を無視してスマホで何かを確認している。そして、

「あの人達は大丈夫だよ。パーティー同盟を組みましょう」

 と勝手に決めて、スタスタと3人のところへ歩いていった。

 やっぱり俺の選択肢無いんかーい、と思いながら冬真は慌てて追いかけた。

「是非、お願いします。リーダーはあのシャツがよれよれの人なので、そちらから同盟に誘ってください」

 と山本さんがポニーテールに申し出た。

 そしてポニーテールが冬真のQRコードをスマホで読み取りパーティー同盟を組んだのだった。


 それぞれ自己紹介をした。

 男性とポニーテールは親子で同姓なので

 男性は悟さん、ポニーテールは玲央奈ちゃん、と呼ぶことにした。

 女性陣はお互いを下の名前で呼び合うことに決めたらしい。


 5人で第2チェックポイントに向かう。

 歩きながら玲央奈ちゃんが第2チェックポイントの内容をスマホで見せてくれた。



 <第2チェックポイント【体力】>

 ・オリエンテーリング。

  各所に設置された通過ポイントにアルファベットが隠されている。

  アプリでアルファベットを回答することで通過ポイント毎にスコアを得られる。

  <獲得スコア:10/通過ポイント毎>

 ・制限時間は1時間。

  第2チェックポイント付近のスタート地点にあるQRコードを代表者1名がスマホで読み取ると制限時間のカウントが開始される。

  ※制限時間カウント状態でないと通過ポイントのスコアが得られない。

 ・通過ポイントはパーティーメンバー全員で通過する必要がある。

  ※パーティー同盟の場合はパーティー毎に通過ポイントを分担することが可能。

 ・なお、追加で下記ボーナスミッションを達成するとスコアが更に増加する。

  ①10か所全ての通過ポイントでスコアを得た後、全員でスタート地点のQRコードを読み取る<ボーナススコア+20>。※パーティー同盟推奨



 玲央奈ちゃんが歩きながら説明してくれた。

「通過ポイントやけど、地図アプリで見ると「山道コース」と「道路コース」で、それぞれ5か所ずつ設置されていて、いかにもパーティー同盟を組んでパーティー毎に別々のコースを分担すればええでって感じになってた」

「じゃあどうやってパーティーを分けるか考えないとな」

 と冬真が応じる。

「そこでや。ウチとお父さんはスニーカー履いてるから山道コースを担当するわ。奥村さん達は3人で道路コースを担当すればええと思ってる」

 冬真と青木さんは無難なカジュアルシューズ、山本さんはパンプスなので確かに山道よりも道路のほうが良さそうだ。しかも山本さんはスカートだし。

「わたしもスニーカー持ってきてるから、宿泊棟に戻ってパンツに着替えてスニーカーへ履き替えたら山道コースに行けるんだけどなぁ」

 と山本さんが残念そうに言うが、もしそうすると午前中に3つ目のチェックポイントまで回ることを考えると、ちょっと時間的に厳しくなってしまうので諦めてもらった。

 それぞれが向かうコースが決まったので、冬真はパーティー管理アプリを起動し、青木さんを玲央奈ちゃんのパーティーから、冬真のパーティーに移動させた。

「ちなみに所要時間を概算したんやけど、もしも1つのパーティーだけで通過ポイント10か所全部回る場合はかなりフィジカルに自信が無いと無理そうやったわ。基本、走らないと間に合わん。分担するウチらの場合は普通に歩けば全部回ってもスタート地点に帰ってこられそうやから無理してケガせんといてな」

 と玲央奈ちゃんが注意してくれた。


 話してるうちに第2チェックポイントに到着した。

 ここではテントが設置されていて、周囲には人が集まっている。

 ところどころで会話してる人達がいるので、パーティーを組む相手や同盟相手を探しているのかもしれない。

 ここではミネラルウォーターのペットボトルを配っていたので全員で受け取った。

 今日は暑いので水分補給に注意すべきだろう。

 玲央奈ちゃんが付近に設置されたQRコードをスマホで読み取った。

「制限時間カウントが始まったで。終わったら、またここに集合ねー」

 と言って悟さんと一緒に山道コースへ向かった。


 じゃあ我々は道路コースに向かいますか、と冬真は女性2名を連れて歩き出した。

 歩き始めてふと思ったのだが、どのぐらいのペースで歩くべきだろうか。

 玲央奈ちゃんは普通に歩けばいいと言っていたが……。

 俺のペースで歩いて女性2名が疲れないだろうか。

 ちょっとゆっくり目で歩いていたら山本さんが、

「ねね、ちょっと思ったんだけど。なんだか楽勝すぎない? オリエンテーリングの通過ポイントって普通は隠されてるけど、今回はスマホの地図アプリでほぼ正確な位置が分かるし。何か罠があるような気がするからちょっと早めに歩こうよ」

 と提案してきた。

「じゃあ早めに歩くけど、きつかったらすぐに言ってほしい。靴擦《くつず》れとかになったら最悪、オリエンテーリングをリタイアしなきゃだし。青木さんもそれでいいかな?」

 と聞くと、

「大丈夫です。早く歩くの慣れてるので」

 と言ってくれた。

 さっきからなぜか女性2人が冬真をぴったり挟むフォーメーションで歩いている。

「両手に花で良かったねー」

 と山本さんがニヤニヤしている。青木さんも少し笑っている。

 これ、2人とも絶対わざとやってるな……。

 けれど正直、悪い気分ではない。モテない男の悲しい性《さが》である。


 地図アプリを見ながら、しばらく歩くと1つ目の通過ポイントが近づいてきた。

 道路コースとはいえ、オリエンテーリングのコースであるため、周囲は草木が生い茂っている。

 スマホのWi-FiがONになった。おそらく通過ポイント付近にWi-Fiルーターが設置されているのだろう。

 ただし、このWi-Fiはインターネットではなく、運営が用意したローカルネットに接続される。

「あれですよね」

 青木さんが指さした先に通過ポイントがあった。

 やはり地図アプリを見ながらだとすぐに発見できる。楽勝だな。

 冬真たちが通過ポイントのQRコードをスマホで読み取ると、画面に縦5マス×横5マスの正方形が表示された。

 正方形の周辺には謎の数字が書いてある。

 山本さんが、

「これ、ノノグラムって書いてあるけど、昔、携帯ゲーム機で同じルールのパズルをやったことあるよー。やり方の説明も書いてあるね」

 とつぶやいた。

 確かにスマホを少し下にスクロールするとノノグラムのルール説明が書いてある。

「わたしなら、すぐできそうだよ。任せといてー」

 山本さんは早速ノノグラムに取り掛かった。

 冬真と青木さんは説明を読んでみた。

 冬真はこれならなんとかなりそうだと思った。

「できたよー」

 山本さんがスマホの画面を見せてくれた。

 5マス×5マスの正方形にFが描かれている。

 冬真は回答アプリにFを入力すると正解と出てスコアが10加算された。

 冬真はチャットアプリを起動して、玲央奈ちゃん達にこちらの通過ポイントのアルファベットがFである旨を連絡した。

「ノノグラムを解く時間を考えると、やっぱり少し早めに歩こうよー」

 と山本さんが提案した。

「でも山本さん、すぐに解いたじゃん。そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな」

 と冬真は言ってみたが、

「今回は5マス×5マスだからすぐに解けたけど、今後は10マス×10マスとか15マス×15マスとか出題してくるかもよ。15マス×15マスはかなり時間かかるよー」

 と山本さんが警告したので確かにそうかもな、と冬真も同意した。


 次の通過ポイントでは山本さんが予想したとおり、ノノグラムの難易度が上がって10マス×10マスになっていた。

 冬真と青木さんもチャレンジしたが山本さんが一番早く解いた。

「ふっふーん」

 山本さんは得意げだ。

「なぎささん、すごーい」

 青木さんは素直に感心している。


 3人でどんどん進んでいく。

 それにしても今日は暑いな。途中、水分補給の休憩を挟みながら3人で歩いた。


 3つ目の通過ポイント。

 ここも山本さんが一番早い。

「わたしの事、もっと崇《あが》めてもいいよー」

 山本さんが冬真を見て褒められるのを待っている。すぐに調子に乗るんだな……。

「はいはい、山本大明神のおかげで助かります」

 冬真は山本さんの前で拝んだ。

 青木さんがそんな冬真を見て吹き出している。


 4つ目の通過ポイント。

 あまり山本さんに調子にのられても癪《しゃく》なので、冬真は集中して取り組んだ。

 しかし、一歩及ばずまたまた山本さんが一番早かった。

 く……。なんか悔しい。

「ねね。早く褒めて、褒めて」

 山本さんが手を腰にやり胸を張って冬真をニヤニヤしながら見ている。

「いや、今回は俺も惜しかったし。次は負けないし」

「へー? そーなんだ? 往生際が悪いと、女の子にモテないよー」

 青木さんまでニコニコしてうなずいている。

 く……。次こそは青木さんから褒められてみせる!

 冬真はモテない男らしい情けない決意をした。


 5つ目の通過ポイントでとうとう15マス×15マスが登場した。

 山本さんが苦戦している。

 最後ということで冬真は一段と気合が入る。

 青木さんが、

「これ、私無理かも……」

 と諦めモードになった。

 冬真が一生懸命解き進め、そして今度は冬真が一番早く解いた。

「よっしゃ、できた!」

 冬真が得意げに2人にスマホを見せた。

「奥村さん、すごい! 頼りになる人って素敵です」

 青木さんが拍手しながら尊敬のまなざしで冬真を見つめた。

「ふーん、やるじゃない」

 山本さんはかなり悔しそうだ。

 冬真は青木さんから褒められたので顔がだらしなく緩んでしまった。

 そんな冬真を見て山本さんが、

「せっかく奈緒さんに褒めてもらったのに、これじゃ台無しだねー」

 と言うので青木さんがうなずき、冬真はへこんだ。


 チャットアプリを確認すると玲央奈ちゃん達は既にスタート地点に戻っているようだ。

 ノノグラム程度では知力+の玲央奈ちゃんの足止めにならなかったようだ。


 3人でスタート地点へ戻る道中、青木さんが、

「全然役に立てなくてごめんなさい」

 としょんぼりして言った。

 山本さんが、

「この男も最後しか役に立ってないから気にしなくて大丈夫」

 とフォローになってるんだか、なってないんだかよく分からない言い方をした。

 冬真はこの男呼ばわりされたが、青木さんが笑っているので

 〝青木さんが幸せならオーケーです〟の境地に至った。


 スタート地点に戻ると玲央奈ちゃんが3人分のミネラルウォーターのペットボトルを持って出迎えてくれた。

 ちょうど手持ちのペットボトルが空だったので助かった。

 遠慮なく受け取って、ごくごくと飲んだ。冷えていて、熱くなっていた体に染み渡った。

 周辺には、冬真達と同様にオリエンテーリングを終えて休憩している参加者達がたむろしていた。

 テントの影で汗が引いて一息ついたところで、5人でスタート地点のQRコードを読み取りボーナススコア20が加算された。

 これで無事に第2チェックポイントクリアだ。


 玲央奈ちゃんが、

「第3チェックポイントから第5チェックポイントまでは好きな順番で回れるみたいやで」

 と教えてくれた。

「まぁ特にこだわりは無いし、次は第3チェックポイントでいいんじゃない。近いし」

 と冬真は答えた。場所は第1チェックポイントと同じ体育館のようだ。


 ところで、と山本さんが確認した。

「このまま、この5人で次以降のミッションも進めるってことでいいよねー?」

 悟さん、玲央奈ちゃん、青木さんがうなずく。

 冬真も異論は無いのでうなずいた。


 「ほな、いこか」

 玲央奈ちゃんが先頭に立って体育館へ向かって歩き始めた。

 あとの4人もそれに続く。

 冬真は出会ってから間もない関係のはずなのに、なぜか自然体で話せる心地よさを感じている自分に気付く。

 このパーティーが組めたのは山本さんのおかげだよな。

 でも、口に出してお礼を言うのは恥ずかしすぎるので、冬真は黙って山本さんを見つめて感謝した。

「なに? わたしのこと、好きになっちゃった?」

 まずい、山本さんに気付かれてしまった。

「いや、暑いし、体調は大丈夫かなと思って」

 と冬真はごまかしてみた。

「へー。優しいじゃん」

 山本さんはニヤニヤしている。

「ま、美女3人に囲まれてるし、モテるために優しくなるのは分かるよー」

 青木さんと玲央奈ちゃんも笑い出した。

 完全に遊ばれている……。

 冬真は女性陣の尻に敷かれる運命を予感してうなだれた。


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