第34話【最終日】最後の夜を過ごす
エキシビジョンマッチが終了後、その影響で少し時間が後ろにずれてしまったが、エンディングセレモニーが実施され、神崎パーティーが優勝として表彰された。
褒賞が貰えなくとも、冬真はこれまでの人生で一番の充実感を持って、神崎さん達を祝福した。
そして、その後はささやかな打ち上げパーティーが食堂で開催された。
20歳未満の参加者に配慮してアルコールは無しだが、みんなが楽しんでいた。
冬真は玲央奈に連れられて食堂の外にでた。
すっかり日が暮れていて涼しい。玲央奈が寂しそうな顔で静かに話し始めた。
「みんなとこうしていられるのも、あとわずかの時間やね」
「そうだな……」
冬真は感傷に浸った。
「ちなみに、今のセリフな。お父さん文庫にあった昔の柔道漫画のセリフなんや」
「へえ?」
「その後、柔道を続けていれば、またみんな、どこかで会えるっていう流れやで。ウチらもステドラを続けてたらまた会えるかな?」
「もちろんだ」
玲央奈がぱーっと笑顔に変わった。
「ほんと? 大阪に来てくれるん?」
「うん、遊びに行くよ。観光案内をよろしくな」
「約束やで! もしもデートの約束破ってJK泣かせたら犯罪やからな」
「え? デートじゃないよ。遊びに行くだけだから。未成年とデートとか犯罪だから」
「えー!? 雰囲気的にデートの流れだったやろ? ウチ、本気で泣くで。冬真さんは犯罪者や!」
玲央奈が本気で今にも泣き出しそうな顔になったので冬真はひどく狼狽した。
「デートしても犯罪、デートしなくても犯罪……。詰んだ……」
「ちょっと、ダーリン! ちゃーんと男らしく約束守って玲央奈ちゃんとデートしなさいよー」
いつの間にか、なぎさと奈緒がそばまで来ていた。
「いや……。未成年だし駄目だよ。てっきり観光するだけかと思ったんだよ」
冬真のそんな言い訳をふーんと聞いていた奈緒がしたり顔で言った。
「玲央奈ちゃん、大丈夫だよ。他の女性に冬真さんの目が向かないように、玲央奈ちゃんが成人するまで私がキープしておくから」
「え? ほんま?」
玲央奈の顔が再び笑顔になる。彼女の表情筋は忙しそうだ。
「冬真さん、私とデートする分には問題無いですよね?」
奈緒は天使の笑顔で冬真に微笑みかけた。
「うん。でも、奈緒とデートできるなら、そのまま奈緒と付き合いたい」
「ありがとう。嬉しいです。私も冬真さんのこと好きですけど、ダメです」
「へ?」
冬真は虚を突かれた。
「私、実は冬真さんが思ってるようないい子じゃないんですよ? 悪い女なんです。残念でした。だから意地悪しちゃいます」
奈緒は笑顔のまま冬真のそばまで寄ってきた。
「冬真さんは、なぎささんと付き合わないから私と付き合うって流れですよね? それってお互い、気持ちが高まるまでしばらく時間がかかりますよね?」
「う……」
確かに奈緒の言うことは一理ある。冬真は言葉に詰まった。奈緒はいたずらっぽく笑いながら続けた。
「ちなみにー。私の気持ちが高まるのは、玲央奈ちゃんが成人するまでかかっちゃうと思いまーす」
「そんな……」
冬真はがっくりうなだれた。
「童貞王のダーリンのキープぐらい、奈緒さんには余裕でしょ。残念だったわねー」
なぎさがケタケタ笑いながら、からかう。
「玲央奈が成人する頃には、俺は30代になっちゃうよ……」
「いーじゃない? ユニークスキル、大賢者がゲットできるよー。良かったね、ダーリン」
「ちっともユニークなんかじゃねー!」
冬真は頭を抱えた。
奈緒がなぎさを見て更にたたみかけた。
「なぎささん、何、他人事みたいな顔してるんですか? なぎささんも冬真さんとデートしてキープを手伝うんですよ?」
「へ?」
今度はなぎさが虚を突かれた。
「なぎささん、私、逃がしませんよ」
奈緒の言葉になぎさがはっとする。
「冬真さん。なぎささんから律さんとの事情は聞いてます。要するになぎささんが律さんとの生活を保ったままで冬真さんとデートすれば解決でしょう? 律さんと3人で話し合って、律さんが納得すればそもそも何も問題無いですよね?」
冬真はあっけにとられた……。そうなんだろうか??
なぎさは穏やかな顔になって奈緒に言った。
「ありがとう。わたしの負けだね。奈緒さんには敵わないなー。確かにその通りだね」
なぎさと奈緒は顔を見合わせて笑った。
「いや、ちょっと待て。俺はなぎさと付き合わないって言ったんだ。だから無理だよ」
「確かに付き合わないとは言ってたけど、デートしないとは言ってないわよ、ダーリン」
そんな無茶な……。いや、ここで流されては駄目だ。冬真はふんばった。
「そんなの二股だろ? なぎさに二股させるなんて駄目だから」
「いーじゃない? ダーリンは三股するんだからー。わたしの二股ぐらい受け入れなさいよー。わたしの全てを受け入れたんでしょーよ」
無茶苦茶すぎる……。でも流されないぞ! 冬真は気力を振り絞った。
「俺は、三股なんかしない!」
なぎさ、奈緒、玲央奈の3人がジト目でしらーっとなった。
「ふーん? そーなんだ? でも、わたしの事、好きなんでしょ? ほれほれ? ほんとにデートしたくないの? したいんでしょ?」
冬真の左手をなぎさが両手でしっかりと掴んだ。
う……。仕草が愛おしすぎる……。
「さっき、私とデートするってハッキリ言いましたよね? 冬真さんは約束を守る人ですよね? 私とデートしたいんですよね?」
冬真の右手を奈緒が両手でしっかりと握った。
やばい、すごく可愛い……。
「少なくとも私とデートするのは問題無いって事で認識合ってますよね?」
奈緒の念押しに冬真はうなずかざるをえなかった。
奈緒は笑顔で続けた。
「じゃあこうしましょう。私と冬真さんがデートする時、なぎささんも呼びますね。3人でデートしましょう」
「あ、それいいじゃーん。奈緒さんナイスだねー」
はい? なんでそうなるんだ? 冬真は付いていけなくなってきた。
「え? いいな、いいな、ウチもデートしたい!」
「玲央奈ちゃんの旅費はダーリンが出すから、玲央奈ちゃんも一緒に4人でデートしよー」
「やったー! デート楽しみやな!」
玲央奈が冬真の正面に立ってにじり寄ってきた。
「ハグしてええ? 痛くしないから大丈夫やで。天井のシミを数えてるうちに終わるからな」
冬真はなぎさと奈緒に両手を塞がれていて逃げられない。
「ここは天井が無いから駄目!」
冬真は玲央奈にハグされる直前、なんとか言った。
「えー!? なんなんそれ!」
「俺は……。三股しないから」
それをふーん、と受け流した奈緒が悪女のような微笑みで冬真に言った。
「三股じゃなければいいってことですよね?」
「え??」
「デートはするけど、玲央奈ちゃんが成人するまでお付き合いしませんから、三股じゃないですよ」
??? どういうことだ?
奈緒は続けた。
「婚活で言うところの、真剣交際前の仮交際ってやつですよ。複数のパートナー候補と仮交際を並行するのは普通の事ですよ。全然三股じゃないです」
玲央奈が満足してうなずき、ゆっくり冬真に近寄ってきた。
冬真はようやく理解した。選択肢は〝はい〟か〝YES〟しか無いのだと。




