第35話【エピローグ】私は彼の彼女になる!
あれから2年近くが経った……。
◇◆◇
3月下旬のよく晴れた暖かい朝、玲央奈は新大阪駅の新幹線改札口の前で冬真さんを待っていた。
土曜日なので旅行客等も入り混じり、周囲はそこそこ混雑している。
今日は冬真さんとの2人きりの初デートの日だった。
玲央奈の大学合格祝いに母の優奈が冬真さんとのデートを企画してくれたのだ。
玲央奈がもう成人しているということで、冬真さんも了承してくれた。
今日の玲央奈はいつもよりも更に頭が冴えていた。
外出中に目について気になった事をスマホにメモしておいて、後で自宅のPCで調べる事が習慣として身についている玲央奈だったが、今日はいつもよりメモの量が多い。帰宅したら調べものにそれなりの時間がかかってしまいそうだ。
玲央奈はスマホで時刻を確認した。現在、9時21分。最小公倍数は63、最大公約数は3だ。
冬真さんの乗る新幹線の到着予定時刻は9時19分だから、そろそろ来るはずだ。
玲央奈は目を凝らして新幹線改札の奥を見た。
そして、ついに待っていた人が来た!
玲央奈は冬真さんの姿を見つけると、彼のことで頭がいっぱいになった。
今日は髪を下ろしてるんだけど気に入ってもらえるかな? 思い切って丈がひざ上までのスカートを履いてきたけど、どう思うかな? 関東のJKみたいな短いのは無理だけど。
冬真さんが改札口を抜けたところで玲央奈は駆け寄った。
「お疲れ様。今日はありがとう。大阪まで来てくれてすごく嬉しいで」
玲央奈は今日、自宅を出る直前まで練習した、一番可愛いと思う笑顔で冬真さんに話しかけた。
「お出迎えありがとう。優奈さんから逃げ場が無い感じで頼まれたからな。それに、玲央奈と約束してたしね」
「最終日の夜の約束、覚えててくれたんや。とっても嬉しい……」
玲央奈は嬉しすぎて思わず冬真さんにハグしたくなったけど、なんとか我慢した。
2人は在来線ホームに向かって歩き始めた。
「人生があらかた決まっちゃった30歳のおじさんなんかの相手せずに、これからの希望があるカッコいい男子とデートしたらいいのに」
冬真さんがおどけて言う。
……。相変わらずノンデリやな。でも奈緒師匠の想定通りや。
「冬真さんはおじさんじゃないし、私は素敵で魅力的な男性やと思ってるで。それに、未来はまだ決まってないで」
冬真さんが眩しそうな目で玲央奈を見て優しく微笑んだ。
「そういえば、一人称がウチじゃなくて私なんだね」
「せやで。成人して玲央奈バージョン2になったから。自分の意識を変えるためにそうしてるんやで」
「もともと玲央奈って凄いなっていつも感心してたけど、バージョン2になったら更に手に負えなくなりそうだな」
「ちょっと! 手に負えなくなるってどういう意味やねん」
2人は顔を見合わせて笑った。
2人は大阪方面ホームへの階段を降り始めた。
「今日はどこへ行くの?」
「まずは梅田へ行くで。なぎさ師匠の会社が最近立ち上げたメンズブランドのショップがあるから、そこで冬真さんをコーデするんや。お金の方は大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。クレジットカードあるし。せっかくのデートなのに俺の服の購入でいいの?」
「その後は美容院やで。その間、私は冬真さんのコーデを元に、ファストファッションのお店で他のバリエーションを見繕っておくから。その方がコスパええから」
「えー!? ちょっとやだなぁ」
冬真さんの腰が引けているが、お構いなしに玲央奈は続けた。
「そんなよれよれシャツと寝ぐせのついた髪で私とデートしようなんて、あかんやろ。ま、想定通りやけどな」
冬真さんは慌てて頭に手をやった。
「いや、これは新幹線の中で寝てたから。朝、早かったし」
ふふっ。慌てちゃって可愛い。朝、早くから来てくれたんだと思うと嬉しくてたまらない。玲央奈はドキドキした。
「それに、服は私以外の女の子とデートする時にも使えるやろ? 文句言ってないで私に任せてや」
ズキリ。しまった、言った後で、すごく胸が痛んだ。玲央奈は痛恨の自傷ダメージを受けてしまった。
「今日、買った服は玲央奈とのデートの時だけに着ることにするよ」
冬真さんの言葉に玲央奈はあっという間にダメージが回復し、体中に力が湧いてくるのを感じた。
それって、今後もデートしてくれるってことだよね。玲央奈は頭の中が幸せで満たされた。
「なぎさ師匠や奈緒師匠とのデートの時も着て欲しい」
冬真さんはうなずいた。今度は胸が痛まなかった。
頼りにしていた、なぎさ師匠と奈緒師匠からは今日から玲央奈のライバルになると宣言されている。
玲央奈は気合を入れた。
2人は人が少ないホームの端の方へ歩いた。
ちょうど新快速がやって来るのが見えた。
駅手前で列車線から緩行の電車線に転線するのが見えた。
玲央奈はふと思いついた。そうだ、運命のレールを私が変えるんだ。
玲央奈が冬真さんと一緒に人生を変えられる存在になる。口だけじゃなくて行動で証明するんだ。
その為には……、まず自分の人生を切り拓かないとね。
彼女にしてもらうんじゃない。なるんだ!
玲央奈は決意した。
2人は到着した電車に乗り込んだ。
新快速は相変わらず混雑していた。2人は端の方に立つことにした。
玲央奈は冬真さんとそっと手を繋いでみた。
冬真さんの顔を見ると優しく微笑んでくれている。
電車が出発した。
玲央奈は冬真さんにしなだれかかって、彼の胸に手を当てて鼓動を確認してみた。鼓動が早まっている。どうやら効いているようだ。
手の握り方を恋人繋ぎに変えた。
2人を乗せた電車が淀川に差し掛かった。
川面が太陽の光を反射してキラキラしている。
普段、何気なく見ている景色が今日は一段と綺麗に見える。
玲央奈は今日のデートがきっとうまくいく予感がした。
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冬真さんが誰と結ばれるのか。これから先、未来のことは誰にも分からない。
これからも私達は人生で何度も選択を迫られるだろう。
たとえどんな選択をしたとしても、その選択が正しかったと思えるようにベストを尽くす。
自分の人生を生きることを諦めずに一生懸命進む。
ふと足を止めて、周囲の景色を見た時、いつも目にする見慣れた光景だったとしても、輝いて見える。
そんな人生を歩めるように、自分なりにやれるところまでやってみようと思う。
周囲の大切な人達が、きっと見守ってくれていることを信じて。
-終-




