第31話【最終日】諦めずに進む
決勝前半を勝利した冬真達。
運営側から体育館に移動するよう指示されたのでみんなで向かう。
蒼大君は女性陣からチヤホヤされていたので、冬真はその様子を悟りの境地で見守った。
体育館に到着すると、審判の正木さんから神崎と蒼大君だけステージに上がるようにうながされた。
冬真達はステージのそばで見守ることにした。冬真達の後ろには観客達が大勢いる。
「これから決勝後半の説明を行います。その前にステージ上の神崎さん、山本さんのスマホを一時的に運営が預かります」
正木さんがマイクでそう言った後、神崎と蒼大君がスマホを運営の人に預けた。
「では、決勝後半についてステージ上のプロジェクターに投影します。神崎さんと山本さんはお手元の紙をご覧ください。観客のみなさんのスマホにも配信しますのでご確認願います」
<決勝後半【知力】>
・カード選抜大富豪
両者が任意のカード5種を予め選抜し、残りのカードはディーラーが配布し、トランプの大富豪(別称:大貧民)で対戦する。
以下、①②の順番で進める。
①カード選抜フェーズ
・プロ野球のドラフト指名のように大富豪のカードの内、任意のカードを交互に選抜する。
※両名での重複選抜は不可。
・5種選抜した時点で終了。
・選抜したカードは4枚全てが自身の手札となる。(例外として、ジョーカーのみ1枚)
・奥村パーティーの代表者を先手とする。
②対戦フェーズ
・大富豪のルールにて対戦する。
※その他、基本ルールは別項を参照すること。
・奥村パーティーの代表者を先手とする。
・1戦行う。
<勝利条件:先に手札を全て使う>
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・本対戦では、同じスートかつ連続した数字3枚以上を一度に出せるルール(俗称:階段)は適用しない。
・本対戦では、2人のプレイヤーが同じスートでカードを出した場合、場が流れるまで同じスートのカードのみ出せるルール(俗称:しばり)は適用しない。
・本対戦では、2人のプレイヤーが連続した数字を出した場合、場が流れるまで連続した数字のカードのみ出せるルール(俗称:数しばり)は適用しない。
数分経過し、正木さんが話し始めた。
「ルールはご確認いただけましたでしょうか? 問題無ければ、今から早速、①のカード選抜フェーズを実施します」
正木さんが神崎と蒼大君を交互に見た。
……選抜するカードを事前にパーティーで相談できずに代表者のみで決めないといけないようだ。これはきついなと冬真は思った。
「お2人からの質問が無いようなので、開始します。山本さん、1巡目の選抜をお願いします」
蒼大君は間を空けずに、
「ジョーカーをお願いします」
と言った。
冬真はジョーカー1枚もしくは2が4枚、どちらも捨てがたいが今の時点ではどちらが良いか分からないので、無難な選択だろうと思った。
神崎は2を選んだ。
2巡目。
蒼大君はA、神崎は8を選んだ。
冬真は驚いた。8? どういうことだ?
3巡目。
蒼大君はK、神崎は3を選んだ。
神崎は革命対策か……これは先を越されたか?
4巡目。
蒼大君は4、神崎は10を選んだ。
蒼大君は革命対策だろう。神崎は10? 何を狙っているんだ?
5巡目。
蒼大君はQ、神崎は7を選んだ。
神崎の意図がさっぱり分からない……。
正木さんが確認した。
「山本さんの選抜カードは、ジョーカー、Aが4枚、Kが4枚、4が4枚、Qが4枚となりました。神崎さんの選抜カードは、2が4枚、8が4枚、3が4枚、10が4枚、7が4枚です」
両名がうなずいた。
「では、先程、お預かりしたスマホをお返しします。これより1時間を作戦タイムとします。約1時間後の16時30分ちょうどに②の対戦フェーズを開始します。代表者2名は再度、このステージ上にお戻り願います」
と正木さんが言ったところで、一旦解散となった。
冬真達は急いでプレハブ棟の会議室に集合した。
悟さんも会議室にやってきた。とりあえず座って話すぐらいは問題無いとのことだ。冬真はほっとした。
冬真が悟さんに状況を説明している間、緒方さんは両者が選抜したカードをホワイトボードに書いていった。
「神崎さんが選んだカードだがね。8は8斬り、10は10捨て、7は7渡しだな」
と悟さんが言って、続けてそれぞれのカード効果を教えてくれた。
「ちなみに3やけど革命対策だけじゃないで。スペードの3はスペ3返しがあるから、ジョーカー単体で出す時は要注意やで」
玲央奈ちゃんが言うと蒼大君は青ざめた。
「僕……、もしかして失敗しちゃいましたか……」
雰囲気が一気に暗くなった。
「やっぱり僕じゃ無理だったんだ……。ごめんなさい」
蒼大君はうつむいた。泣きそうになっている。
突然、室さんが立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。無言で蒼大君が選抜したQを指さした。
??? 一同、ポカーンとなった。冬真は白石君を見たが、彼も意味が分からないようだ。
玲央奈ちゃんだけは考え込んでいる。
「……そうや! Qボンバーや! どこかで聞いたことあるで」
玲央奈ちゃんが目を輝かせて続けて言った。
「確か任意のカードを強制的に捨てることができる強力な効果やで。Qが4枚あるから、例えば神崎さんの手持ちのカードから4種類、捨てさせることもできるで」
「それが使えるなら、十分神崎さんに対抗できますね!」
奈緒さんの顔も明るくなった。
「問題は……、Qボンバーがルールとして適用されているかどうかですね。かなりマイナーなルールのようですが」
三浦さんが慎重に言うと、奈緒さんが再び意気消沈した。
「……ダーリン、出番だよ」
隣に座っているなぎささんが冬真をまっすぐ見ながら続けた。
「運営側と交渉してQボンバーを適用してもらうように頼めばいいじゃない」
「分かった。でも誰に頼めばいいんだろう」
冬真が思案していると悟さんが、
「藤堂に連絡するから少し待ちなさい」
と言ってスマホを持って会議室から出ていった。
そしてすぐに悟さんが戻ってきた。
「今から藤堂が指定した会議室に行って欲しい。交渉に応じるかどうかは分からないが話は聞いてくれるそうだ」
冬真はうなずいて立ち上がった。
「行って来る。なんとか交渉してQボンバーを使えるようにしてくるよ」
「私も行きましょう」
三浦さんも立ち上がって冬真のところに来た。
「お願いします」
2人で藤堂さんが指定した会議室へ向かった。
2人で歩きながら三浦さんが問いかけてきた。
「どのように交渉するつもりですか?」
「そうですね……。単にQボンバーを適用してくれと言ってもダメかもしれないので、情に訴える方向で、蒼大君が意気消沈していてこれでは決勝が盛り上がらないのでお願いします……とかですかね」
冬真は自信が無さそうに答えた。
「その方向性が全くダメというわけではないですが、まずは理屈が必要です。さきほどの作戦会議で思ったのですが、そもそも大富豪のローカルルールが多数あるなかで、どのローカルルールを適用しているのか、開示されてない事が運営側の不備ではないかと」
「なるほど……。確かに〝基本ルール〟にも明記されてなかったです。運営側の不備を突いて論破すればいいということですね?」
三浦さんは首を横に振った。
「いいえ、そうではありません。今は時間が無いので、今回の交渉は私が主導します。冬真さんはその流れを見て意見があれば言ってください」
「はい、お願いします」
普段、温和な三浦さんの顔が引き締まっている。何というか……大げさかもしれないけど戦う男の顔のように冬真には思えた。
指定の会議室の前に到着したので冬真はドアをノックした。
どうぞ、と中から声が聞こえたので、三浦さんと中に入った。
会議室の中には佐伯さん1人だけがいた。
着席を勧められたので、冬真と三浦さんは佐伯さんと対面して座った。
「ご用件を伺いましょう」
佐伯さんがうながしたので、三浦さんが話し始めた。
「決勝後半のルール説明として開示された補足説明で、階段やしばり等のルール3種が適用されないと記載がありました。しかし、逆にどのルールが適用されるかの説明がどこにもありません。大富豪にはローカルルールが多数あり、どのルールが適用されるか事前に分からない状態だと作戦会議の意味が無くなりますので、ご相談させていただきたいという用件になります」
佐伯さんが少し考え込んだ。
「……。確かにおっしゃる通りですね。申し訳ありませんでした。ご相談に応じさせていただきます」
「ありがとうございます。ところで、Qボンバーが適用ルールに入っているかどうかを確認させていただきたいのですが」
「……。先程、三浦さんがおっしゃった件は、運営側の不備として謹んで受け入れます。ただ、だからといって、どちらかに肩入れすることは出来ません」
「肩入れではありませんよ。私は当然、Qボンバーが既に適用されていることが決まっていると確信していますが、我々はそれを前提に作戦会議を進めていた都合上、念のために確認しているだけですよ」
「……」
佐伯さんは黙っている。
「では、こうしませんか? 決勝で対戦する両パーティーのメンバーに〝運営側の進行に不備があった事〟をまず謝罪していただき、改めてどのローカルルールを適用するかを通知すれば良いのではないでしょうか?」
「そうですね……。承知しました、持ち帰り検討させてください」
冬真は神崎と再戦したとき……、お題当てゲームの時の佐伯さんの言葉を思い出した。
「佐伯さん、うちの山本君はQボンバーがもしも使えなかったらという不安ですっかり意気消沈しています。トリニティミッションでは若者の成長を育むという側面もあるのではないでしょうか? どうか、その面も含めて前向きにご検討お願いします」
冬真は熱意を持って佐伯さんに訴えかけた。
「……。ご用件については承知しました。いったん、お引き取り願います」
佐伯さんはそれだけ言って、冬真達に退室をうながした。
仕方なく、冬真は三浦さんと2人で退室して、みんなが待つ会議室へ向かった。
2人で歩きながら、冬真は蒼大君に何と説明すればいいか悩んだ。
「何故、悩んでいるんですか? 交渉は上手くいきましたよ」
冬真は三浦さんの言葉に驚いた。
「え? あまり上手くいったようには思えませんでしたが……」
「佐伯さんの立場上、あの場ですぐにOKは出せませんよ。交渉は相手の立場も考えて臨むことが大切です。こちらから落としどころも提示しました。想定通りになるはずです」
「……勉強になりました。こちらの事情しか考えて無かった自分が恥ずかしいです」
冬真は一瞬、なぎささんの事を思い浮かべた。
「いえ。冬真さんの最後の一押しは効いたはずです。人は理屈だけでは動きません。冬真さんの持つ、真摯さがきっと良い結果を導くはずです」
三浦さんの言葉に冬真は元気を取り戻した。
会議室に戻った2人は交渉内容をみんなに説明した。
「後は運営からの連絡を待ちましょう」
三浦さんが言うと、みんなは黙ってうなずいた。
しばらく待つと冬真のスマホに連絡が来た。佐伯さんからの呼び出しだった。
冬真は蒼大君を連れて先程の会議室に向かった。
会議室に入ると、佐伯さんと神崎が座っていた。
冬真と蒼大君も着席する。
「この度は、運営側に進行上の不備があり、誠に申し訳ありませんでした。この場で大富豪のルールで適用する事項を明確化し、作戦タイムを30分追加させていただくこととします。決勝後半の開始は17時とします」
と佐伯さんが話し、続いてルールと各カードの効果について説明があった。
特別な効果があるカードは、5、7、8、10、J、Qとなった。
但し、Qボンバーは弱体化され、Qが2枚で1種のカードを捨てることができる効果となった。蒼大君はQを4枚持っているので2種のカードを神崎から捨てさせることができる。
他にスペ3返し、反則あがり、革命、革命返しがルールとして明示された。
「逆に言うと、ここで明示されなかったルールは全て適用外ということですか?」
神崎が念のために確認すると佐伯さんがうなずいた。
「はい、その通りです。この場で明示したルールのみ適用とします」
神崎が納得し、冬真も問題無いと返事したところで解散となった。
冬真と蒼大君は退室して歩き始めた。
「冬真さん。さっきは無理だって言って諦めてしまってごめんなさい。……僕はもう、諦めません」
蒼大君が泣きながら謝った。
「いいんだ。約束したろ? みんなで戦うって」
「はい! 全力で神崎さんにぶつかります」
蒼大君が落ち着くまで少し待ってから、2人はみんなの待つ会議室へ戻った。
蒼大君は玲央奈ちゃんと特訓して決戦に備えた。
17時。
とうとう運命の決勝後半が開始される。
体育館には大勢の観客達が集まっていた。これまでで一番多い。
体育館は蒸し暑くて環境が悪いのだが、優勝が決まる瞬間を現場で見たいという人達が多いということだろう。
観客達のボルテージが最高潮に達しているように感じた。
冬真達は最前列で決戦を見守ることになった。
ステージ上には神崎、蒼大君、審判の正木さんが立っていた。
正木さんがマイクで話し始めた。
「これより決勝後半を開始します。お2人のスマホは私が一時的に預かります」
正木さんは2人のスマホを預かった。
神崎と蒼大君はステージ上に設置された折りたたみ机を挟んで向かい合って座った。
「では山本さんが先手でスタートしてください」
蒼大君がうなずいた。
「僕のターン! ドロー! Qボンバー4枚、相手のデッキから2種類のカードを破壊するっ!」
会場がおおっと沸いた。
「どのカードを破壊しますか?」
正木さんまでノリノリじゃないか……。
「2と3を破壊しますっ!」
事前に最強カードの2と、革命時の最強カード3、ついでにこれでスペ3返しも潰すことが出来るので、玲央奈ちゃんと相談して決めた段取りだ。
「くっ!」
神崎が顔をゆがませながら、うめき声を出した。
ピピピピ……、冬真は神崎のライフポイントが減る音が聞こえた気がした。
いや、初手Qボンバーは十分予想してただろ!? 神崎までノリノリじゃないか。冬真は呆れた。
そして2人の勝負が続いた。最強カードを失った神崎は革命も駆使して蒼大君を追い詰めていく。
ただ、玲央奈ちゃんとの特訓の成果か、蒼大君は冬真から見てミス無くカードを出していっている。
冬真は手帳に2人の出したカードをメモし、残りカードを確認しながら観戦している。
これはカウンティングと呼ばれる作業だ。ちなみに玲央奈ちゃんは頭の中でカウンティングが出来る。神崎もおそらくそうだろう。
蒼大君は頭の中でのカウンティングは無理とのことなので、主要なカードだけ残り枚数を把握することにしていた。
最後の場面がやってきた。
蒼大君が場を流したところで、神崎残り3枚、蒼大君も残り3枚。蒼大君の手持ちはペアとシングルだ。
カウンティングができていれば自ずと出すカードは決まる。シングルを先に出せば蒼大君の勝利だ。
ついに神崎をあと一歩のところまで追い詰めた。
しかし、蒼大君はカウンティングが出来ていない。運勝負になる。
冬真は玲央奈ちゃんと顔を見合わせる。玲央奈ちゃんも当然、状況を把握している。
蒼大君は悩んでいる。
……そして、ついに蒼大君は最後のカードを出した。
決勝後半が終わり、冬真は1人で体育館から出て、なんとなくグラウンドまで歩いてきた。
夕暮れの日差しが少し眩しい。周囲は涼しくなってきていて、そよ風が心地良い。
ここ数日で見慣れた風景だけど今は……、綺麗な景色だ……、と冬真は思った。
蒼大君は最後にペアを出して敗北した。
最後は確かに運勝負だったが、神崎は勝率を高めるための布石を打っていた。
神崎は少し前に、蒼大君の出したペアをパスして、ペアがもう手持ちに無いと誤認識させていたのだ。
このような、ほんの少しの積み重ねが差となって最後の勝敗を分ける。
強者の壁はやはり高かった。
優勝することができず、褒賞は貰えない。
冬真は自分の人生を変えることができなかった。
でも……自分はやり遂げたのだ。冬真は不思議と落ち着いた気分だった。
人生を変えるチャンスは凡人の冬真には二度と巡ってこないだろう。
自分の運命を受け入れて、出来ることを出来る範囲でやって生きていくしかないのだ。
たとえ冬真の人生が決まってしまったとしても……、次の世代の蒼大君や玲央奈ちゃん達にバトンを繋いでいくのが自分の役割なのだ。
冬真の後ろで足音がしたので振り返ると、なぎささんがいた。
「ダーリン、お疲れ様」
なぎささんが優しい笑顔で話しかけてきた。
「ありがとう……。そして今まで見守ってくれて嬉しかった。感謝してるよ、ナオ」
「師匠……」
なぎさの顔がこわばった。




