第28話【最終日】強者に立ち向かう
5日目。最終日の朝がやってきた。
奈緒子は身支度を整えて食堂に向かった。
歩きながら奈緒子は空を見上げた。昨日とは打って変わって今朝は雲一つ無い快晴だ。暑くなりそうだなぁ。
食堂に着くとなぎささんと玲央奈ちゃんが待っていた。今日は奈緒子が2人を朝食に誘っていたのだ。
そして3人で朝食を食べながら雑談した。
「ついに最終日やね。ここまで来たら優勝狙うで」
玲央奈ちゃんはやる気満々だった。彼女らしい。
「正直、私達が残り4同盟に残れるなんて……。まだ実感が湧かないです」
奈緒子は食べる手を少し止めて感慨にふけった。
「昨日、奈緒さん大活躍だったもんねー。すごく頼りになったよー」
なぎささんが笑顔で褒めてくれたので奈緒子は気恥ずかしくなって体中がむずむずする感覚におそわれた。顔が赤くなっているかもしれない。
「そうやね。ここまで来れたのは奈緒さんのおかげやで! 顔真っ赤になって照れてるところがええな」
玲央奈ちゃんがニヤニヤして急にオジサンっぽくいうので奈緒子は吹き出してしまった。幸い、口の中には何も入っていなかった。
「ちょっと……玲央奈ちゃん、大人をからかって遊ぶのはだめだよ」
奈緒子は冗談めかして言ってみた。
「えー。遊んでるわけちゃうで。それに……、奈緒さんの仕草を学ばせてもらってるんや。冬真さんが気に入るかなと思って」
玲央奈ちゃんが少し寂しそうに言った。
「別に奈緒さんの真似しなくても玲央奈ちゃんはそのままで十分魅力的な女の子だよー。冬真さんもきっと気に入ってるから大丈夫だよー」
なぎささんが玲央奈ちゃんを励ましたので玲央奈ちゃんが少し笑顔になった。
「うん……ありがと、なぎささん。奈緒さんもなぎささんも大好きやで。はぁ……早く成人したいなぁ。正直、今のウチだと、なぎささんと奈緒さんには全然敵わんからなー」
奈緒子となぎささんは顔を見合わせて笑った。
「そんなに急いで大人になろうとしなくても、嫌でもそのうち大人になっちゃうよー。で、大人になったらなったで、年をとっていくのが嫌になるから」
なぎささんが溜め息をついたところで、玲央奈ちゃんがなんとなくという感じでうなずいた。
「そんなもんかもしれへんけど……。あ、なぎささんは若くて綺麗で素敵なおねーさんやで」
「ふふ。ありがと。ダーリンもそんな感じで言ってくれたらいいんだけどねー」
「冬真さんは……期待できひんやろ。ウチのお父さんと一緒やで」
これには3人同時に笑ってしまった。
奈緒子はこのままずっとこの3人で仲良くいられればいいのにな、と思った。いっそのこと、冬真さんが3人と付き合ってくれればいいんだけど。
朝食を終えた奈緒子は一度宿泊棟に戻って一休みし、その後はプレハブ棟の会議室に向かった。
準決勝の作戦会議をするためだ。
奈緒子が会議室に着いてから、ほどなくして全員が会議室に集結した。
奈緒子は冬真さんをじっと見た。
昨日よりは動揺が収まり落ち着いているが、元気が無い。だいぶ悩んでいるようだ。でも今は見守るしか無い。奈緒子が力になれることがあればいいのだが。
まずはみんなで一緒に準決勝の内容を確認した。
<準決勝【知力・体力・運】>
・ターン制陣地攻撃ゲーム(運営独自考案)
相手陣地のプレイヤー位置を推定し、攻撃を当てるゲーム。
・パーティー同盟から代表者1名をプレイヤーとして選出する。
・縦3マス×横3マス(合計9マス、各マスは1辺5mの正方形で構成)の陣地を2面用意する。
各プレイヤーはそれぞれの陣地で任意の場所に立つ。
2面の間にはパーテーションを設置する為、お互いのプレイヤーは相手が陣地内のどのマスにいるかは分からない。
・将棋等の対戦ボードゲームのように交互に自ターンが回ってくる。1ターンは5秒とする。
・自ターン時に相手への攻撃、もしくはマスの移動(縦・横・斜め方向に1マス)を行う。
・相手への攻撃は任意の1マスを指定して行う。
もしも攻撃指定したマスに相手が存在していればHPを1減らすことができる。
・カメラの画像認識でプレイヤーがどのマスに存在するかを判定する。
マスを移動する場合は時間内に素早く移動を終えること。
審判の目視も併用するが、原則は画像認識結果が優先される。
・プレイヤーの初期HPは3とする。相手に3回攻撃を当てる事で勝利となる。
※その他、基本ルールは別項を参照すること。
・運営事務局にて指定する対戦相手と試合すること。
3戦行う。
<勝利条件:先に2勝する>
・パーティー人数が3人以上の場合、同じメンバーが複数の試合に出ることはできない。
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・プレイヤー1名とは別に、攻撃専門のアタッカー1名を選出し、2名体制とすることが可能。
この場合、プレイヤーが移動。アタッカーが攻撃を担当する。
両者のコミュニケーションは運営が配布するインカムを通じて実施すること。
・1ターン内に移動と攻撃を同時に行った場合、反則負けとなる。2名体制の場合は特に注意すること。
・1ターン内に2マス移動した場合、反則負けとなる。
・攻撃はスマホアプリを使用する。
自ターン時にスマホアプリに表示される9マスの内、任意の1マスをタップすることで相手への攻撃が可能。
なお、スマホアプリのガイド機能として、相手プレイヤーが存在する可能性のある候補マスを赤で表示するので参考にすること。
まずは冬真さんが検討の切り口を提示した。
「このルールだと、もしも攻撃を食らったら、次のターンは必ず移動しないと連続で攻撃を食らってしまう。そして、どのマスで攻撃を被弾したかで、次の移動先の候補マスが絞られるから、この点がポイントになりそうだな」
冬真さんがホワイトボードに場合分けのパターンを書こうとしたところで、緒方さんが止めた。
「自分がやるから、奥村君は座ってて」
元気が無さそうな冬真さんを見て緒方さんが代わってくれたようだ。気が利くなぁと奈緒子は感心した。
そして緒方さんは頭の中で整理した結果を、読みやすく整った字でホワイトボードにスラスラと書いた。この人に苦手な事は無いのだろうかと奈緒子は思った。
☆被弾時の移動先候補マス
①真ん中→8マス
②上、下、右、左→5マス
③右上、右下、左上、左下→3マス
「③の位置で被弾すると移動先候補が3マスしか無いから被命中率が33%もあるな。連続被弾の可能性が高い」
冬真さんがホワイトボードを見て言った。
「①は移動先候補が8マスもあって安全そうやけど、反面、相手も当然それを分かっていて狙われやすいから安易に真ん中に立つのも考えもんやな」
玲央奈ちゃんが腕組みしながら考え込んでいる。
「そうなると主に②のマスにいた方がいいってことになりますね。ただ、②ばかり選んで移動してるってバレたらやばいですけど」
蒼大君も続いた。
「とりあえず、アプリの方も確認してみよう」
冬真さんがみんなをうながしてアプリの確認を始めた。バトルロイヤルのアプリの時と同様、テストモードが搭載されていた。
「確かに被弾後、アプリの表示する候補マス数がホワイトボードの通りになっていますね」
三浦さんがうなずきながら言った。
「やっぱり③の位置で被弾するとかなりのピンチやで。③に移動するのはなるべく避けるべきや」
奈緒子は手を上げて言った。
「ところで、もしも被弾した際、直後は2回連続で移動したほうがいいですよね。実際、そうしてみるとアプリの候補マスが増えます」
「うーん。①で被弾した場合は無理に2回連続で移動しなくてもいいと思うで。でも②と③の位置での被弾やと2回移動したほうが良さそうやな」
緒方さんが方針をホワイトボードに追記した。
☆移動方針
・①で被弾した直後は1回移動する。
・②③で被弾した直後は2回移動する。
・相手から見て、こちらの候補マスができるだけ5マス以上あるようにする。
「できるだけ、相手からの被命中率を常に20%以下に抑えるってことですね」
蒼大君がうなずいた。
「気分的にはもっと相手からの被命中率を下げたいところだけど、そうするとこちらの攻撃回数が減りすぎて相手へのプレッシャーをかけられなくなるしね」
緒方さんが言うとみんなうなずいた。
「緒方さんの書いてくれた通りで良いと思います。これを基本方針として戦いましょう」
三浦さんが決めたところで、奈緒子もこれでいいかなと思ったのだが……。
「ちょっと待って欲しい」
冬真さんがアプリをじっと見ながら考え込んでいるので、みんなで冬真さんを待った。
しばらくして冬真さんがつぶやいた。
「このアプリには仕様不具合があるな」
「不具合? バグってやつー?」
冬真さんの隣に座っているなぎささんが腕で冬真さんをつんつん突付いて言った。
「いや……プログラムのミスでは無さそうだからバグでは無いと思うけど……まぁ、そういう理解でも構わないよ」
「で、どんな不具合なんでしょうか?」
三浦さんが先をうながした。
「例えば、①で被弾したとします。で、次ターンは当然移動するわけですが、何らかのアクシデントで移動できなかった場合のことを考えると、①の真ん中マス自体も候補マスにすべきですよね」
冬真さんがアプリのテストモードで実際に動かしながら話した。
「①で被弾後に相手が移動した場合、候補が8マス表示されます。でも①で被弾後、相手が移動も攻撃もできずに5秒経過して時間切れでターンを無駄にしたケースでアプリを操作すると、候補マスは9マスのはずなのに8マスの表示になっています」
「まぁそれを言い出すと、ホワイトボードにさっき自分が書いた内容も、被弾直後にターンを無駄にした場合のことは想定していないわ。アプリの仕様を考えた人が想定していないのも無理は無いと思うけどね」
緒方さんが言ったところで、急に悟さんが話しだした。
「もしかしたら、これは使いどころがあるかもしれない。私の運を組み合わせれば……」
悟さんが考え込み始めた。
続いて対戦するプレイヤーを決めることになった。
冒頭、藤堂さんから2戦目で悟さんとの対戦をお願いされている旨を、冬真さんが簡単に説明した。
「別に無理に受けなくてもええんちゃう? 藤堂さんが2戦目で出てくるなら、あえて2戦目を捨てて、1戦目と3戦目で勝つやり方もありやと思うで」
「藤堂さんってそんなにすごいのでしょうか?」
三浦さんが心配そうに聞く。
「知力++でしたよー」
なぎささんが答えると緒方さんと三浦さんが驚いた。
「やっぱり準決勝まで来ると、相手の強さもハンパじゃないわね」
緒方さんがちょっと元気無さそうに言った。
「ちなみに、お父さんから見て、藤堂さんって勝ち目あるん?」
「そうだな……。〝全力以上〟を出したとして、勝率は10%未満というところだろう」
みんながシーンとなった。
「そういえば、藤堂さんが悟さんにバトルロイヤルで数十年ぶりに勝負できて楽しかった、と言ってましたが、昔はどんなふうに勝負していたんですか?」
冬真さんが思い出したように悟さんに聞いた。みんなが一斉に悟さんを見た。
「ああ。定期テストで勝負していたんだ。常に成績トップの藤堂が、なぜそんなに成績が良くない私に勝負を挑んで来るのか不思議だったが……」
「で、勝率はどうやったん?」
玲央奈ちゃんが興味津々の顔になった。
「私が全勝していた」
「えー!? すごいやん! お母さんみたいや!」
「いや、サイコロで決めた1教科だけで勝負していたんだ。英語は除いて、国語・数学・理科・社会に加えて残り2教科は保健や美術等を藤堂がその都度指定して計6科目を候補にしていた」
「お父さん、英語苦手やもんなー。分かるー」
会議室内の雰囲気が少し明るくなった気がした。
「冬真さん、私がさっき言った想定勝率はアベレージでの話だ。今回は1回きりのトーナメント勝負だ。たとえ、10回に1回しか勝てなくとも、その1回を今回持ってくればいい。それを考えるのが戦略というものだ」
悟さんが冬真さんをじっと見た。冬真さんがうなずいた。
「悟さんの中で戦略があるんですね」
「確実とは言えないが、もしも任せてくれれば全力を尽くすよ」
冬真さんが決意した顔になった。悟さんを信じることにしたようだ。
「悟さんは藤堂さんの相手をお願いします。確かにさっき玲央奈ちゃんが言ってくれたように藤堂さんとの1戦を捨てるやり方もあると思う。でも、うまく言えないけど、そういう逃げの姿勢だと強者には絶対に対抗できないと思う。なんとかして食らいついていく姿勢で挑もう」
冬真さんが言うと、みんなうなずいた。
「ふっ、経験が活きたな」
無言だった室さんが突然口を開いた。
「きっと奇跡が起きて勝てるッス」
白石君が笑顔で言ったので、沈んでいた空気が一変して雰囲気が明るくなった。
「1戦目はウチがいくで。蒼大さん、ウチと一緒にがんばるで」
玲央奈ちゃんが蒼大君を見て言った。
「うん。がんばろう!」
蒼大君の表情がやる気に満ちている。
「では1戦目は2人に任せるよ。おそらく、俺達の中で2人の組み合わせが最強だ。初戦から出し惜しみ無しで行こう」
冬真さんが言ってみんながうなずいた。
「3戦目ですが、私は奥村さんと緒方さんが良いと思います。確かに、1戦目の2人は最高戦力でしょう。ただ、優秀な社会人である奥村さんと緒方さんはここ一番の場面で成果を出すことにかけては最も期待できるはずです」
三浦さんからの推薦に緒方さんがうなずいた。
「アタッカーを奥村さんにやってもらって、自分がプレイヤーをやるわ。奥村さんをしっかりとサポートするから任せて」
元気の無い冬真さんを気遣った緒方さんの申し出に、冬真さんはうなずいた。
「ありがとうございます。では、それでいきましょう。よろしくお願いします」
決めるべきことは全て決めた。あとは全力で挑むだけだ。
準決勝は見学となった奈緒子だったが、しっかりと戦いを見守りたいと思い、気合を入れた。




