第27話【Stella of Dragon】応竜に再び挑む
応竜に再び挑む日がやってきた。地球時間の19時頃に開始予定だ。
ステドラ時間ではちょうど雷曜日になるので、水属性の応竜の攻撃が若干弱まり、逆に応竜の弱点の雷属性攻撃が若干強まるのが理由だ。
わたしは律と早めの夕ご飯を食べ、ステドラにログインし、戦いの準備を進めることにした。
自宅で栽培している植物に水をやりながら、早速、オガミちゃんにチャットで連絡してみる。
「お願いしていた聖騎士の件、大丈夫だよねー?」
「うん。ちゃんと来るよ。変な人だけどきっちり役目は果たしてくれるから大丈夫。あと、ついでに同じギルドの弓術士も連れて行くね」
「うん、分かった、助かるー。ありがとねー」
オガミちゃんからの返事に安心し、先日から少しずつ貯めていたハイポーションを倉庫から取り出す。
ギルドチャットでコペル君から連絡がきた。
「みんなー。各自ハイポーションの所持数をチャットで教えて。各メンバーに配布し直す数を検討するから」
わたしはコペル君に手持ちのハイポーションの数を連絡した後、自宅を出た。
移動魔法で商業中心で栄えた大国の首都に到着した。
整然と整備された綺麗な町並みの表通りを走り、冒険者で賑わう競売所を抜けて、集合場所の裏通りの酒場に入った。
リッツは既に到着していた。ハイポーションをコペル君から連絡のあった指定数、リッツに渡しておく。
「ありがと、助かるよ。いよいよ応竜との再戦かぁ、緊張してきたな」
リッツの装備がいつもと違っていた。通常、リッツは魔物のいない町中ではお洒落着に着替えているのだが、今日は見慣れない無骨な鎧姿になっている。
「あら、装備を新調したの?」
「うん。この前、応竜が滅茶苦茶強かったからね。気休めかもしれないけど有り金はたいてブレス耐性が付いてる装備にしたんだ」
「ふーん。殊勝な心がけじゃない。そーいえば、ステドラってよくファンタジーの戦士が装備してるような露出度の高いビキニアーマーって無いよねー」
「うん。あればすぐに購入するんだけどねぇ」
「ちょっと! 自分のキャラにエロい格好させてニヤニヤするのキショすぎだからやめなさいよね!」
「ちょっ……。ニヤニヤしてないし! キショくないし! 可愛いくてエロい方が、男から貢がれやすくなっていいかもって思ってさ。営業用だよ」
「アンタ……、その内、刺されるわよ」
わたしが呆れていると、他のメンバー達がお待たせー、と酒場に入ってきた。
続々とメンバーが集まってきたが……、1人来ていない。
「あと来てないのは聖騎士さんだけだね」
コペル君が確認する。
「ごめんなさい。なんか、用事があって遅れてるっぽくて……」
オガミちゃんが申し訳なさそうにしている。
「ムロトーさんから連絡あったッス。直接、決戦予定地の荒野に来るそうッス」
とホワイトストーン(Whitestone)さんが報告した。
彼はオガミちゃんと同じギルドに所属する弓術士で、職業にマッチしそうな器用さに定評のあるエルフ属男性の子供だ。
「じゃあ、出発しよう。もうすぐ雷曜日だしね」
コペル君がみんなをうながし、わたしとコットンちゃんの移動魔法で荒野近くの村まで移動した。
ステドラ時間で深夜になっていた。空にはたくさんの星が瞬いている。わたし達は目的地に向かって荒野を走った。
「雷曜日になったわね」
オガミちゃんが言う。いよいよ決戦の時だ。
「どうやら雨は降りそうにない。天気予報でもこの地域はしばらく晴れの見込みだから大丈夫そうだね」
師匠が安心して言う。
雨天の時は水属性の応竜にとって有利になるので、師匠が雨天の少ない荒野を決戦地として選んだのだった。
しばらく走って目的地に着いた。開けた場所で、ところどころ大きい岩が点在している。
師匠が各メンバーに位置取りを説明していたところで、やっと重厚な鎧を身にまとった聖騎士が到着した。
「みんな、待たせちゃってごめんなさいね」
オガミちゃんが謝った。遅れてきた本人は何故か無言だ。
聖騎士の名前は、ムロトー(Murotoh)さん。人間属男性だ。見た目はかなりカッコいい。
師匠がムロトーさんにも位置取りを説明し、コペル君がハイポーションを渡した。これで戦う準備が完了した。
最後に師匠がみんなに確認した。
「戦い方は昨日までに各メンバーに事前に伝えた通りです。もしも質問事項があれば、今、教えてください」
質問は無いようだった。みんなバッチリのようだ。
師匠は続けて言った。
「あと、ネットで調べた情報だと応竜を含めた神竜を笛で呼ぶ場合、空から猛烈な勢いで地面に激突してきて、その衝撃を受けるとダメージを受けるだけでなくスタン状態になるそうです。突撃の直前にタイミング良くジャンプしてください」
スタン効果は数秒間ではあるものの、初動にかなり影響しそうだ。なるべく避けるべきだろう。
地平線から日が昇ってきた。荒野の岩肌が黒から茶色に変わっていく。
こちらのメンバーは、応竜の攻撃を主に受けるメイン盾の聖騎士ムロトー、そしてサブ盾兼、近接物理アタッカーのリッツ。
近接物理アタッカーのオガミ、コペル。
遠距離物理アタッカーのホワイトストーン。
遠距離魔法アタッカーのアジュール。
各種支援の師匠。
回復役のコットン、わたし。
以上、9名だ。
「コペル、頼む」
師匠がコペル君を促すと、コペル君は応竜の笛を使った。
「呼ぶよー」
澄んだ笛の音が辺りに響き渡る。そして、静寂が訪れた。みんなが周囲の空を警戒している。
「あ! 来た! 9時の方向!」
アジュール君の報告にみんなが西の空を見た。
見覚えのある美しいフォルムの水色のドラゴンが西の空から猛烈な勢いでこちらに向かって来ている。
みるみるうちに、その姿が大きくなり、地面に激突した。
ドズゥウウウウウウウウン!!!!!
すさまじい衝撃とともに、辺りに土煙が舞い上がった。
わたしはジャンプが遅れてしまいスタン状態になった。ダメージも結構痛い。
ムロトーさんとコットンちゃんはうまくジャンプで躱していたようだ。
ムロトーさんが応竜に最初の攻撃を与えてターゲットを取った。そして、自分で回復魔法をかけて応竜からの敵対心を上げていく。
コットンちゃんは素早く移動し、ムロトーさんに回復魔法が届く距離で応竜の横に位置取った後、ムロトーさんの回復を始めた。
思っていたよりも長めのスタン状態が解けたわたしは、応竜の横、コットンちゃんから少し離れた位置に行った。コットンちゃんとわたしが同時に攻撃を受けないようにする配慮だ。
前回の反省で尻尾攻撃のダメージを抑えるために近接物理アタッカーは応竜の後ろではなく、横に位置取りした。但し、リッツはムロトーさん寄りの場所だ。
師匠とホワイトストーンさん、そしてアジュール君はそれぞれ距離を少し空けて同じく応竜の横に立った。
悪くない立ち上がりだ。
防御力が高いムロトーさんはかなりの安定感を見せていた。時々、応竜のブレスで大ダメージを受けるが、リッツよりも一段上の硬さなのでコットンちゃんとわたしの回復もそこまで忙しくない。
「アジュール、頼む」
師匠の合図にアジュール君が超威力の雷攻撃魔法の詠唱を始めた。
詠唱時間が15秒程度と非常に長く、MPも大量に消費するが、その分、威力も凄い魔法だ。
アジュール君の魔法が応竜に着弾するタイミングを狙って、前衛陣が〝雷属性の場〟を作っておく手筈だ。
応竜が詠唱中のアジュール君を見た。
オガミちゃんが雷属性の武器スキルを使用したところで、応竜が突然、翼を激しく羽ばたかせた。
応竜の周囲にいたムロトーさん、リッツ、オガミちゃん、コペル君がかなり吹き飛ばされた。
〝雷属性の場〟を作るのに失敗してしまった。アジュール君が慌てて詠唱を中断する。
応竜は吹き飛ばしたムロトーさんに突進攻撃したが、なんとか盾で耐えたようだ。コットンちゃんとわたしでムロトーさんを回復する。
吹き飛ばされた前衛達はハイポーションを使ってHPを回復しつつ、前線に復帰した。
「これって、明らかに邪魔してきてるよね??」
オガミちゃんが焦った様子で言った。
「2撃目はオイラの武器スキルを使って雷属性の場を作るッス」
遠距離から弓で攻撃しているホワイトストーンさんは吹き飛ばされないのでいい考えだ。
「いや、待って。雷属性の場を作るのはオガミちゃんとボク、リッツ君とホワイトストーン君の組み合わせって決めてたでしょ。ホワイトストーン君だけだと回転率が落ちる。ボクに考えがある。オガミちゃん、リッツ君、後ろに岩がある場所を背にしよう」
コペル君の指示で前衛陣が応竜の位置をうまく調整して、前衛陣の後ろに大きな岩がある位置取りに変えた。
「アジュール、今だ」
師匠が合図してアジュール君が再び、超威力の雷攻撃魔法の詠唱を始めた。
オガミちゃんが雷属性の武器スキルを使用したところで応竜が翼を激しく羽ばたかせた。
今度はコペル君の背に岩があったので、コペル君は岩にぶつかりそれほど吹き飛ばされなかった。コペル君は素早く武器スキルで振動を与えて周辺に拡散させることで数秒間、〝雷属性の場〟を発生させた。
そこにアジュール君の超威力の雷攻撃魔法と師匠の雷攻撃魔法が着弾し、マジックブースト攻撃が炸裂した。
グォオオオオオオ! 応竜が咆哮しながらスタン状態になった。
「やったー!」
アジュール君が喜んでいる。
スタン状態が解けた応竜は巨大な尻尾をふるい、辺りを轟音に包むと共に衝撃波を発生させた。
応竜の後ろにいるメンバーがいないため、尻尾の直撃は避けたものの衝撃波で全員が大ダメージを受けた。
回復魔法が使えるムロトーさん、コットンちゃん、わたし、師匠以外のメンバーは各自、ハイポーションを使って回復する。
「続けていこう」
師匠がうながしてアジュール君が超威力の雷攻撃魔法を詠唱する。
今度はリッツが雷属性の武器スキルを使用したところで応竜が翼を激しく羽ばたかせた。
しかし、遠くに位置取りしているホワイトストーンさんには届かなかった。弓の武器スキルで振動を与えて周辺に拡散させることで数秒間、〝雷属性の場〟を発生させた。
応竜にアジュール君の超威力の雷攻撃魔法と師匠の雷攻撃魔法が着弾し、再びマジックブースト攻撃が炸裂した。
スタン状態が解けた応竜が言った。
「見事だ。だが、これを打ち破れるかな」
応竜の体を巨大な水の球体バリアが覆った。
いよいよ来た。ここからが本番だ。
師匠がコペル君に指示を出した。
「よし! 事前の打ち合わせ通りにやるぞ。コペル、頼んだぞ」
「うん! 任せて」
アジュール君が超威力の雷攻撃魔法を詠唱する。
応竜が翼の羽ばたきで邪魔するが、岩を背にしたオガミちゃんとコペル君が〝雷属性の場〟を作り、更にコペル君がソルトジェネレーターを応竜に使った。
水のバリアに大量の塩が混ざり、塩水となった。
師匠がクイックキャストを発動し、連続で雷攻撃魔法を詠唱する。
水のバリアにアジュール君の超威力の雷攻撃魔法と、更に師匠の雷攻撃魔法が連続着弾し、マジックブースト攻撃で水のバリアに大ダメージを与えた。
続いてリッツ&ホワイトストーンさんが更に〝雷属性の場〟を作り、師匠の雷攻撃魔法の連続マジックブースト攻撃が水のバリアをどんどん削っていく。
応竜はブレス、そして巨大な尻尾の衝撃波を連続で使って反撃してきた。
各自がハイポーションと回復魔法でしのぎながらも、応竜への攻撃の手を緩めなかった。
前回の応竜戦で師匠がソルトジェネレーターの効果時間が20秒だと判明したと言っていたので、20秒前後の間隔で次のソルトジェネレーターを投入する必要がある。
順番は、最初がコペル君、次にコットンちゃん、最後がわたしだ。
コットンちゃんがソルトジェネレーターを応竜に使った。
前衛陣は各ペアが交互に〝雷属性の場〟を作っている。アジュール君の高位の雷攻撃魔法と、師匠の連続雷攻撃魔法が水のバリアに容赦なくダメージを与えていく。
そして、わたしが最後のソルトジェネレーターを応竜に使い、数秒後、ついに水のバリアを破壊した。
師匠の雷攻撃魔法が連続して応竜本体に当たり続け、応竜はずっとスタン状態になり攻撃が出来なくなった。
ギャアアアアアア!! 応竜が悲鳴を上げている。
更にアジュール君の高位の雷攻撃魔法が当たって応竜のスタン状態が継続したところで、師匠がコンバートを使ってMPを回復した。
「一気に畳み掛けるぞ!」
師匠の号令で前衛陣とホワイトストーンさんがそれぞれ必殺技を使って応竜にどんどん大ダメージを与えていった。
師匠の連続雷攻撃魔法によるスタン継続で応竜は全く身動きできないまま、大ダメージを受け続けた。
応竜のHPが残り70%ぐらいになったところで師匠のクイックキャストが切れた。
応竜がスタン状態から回復し、攻撃を止めて、翼をはためかせて上空に飛翔した。
攻撃が届かなくなってしまった……。
「水のバリアを打ち砕くとは見事だ。なかなか楽しめたぞ。次は本気を出してやろう。腕を磨いてから我を呼ぶがいい」
応竜が、〝応竜の笛II〟を空から落として飛び去っていった。
「今回も笛はボクが預かっておくね」
コペル君が〝応竜の笛II〟をゲットした。
「今度は使用期限が無いみたい。もっと強くなってから呼べってことみたいだね」
とコペル君が笛の説明を確認してから言った。
「戦利品がまたもや笛だけかー」
リッツが少しガッカリして言う。
「仕方ないでしょ。まだ本気じゃなかったみたいだしね。またレベルを上げてから再戦しましょう」
オガミちゃんが前向きに言った。
「でも、すごい充実感です。楽しかった」
コットンちゃんが感慨深く言い、みんなでうなずいた。
「なんだか、ただの荒野なのに、綺麗に感じるッス」
ホワイトストーンさんが言うのでナオは周囲をじっくり見た。
確かに地味な色合いの荒野が周囲に広がっているだけだが、太陽がいつもより綺麗に輝いて辺りを照らしている気がする。
しばらくみんなで荒野をじっと眺めた。
「一生懸命生きていれば、何気ない景色も綺麗に見えるものだよ」
師匠がなんだか良い事を言う。わたしはドキドキしてしまった。
その後、移動魔法でみんなを近くの町に送り届けた後、解散となった。
わたしはギルドチャットで挨拶した後、ステドラをログアウトして、ノートPCの前で余韻に浸って、しばらくぼーっとした。
リビングから律の気配がする。まだステドラをプレイしているのだろう。
わたしの部屋の中はしんとしている。
まだドキドキしている。わたしは……一生懸命生きている。そして考えてるよ。
わたしは決心した。1ヶ月後のクリスマス・イブに師匠に告白しよう。
この選択がどんな結果になるかは分からない。不安の方が大きい。
わたしは、もしかしたら取り返しのつかないことをしようとしているのかもしれない。
でも……わたしが一生懸命考えた結果だ。どんなことになっても、少なくともわたしは受け止めなければならない。




