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第24話【4日目】真意を語る

 準々決勝を見事に勝ち抜いた冬真達は、体育館で喜びを分かち合った。

 奈緒さんの体調が悪そうなので、なぎささんが宿泊棟へ連れて行ったが、冬真は心配だった。

 もしかしたら、共感覚を酷使しすぎたことが影響しているのでは無いだろうか。

 明日は最終日ということで、奈緒さんは更に無理をするかもしれない。

 ちゃんと奈緒さんとコミュニケーションをとって、体調に支障の無い範囲で共感覚を使ってもらうようにしないとな、と冬真は反省した。


 今日はこれにて全て終了だ。明日の準決勝に備えて英気を養わなくてはならない。

 冬真はみんなにゆっくり休もうとうながし、宿泊棟に移動した。

 冬真が自室に戻ってベッドに腰掛けて少しぼーっとしていると、スマホに悟さんから通話の着信があったので出た。

「お疲れ様です。準々決勝の勝利を玲央奈から聞きました。圧勝だったそうですね」

「はい。でも奈緒さんにかなりの無理をさせてしまいました。明日は奈緒さんの体調のケアもしっかりしたいと思います」

「うん。それも玲央奈から聞いているよ。おそらく一時的に脳に大きい負荷がかかってしまったのが原因だろう。まずは安静にすることが大切だ」

「はい。なぎささんがすぐに奈緒さんを宿泊棟に連れて行ったので、今頃は休んでいるはずです」

「それなら大丈夫だと思う。奈緒さんは若いから今晩しっかり休めばきっと回復するだろう」

「ところで悟さんは大丈夫ですか? バトルロイヤルでかなり消耗していたようですが」

「うん。先に休ませてもらったから大分楽になったよ。心配には及ばない。ところで冬真さんはまだ元気が残っているかな?」

「はい、大丈夫ですが……。なんでしょう?」

「今から、私と一緒にプレハブ棟の会議室に来て欲しい。藤堂から呼ばれていてね。冬真さんにも同席してもらいたいんだ」

「藤堂さんから……? はい、分かりました。これから会議室へ向かいます」


 宿泊棟の外に出ると、雲の隙間から見える太陽がだいぶ傾いてきていて涼しくなっていた。

 藤堂さんが何の用だろう? 悟さんとの親交を深めたい、ということだろうか? それなら冬真は不要、というか邪魔なような気もするが……。

 プレハブ棟の前で悟さんが待っていた。

「お待たせしました」

「疲れているところ、悪いね。実は私も何の用事かは聞いていないんだ。冬真さんにも用があるそうなんだが……。冬真さんは疲れているだろうから、私が藤堂とやりとりするよ。もしも冬真さんから何かあれば口をはさんでもらいたい」

「はい、承知しました。そうしてもらえるとありがたいです」


 2人で会議室へ向かうと藤堂さんが既に待っていた。

 藤堂さんが立ち上がって2人を迎えた。

「準決勝進出おめでとう。私のパーティーも準決勝に進出したよ。明日の準決勝は我々で対戦することになる」

 藤堂さんが2人に着席をうながしたので冬真は椅子に座った。藤堂さんも向かい側に座る。

「なるほど。対戦前にこちらの情報を引き出すことが目的で呼んだ、というところかな?」

 悟さんが探りを入れた。

「いや、違う。1つ、お願いしたい事があってね。それ以外の他意は無い」

「ほう。では聞こう」

「その前に。逆に水無瀬から私に聞きたい事があるのではないかな?」

 悟さんは藤堂さんの目を無言で見つめた。

「そうだな。聞きたい事はたくさんある」

「まず、そちらを済ませようじゃないか。何でも聞いてもらって構わない」

「分かった。ところで私は疲れていてね。目を閉じながら話をさせてもらうよ」

 悟さんは目を閉じた。


「別に問題は無い。バトルロイヤルで相当な無理をしたようだからな。数十年ぶりの再会だ。リラックスしながら話をしようじゃないか」

 藤堂さんが穏やかな顔になった。

「そのバトルロイヤルだがね。どうして私と奈緒さんを狙ったんだ?」

「理由は2つある。1つ目は水無瀬と親交を温める目的だよ。数十年ぶりに勝負できて楽しかったよ」

「それにしてはずいぶん手荒い歓迎だったな。過剰な戦力だった。明らかにこちらをつぶす目的のように見えたが?」

「そうだ。2つ目は水無瀬をつぶすためだ。イレギュラーな存在を排除するために私はトリニティミッションに参加している。だが、その過剰な戦力も君達に撃退されてしまったがね」

 藤堂さんが苦笑しながら言う。悟さんがうなずいた。

「なるほど……。やはり藤堂は運営側の人間、それもトップなのではないかね? そしてテストプレイを兼ねつつ、運営に支障のありそうな存在をつぶしているということだな」

「その通りだ。流石だな。ただ、参加者として動いているとどうしても運営トップとしてのタスクがおざなりになるからね。実質的な運営トップは佐伯君が務めている。おそらく面識があるだろう?」

 冬真は佐伯さんの顔を思い出した。そうだったのか……。

「ああ。佐伯さんとは何度か会っている。なかなかのやり手のようだ」

「うん、佐伯君無しではこのイベントを実現できなかった。彼には感謝してもしきれないよ」


「話を戻すが……、私のことを招待しておいてイレギュラーな存在とはなかなかひどい扱いじゃないか。藤堂の差し金で私を呼んだのだろう?」

「そうだ。参加者として招待した水無瀬のお嬢さんのステドラの支払い情報に登録されていたクレジットカード名義が君になっていたのを見つけてね。懐かしくなって水無瀬を招待したんだ」

 冬真は驚いた。ステドラ? どういうことだ?

「それにしても知力-、体力-、運-とはひどいな」

「ははは。すまない。時期的に事前の体力テストとペーパーテストを水無瀬に受けてもらうことが出来そうになかったのでね。他にも水無瀬のように事前テストを何らかの理由で受けられなかった者は一律で知力-、体力-とさせてもらっている。ちなみに運-だけはステドラでの水無瀬のリアルラックが悪いことが影響している。まぁ低ステータスで敬遠されてパーティーを組みにくくなるだろうが、君にはちょうどいいハンデだろうと思ってね。でも結局はパーティーがちゃんと組めたみたいで良かったじゃないか」

「リアルラック……、なるほど、ロットイン(戦利品分配システム)の勝率で運を判定していたのか。しかし、私は娘とキャラクターを共有している。どうやって2人の区別をしたんだ?」

「水無瀬達はPCでは無く、ゲーム機でステドラをプレイしているだろう? ゲーム機側でアカウントを切り替えているから、プレイヤーが別人だと判定できる」

「なるほど、そういうことか。triangleX社の全面協力があるということか」

「そうだ。トリニティミッションで使用しているいくつかのスマホアプリもtriangleX社が開発したものだ」

 冬真は手を上げて言った。

「あの、すいません、ちょっと待ってください。もしかしてこのトリニティミッションの参加者はステドラのプレイヤーから集めたのですか?」

 藤堂さんがうなずいた。悟さんが優しく言う。

「参加証のIDがステドラと全く同じだったからね。参加前からそのように予測していた。で、参加してみて確信に至った。今の我々のパーティーは玲央奈がステドラでよく遊ぶメンバーを中心に集めて組んだんだ」

「そんな……まさか……」

 冬真は呆然となった。


「そもそも何故、ステドラのプレイヤーを集めたんだ? 藤堂、お前は何をしようとしている?」

「トリニティミッションは主に2つの目的を設定して企画した。その内、1つ目の目的を今回で実験しようと思ってね」

「実験? 参加者に通知しているトリニティミッションの目的とは別にあるということか?」

「そうだ。表向きの目的としては各参加者に通知している通りだ。そちらも嘘というわけでは無い。ただ、それとは別に我が国を救うためにどうしてもやらなくてはならないことがあってね」

「その、どうしてもやらなくてはならないことを成すため、というのが実験の目的に繋がるわけか」

「そうだ。ところで、水無瀬よ。そもそも我々団塊ジュニア世代の悲劇の根本原因は何だと思っている?」

「……そうだな。団塊ジュニア世代の一時的な人口増加そのものが悲劇の根本原因だろう。その一時的な人口増加が学校・企業に……社会的な大きな負担となった。徐々にずっと増えていくなら、学校や企業はそれを見越して、受け入れに必要な態勢を整えることができるが、一時的な増加ではそれはできない。特に企業の事業計画は人口増加ではなく、あくまで各企業毎の都合により立案される。たまたまバブル崩壊後の就職氷河期と重なりそちらのほうがクローズアップされたが、真の原因は一時的な人口増加により〝いらない子〟が増えたことだ」

「ふふ。流石だな。まさにその通り。団塊世代があったのだから団塊ジュニア世代が生まれることは容易に予測できた。にもかかわらず就職へのケアが不十分で、何の罪も無い多くの人々の人生が破壊された。今後、このことは負の遺産として容赦なく我が国にのしかかることになるだろう」

「しかし、もう過ぎたことだ。それに今の日本の状況では同じ悲劇を繰り返すことは無いだろう」

「いや。問題なのは今後も悲劇が生まれるかどうかではないんだ。悲劇が生まれたのだから改善することが必要ということだ。そもそも世の中には需要と供給というものがある。それはモノだけではなく、人も同様だ。モノは当然のように需要と供給をコントロールしている。だが、人はどうだね?」

「まさか……〝人の生産管理〟をしていないことが問題だと言いたいのか」

「そうじゃないかね? もちろん、この考え方に賛否が出るであろうことは理解している。ただ、現実問題として、団塊ジュニア世代の悲劇は生産管理をしていれば防げたのではないかね。そしてその後の少子化もだ」

「管理したからといって行政側の思い通りに出生数をコントロールすることなど不可能だろう。世界中のどの国でも実現していない」

「しかし、我が国は少子高齢化社会の進行という面で世界の最先端だ。他の国が実現できていないからといって、この課題から逃げることは許されない。それに私は我が国の〝ノルマを守る〟ことを重視する国民性なら実現可能だと考えている」

「出生数について国民にノルマを課して人口をコントロールするということか」

「そうだ。しかし、ノルマを各個人、各家庭に課すわけではない。ノルマを課すのはその達成を得意とする存在……企業や官公庁だ」

「企業や官公庁に出生ノルマを課す? そんな馬鹿なことは到底受け入れられないだろう。いや……ちょっと待てよ。まさか、実験というのは……」

 悟さんは目を開けて藤堂さんを見た。

「ふふ、気付いたか。そうだ。企業・官公庁に課すノルマは出生数では無いよ。トリニティミッションへ参加者を送り込むこと自体にノルマを課す」

「トリニティミッションが官製合コンということか……。出生数ではなく、婚姻率のコントロールが目的か」

 はぁ? 初日の第1チェックポイントで冬真が考えた冗談が当たっていただと? 冬真はこの2人の会話がとんでもない方向に進んでいて、ついていけなくなってきた。

「そうだ。大切なのは結婚するまでではない。結婚後のほうがはるかに長い。結婚生活はミッションの連続だ。集団で一生懸命ミッションに挑むことで課題・問題解決にどう取り組むのか、人間性がお互いに分かる。相性をじっくり見定めることが可能だ。婚活パーティーやその後のデートでは容姿やトークの巧みさが重視される上っ面なやりとりになりがちだ。それよりもお互い協力して家庭を築くことができる相手かどうかを判断できるほうが婚姻率上昇に寄与すると仮定し、実験することにした」

「パーティーを組む際の面倒なクラス分けルールは男女混合をうながすためか」

「そうだ。まぁ神崎君達のように男性同士、もしくは女性同士で固まるケースが出てしまったが……。表の目的で招集しているからね。これ以上あからさまな制約はできなかったんだ」

「しかし、私や三浦さんは既婚者だが……。表向きの目的の為に招集が必要だったから、ということか」

「40代、50代は既婚者から招集し、それ以外は全員未婚者から招集している。結婚適齢期の20代、30代を多めに招集したが、表向きの目的があるからそれ以外の年代からも少し招集したということだ。40代、50代の既婚者には、あわよくば仲人《なこうど》のような役割を期待していた」

「娘はまだ成人していないが……」

「表向きの目的のために幅広い年代で招集した。ちなみに高校生は君のお嬢さんを含めて3人だけだ。高校生は特に優秀な者だけを選抜した」


「選抜……そういえば今回の参加者達はある程度のレベルを保っているようだが」

「そうだ。社会人はステドラのプレイヤーデータと税務署のデータを突き合わせて上場企業の社員から選抜した。高校生・大学生は同様に国立校の学生名簿との突き合わせで選抜した。ミッション内容はできるだけ簡易にしているつもりだが、何しろ官僚達が考案しているから難易度が適切かどうか分からなくてね。ミッションクリアに支障の無い人材を招集する必要があった。それにステドラプレイヤーはパーティーを組んで目的を達成することに慣れているだろうからね」

「そういうことか。納得したよ。しかし、今回が実験だとしても、結婚適齢期の未婚者全員にこうしたイベントをするのはコストがかかりすぎるんじゃないかね」

「うん。現実的には松竹梅等のコースを用意してトリニティミッションの廉価版を広く適用することになるだろう。ミッション内容はボランティアでの掃除や、料理・洗濯等の家事でもいいと思っている。それだけではなく、バーチャルでの開催も考えている」

「なるほど……バーチャル世界にてミッションクリアを共にする過程で、相性を確認するわけか」

「そうだ。AIでの判定を想定している。既にステドラ内でもtriangleX社がパーティーを組んだ者同士の相性や、再度パーティーを組む割合、各コミュニティ内での影響等をAIで観測し、データを蓄積してきている。バーチャル世界で相性の良かった組み合わせを元に松竹梅の各コースのリアルミッションに振り分けていくシステムだ」

「読めたぞ。今回、ステドラのIDと参加者IDを共通にしたのはバーチャル世界での人間関係が現実でどのように影響するかを観測するためか」

「ふふ。まさにその通りだ。ただ、同時にバーチャル世界での人間関係を引き継がない上での人間関係の構築状況も見たくてね。そこで、IDが共通というヒントだけを出して、気付いた人だけがステドラの人間関係を活用できる、ということにした。今回のイベント終了後、これらのことを検証するために参加者アンケートを実施予定だ」

「そうか……大体理解できたよ。企業、官公庁に未婚者のミッション参加ノルマを課し、婚姻率の向上を成長改革省がコミットするというスキームか。まさに壮大な実験だな。ただ、多くの国民のコンセンサスを得ることは難しいだろう」

「トリニティミッションはフラグシップとして位置付け、これよりも更に進化予定だ。ミッションクリアの過程で生まれる人間ドラマは、大衆にとって多くの感動を呼ぶだろう。次回以降はテレビ局か、ネット配信事業者とトリニティミッションを共同運営して、今回とは一線を画するデスゲームのような映《ば》えるミッションで国民へ周知しつつ共感を得て、既成事実を積み重ねていくつもりだ」

「そう上手くいくだろうか?」

「いかせてみせる。この国には……、もう時間が残されていない。実現の為にこれまで年月を費やして、志を共にする政治家達とも協力しながら地道に進めてきた。滅びに向かうこの国を救うために、省内では既にトリニティミッション以外にも並行して複数のプロジェクトが走っている。何としてでも成し遂げてみせる」

 藤堂さんの表情が決意に満ちていた。


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