第23話【4日目】心を繋ぐ
バトルロイヤルを勝ち抜いた8パーティー同盟が決まった。
奈緒子がスマホで準々決勝進出者のリストを確認したところ、神崎さん達や藤堂さん達も通過することができたようだ。
昼食後、準々決勝の作戦会議をするためにプレハブ棟の会議室に悟さんを除いたメンバーで集まった。
悟さんは宿泊棟の自室で休んでいる。悟さんとパーティーを組んだ状態で準々決勝に勝てば、悟さんも一緒に準決勝に進めるので問題は無い。
奈緒子は運営から通知された準々決勝の内容をスマホで確認した。
<準々決勝【知力・体力・運】>
・ヒット&ブロー(別称:ストライク&ボール)&ダッシュ
ヒット&ブロー(相手パーティーの設定した、任意の重複しない数字4桁を推理して当てる)にて対戦する。
ヒット・ブローの判定には別途、25mダッシュを必要とする。
※ヒット&ブローの基本ルールは別項を参照すること。
・運営事務局にて指定する対戦相手と試合すること。
5戦行う。
<勝利条件:先に3勝する>
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・ヒット&ブロー初戦の先攻は3日目終了時点のパーティー平均スコアが高いパーティー同盟とする。
2戦目以降は交互に先攻と後攻を入れ替える。
・推理担当者:最大2名、ダッシュ担当者:最大2名とする。
※推理担当者は相手パーティーの設定した数字4桁を推理すると共に、防御用の自パーティーの数字4桁を設定する。
・1ターン15秒とする。15秒以内に下記①~④を実施すること。15秒経過すると強制的にターン終了となり、相手ターンへ移行する。
①審判がフラッグを上げたら、推理担当者は相手パーティーの設定した数字4桁の推理結果を言う。
※大きめに、はっきりと発声すること。
②体育館ステージ上のスクリーンに、AIで音声認識した数字と共に、ターンの残り秒数とダッシュ許可表示がされる。
③ダッシュ担当者は25m先の体育館ステージ付近に設置された押しボタンを押す。
※フライング判定は審判が目視で行う。審判の判定結果に従うこと。
④体育館ステージ上のスクリーンに、ヒット・ブロー判定が表示される。
・何らかのトラブル発生時に審判が試合を中断する場合がある。その際は審判の指示に従うこと。
体育館のレイアウト図もスマホで確認できた。
玲央奈ちゃんが手を上げて奈緒子を見ながら発言した。
「レイアウト図を見ると、体育館の長辺側のそれぞれの端に折りたたみ机と椅子があって、自パーティーの推理担当者と相手の推理担当者が向かい合わせで座るようになってる。つまり、こちらは数字設定をしている相手の推理担当者をじっくりと見ることができるわけや」
玲央奈ちゃんの意図を察して奈緒子はうなずいた。
「推理担当者の内、1名は私が担当します。私は勘が鋭いので相手の表情や雰囲気でヒットやブローの当たり具合をスクリーン表示前に判断することが出来るかもしれません」
「相手の推理担当者とは、けっこう距離が離れてると思うけど、それでも分かるものなの?」
緒方さんが驚いた顔で質問した。
「はい。おそらく大丈夫です」
奈緒子は自信を持って答えた。正直、やったことが無いので共感覚でどれほどの精度の判定ができるかまでは分からないけど、何らかの情報が得られる確信はある。
「じゃあ、推理判定者のもう1名はウチに任せて欲しい。大きな声ではっきりと相手の推理担当者にも聞こえるように数字を言う必要があるしな」
「確かに、玲央奈ちゃんって普段から大きめで元気な声だもんねー」
なぎささんがうなずいた。
「では、後はダッシュ担当の2名を決めようか。1名は蒼大君で決まりかな」
冬真さんが蒼大君を見た。
「はい。ダッシュ得意なので任せてください」
「もう1名をどうするか……」
冬真さんが緒方さんのほうを見て言った。
「自分でもいいけど、ダッシュなら景君のほうが身軽そうだし、若くてスタミナがありそうな気もするけどどう?」
「大丈夫ッス」
白石君がうなずいた。
白石君は痩せていて確かに身軽そうだ。適任かもしれないと奈緒子は思った。
「では、ダッシュ担当は蒼大君と白石君にしましょう」
冬真さんが決定し、みんながうなずいた。
「白石君、僕は25mダッシュぐらいなら全然平気だから、2人交互じゃなくて僕が多めに担当するよ」
「じゃあ、蒼大さんが休みたくなった時にオイラが走るようにするッス」
あ……と思いついたように玲央奈ちゃんが言った。
「すまないんやけど、ちょっとゆっくり目で数字を言う予定やから、ダッシュがちょっときつくなるかもしれん」
「多分、少しゆっくり目に走っても5秒かからないと思うから大丈夫だよ」
蒼大君が自信を持って答えた。
「うん、まぁ、ダッシュ担当がへばる前に早めに決着を付けたるから安心しいや」
玲央奈ちゃんが奈緒子を見てウインクした。
「そうね。がんばりましょう」
これで作戦会議は終わりかな、とみんなが思ったところで慌てて三浦さんが話した。
「あ、ところで注意事項ということで。今日はそこまで蒸し暑くないですが、体育館はおそらく観客もいるので熱気がこもっている可能性があります。水分補給をしっかりやりましょう。あと、ダッシュ担当の2人は事前にストレッチを十分にお願いします」
「はーい。おっけーッス」
気遣い上手の三浦さんらしいなと奈緒子は思った。
「え? 観客ってどういうことですか」
蒼大君が聞き返した。
「昨日、足切りラインを超えられなかった人や、さっきのバトルロイヤルで脱落した参加者が帰宅せずに試合を観戦する場合があるから、ってことよ」
緒方さんが教えると蒼大君が、
「あー……。なんだか急に緊張してきちゃったな」
と心配そうな顔になった。
「オイラも緊張すると思うけど、ダッシュしてたらそれどころじゃ無くなると思うッス。多分、大丈夫ッス」
「蒼大君も大丈夫だよ。応援してるね」
悪い女の奈緒子は天使の笑顔で蒼大君に微笑みかけた。蒼大君から幸せの波動が出た。
なぎささんがそんな奈緒子を見て、追撃した。
「ダーリンと違って、たくましい蒼大君ならきっとできるよー」
「蒼大さんのカッコいいところを見られるの、期待してるで!」
玲央奈ちゃんからのトドメで蒼大君はすっかりやる気に満ち溢れていた。ちょろ……いや、良かった。
冬真さんはその様子を菩薩の顔で見守っていた。
緒方さんが冬真さんに、
「奥村さんも、いつも弄ばれてるんだね……」
と同情していたので奈緒子は吹き出してしまった。
奈緒子は共感覚の事を知っている冬真さん、なぎささん、玲央奈ちゃんに会議室に残るように依頼し、他のメンバーは会議室から退出した。
「試しにヒット&ブローを何戦かしてみて、私がどれぐらいの精度でヒット・ブローを判定できるか試しておきたいと思います」
奈緒子の提案に3人がうなずいた。
そして何戦かやってみた後、奈緒子の共感覚について分かったことを冬真さんがホワイトボードに書いていった。
(1)ヒット数が分かる。
(2)ヒットした場合、ヒットした桁の位置も特定できる。
(3)ブローは分からない。
玲央奈ちゃんがホワイトボードを見て言った。
「(2)はかなり強力やな。これでウチらほぼ確実に勝てるで」
「そうだな。これはもはやチートみたいなアドバンテージだな」
冬真さんが感心していた。
なぎささんが少し心配そうに言った。
「奈緒さん、ちょっと疲れてないかな? バトルロイヤルも大変だったんでしょう」
本当はかなり疲れているけど……、なぎささんと必ず一緒に今日の夜を迎えますから……、奈緒子はなぎささんの目を見て訴えながら言った。
「いえ、大丈夫です」
なぎささんがふっと穏やかに笑う。
玲央奈ちゃんが不思議そうな顔でなぎささんと奈緒子を見ていたが、冬真さんはこのやりとりの意味に全く気付いていないみたいだ。やっぱり鈍感だなぁ、と奈緒子は思った。
14時30分に奈緒子達は体育館に集合し、運営から今回の試合について一通りのレクチャーを受けた。
奈緒子と玲央奈ちゃんは体育館端の折りたたみ机の方に行き、椅子に座った。
玲央奈ちゃんは机の上に手帳を広げ、そして目を閉じた。集中力を高めているようだ。
蒼大君と白石君がスタート位置に立った。
奈緒子が周囲を見回すと、観客が数十人程度来ていた。スマホのライブ中継でも観戦できるので、蒸し暑い体育館に全員は来ないだろうと予想していたが、思ったより多い気がした。
観客達からの視線を感じたが、奈緒子は思ったよりも気にならなかった。
対戦相手の人達がいる付近に、藤堂さんと運営側でおなじみの佐伯さんがいて2人で話している。この試合を観戦するつもりのようだ。
奈緒子はスマホで対戦相手のパーティー同盟の情報を見た。
どうやらバトルロイヤルの山道コースで藤堂さん達と一緒に奈緒子達に戦いを挑んできたパーティー同盟のようだ。藤堂さんに撤退を進言した人も対戦相手側のスペースに立っていた。
相手パーティー同盟は職業が公務員では無かったので、おそらく藤堂さん達のチーミング相手だったのだろう。
相手側の推理担当者は2名共に知力+、そしてダッシュ担当者は2名共に体力+だった。ここまで勝ち残ったパーティー同盟だけあって高ステータス者で構成されている。
でも、奈緒子には強力な切り札がある。絶対に負けられない。
玲央奈ちゃんが目を開けて奈緒子を見た。2人でうなずく。
奈緒子はバトルロイヤルの時と同様、良い感じで集中できていた。
15時になった。ついに準々決勝が始まった。
1戦目。
玲央奈ちゃんは〝9372〟とカードに書いて審判に渡した。審判が相手の推理担当者からもカードを受け取る。
審判が手元のノートPCに数字を打ち込んでいる。
そして審判がフラッグを上げた。
先攻は奈緒子達だ。玲央奈ちゃんが数字を大きな声でゆっくりと言った。
「1、2、6、7」
奈緒子には時間の流れが遅く感じられた。いつもよりも共感覚が研ぎ澄まされている。6の瞬間、相手の推理担当者の波動が少し揺らいだ。
奈緒子は自分の手帳に〝十〟と書いた。十の位がヒットという意味だ。玲央奈ちゃんがそれをちらりと見てうなずく。
体育館ステージ上のスクリーンに〝1267〟と表示され、〝ダッシュスタート〟の文字と共に残り8秒のカウントダウンが始まった。
蒼大君がダッシュして25m先の体育館ステージ付近の押しボタンを叩いた。スクリーンに〝1ヒット〟と表示され、すぐに消えた。
1ターン15秒で割とギリギリにボタンを押したので、表示がすぐに消えたのだろう。
奈緒子は玲央奈ちゃんを見て小声で言った。
「数字、もっと早く言っても大丈夫です。ダッシュ担当者に負担がかからないように出来そうです」
玲央奈ちゃんがうなずいた。
今度は相手のターンだ。
「2376」
相手パーティーのダッシュ担当者がボタンを押すとスクリーンに〝2ヒット1ブロー〟と表示された。
これは運が悪い、大丈夫だろうか。奈緒子は心配になったが、それを察した玲央奈ちゃんは心配無いで、と小声で奈緒子に伝えた。
こちらのターンに戻った。
今度は玲央奈ちゃんが普通の速度で言った。
「3468」
奈緒子は自分の手帳に〝千 十〟と書いた。玲央奈ちゃんが笑顔になって、これで1戦目は楽勝やで、とつぶやいた。
蒼大君が再びダッシュしてボタンを叩いた。スクリーンに〝2ヒット1ブロー〟と表示された。
よし、相手に追いついた。と、いっても奈緒子にはヒット時の桁位置まで特定できているからこちらがリードしているか。
相手のターン。
「8954」
スクリーンに〝1ブロー〟と表示された。
一見、前回より後退したように見えるが、相手は奈緒子のようにヒット時の桁位置が分からないので、まずは数字4つを特定するために必要な手順なのだろう。
こちらのターンになった。
玲央奈ちゃんが
「3864」
と言うと、相手の推理担当者がこれまでよりも分かりやすく波動を乱した。
奈緒子は自分の手帳に〝千百十〟と書いた。
蒼大君がダッシュしてボタンを叩くとスクリーンに〝3ヒット〟と表示された。
よし、相手を追い詰めた。
相手のターン。
「2347」
スクリーンに〝1ヒット1ブロー〟と表示された。
まだ相手は正解から遠い。
こちらのターン。
「3865」
奈緒子は玲央奈ちゃんに軽くうなずいて合図した。正解だ。
白石君がダッシュしてボタンを叩くとスクリーンに〝4ヒット〟と表示された。
まずは1勝した。相手パーティーのメンバー達が驚いた顔でこちらを見ている。
「やったー!」
三浦さんと冬真さん、なぎささんと緒方さんがハイタッチで喜んでいる。
わずか4手で数字を当てられては、相手も為す術が無かっただろう。
続いて2戦目。今度は相手の先攻だ。
この対戦も奈緒子の共感覚により、6手で数字を当ててこれで2連勝となった。
しかし奈緒子はかなりの疲労感を覚えていた。ちょっと頭痛もしてきて、視界が少しぼやけている気がする。
次で決めないとまずいかもしれない。
「玲央奈ちゃん、大分疲れてきたかも。次が限界だと思う」
「任せといてや。ダッシュ担当の2人はまだ楽勝っぽいっけど、奈緒さんの為に3連勝で終わらせるで」
3戦目。奈緒子は最後の気力を振り絞って集中した。
しかし4手目で奈緒子は限界に達した。顔から汗が吹き出している。目眩もしてきたのでいったん俯いて頭を低くしてみた。
玲央奈ちゃんごめんなさい、と心のなかで謝ったが、玲央奈ちゃんが5手目で4ヒットを決めてくれた。
見事な3連勝で、明日の準決勝への進出が決まった。
なぎささんが奈緒子に駆け寄ってきた。
「大丈夫? 目が真っ赤だよ。汗もすごいし」
なぎささんがミネラルウォーターを奈緒子に手渡してくれた。
奈緒子はバトルロイヤル後の悟さんを思い出した。目を閉じて呼吸を整えると少し楽になってきた。
水分補給して少し落ち着いた後、
「大丈夫ですけど、宿泊棟で休みたいです。なぎささん、私の部屋まで手を繋いで連れて行ってもらえますか?」
と奈緒子は頼んだ。
「うん、行こう」
なぎささんが引き受けてくれたので、奈緒子は目を閉じたまま立ち上がってなぎささんと手を繋いだ。
異常を察して、みんなが奈緒子の周囲に集まってきた気配がする。
三浦さんが、
「青木さん、大丈夫ですか? 疲労感がかなりあるようですが」
とかなり心配した声で言った。
「体育館が蒸し暑いから、疲れちゃったみたい。ちょっと奈緒さんを休ませに、宿泊棟に連れて行ってくるねー」
なぎささんがみんなに伝えた後、奈緒子の手を引いて歩き出した。
「あ、ダーリンは付いて来ないで。女の寝所は秘密の園だからねー」
どうやら冬真さんも心配して付いて来ようとしていたようだ。
奈緒子は目を閉じながら歩いて、なぎささんに付いていった。
2人は無言で宿泊棟に向かってゆっくり歩いた。
時々、なぎささんが鼻をすする音が聞こえた。
奈緒子がぽつりと言った。
「私、頼りになりますか?」
なぎささんが繋いでいる手に力を込めた。
「うん……、うん、ありがとう」
涙声だった。
波動を見なくても分かる。なぎささんの手から伝わってきた感謝の想いを奈緒子は噛み締めた。




