第22話【4日目】死線を越える
10時30分。バトルロイヤル参加者がグラウンドに集合し、参加受付を済ませた。
ちなみにグラウンド内にゴール地点があり、撃破ポイント10以上の状態で、ここにパーティー同盟メンバーが全員戻ってくればクリアだ。
テントでミネラルウォーターを配布していた。今日は曇っていてそれほど暑くないが奈緒子達は全員受け取っておいた。
すぐにパーティー毎の初期配置情報が各参加者のスマホに通知されたので各パーティーが移動を開始した。
奈緒子と悟さんは山道コースへ向かった。なぎささんから借りたスニーカーはすこぶる快適だ。靴擦れの心配も無さそうだ。
しばらく歩いて、奈緒子と悟さんはGPS情報が示す初期配置の位置に到着した。スマホに『スタート準備完了しました。開始までその場でお待ちください』と表示された。
「冬真さんや三浦さん達とだいぶ離れてしまいましたね。合流はどうしましょうか?」
奈緒子は少し心配になって言った。
「無理に合流を目指す必要は無いだろう。我々は奈緒さんの共感覚を活かした高確率のスタンでなるべく撃破ポイントを稼ごう。最悪、HPが0になっても他のパーティーが生き残ればクリアには支障無いからね」
悟さんの言葉に奈緒子は安心してうなずいた。
11時ちょうど。ついにバトルロイヤルが開始された。
奈緒子と悟さんはアプリで周辺のパーティーの状況を調べた。できれば孤立していそうなパーティーを見つけて攻撃を仕掛けたいところだ。
だが……。
「あれ? なんか、私達のパーティーって周囲が同盟パーティーに囲まれてますね。孤立しているパーティーがいません」
「全部で6パーティー。しかも3パーティー・3パーティーでそれぞれ同盟を組んでいる。もしかすると罠にかけられたかもしれん」
いつもは穏やかな悟さんの表情が強張っている。
そして奈緒子達の方へ向かって6パーティーが移動を開始した。明らかに奈緒子達を狙っている動きだ。
奈緒子は6パーティーのメンバー情報の中に藤堂さんの名前を見つけた。
悟さんは奈緒子を見た。
「止むを得ない。〝全力以上〟を出す。サポートを頼むよ」
「はい」
悟さんは立ち止まり、目を閉じて胸を手で押さえて苦しそうな表情をした。尋常ではないほど顔から汗が吹き出している。
周囲から野鳥達が飛び立つ音が聞こえ、辺りが急に静かになった。
そして、悟さんが真紅に染まった目を開けると同時にほとばしる、すさまじい波動。波動の色はどす黒く、近くにいるだけで体の芯から底しれない恐怖を感じる。
奈緒子はこれまでの人生でこのような波動を感じたことは無い。だが、本能的に分かる。この波動は……殺意だ。
先ほど、会議室で殺意の波動を悟さんから見せられた奈緒子は心底驚いた。もしも殺意の波動を奈緒子に向けて出されていたら正気でいられなかったかもしれない。
殺意の波動を出している間、悟さんの攻撃意志は、より明確に奈緒子に伝わり、テストバトルでのスタン成功確率は70%を超えていた。
「必ず守る。オレから離れるな」
いつもの悟さんからは想像ができないほどドスの効いた低い声だった。
普段の奈緒子ならバトルロイヤルどころではなかったかもしれない。でも……、なぎささんと一緒に今日の夜を迎えるため、奈緒子は必死だった。
「はい!」
奈緒子は自分でも驚くほど冷静に集中できていた。
悟さんが素早く移動を開始し、奈緒子はがんばって付いて行った。
そして悟さんは、狭い道に入って行った。オリエンテーリング用の通過ポイントが設置されている行き止まりに来たところで立ち止まった。
「ここで迎え撃って蹴散らすぞ」
「はい!」
しばらくして、6パーティーがこの狭い道に殺到してきた。悟さんが先頭の相手パーティーにバトルを仕掛ける。
先頭の相手パーティー4名の表情が恐怖に染まる。奈緒子のように波動が見えていなくても本能で殺意を感じ取っているのだろう。
奈緒子はこれまでの人生でおそらく最大級に集中していた。周囲の時間がゆっくり流れているように感じる。頭の中はスタンを成功させること以外の思考がほぼ無くなっていた。
1パーティー目のバトル。
奈緒子のスタンがほぼ成功し、失敗は1回のみだった。
相手パーティーは為す術が無かった。先攻・後攻共に勝利し、奈緒子達は撃破ポイント2を得た。
敗北した相手パーティーは連戦を避けるために後ろに下がり、次のパーティーがバトルを仕掛けてきた。
2パーティー目のバトル。
奈緒子のスタンが全て成功し、またもや相手パーティーは為す術が無かった。奈緒子達は撃破ポイント2を得た。
敗北した相手パーティーが後ろに下がり、今度は藤堂さん達のパーティーがバトルを仕掛けてきた。
3パーティー目。藤堂さん達とのバトル。
悟さんの殺意の波動を浴びても藤堂さんは全くひるまない。悟さん・藤堂さん共に、これまでの人生で奈緒子には想像もつかないような修羅場を何度もくぐってきたからだろうか。
そして、藤堂さんの後ろにいる30歳前後ぐらいに見える謎の男性も殺意の波動に動じていない。それどころか悦びの表情を浮かべている。
奈緒子は謎の男性からスタン攻撃を妨害されているような感覚を覚えた。藤堂さんへのスタン攻撃が全て失敗し、逆に謎の男性からのスタン攻撃を受けた。
奈緒子達は先攻側で1勝して撃破ポイント1を得たが、後攻側で1敗となりHP1を失い、残りのHPは2となった。
悟さんが謎の男を睨んで言った。
「何者だ」
「服部弦」
謎の男性は不敵に微笑み、藤堂さん達と後ろに下がっていった。
すぐに次のパーティーがバトルを仕掛けてきた。
4パーティー目のバトル。
奈緒子のスタンが全て成功したものの、相手側からも半分弱ぐらいの確率でスタン攻撃を受けたため少し長期戦になった。
手こずったが先攻・後攻共に勝利し、奈緒子達は撃破ポイント2を得た。
奈緒子は悟さんを見た。
大分、疲労が見えてきた。殺意の波動が弱まってきている。連戦でこちらの被スタン率が増えているので、厳しくなってきたかもしれない。
しかし相手側の方が大分動揺している。
「藤堂さん、これ以上のHP損失はバトルロイヤルの通過が厳しくなります!」
相手パーティー側のおそらくリーダー格であろう人が恐怖に引きつった表情で叫ぶ。
「止むを得ない。撤退だ」
藤堂さんが冷静に言うと他のメンバー達も従い、全員去っていった。
全員が視界から消えたところで悟さんは殺意の波動を消して普段の状態に戻った。
静まり返っていた周囲だったが、徐々に自然の音を取り戻していった。
直後、悟さんは目を閉じて肩で息をするような状態になり、よろけそうになったので奈緒子が慌てて支えた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかね。しかし、しばらく入力する情報を制限して脳を休める必要がある。視覚情報が一番負担がかかるから、薄めに目を開けてゆっくり歩くことにするよ。ゴールへ向かおう」
「はい。周辺のパーティーの状況は私がチェックします」
悟さんが歩き出した。
「あ、ちょっと待ってください」
悟さんが立ち止まって不思議そうに言った。
「どうしたんだい?」
奈緒子は悟さんと手を繋いだ。
「私が先導します。任せてください」
「……では、お言葉に甘えさせてもらうよ」
奈緒子は悟さんの手を引きながら、スマホでチェックしつつゴールの方向へ歩き出した。
悟さんの様子はだんだん落ち着いてきたものの、かなりつらそうだ。
幸い、他のパーティーは周囲にあまりいなかった。たまに他のパーティーと奈緒子達との距離が詰まると向こうの方から逃げていった。
話は奈緒子達が藤堂さん達と戦う少し前まで遡る……。
◇◆◇
冬真達は三浦さんパーティーとの合流を急いでいた。なるべく他のパーティーとは距離を離して移動した。
「奈緒さん達が藤堂さん達に追い詰められてる!」
蒼大君が叫んだ。
玲央奈ちゃんが冷静な顔で言う。
「お父さん達は多分、大丈夫やで。ウチらは自分達のやるべきことに集中するんや」
「でも向こうは6パーティーもいるよ!?」
蒼大君が青ざめている。
「距離が離れているし、俺達ができることは何もないよ。奈緒さんと悟さんを信じよう」
冬真が言うと蒼大君はうなずいた。
「もう少しで三浦さん達と合流できそうだよー」
なぎささんが指さした先に三浦さん達4人がいた。
三浦さん達と無事に合流した冬真が周辺の状況を確認していると蒼大君が驚くべき報告をしてきた。
「奈緒さん達が藤堂さん達を追い払って撃破ポイント7をゲットしてます!」
「すごい! もしそれが本当なら残り3ポイントでクリアできますね」
三浦さんが普段からは想像もつかないほど興奮して喜んでいる。
「お父さん達、ゴールへ向かって移動してるみたいやで。ウチらもゴールに向かったほうが、ええんちゃう?」
「そうだな。残りの撃破ポイントをゴールへ移動しながら稼ごう」
冬真がうなずいて8人で移動を開始した。
「あ、こっちへ向かって来てるパーティーがいます! 3パーティーで同盟を組んでいます。対戦するとこちらは2パーティーなので不利です」
緒方さんが慌てて冬真に言った。
「逃げましょう。幸い、相手はゴールから逆方向なので」
冬真が判断し、全員でゴールに向かって足早に移動した。
しかし……。冬真が周囲の状況を確認しながら移動していると、ゴール方向からこちらへ向かって来ているパーティーが4つ。
「まずいな。挟まれそうだ」
冬真は焦った。
「ゴール方向から来るパーティーの1つは神崎さん達だねー」
なぎささんからの報告に三浦さんが顔を青くした。
「これは……絶体絶命ですね」
「でも、ちょっと待って。神崎さん達がわたし達を襲うのって利があるかな? 確かに4パーティーいるからわたし達に対して有利に戦えるけど、まだバトルロイヤルが開始されて、あまり時間が経ってない序盤だよ? わたし達をわざわざ敵にまわすかな?」
なぎささんが疑問を呈して、玲央奈ちゃんが続けた。
「確かにそうやな。いくら神崎さん達でも、こんなに短い時間でウチらみたいに撃破ポイントをたくさん稼いでる可能性は低いで。攻撃よりも防御を優先してHPを温存すべき時間帯のはずや」
冬真は決断した。
「あと撃破ポイント3を稼げばクリア条件を満たします。神崎さん達がどう動くかは分かりませんが、神崎さん達が攻撃を仕掛けてこない可能性もあります。追いかけて来ている明らかにこちらに敵対している3パーティーの方から撃破ポイントを稼ぐことを優先しましょう」
みんながうなずいたので、冬真達は踵を返して追いかけて来ている敵対3パーティーの方へ向かった。
そして冬真達と、追いかけて来ていた敵対3パーティーとのバトルが開始された。
冬真パーティーと三浦さんパーティーで分担して対応した。
冬真達がバトル中に神崎達が後ろから来た。
佐藤さんと織田さんが、なぎささんとアイコンタクトを交わした。なぎささんがうなずく。
神崎達は冬真達が対戦せずに余っている残りの敵対1パーティーにバトルを仕掛けた。
冬真は神崎達の意図を理解してみんなに指示を出した。
「このバトルが終わったら後ろに下がろう!」
冬真達と三浦さん達のバトルが全て引き分けに終わり、そして神崎達のバトルが終わった直後、今度は神崎達が引き連れていた残りの3パーティーが敵対3パーティーにバトルを仕掛けた。これで敵対3パーティーは連戦となった。
バトルが終わったところで、今度は冬真・三浦・神崎のパーティーが再び前に出て、更に敵対3パーティーにバトルを仕掛ける。これで相手は3連戦目となった。冬真達と三浦さんパーティー側のスタンが成功して3勝し、冬真達は撃破ポイント3を得た。
更に敵対3パーティーは4連戦目を仕掛けられてしまい、全パーティーのHPが0になり全滅した。
バトル終了後、なぎささんが神崎に会釈すると、神崎は相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。
冬真達は撃破ポイントがトータルで10に到達したのでゴールに向かった。幸い、ゴールはさほど遠くない。
そして冬真達はゴールに到着したが、まだ奈緒さんと悟さんは来ていなかった。
しばらく待つと奈緒さんに手を引かれた悟さんが目を閉じたまま歩いてきた。
玲央奈ちゃんが悟さんのほうへ向かって駆け出した。
「お父さん、大丈夫!?」
「ああ。問題無い。ただ、今日はもうプレイヤーとして活動できなさそうだ。準々決勝は休ませてもらうよ」
玲央奈ちゃんが悟さんに抱きついた。
「うん。ウチらに任せといて、ゆっくり休んで」
悟さんは目を閉じたまま玲央奈ちゃんの頭を撫でた。
「心配かけてすまなかった」
曇り空の合間から太陽の光が差し込み、冬真達を照らした。
全員合流して安心したところでゴール地点のQRコードを全員スマホで読み取ってクリアした。
なんと冬真達が、バトルロイヤルを最初に通過したパーティー同盟となった。
みんなで喜びを分かち合った。
「ダーリン、かっこよかったよー」
なぎささんが冬真のそばに来て手を取った。
「私達、とっても大変だったんですよ? 後で褒めて欲しいです。……冬真さん達も無事にゴールできて良かったです」
奈緒さんも冬真のそばに来て、もう片方の手を取った。
玲央奈ちゃんがちょっと不満そうに冬真を見つめている。
いや、両手が塞がってるし、これは仕方ないでしょ……。
冬真が心のなかで言い訳していると、
「いやらしいこと考えてニヤニヤしてるー!」
と玲央奈ちゃんがジト目になって言うので冬真は苦笑するしかなかった。
緒方さんが、
「男はいつも、いやらしいことしか考えてないんだから許してあげなさい」
と玲央奈ちゃんを諭すと、みんなが一斉に笑った。




