第21話【4日目】勝機を手繰り寄せる
4日目。起床した奈緒子は身支度を整えて朝食を済ませた後、プレハブ棟の会議室へ向かった。
今朝は曇っていて少し涼しい。歩きながら奈緒子は考えた。
なんとしても今日勝ち残るために、自分で出来ることを必死に考えがらミッションに臨もう。なぎさを含めた全員で一緒に今日の夜を過ごしたい。
奈緒子は気合を入れて予約していた会議室に入った。
集合時間の9時まであと30分弱あるのに、既に悟さんと玲央奈ちゃんが会議室に居た。
「もう3目並べ対戦用のアプリ、配信されてるで。奈緒さんも確認してもらえる?」
玲央奈ちゃんから、うながされて奈緒子がスマホを確認してみると、確かにアプリが配信済だった。
「うん。アプリ配信されてるよ」
「良かった。ところでアプリの対戦仕様はもう理解してる?」
「うん。でも一応、玲央奈ちゃんの説明聞きたいかな。説明が上手くて分かりやすいし」
玲央奈ちゃんが照れながら話し始めた。
「ええよ。じゃあ説明するで。まず、4人フルパーティーの場合、前衛2人と後衛2人の構成になる。前衛はそれぞれ先攻担当と後攻担当に分かれる。後衛は先攻支援担当と後攻支援担当に分かれる」
「うん。確か、パーティー同士で戦闘になった場合、並行して同時に2戦するんだよね。自パーティーの先攻担当と相手パーティーの後攻担当、自パーティーの後攻担当と相手パーティーの先攻担当って感じで」
玲央奈ちゃんがうなずいた。
「そうやで。で、後衛はそれぞれ、相手パーティーの前衛を1回休みにできるスタン攻撃をするんや。自パーティーの前衛が手を決めて打つのと同じタイミングでアプリのスタンボタンを押すと発動するって事になってる」
「もしもスタンできたらすごく有利だね」
「有利っていうか、基本はどっちかがスタンできないと引き分けになると思うで。3目並べは先攻・後攻共に手順を間違えなかったら引き分けになるから」
うーん、確かにそうかもしれないけど……。例えばもしも奈緒子が前衛だったらと考えると、必ずしもそうはならないかもしれない。
「でも、1手毎の制限時間って5秒以内でしょう? 時間切れがあるかもしれないし、それに緊張してるだろうからミスもあるんじゃないかな」
「そうやな。前衛は素早く正確に手を打つ。後衛はスタン確率をがんばって上げるのがポイントになるやろうね」
奈緒子はうなずいた。それならバトルロイヤルは奈緒子が活躍できる可能性がある。
「後衛は前衛が手を決めてボタンを押すと同時にスタン攻撃のボタンを押すってことなら、私の共感覚が役に立つかもしれない」
「その通りや。アプリを確認したらテストバトルが出来るようになってるから後で試してみるで」
奈緒子はここまでの話は納得したが、1つ思いついたことがあった。
「あともう1つ確認したいんだけど、パーティー人数が2~3人の場合は、前衛や後衛の人が不足分を兼任するんだよね。例えば前衛が1人ならその人が先攻・後攻を兼ねるって感じで」
「そうやで。前衛1人の場合は将棋でいうところの2面指し状態になるんや。後衛1人の場合はスタンボタンを押す機会が2倍になるけど、さほどきつくはないやろうな」
「あのね、私が後衛をやる場合、1人のほうがいいと思ってて」
「そうやね。奈緒さんが1人で後衛するのが一番効率が良さそうやな。HPが減るっていうデメリットはあるけど」
ここまで話したところで、奈緒子はふと、悟さんを見た。悟さんは今の会話を聞いて何か思うところがあったのか、考え込んでいるように見えた。
三浦さんパーティー4人が会議室に入ってきた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
三浦さんが丁寧に挨拶してきたので、こちらこそよろしくお願いします、と奈緒子達も挨拶した。
悟さんが三浦さんに話しかけた。
「バトルロイヤルのパーティー分けですが、狙われる可能性のある室さんと玲央奈をそれぞれ分けたほうが良いと思っています。三浦さんは元々の4人でパーティーを組んでおいていただけますか」
「承知しました。それでいきましょう」
三浦さんがうなずいたところで蒼大君が来た。これであとは冬真さんとなぎささんが来れば全員揃う。
蒼大君が話し始めた。
「みなさん、おはようございます。今、会議室に入る前に話が少し聞こえてきたんですが、室さんや玲央奈ちゃんが狙われて連戦になったら逃げるっていうのはどうですかね?」
「バトル開始前なら距離をとって逃げることができるんやけど、バトル開始後に逃げるとGPSでチェックされてるから逃げた側が強制的に負けになるって注意事項に書いてあるで」
玲央奈ちゃんが指摘すると蒼大君がダメかぁ、とがっかりしていた。
ここで冬真さんとなぎささんの2人が一緒に会議室に入ってきて全員が揃った。
冬真さんが早速補足してくれた。
「バトルする場合のパーティー間の距離は目安5m以内って書いてあったけど、確か、bluetoothの距離の規格は3種類あって、内1つが10mだったと思うからこの規格を採用してるんだと思う」
「そうなんや。じゃあ序盤、ウチらのパーティーが合流するまでは他のパーティーとなるべく10m以上の距離をとりながら移動したほうが良さそうやね」
玲央奈ちゃんが冬真さんとなぎささんを見ながら言った。
奈緒子はつい、玲央奈ちゃんを観察してしまったのだが、表情は変わっていないものの少し波動が乱れている。嫉妬では無いが、羨ましさを感じているようだ。微笑ましいなと奈緒子は思った。
「全員揃ったところで、今日の流れを確認していきましょう。奥村さん、お願いできますか?」
三浦さんが、うながすと冬真さんがうなずいた。
冬真さんがホワイトボードに書きながら説明していく。
「まず、パーティーは4人・4人・2人に分けます。4人・4人の方は道路コースに配置して開始直後、なるべく早めに合流を目指します。2人の方は山道コースに配置してHPを増やします」
「2人パーティーは誰と誰にするん?」
奈緒子が手を上げて答えた。
「2人パーティーの後衛は私がやります。勘が良いので、スタンの成功率を上げられるかもしれません」
奈緒子の共感覚を知っている冬真さんはうなずいた。
「では、奈緒さんには2人パーティーの後衛をしてもらいます。なぎささんのスニーカーを借りてください」
「うん、昨日の夜にサイズは確認済だから大丈夫だよー」
なぎささんがうなずいた。
冬真さんが話を続けた。
「玲央奈ちゃんは4人パーティーで守るし、スニーカーが無いなぎささんも道路コースになるから、2人パーティーの前衛は消去法で悟さんになりますね。大丈夫ですか?」
悟さんがうなずいた。
「問題無いよ。バトルロイヤルの戦術指揮は冬真さんに、マネジメントは三浦さんにお願いしてあるし、今日の私はプレイヤーに専念するからね」
「ではパーティーの割り振りが決まったところで3目並べの対戦用アプリを全員で試しましょう。テストバトルができるモードがあったはずです」
冬真さんがみんなをうながして全員でアプリを起動し、まずは4人パーティー同士でテストバトルを何度かやってみた。
「ちゃんと、前衛の指を見て、ほぼ同時にスマホのスタンボタン押してるんだけど、全然スタンしないよー」
なぎささんがお手上げのポーズで降参した。
「僕もさっき偶然1回スタン出来たきりですー」
蒼大君も音を上げた。
「私も1回しかスタン成功しなかったよ……」
三浦さんがガッカリしている。
「室さんすごいッス! だいたい5回に1回ぐらいの割合でスタン成功したッス!」
白石君が興奮している。消極的な室さんを後衛に配置していたようだが、思わぬ副産物だったようで、室さんの運+が効いているのかもしれない。
「このバトルロイヤルって運営からの通知だと知力・体力・運の全てが試されるみたいに書いてあったけど、これがまさに運ってことみたいね」
緒方さんが室さんを見て感心していた。
冬真さんが悟さんと奈緒子を見た。
「では、今度は2人パーティーの方もテストバトルしてみましょう」
奈緒子は悟さんの指は見ずに波動だけに注目した。悟さんは攻撃の瞬間の波動が分かりやすい。奈緒子は波動の観察に集中してスタンボタンを押した。
蒼大君が驚いて言った。
「奈緒さん、3回に1回ぐらいスタン成功してますね。すごすぎる……」
三浦さん、緒方さん、白石君も驚いている。室さんは当然だろう、という表情だが奈緒子の共感覚について気付いているのだろうか。
「これならかなり有利に戦えるで。でもHPが3しか無いから、連戦は避けたほうがええと思うけど」
「悟さん達は遊撃部隊として行動してください。孤立しているパーティーがいたら戦闘を仕掛ける感じでお願いします」
冬真さんの依頼に悟さんと奈緒子はうなずいた。
「あとは……。連戦でどのぐらい被スタン率が上がるかですね。テストバトルは連戦判定がオフになっているから、こればかりはぶっつけ本番で確かめるしか無いですが」
三浦さんが心配そうに言った。
「そうですね。連戦を避けて、とにかくなるべく早く合流して、合流後も連戦を避けるために各パーティーで分担して相手パーティーをさばきましょう」
緒方さんが言ってみんなうなずいた。
「さて、決めるべきことは全て決まったと思うのですが、他に何か無いでしょうか?」
冬真さんが確認したが、他に意見を言う人はいなかった。
「では、バトルロイヤル開始まで一旦解散します。悟さんは山道コースの申請をしておいてください」
と冬真さんが悟さんに依頼して、悟さんが了承したところで、みんなが会議室から退出を始めた。
悟さんが奈緒子を呼び止めた。
奈緒子が振り返って悟さんを見ると、何かを決意している表情で言った。
「奈緒さん、すまないが少し残って欲しい。試したいことがあるんだ」
「承知しました。全然大丈夫です」
玲央奈ちゃんが、はっとした顔になり立ち止まって悟さんを心配そうに見ている。
「お父さん……、あまり無理はしないでね」
「ああ。大丈夫だ。とはいえ、もしかしたら少しだけ無理をしなければいけないかもしれないがね」
「うん。分かった。信じてるからね」
玲央奈ちゃんが出ていった。何事だろう?
みんなが退出した後、悟さんは会議室のドアを閉めて言った。
「かなり疲労が激しいので、できればやりたくないんだがね。非常事態が発生した時のことを考えて試しておきたいことがあってね」
悟さんは奈緒子に隠していた波動を見せた。




