第20話【Stella of Dragon】布石を打つ
応竜と戦った翌日の夜、ミックスペンギンギルド内で会議をすることになった。
ギルドチャットでやってもいいのだけど、会議っぽい雰囲気にするために、わざわざコペル君の家にみんなで集まった。
集まったメンバーは、わたし、師匠、コットンちゃん、アジュール君。
……そしてコペル君もいるけど、実はこのコペル君、〝中の人〟が昨日と違う。
みんなが椅子に座った後、コペル君が話し始めた。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。今日のコペルは2号の方です。1号と応竜戦の状況は共有しています。この場では次戦に向けて、どう対策していくかを話します」
ちなみに1号の方はだいたい平日の夜か休日、2号の方は平日の昼間をメインに活動している。2人はプレイ日記をつけて情報を共有しているらしい。今回の会議は平日の夜だけど例外的に2号が登場したようだ。
それにしても次戦の話って早すぎる気がするなー。めちゃくちゃ強かったし、すぐに再戦してもあんまり変わらないような気がする。よし。
「昨日の今日だし、次戦の話って早すぎない? みんなのレベルをもっと上げてからでもいいと思うけどー」
と、わたしは言ってみた。
「みなさん知っての通り、応竜を含む神竜達は世界中のどこにいるのか分からない存在です。偶然、遭遇するしか無いわけですが、今回は応竜戦でゲットした〝応竜の笛〟があってこれを使えば任意の場所に応竜を呼ぶことができます。但し、15日間の使用期限があります」
「なるほどー。15日以内に再戦しないとダメってことねー」
わたしは納得した。
「あと、キーアイテムとなるソルトジェネレーターですが、現在は私、コットさん、ナオさんが持っている合計3つしかありません。現在の月齢ですと、15日以内に材料の月見魔草を採取できないため、この3つをうまく使って戦うことになります」
「あー……、そんなに重要なアイテムだと知ってたら僕も取りに行っておけば良かった……」
アジュール君が、がっかりしている。
「大切なのは今、私達ができる最大限の努力で次戦に臨むことです。3つしかなくても、やりようはあるはずです。そこで、ソルトジェネレーターをどう活用するかはトーマスさんに考えていただきたい。それだけでなく、応竜戦の戦術考案や戦闘指揮もお願いしたいです」
「分かりました。やってみます」
師匠が引き受けた。
「次に準備の話をします。1号からの情報共有を受けて、大きな課題が2つあると認識しました。①回復役の安全確保。②メイン盾の確保です」
「ナオさんと私が倒されてしまって苦しくなってしまいましたもんね……」
コットンちゃんが悔しそうに言った。
「①から説明します。今、コットンさんが言ったようにナオさんとコットンさんがほぼ同時に倒されたのが厳しい戦いになった要因の1つです。ナオさんとコットンさんがパーティーを立て直すために範囲回復魔法を詠唱して瞬時に多くのHPを回復したため、応竜の敵対心が一気に上昇したのが原因です」
コペル君がハイポーションをテーブルに置いた。
「そこで、範囲回復魔法を極力使わなくてすむようにする為に、戦闘に参加するメンバー、特に前衛にはハイポーションを大量に渡しておこうと思います。範囲攻撃を受けたら各自ハイポーションを使用して回復します。応竜からの敵対心の急上昇を抑制し、更に回復役のMP節約にもなるしで一石二鳥です」
「じゃあ大量のハイポーションを調達しないといけないねー」
と、わたしは言って、手持ちのハイポーションの在庫の確認を始めた。わたしは回復魔法があるからそんなに持ってないはずだけど。
「ハイポーションの調達方法は2通りあります。1つ目は競売所で買い集めること。2つ目は材料を採取してきて、錬金スキルの高いアジュール君に生成してもらうことです」
「競売所で買い集める時のお金はどうするのでしょうか?」
コットンちゃんが質問した。
「私がお金を立て替えておいて、後で戦闘参加者全員から均等に徴収します。ハイポーションの取引相場ですがプレイヤーの活動量が少ない平日昼間に安くなる傾向があります。特に地球時間での水曜前後が底値に近くなるため、その時にステドラにログインできる私が購入するのが最も効率が良いと判断しました」
「分かりました。それでいいと思います」
コットンちゃんがうなずいた。
「2つ目の材料調達ですが、みなさんの懐をなるべく痛めないようにするためにこちらも進めておきたいと思います。主な材料は〝トレントの枝〟と〝青い魔鉱石〟ですね。材料をゲットしたら順次、アジュール君に宅配してください。他に必要な材料はNPCのお店で少額で調達可能ですからアジュール君に立て替えてもらいましょう」
「はい、それでOKです」
アジュール君が了承した。
そういえばトレントの枝なら昨日、いくつかゲットしたわね。
「トレントの枝なら、昨日いくつかゲットしたから、後でアジュール君に宅配しておくよー。あと、リッツからもトレントの枝を徴収しておくねー」
わたしが言うと、
「では1号もトレント狩りに同行したので後でアジュールさんに宅配しておきますね」
とコペル君も同調した。
「トレントの枝は僕も昨日いくつかゲットできたので、今は〝青い魔鉱石〟のほうを優先して集めたほうが良さそうですね」
アジュール君が言うと、それならば、と師匠が提案した。
「じゃあこの会議が終わったらみんなで鉱山へ採掘しにいこう」
……と、いうことでわたし達は鉱山で〝青い魔鉱石〟を掘りにいくことになった。
「ところで、応竜の激しい攻撃を主に受けて戦況を維持する為の、②メイン盾の確保ですが、1号の報告を受けて、戦士のリッツさんでもダメではないのですが、やはり安定性に欠けるので本職の盾役が欲しいです。できれば聖騎士が適任だと思うのですが、ナオさんの人脈でなんとかなりませんか?」
「確か、オガミちゃんのギルドに聖騎士がいたと思うから、オガミちゃんに相談してみるよー」
……と、いうことで、メイン盾のスカウトはわたしが引き受けることにした。
会議解散後、わたしは一旦、自分の家に戻りポストを確認してみた。
すると昨日、オガミちゃんに発注していた片手棍棒が届いていたので受け取っておいた。
オガミちゃんが今はログインしてないようなので、片手棍棒作成のお礼と聖騎士の紹介についてメッセージを送信しておき、栽培している植物に水をやりながら、ノートPCからリビングへ視線を向けた。
「律ー。今から鉱山で青い魔鉱石を採掘しに行くから手伝ってー。すぐにお願い」
「あいよー。すぐ行くー」
そしてわたしは自宅を出発して集合場所に行くと、先程の会議に参加していたわたし以外の4人が既に揃っていた。
「遅れてごめんー。悪いけどもうちょっとだけ待ってくれる? リッツも連れて行くから」
「うん、助かるよ。全然大丈夫だから慌てずに来るように言っておいて。あと、2号から1号に交代したよ」
コペル君の〝中の人〟が入れ替わったようだ。
「コペル、2号との情報共有は済んでるかな?」
師匠が確認する。
「うん。ボクは2号の隣で見てたから大丈夫」
「ノートPCの画面だと狭いと思うんだけど、よく隣で見てて疲れないね」
コットンちゃんがちょっと心配そうだ。
「ううん。ボクはゲーム機でステドラやってるからテレビなんだ。画面大きいから全然大丈夫」
……と、話してる内にリッツがやってきた。
「みんなお待たせー。美女がやってきたから、男共はやる気出してね♪」
わたしはリッツを叩いた。
「美女ならコットンちゃんがいるから間に合ってるわよ。美女を見てやる気になるのは中身がいやらしいオスのアンタのほうでしょーよ」
「ナオ姉、ひどすぎー!」
「ふふふ。じゃあ私の移動魔法で鉱山近くの町に移動しますね」
コットンちゃんが上機嫌で移動魔法を詠唱した。
わたし達6人は鉱山近くの町から出発し、鉱山には何のトラブルもなく到着した。
鉱山は廃坑になっているが、奥の方ではまだ鉱石の採掘が可能だ。
魔物が多数出現するようになったので一般の鉱夫は出入りできず、今では冒険者だけが採掘している状態だ。
鉱山入口は薄暗く、奥へ続く坑道は所々、魔力で灯された照明でぼんやりと照らされていた。
まず入口付近でコペル君が探知能力を使って周囲の状況を調べた。
「とりあえず、大した魔物はいないようだ。蹴散らしながら奥へ行こう」
鉱山に棲む大きい蜘蛛やコウモリなどの魔物を適当に倒しながらどんどん奥へ進んだ。
しばらく進んでコペル君が再び探知能力を使って周辺を調べた。
「ここから少し先に進むと採掘ポイントがあるね。手分けして採掘しよう。ただ、ここからは〝骨〟が出るからソロだと危ないので念のため3人ずつに分かれよう」
パーティー同盟を再編成して、わたし・リッツ・師匠組と、コペル君・アジュール君・コットンちゃんの組に分かれることにした。
ちなみに〝骨〟とは、この鉱山で出現するアンデッド系の魔物の通称であり、亡くなった鉱夫がアンデッド化した骸骨が襲ってくるという意味だ。
わたし達3人は採掘ポイントを探しながら進んだ。
リッツが、
「あったー♪」
と言って指さした方向に採掘ポイントがあった。
3人でツルハシを使って採掘する。採掘できるものはランダムなので運頼みだ。
しばらく掘ると採掘できなくなった。こうなると時間が経過しないと採掘できないので、他の採掘ポイントに向かう必要がある。
「銅鉱石ばっかり出たよー」
わたしがガッカリしながら言うと、師匠が、
「青い魔鉱石を2つ採掘できたよ」
と報告したのでリッツがすかさず、
「すごーい! 流石はトーマスさん、素敵ですね。かっこいい人、好きです」
と褒めるのでわたしは心底呆れた。
「きもっ! きもっ!」
わたしはリッツをビシバシ叩いた。
「ちょっと! ナオ姉、嫉妬はみっともないって!」
「なんで男にジェラシー感じないといけないのよ! 男らしくしなさいよ!」
「だってぇー、今はオンナだしぃー」
「じゃあ、後でアンタの股間に付いてるものを捩じ切ってホントの女にしてあげるねー」
わたしは笑顔になった。
「ちょっ! 本当にやりかねないからなー。ごめん、参った」
「分かればいいのよ。ちゃんと男らしくしてよねー」
わたしはリッツを窘めた。
「でも、男らしくってジェンダー差別だから強要するのは良くないよ」
師匠が余計な事を言った。
「だよねー。やっぱりトーマスさんはナオ姉と違って話が分かるし優しくていいなー」
リッツがまた懲りずに言う。
……わたしはゲンナリしてこれ以上、不毛な会話はやめることにした。
次の採掘ポイントを探していると、骨2体と遭遇した。
骨は睡眠魔法で寝かせられないので、骨2体をリッツが引き付けて1体ずつ倒すことにした。
師匠は炎の魔法剣、リッツは両手斧、わたしはオガミちゃん特製の片手棍棒で戦う。
片手棍棒の骨に対する威力はかなり大きく、作成して良かったと思えた。
3人で1体目の骨を殴り倒し、2体目はリッツが炎属性の武器スキルを使い、続けてわたしが武器スキルで衝撃を与えて炎を爆発させることで周辺に数秒間、〝炎属性の場〟を発生させた。
そして師匠が炎攻撃魔法を打ち込みマジックブーストであっさりと2体目の骨を倒した。
「よっしゃー! 骨なんてわたしにかかれば楽勝よ、ふっふーん」
「ナオ姉、たくましいね。もっと、か弱いほうがトーマスさんに好かれると思うけど」
「うっさいわねー。師匠はね、ちゃーんとわたしの人間性を見てくれてるんだから。ね?」
「人間性……」
師匠が固まった。
「ちょっと! 師匠、こんなに可愛い弟子が、恐ろしい骨に健気に立ち向かって勝利を喜んでるんだから褒めてちょうだいよー」
「うん。ナオのおかげで骨があっさり倒せたよ。ありがとう」
え……嬉しい! わたしの頭の中は好きでいっぱいになった。
「わーい! 師匠、好きー」
リッツはやれやれのポーズをした。
わたし達はいくつかの採掘ポイントで順調に〝青い魔鉱石〟を採掘できたところでコペル組と状況を確認しあった。
アジュール君が確認したところ〝トレントの枝〟の在庫数とだいたい同じ量の〝青い魔鉱石〟が揃ったということなので今日のところはこれぐらいで引き上げることにした。
6人で集合し、わたしの移動魔法で町へ移動した。
また後日、それぞれで都合のいいときに何度か〝トレントの枝〟や〝青い魔鉱石〟を集めに行くことになった。
「応竜との次戦は特に問題無いなら来週の土曜日の夜にするね。それまでに各自で準備を進めておこう。ナオさん、聖騎士の件、よろしくね」
コペル君から念押しで頼まれたので、
「うん、任しといてー」
と、わたしは言っておいた。
わたし達はパーティーを解散した。
そしてギルドチャットで、
「じゃ、わたしそろそろ寝るねー。おやすみー」
と挨拶してログアウトした。
律がわたしの部屋へやってきた。
「お疲れ。師匠との仲が深まって良かったね」
律がニヤニヤして言う。
「まーね。師匠には、しっかりとわたしの魅力が伝わってるわけ。分かった?」
「うーん……分かったけど。でも、実際に会った時に色気が無いのが師匠にバレたらと思うとちょっと心配かな」
「ちょっと! 失礼ね。やっぱりおしおきが必要かしら?」
「ひー!!」
律はリビングに逃げていった。
まったくもう。
わたしはノートPCの傍らの黒猫のぬいぐるみをぼんやりと見た。
……もしも、今後師匠に実際に会うとして、わたしの事、気に入ってもらえるかな。
わたしは師匠との事、そして今の生活を続けられるかどうかの不安が入り混じって、しばらく座ったまま動けなくなった。




