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第19話【3日目】覚悟を決める

 夕食後、冬真、なぎささん、悟さん、三浦さんの4人がプレハブ棟の会議室に集まった。

 明日のバトルロイヤルについて対策検討を行うためだ。

 16時頃、運営から連絡があり、明日のバトルロイヤルの内容が公開された。

 今日のミッション終了時点で足切りラインのスコア1500を超えた者のみが参加できる。

 ちなみに足切りラインを超えた参加者は200名程度なのでおそらく約20パーティー同盟ぐらいになるだろう。

 三浦さんがスマホを確認してうなずきながら話した。

「我々は10名全員、足切りラインは問題無く超えられましたね」

「はい。ですので、この場では明日のバトルロイヤルの戦略面での話を詰めようと思っています。具体的な戦術面の検討は、明日、アプリが配信されてからにしましょう」

 悟さんがこの場の打ち合わせ方針を決めた。

 玲央奈ちゃんをこの場に呼んでいないのは明日の戦術面の打ち合わせで知恵を出してもらうほうが適しているという判断だ。

 まずは全員でルール概要を確認してみた。



 <バトルロイヤル【知力・体力・運】>

 ・3目並べ(通称:○×ゲーム、マルペケ)にて近距離(5m以内目安)の任意のパーティー間で対戦する。

  ※基本ルールは別項を参照すること。

 ・パーティー(最低2名編成)同士で3目並べにてバトルを行う。

  ※バトル方法の詳細は別項を参照すること。

 ・各パーティーはパーティー人数分のHPを持つ。(例:3人パーティーの場合、HPは3)

  バトルに負ける毎にHPが1減る。(回復手段無し)

  HPが0になるとそのパーティーはバトルが不可能になる。(クリア条件を満たしていればゴールすることは可能)

 ・バトル会場はオリエンテーリングのコースを使用する。

  運営が指定する地点から各パーティーはスタートする。(パーティー同盟を組んでいても、各パーティーは離れた場所に配置される可能性がある)

  コース外に出た場合は失格とする。

  山道コースでスタートするパーティーはHPが1加算される。(例:3人パーティーの場合、HPは4)

  ※山道コースを希望する場合は運営に予《あらかじ》めアプリで申請すること。

 ・バトルに勝利すると撃破ポイント1を得られる。

  バトル方法の詳細に記載の通り、1回で同時にバトル2戦を並行して行うため、もしも2戦共に勝利すると撃破ポイント2を得ることができる。

 ・バトル方法の詳細に記載の通り、バトル直後1分以内に次のバトルを行うと連戦判定となる。連戦回数が増えるほど、相手からの攻撃時の被スタン(1回休み)率が上がり不利になる。

 <クリア条件:撃破ポイント10以上の状態で、同盟を含むパーティーメンバー全員がゴール地点のQRコードをスマホで読み込む>

 <通過上限数:先着最大8パーティー同盟>


【注】

 ・3目並べバトルに使用するアプリは明日の朝9時までに各自のスマホに配信される。

 ・本通知以降、パーティー同盟以外のパーティーと協力関係を結ぶ行為(通称:チーミング)を禁止する。



 まずは冬真がポイントを整理して基本方針を話した。

「危険なポイントとしては、連戦回数が増えると不利ということなので、複数パーティーによる波状攻撃を受けるとまずそうです。スタート後になるべく早く合流したほうが良さそうですね。こちらも複数パーティーなら分担して波状攻撃をさばくことができます」

「連戦に対する対策はそれでいいだろう」

 悟さんがうなずいた。

「あと、我々は現在10名いるわけですが、各パーティー毎にHPが設定されるとのことなので、各個撃破を防ぐためにパーティーは4人・4人・2人に分けましょう。2人パーティーは遊撃部隊の想定で、できれば山道コースに配置してHPを増やしておきたいですね」

「誰を山道コースに配置するかだけど……。三浦さんのパーティーはスニーカー持ってる人います?」

 なぎささんが三浦さんに確認した。

「いえ、スニーカー持ってる人はいないですね。初日のオリエンテーリングは他のパーティーと同盟を組んでそちらに山道コースをお任せしてしのぎました」

「じゃあ山道コースのほうは、悟さん、玲央奈ちゃん、なぎささんが候補だな」

 と冬真が確認した。

「うーん……。ちょっと待って。なるべく候補を増やしておいた方がいいと思うんだけど……。確か足のサイズが奈緒さんとわたしで同じだったはずだから、わたしのスニーカーを貸せば奈緒さんも山道コースに配置できる可能性があるよ。後で確認しておくねー」

 となぎささんが提案したので、冬真はうなずいた。

「あと、我々のパーティーのリスクですが、俺としてはステータスが高い玲央奈ちゃん、特に室さんが狙われやすいと思っているので対策が必要だと思っています」

 明日のバトルロイヤルの参加者全員の情報が既に運営側から共有されている。高ステータス者の名前も全員周知の状態だ。

「ふーん、なんでー? ステータスが高いから逆に他のパーティーから避けられるような気がするけど」

 なぎささんが疑問を呈《てい》した。

「3目並べはステータスの差が出にくい。そもそも先攻・後攻共に手順を間違わなければ全て引き分けになるゲームだ。波状攻撃による連戦で高ステータス者を攻めてつぶす絶好のチャンスだよ」

 と冬真が説明するとなぎささんがなるほどねー、と納得した。

「室君は高ステータスの割にモチベーションが低く、戦力としても期待できないから完全に我々のパーティーのリスクになりますね……」

 三浦さんが溜め息をついた。

「とはいえ、強者パーティーに比べれば我々が狙われるリスクは低いと思っています。とりあえず、玲央奈ちゃんと室さんは4人パーティーに配置して高いHPで守る方針にしましょう」

 冬真が決めて他の3人もうなずいた。


「基本方針については、これまで冬真さんがまとめた通りでいいだろう。ところでチーミングについてはどう考えるかな?」

 悟さんがなぎささんを見て言った。

「じゃー、わたしから見解を説明しますねー。1日目の夜からチーミングの動きが無いか、コミュニケーションアプリで他パーティーの動向を探ってたけど、具体的な動きは無さそうでしたねー。今日の夕方にチーミング禁止令が出たから、これから具体的に動こうとしてたけど、止められちゃったってとこだと思うけどねー」

「なるほど。ではさほど気にする必要は無さそうということですかね」

 三浦さんがほっとした表情になった。

「いえ、水面下で動いてるパーティーがいる可能性がありますよー。禁止令の前に既に動いてたり、運営の目を逃れるためにコミュニケーションアプリ以外の手段で連絡をとったりで」

 なぎささんが心配そうな顔で三浦さんに言ったので、三浦さんが、

「確かに……。特に禁止令が出る前にチーミングを取り決め済なら、良心の呵責《かしゃく》無く実行できますしね」

 と言って考え込み始めた。

「とはいえ、禁止令が出たわけですし、今からリスクを負ってチーミングするパーティーは少ないと思いますよ。それに今日の足切りラインを意識してる状態で、事前にチーミング準備をしていたパーティーはそんなに多くないと思います」

 冬真が三浦さんを安心させるように言った。

「確かに少ないかもしれない。とはいえ強者は準備しているはずだ。先ほど冬真さんも言っていたが、バトルロイヤルはそもそも強者が狙われやすい形式だ。事前に対策済だと考えておくべきだ」

 悟さんからそう言われると、

「言われてみれば神崎さん達は準備してそうですね」

 と、冬真もうなずかざるをえない。

「……私はよく存じ上げないのですが、その神崎さん達は我々を攻撃してきますかね?」

 三浦さんが心配して言った。

 なぎささんが神崎達との経緯を三浦さんに簡単に説明したうえで、

「神崎さんって合理的だし、わたしの事、大好きだし、具体的な利が無い限り攻撃してこないと思いますよー」

 と安心させるように言った。

「神崎さん達はむしろ自らが集中攻撃されないことを優先して行動するはずだ。我々を攻撃する利は無いと思うからさほど心配しなくていいと思う」

 悟さんも同調した。

「ではチーミングによる具体的な脅威は無さそうってことでいいですよね」

 冬真は確認した。

「いや。実は藤堂のことが気になっている」

 悟さんは藤堂さんのIDが佐伯さん達、運営と同じOTから始まっていることを説明し、更に藤堂さんが運営側のトップかもしれないと説明した。

「藤堂が何故、参加者として動いているのかは分からない。ただ、具体的な目的は不明だがテストプレイをしているのかもしれない」

 悟さんは続けた。

「藤堂達も強者パーティーだ。他パーティーから狙われる対策としてチーミングするだろう。運営側の情報を持っていることもあり、禁止令前にチーミングの段取りも既に出来ているとみるべきだ」

「悟さんって藤堂さんに何か恨まれてたりしますー?」

 なぎささんが悟さんに聞いた。

「いや、特に恨まれてはないと思うが……。ただ、中学時代にやたらと定期テストで勝負を挑んできてたから、その延長のお遊び的なノリでちょっかいをかけてきそうな懸念があってね」

 悟さんが苦笑した。

「案外お茶目な人なんですねー」

 となぎささんが言ったのでみんなで笑った。

「そーいえば、悟さんのIDもOTから始まりますよねー。なんでか心当たりありますー?」

「実は当初は玲央奈だけがトリニティミッションに招待されていたんだ。私は2週間ほど前に急遽招待された。何か特殊な事情があって私を招待したから例外的にOTを割り当てたのだと思っている」

「まー、悟さんって、なんだか怪しい人ですもんねー」

 なぎささんがニヤニヤして言うので、

「いや……。ただの専業主夫だよ」

 と悟さんは慌てて答えた。


「あ、そうだ。三浦さんに確認したいことがあります」

 悟さんは追求をかわすためなのか、話題を変えた。

「はい? なんでしょうか」

 三浦さんが悟さんを見た。

「三浦さんは現在の会社で管理職をしていらっしゃるのではないでしょうか?」

「はい、課長を務めております」

 三浦さんがうなずいた。

「では三浦さんにお願いです。これまで、冬真さんがミッションを主導するリーダー、そして私がマネージャーとしてパーティーを運営していたのですが、今後は三浦さんにマネージャーを担っていただきたいのです。よろしいでしょうか?」

 悟さんの提案に三浦さんはちょっと驚いたようだ。

「別にダメでは無いですが……。理由を教えていただけますか?」

「明日以降、これまでよりも厳しい戦いになることが予想されます。もしもバトルロイヤルを勝ち抜いても、その後の準々決勝以降は高ステータス者で構成されるパーティーばかりになるでしょう。私も老骨に鞭打ってプレイヤーに専念する必要が出てくる可能性があるから、というのが理由です」

「なるほど。承知しました。でも、何か困りごとがあれば相談にのっていただきますからね」

「もちろんです。この打ち合わせが終わったら早速、引き継ぎをしたいので2人で残って話しましょう」

 悟さんが言うと三浦さんがうなずいた。

 いよいよ悟さんが本気を出すということなのか……冬真はちょっとわくわくした。

 とりあえず、もう話すことは無さそうということで一旦、解散となった。




 奈緒子が宿泊棟の自室で休んでいるとスマホに通知が来た。

 なぎささんからのチャットで、今から奈緒子の部屋に来てもいいか、とのことだ。

 奈緒子はスマホでOKの返事を打って、しばらくするとなぎささんが来た。

「休んでるところ、ごめんねー」

 奈緒子はなぎささんを自室に招き入れた。

 なぎささんには椅子を勧めて、奈緒子はベッドに腰掛けた。

「明日のバトルロイヤルなんだけどさー。3目並べのアプリの説明書を確認したら、もしかすると奈緒さんの共感覚が活躍するかもって思ってさー。で、奈緒さんを山道コースにも配置できると作戦に幅が出そうだなって思ってねー」

 なぎささんは今はパンプスを履いていて、手にスニーカーを持ってきていた。

「わたしのスニーカー、奈緒さんが履けるかどうか試してもらえないかなー?」

「分かりました」

 奈緒子はなぎささんのスニーカーを履いてみた。ぴったりだ。部屋の中を歩いてみる。

「ぴったりだし、軽いしとっても歩きやすいです。このスニーカー高価なんじゃないですか?」

 奈緒子は感心した。

「まーねー。ぴったりで良かったよー。じゃあ、奈緒さんがもしも山道コースになっても問題無さそうだねー」

「はい、大丈夫そうです」

 奈緒子はなぎささんにひとまずスニーカーを返した。


「ところでさ。奈緒さんとお話したいんだけど、大丈夫かな?」

 なぎささんが真剣な顔で奈緒子に言った。

「はい。なんでしょうか」

 奈緒子は、なんだか緊張してきた。

「明日、バトルロイヤルで残れるのは最大で8パーティー同盟のみでしょ。更に午後の準々決勝で残り4パーティー同盟になるわけだから、明日の夜、わたしはいない可能性が高いと思うんだ。こうして奈緒さんとゆっくり話せるのはこれで最後の機会かもしれないって思ってねー」

「敗退したらなぎささんは帰るってことですか? 観戦はしないのですか?」

 足切りラインをクリアできなかったり、バトルロイヤル以降で敗退した場合、帰宅することもできるし、残って観戦することもできる。

「うん。わたしは帰るよ。そして……」

 なぎささんはそこで思い詰めた表情でしばらく黙った。顔色が非常に良くない。いつものなぎささんからは考えられないほど波動が激しく乱れている。奈緒子は心配になった。

 2人の沈黙が部屋の中を支配した。

 なぎささんは意を決したように話し始めた。

「もう冬真さんの前には姿を現さないつもり。冬真さんを最後まで見守った後は、……2度と会わない」

 衝撃を受けた奈緒子は数秒間呼吸を忘れた。そんな……。どうして……。

「……それは、ステドラでも冬真さんに会わないってことでしょうか?」

 奈緒子は念のために確認した。

「うん……」

 なぎささんの波動が悲しみに覆われている。でも……決意は固そうに見えた。

「理由を教えていただけますか?」

「わたしは……。わたしの都合しか頭に無くて、取り返しのつかないことをしてしまった最低の女なの。冬真さんは深く傷ついてると思う。だから本来は一緒にいてはいけないの。でもどうしても、わたしの気持ちの整理がつかなくて……。だからせめてトリニティミッションの最後までは冬真さんを見守るって自分の中で区切りを付けたの」

「あの日。何かあったんですね? あの日以降、冬真さんとなぎささんは……うまく言えないけど、微妙におかしくなったと感じていました。何があったんですか?」

 なぎささんは奈緒子の質問には答えずに、

「一昨日、わたしは初めて冬真さんに会った。その後で奈緒さんに会ったよね。冬真さんの反応ってわたしよりも奈緒さんと会ったときのほうが良かったと感じたの。冬真さんは奈緒さんのほうが好みなんだと思う。冬真さんのこと、これからも支えてあげて欲しい」

 と、奈緒子に懇願した。

「私の質問に答えてくれないし、自分の都合で話を続けるなんて……、なぎささんが最低な女なのは理解しました。でも、なぎささんが考えてるほど、私は良い人間じゃないですよ。私、本当は悪い女なんです。冬真さんのことを任せてしまって本当にいいんですか?」

 なぎささんが驚いた顔でえっ? と言った。

 奈緒子は構わず続けた。

「私は共感覚で好意も当然分かります。冬真さんは私よりも、なぎささんにより強く惹《ひ》かれています。冬真さんの心だけ奪って逃げるなんて、最低で卑怯な女ですね」

「冬真さんの気持ちを勝手にわたしに伝えるなんて……。確かに奈緒さんは悪い女だね。……でも、ありがとう」

 なぎささんが思わず笑ったので奈緒子も一緒に笑った。

「もっとなぎささんとお話ししたいです。最低の女と悪い女で納得できるまで話しましょう」

「奈緒さんには敵わないなー。分かったよ」

 なぎささんはしばらく黙って、そして続けた。

「わたし……第1チェックポイントで初めて冬真さんに実際に会って……。思った通り身なりに気を遣わない人だなって。でも、思った通り素敵な人だなって……。ますます好きになった」

 奈緒子はうなずいた。なぎささんは寂しそうな顔をして更に続けた。

「もう……気持ちが抑えられなくなったのを自覚したの。このまま一緒にいたらまた、冬真さんを傷つけてしまうって確信した。わたしの存在自体が彼を傷つけるって」

 奈緒子もなぎささんも黙った。奈緒子は何を言えばいいのか分からなくなった。

 なぎささんが優しい顔で奈緒子に言った。

「ライバルのわたしがいなくなるんだよ? 悪い女にとっては都合がいいでしょう?」

 奈緒子は必死に考えた。ここがターニングポイントだ。誰にも頼れない。自分の意志で進むんだ。

「私も……、私も実際に冬真さんに会って自分の気持ちを確信しました。なぎささんは確かにライバルです。でも、同時にかけがえのない仲間なんです。こんな形での決着は嫌です」

 奈緒子はなぎささんを見た。2人の目と目が合った。

「冬真さんは……。なぎささんの想いを受け止められる人だと思います。私はそう信じてます」

「ふふっ。そうだったらいいのになー」

 なぎささんは少し笑顔になって続けた。

「最低の女と悪い女に好かれちゃって……。冬真さんも大変だねー」

「そうですね。それに……たぶん今日ぐらいから優秀で美少女のJKも参戦してきましたよ」

「ほら、またー。勝手に人の好意をバラシちゃって。やっぱり悪い女だねー。……でも、気付いてないのは冬真さん本人ぐらいだよね。ふふっ未成年だけど強敵だねー」

 また2人で笑った。

 なぎささんが天井を見て言った。

「できれば……明日の夜も……明後日の夜も冬真さんを見守れたらいいな」

「絶対に勝ち残りましょう! それに……、それ以降も私はなぎささんを逃がさないですよ。今の私には無理かもしれないけど……。でも、明後日の夜までには出来るようになります!」

 奈緒子が決意して言うとなぎささんは奈緒子を見た。

「さすがに無理だと思うけど……。でも、そうなったらいいなー」

 なぎささんは少し考えて、そして奈緒子の目を真っ直ぐ見て言った。

「聞いてくれる? あの日のこと。そしてわたしのこと」

 なぎささんは奈緒子に秘密を打ち明けてくれた。




 悟は三浦さんとの話を終えて宿泊棟の自室に戻ってきた。

 スマホを確認すると冬真さんから話がしたいとチャットが来ていたので、通話のコールを送った。

 するとすぐに冬真さんが応答した。

「お疲れ様。どうしたのかな?」

 悟は冬真さんがまだ何か悩みがあるのではないかと少し心配になっていた。

「お疲れ様です。悟さんにお礼を言いたくて」

「私に? どういうことかな」

「たぶん……。今日の朝の段取りって悟さんが考えたのかなって。感謝してもしきれないです」

「あぁ。そういうことか。でも、具体的な段取りは、なぎささんがやってくれたんだ。私はそれほど貢献してないよ。後でなぎささんにもお礼を言っておいたほうがいいと思う」

「そうだったんですね。分かりました。後でなぎささんにもお礼を言っておきます」

「ところで、まだ悩んでいたりはしないかな?」

「いえ。大丈夫です。みんなのおかげで……、なんというか自分自身を許せた気がします。これまでの人生で考えられないぐらい、穏やかな気分になっています」

「そうか。それは良かった」

 2人の間にしばらく沈黙が訪れた。

「あの……」

「うん」

「俺、悟さんみたいになりたいです。どうすればなれますか?」

「ははは。冬真さんのように、何でも描ける白いキャンバスを持つ人間は、私のように黒く汚れた人間を目指すべきではないよ」

「俺は……そんなに白くないと思います。薄汚れてる気がします」

「そうか。冬真さんも社会人経験を積んでいるからね。ただ、もしも冬真さんが私を見て何かを感じ取ってくれたなら、冬真さんのキャンバスに私の一部を描いてみるのもいいかもしれない。冬真さんはリアリストだから〝なりたい〟と思えたなら、なるための準備ができているという事だと思うよ」

「そうでしょうか?」

「うん。具体的な行動がイメージ出来るならきっと出来るはずだ。私を見てイメージ出来たなら、冬真さんにならきっと出来るよ」

「分かりました。ありがとうございます。明日以降もよろしくお願いします」

「うん。よろしく。では失礼するよ」

「はい、おやすみなさい」

 悟は通話を切った。

 静かになった部屋の中で悟は天井を見上げた。

 どうやら、条件の1つ、〝自分自身を受け入れる心の強さ〟をクリアしたようだ。

 もしかしたら……、冬真さんは成し遂げるかもしれない。

 悟はもしも必要な時がくれば〝全力以上〟を出す覚悟を決めた。


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