第18話【3日目】自分を受け入れる
冬真達は担当ミッションの第14、第15チェックポイントをなんとか無事に終えることができた。
所要時間が思ったより短かったものの、冬真は正直いつもより疲れていた。
玲央奈ちゃんと白石君はがんばってくれたが、室さんは無口で必要最小限しか話さないし、話したとしても意味がちょっと分からなくて白石君に〝通訳〟してもらってなんとかコミュニケーションを取っていたのだった。
更に高ステータスを活かして活躍するわけでもなく、必要最低限のことはやってくれるというスタンスだった。
玲央奈ちゃんはなぜか室さんのことが気に入ったようでいつもよりも元気だった。頭の良い人達が考えることは分からんな、と冬真は思った。
体力ミッションパーティーは、まだミッションが終わっていないようなので、一旦、宿泊棟に戻って休むことにした。
冬真が自室で休んでいると、なぎささんからチャットで連絡があり、もうじきミッションが終わるからプレハブ棟の会議室を予約して待っておいて欲しいとのことだ。
ダーリンが懺悔する場だからしっかりと説明できるように準備しておいてね、とのことで冬真は苦笑した。
冬真は宿泊棟を出てプレハブ棟へ向かった。今日は少し曇っていて日差しは強くないが、蒸し暑い。
なぎささん達は体力をごっそり奪われてるかもしれないと少し心配になった。
予約した会議室のドアの前に冬真が立つと人の気配がした。
一瞬、躊躇ったがドアを開けて入ると玲央奈ちゃんが既にいたので、2人でみんなを待つことにした。
玲央奈ちゃんが適当に雑談をしてくれた。
本当は一番、玲央奈ちゃんが冬真からの説明を早く聞きたいのだと思うが、気を遣ってくれているようだ。
冬真は心の中で玲央奈ちゃんに感謝した。
「ん? どしたん? ぼーっとして。疲れたん?」
玲央奈ちゃんが心配そうに冬真を見た。
心配させないように冬真からも雑談を振ってみることにした。
「そういえば、玲央奈ちゃんってあんまり言葉遣いが高校生っぽくないよね」
「それな! いつメンと喋る感じと違くて、なんか冬真さん向けにそれっぽい雰囲気出してるからそう感じるだけやってー」
と玲央奈ちゃんが笑いながら応じた。
「友達とはそんな感じで話すんだ……。うーん、そう言われてみると、いつもの玲央奈ちゃんの話し方のほうが個性に合ってる気もするな」
「あーね。まぁJKっぽく話すこともできるけどどーする? マジでウチの気分でどっちでもイケるけど」
「……やっぱり、いつも通りに戻して」
そしてお互いなんとなく見つめ合って、こらえきれずに2人共、吹き出して笑ってしまった。
すると、なぎささん達4人が会議室に来た。
「あーら、ダーリン。玲央奈ちゃんとずいぶん仲良く浮気してて、いい感じじゃなーい」
なぎささんがニヤニヤしながら入ってきた。蒼大君、奈緒さん、悟さんまで何故かニヤニヤしている……。
そして、4人が着席し、これで全員が揃った。
「まぁ玲央奈とすっかり仲直りできたなら良かったです」
悟さんがほっとした顔で言った。
「じゃ、ダーリン、説明してちょうだい」
となぎささんから、うながされたので冬真は背筋を正して説明を始めた。
どこから話すべきか。最初からのほうがいいな。
「自分でもうまく話せるかどうか分からないけど。話してる途中で何か聞きたいことがあったら、遠慮なく質問してもらっていいよ」
冬真はそう言ってから話し始めた。
冬真は、小さい頃からゲームが大好きで、特に楽しみにしているゲームの発売日数日前は気になってしまい、他のことが手につかなくなるぐらい熱中していた。
勉強はあまり好きでは無かったが、学校の成績がそこそこ良かったので親からは大目に見てもらえていた。
高校生ぐらいになってから、なんとなく将来はゲームを開発する職業に就きたいと考えていたが、具体的にどの職種、という希望が固まっていなかったため、とりあえず理系学部のある大学に進学した。
大学入学してそれなりに楽しい大学生活を送っていたが、世の中の大勢の人々を魅了するゲームの開発に携わりたいという思いは益々強くなっていった。
周囲よりも早めに就職活動を開始して、業界のことを調べていくうちに、冬真が生まれた頃の1990年代後半は日本のゲーム業界が世界中に強い影響力を持っていたことが分かった。
冬真は往年の勢いを超えるぐらいに日本のゲーム業界を盛り上げていくための一助になりたいと思い、熱意を持って就職活動に取り組んだ。
結果は全滅だった。大手のパブリッシャーだけではなく、中小デベロッパーも含めて数えるのが嫌になるほど試験を受けたが、冬真のこれまでの人生を懸けて全力を尽くしたにもかかわらずダメだった。
今になって考えてみると、原因はハッキリしている。冬真には即戦力となれるスキルが無かったし、また、それを覆すためのポテンシャルも無かったのだ。厳しい競争倍率を勝ち抜くための武器が何も無かった。
就職環境が売り手市場だったため、上場しているIT企業に入社することができたものの、冬真の社会人人生のスタートは厳しいものとなった。ここから軌道修正するのは至難の業だろう。
「それで今の会社に入社して、まずはここで一生懸命がんばってスキルを身に着けて、将来、転職したいなって思いで毎日過ごすことになった」
「諦めずにがんばることにしたんやね。立派だと思う」
玲央奈ちゃんがそうは言ってくれたが……。
「いや、結局、具体的な努力はしてないんだ。毎日毎日、本当に仕事が大変で……、ずっと追われてて自分の中でも情熱がだんだん失われていくのが分かった」
「話の腰を折って悪いけど、どんな仕事をしてるのか、差し支えない範囲で教えて欲しい」
玲央奈ちゃんから要望があったので冬真は話すことにした。
「小売店とかで使われているPOSシステムの開発・設計だよ。今だと消費税率の変更準備で大変なんだ。世間からは、なんでもっとすぐに出来ないんだって思われてしまうけど、何かトラブルがあると物流に重大な影響が出るから、ミスは絶対に許されない。慎重に膨大な手間をかけて進める必要があるんだ」
「そうなんやね。聞いてるだけで大変な仕事やなって思う」
「世間からはこんなの出来て当然って思われてるから、うまく対応できたとしても誰からも感謝されない。でも、何かのトラブルが発生したらバッシングされる。俺にはベストを出しても結果はゼロ、それ以外は全てマイナスだと思えてしまうんだ。そんな風に考えてしまう俺は正直、この仕事が向いてないんだと思う」
「どんな仕事であってもお金をもらうからには大変なのは大前提です。しかし、奈緒さんの銀行もそうですが、社会インフラを担う仕事は責任が特に重いですからね。業界関係者の方々には頭が下がります」
悟さんが労ってくれた。
「ウチは冬真さんが向いてないなんて思わないで。冬真さんみたいに誠実で責任持って仕事してくれる人が社会インフラを支えてくれてるって思うと安心して生活できるから」
「ありがとう。でも、正直、毎日生きてるのがつらい。何のために生まれてきたのか分からなくなる時がある」
冬真はうつむいた。
「気を悪くしないで聞いて欲しいんやけど……。昔はともかく、今なら少人数、極端な話、1人でもゲームを開発する環境を持てるわけやろ? 冬真さんもそれなりに稼いでるやろうから少なくとも金銭的には問題無いと思う。1日5分でもええから、やれるだけやってみることはできないかな?」
「玲央奈ちゃんの言うことは正しいよ。本当にその通りなんだ。こうして話していて、今、自分でも分かったんだけど、一度就職活動に失敗して、更にゲーム開発でもうまくいかなかった時、自分の無能さが分かることが怖いんだ。絶望に耐えられないんだ」
「そんな……冬真さんは無能なんかじゃないです!」
奈緒さんが必死な顔で叫んだ。
「俺はこうしてウジウジ悩んで何も行動しない自分が心底嫌いなんだ。自分のことが許せないんだよ」
冬真はそこまで話して力が抜けた。自分でも本音が話せたと思う。冬真は続けた。
「昨日の夕方発表された褒賞の1つに、任意の上場企業の最終面接が受験できるってあったろ。それを見た瞬間、確実じゃないかもしれないけど、自分の人生を変えられるかもしれない、希望が生まれたって思ってしまったんだ」
みんなが……冬真の話を真剣に聞いてくれている。ここでどうしても言っておかないといけないことがある。
「それで頭の中がそのことでいっぱいになって……。みんなのことを気遣う余裕が全く無くなって玲央奈ちゃんにもひどいことを言ってしまった。申し訳ありませんでした」
冬真は深く頭を下げた。
会議室を静寂が包んだ……。
奈緒さんが優しく言った。
「冬真さん、顔を上げてください」
冬真は顔を上げた。
「正直に話してくれてありがとうございました。1つだけ言わせてください。冬真さんは……ちゃんとやるべきことをやって責任を果たしています。だから、自分を責めないで欲しいです。冬真さんの仕事が世間から感謝されてなかったとしても、冬真さんの周囲の人達は冬真さんにいつも感謝していると思います。それを忘れないでください」
奈緒さんの心遣いに冬真は癒された気がした。
「ウチ、冬真さんに子供には分からないって言われてすごくショックやったけど、やっぱり冬真さんが正しかったんやね。社会人の大変さ、人生を生きることの苦しさをちっとも分かってなかった。こうして冬真さんの話を聞いても、もしかしたら、まだ理解しきれていないかもしれないし、つらさも想像できてないかもしれない。そんなウチのために話してくれてありがとう」
「いや、いいんだ。俺のくだらない話を聞いてくれてありがとう。少し楽になった気がするよ」
「くだらないなんてとんでもないですよ。玲央奈にとって、とてもいい勉強になったと思います。私からもお礼を言います。ありがとう」
悟さんが頭を下げた。
「僕、もうじき夏インターンの時期なんですよね。冬真さんの話を聞いていて、全然他人事に思えなくて。僕も就職がうまくいかなかったら冬真さんみたいに褒賞に目が眩んだと思います。でも、それって全然ダメなことじゃないと思います。なぜなら心の底では諦めてないってことだから。無責任なことは言えないですけど、できれば、冬真さんは自分自身のことを許してあげて欲しいです。お願いします」
蒼大君からお願いされてしまった。
「蒼大君、ありがとう。分かったよ。蒼大君の言う通りだ」
「良かったね、ダーリン。いい仲間に恵まれてさー」
なぎささんが優しく笑った。
「本当にそうだな。感謝してる。みんな、ありがとう」
エアコンで冷たいはずの会議室が、優しく温かい空気で包まれた気がした。
冬真の話が終わったところで、なぎささんが三浦さん達を呼んだ。
会議室の窓を見ると日が暮れてきていて、夕日が差し込んでいる。
少しして、三浦さん達4人が会議室にやって来て席に座った。
まずは三浦さんから話があるようだ。
「本日はありがとうございました。みなさんのおかげで無事に足切りラインを超えることができました」
「いえいえー。こちらこそありがとうございました」
なぎささんが応じた。
「ところで、明日のバトルロイヤル以降もこのまま一緒にパーティー同盟を組みませんか?」
三浦さんから提案された。それは願ってもないことだな、と冬真は思った。
「是非、こちらからもお願いします」
と冬真は応じた。
「それなら、ビジョンの共有をしておいたほうがええんちゃう?」
玲央奈ちゃんからの提案に冬真はうなずいた。
冬真は三浦さん達に〝強者に勝てるパーティーになる〟というビジョンを説明した。
三浦さんはうなずいた。
「若者らしくていいですね。私もそのビジョンに乗らせてください」
「ワクワクするわね。自分もそのビジョンに賛成よ」
緒方さんが優しく微笑んだ。
「オイラも賛成ッス。がんばるッス」
白石君もOKのようだ。
「……俺は見守ろう」
室さんは賛成なのかどうか良くわからないが……。
とりあえず、イマイチ、室さんの考えが分からないので冬真達は室さんと話し合ったが、どうにも折り合いがつかず、室さんは会議室から出て行ってしまった。
そんな室さんを悟さんが見送ってふっと笑った。
「心配しなくても、もしも必要な時がくれば、きっと協力してくれると思いますよ。今はその時では無いということです」
そろそろ夕食の時間のため、一旦解散して夜に必要なメンバーが再集合して明日のバトルロイヤルの対策を検討することになった。




