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第16話【3日目】成長を誓う

 3日目の朝。

 冬真は夜中に数回、目が覚めてしまって、眠りが浅い感覚があった。

 今日はなぎささんから朝食に誘われていたので食堂へ向かう。

 宿泊棟の外に出ると、どんよりと空が曇っていた。

 せめて昨日までみたいに、晴れていればいくらか気分が楽になったかもしれないのに。

 食堂に到着すると、ピークより早めの時間に来たので空いていた。

 なぎささんと向かい合って座って食べ始めた。

「なぎささん、ありがとう」

 冬真は何のお礼かも言わずに感謝した。

「ううん。いいよ。でも、感謝してるなら、わたしの言う通りにしてね」

 いつも選択の余地無く、言うことを聞かされている気もするが、今はただ感謝する冬真だった。


 朝食が終わったらいったん、宿泊棟に戻り、今度はプレハブ棟で待ち合わせることになった。

 冬真が宿泊棟の自室でスマホを確認すると、今日のミッションは第11から第15チェックポイントまであり、ミッション内容は既に公開されていることが分かった。

 ちなみに各ミッションに挑む順番は自由だそうだ。

 早速、確認してみると全てのミッションが1日目~2日目のグレードアップ版というか、多めの時間を要する内容になっていただけなので運営側もネタ切れになったのかなと冬真は思った。

 ちなみにプレハブ棟のミッションはテキサスホールデムポーカーIIである。


 9時少し前に冬真がプレハブ棟に到着すると、建物の手前あたりでなぎささんが待っていた。

「ここのチェックポイントはテキサスホールデムポーカーだから、4人パーティーのほうがいいよね。オートマッチングアプリを使ってメンバーを募集する?」

 冬真はなぎささんに聞いてみた。

「ううん。わたしとダーリンの2人で対戦するよ。対戦相手はわたしが用意したから。もう相手がロビーで待ってるから行こう」

 と、言ってなぎささんがプレハブ棟の中へ入って行ったので冬真が追う。


 プレハブ棟のロビーに入ると、玲央奈ちゃん、奈緒さん、蒼大君、悟さんが待っていた。

 驚いた冬真はなぎささんの顔を見た。なぎささんは真剣な顔で言う。

「このパーティーと対戦するよ。ただ、相手はわたし達と一緒で代表2人で対戦することになってるから人数のハンデは無いわよ。わたしのお願い聞いてくれるよね?」

「……分かった」

 冬真はうなずくしか無かった。



 <第11チェックポイント【運】>

 ・テキサスホールデムポーカーII

 ※基本ルールは別項を参照すること。

 ・任意の対戦相手と試合すること。

  5戦行う。

  後述する〝勝者〟1名が所属するパーティー側が勝利となる。

 <獲得スコア(1戦毎):勝利時20 引き分け時15 敗北時10>

 <ボーナススコア:5戦目終了時点で生存メンバーの人数×+10>

 ※なお、本ミッションでは試合に参加していないパーティーメンバー、及びパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。


 以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。

 ・最大4名まで参加者を選ぶことができる。

 ・チップは使用しない。

 ・勝者はショーダウン(手札公開)時に最も強い役を揃えた1名とする。

  勝者以外は味方の参加者を含めてすべて敗者とする。

  勝者の判定はディーラーが行う。

  判定の結果、引き分けとなった場合、その1戦は勝者・敗者共に無しとして扱う。

 ・敗者へ以下のペナルティを課す。

  ◇次の戦いに進めない。

   例:1戦目の敗者は2戦目以降、5戦目まで挑めない。

  ◇味方が全員敗者となり参加可能なメンバーが0名になった場合、自動的に相手の勝利となる。

 ・ショーダウンまでにフォールド(勝負を降りる)した場合、敗者とならない。

 ・味方が全員フォールドした場合、相手の勝利となる。



 前回との違いは3戦から5戦になったことだけのようだ。

 冬真達がミッション受付と対戦登録を済ませて会議室に入ると、お馴染《なじ》みの佐伯さんがいた。

 今回もディーラーを務めてくれるようだ。

「よろしければテキサスホールデムポーカーの流れを一度実演して説明しますがいかがでしょうか?」

 冬真がなぎささんを見たが、なぎささんは大丈夫、と言ったので冬真は、

「いえ、説明は不要です」

 と答えた。

「私達も説明不要です」

 玲央奈ちゃんも答えたところで、佐伯さんが、

「では、試合前に作戦を立てたいなら、最大10分まで許可できますがいかがでしょうか?」

 と言ってきたのでこちらのほうはお願いすることにした。


 そして、それぞれのパーティーが別会議室へ移動した。

「あちらのパーティーからどの2人が出てくるか分からないけど、玲央奈ちゃんと奈緒さんの可能性が高いと思う。奈緒さんの共感覚でこちらが揃えた役の良し悪しはある程度、推測される前提で対戦することになるね」

 と、冬真はなぎささんと視線を合わせながら言った。なんとなく心が落ち着く気がする。

「そうだねー。ところで、前回を踏まえて今回注意しておくことはあるかな?」

「うーん……。まずは最後のリバーまではフォールドしないことだな。リバーより前でフォールドするメリットが無い。あとは、5戦もあるのにたったの2人しかいないから、敗者を出さないように安全側に考えて対応するしか無い」

「うん、分かった。わたしもそれでいいと思うよー」

 作戦が決まったので冬真達は佐伯さんの待つ会議室へ戻った。


 遅れて玲央奈ちゃん達が会議室へ戻ってきたところで佐伯さんが確認した。

「対戦は4名対2名で行う、ということでよろしいですか?」

「いえ、こちらは私、水無瀬玲央奈と青木さんの2名で対戦します。2名対2名ですね」

 佐伯さんがおやっという顔になった。

「ご認識してるかと思いますが、念のため。このミッションは人数が多い方が有利なルールです。それでも2名で対戦するのですか?」

「はい、2名で大丈夫です」

 佐伯さんが何かを察したのか、穏やかな顔になって言った。

「承知しました。では2名対2名で開始させていただきます」


 1戦目。

 ターンの段階でなぎささんにスリーカードが揃った。

 リバーの段階で冬真はフォールドした。

 玲央奈ちゃん達は2人共、フォールドした。

 やはり、なぎささんに良い役が揃ったのが奈緒さんに見抜かれたようだ。

 1戦目は冬真達の勝利となった。


 2戦目。

 なんとリバーでなぎささんにフルハウスが揃った。

 なぎささん絶好調だな。ちなみに冬真はブタである。

 玲央奈ちゃん達は2人共、当然のようにフォールドした。

 2戦目も冬真達の勝利となった。


 3戦目。

 今度はリバーでなぎささんがツーペアとなった。

 これなら勝負してもいいか……。冬真は玲央奈ちゃんと奈緒さんを見た。

 奈緒さんがフォールドしたが、玲央奈ちゃんが残った。

 おそらく奈緒さんからは、こちらのスリーカードから少し落ちるツーペアの役を見抜かれているだろう。勝負してくるということは最低でも玲央奈ちゃんはスリーカード以上なのだろう。

 ……既にこちらは2勝している。まだ、あと2戦あることを考えてもここは無理をする場面では無い。

 冬真がなぎささんにフォールドのジェスチャーをしたので、なぎささんはフォールドした。

 3戦目は冬真達の敗北となった。


 4戦目。

 リバーで冬真にツーペアが揃った。やっと冬真に勝負できる役がきた。

 向こうは玲央奈ちゃんがフォールドして奈緒さんが残った。奈緒さんは冬真となぎささんをそれぞれじっと見て笑顔になっている。

 いかにもわざとらしい笑顔だなと冬真は思った。芝居の可能性が高い。しかし……、こちらのツーペアが見抜かれている可能性が高いだろう。たとえここで冬真が敗者となっても最後の1戦はなぎささんが戦えるが……。ツーペア自体が微妙なのがどうにも不安だ。ここで負けても2勝2敗だし、ここは不本意だがフォールドしておくか。

 冬真は止むなくフォールドした。

 4戦目も冬真達の敗北となった。


 5戦目。

 ターンで今度は冬真にスリーカードが揃った。最後だし、ここは当然勝負だ。

 リバーで玲央奈ちゃんがフォールドしない。玲央奈ちゃんが奈緒さんをちらりと見て冬真に向き直った。玲央奈ちゃんは無表情なので役が読めない。ホワイトボードにはクローバーが3枚。奈緒さんには冬真のスリーカードは見抜かれているだろう。

 フラッシュかもしれない……。ブラフかもしれない……。どちらだ? しかし、神崎達とは違って奈緒さんには冬真のスリーカードが分かっているはずだ。さすがにブラフの可能性は低いか。

 冬真は迷った末にフォールドした。

 5戦目も冬真達の敗北となり2勝3敗となったが、冬真となぎささんの2人で生存ボーナス+20は確保できたので良しとしよう。


 終わったところで佐伯さんがみんなを見回して言った。

「これにて勝負は終わりです。2パーティー共、5戦目まで良い勝負でしたね」

「はい、おっしゃる通り良い勝負ができたと思います。ディーラーありがとうございました。ところで、この6人で少し話をしたいので、会議室を使わせていただいてもいいですか?」

 と玲央奈ちゃんが頼むと、佐伯さんがうなずいた。

「承知しました。では私は退出しますね」

 佐伯さんはトランプを片付けて会議室から出て行った。


 冬真は玲央奈ちゃんから話しだすのを待って黙っていた。

「さっきの勝負やけど……、こっちは1戦目だけ奈緒さんがツーペアを揃えたけど、2戦目以降はワンペアかブタだったの」

 玲央奈ちゃんが驚きの事実を話した。

「え、マジで? それで3戦目から5戦目まで勝ったってことか……」

 冬真は完全にやられたと思った。

「神崎さん達との対戦で相手の心理を読んで場をコントロールすることを学んだから、事前にウチらで一生懸命考えたの。冬真さんはきっと、奈緒さんの共感覚を織り込んで対応してくるでしょう? だからウチらはそれを逆手にとってこちらの役を良く見せるようにするにはどうしたらいいか対策を立てていたの」

 そうだったのか……。玲央奈ちゃんは続けた。

「あと、そもそも人数が2人しかいないから冬真さんは基本方針として安全策をとってくるだろうって思ってたの。だから4戦目まではなんとかウチらがコントロールできるかなって思ってたんだけど、5戦目は正直、運だった。ホワイトボードにクローバー3枚きてくれたからなんとかなったけど」

「そうだったのか……それを聞くと、結果は2勝3敗だったけど、内容的にはこちらの完敗だな」

「どう? ウチら、成長したと思う?」

 玲央奈ちゃんが真剣な顔で冬真を見た。

「うん、成長してる。奈緒さんにもすっかり騙《だま》されたし。対策検討は蒼大君も一緒に考えたんだろう? 本当にすごいと思った」

「ウチね、子供だけど少しずつ成長してるよ。今は無力かもしれないけど、でもいつかきっと冬真さんの力になれる時がくると思う。だから、冬真さんが何を悩んでるのか説明してほしい。聞いてもウチは何もできないだろうし、もしかしたら冬真さんが期待してるほど理解すらできないかもしれないけど、それでも……」

 玲央奈ちゃんはそこでいったん言葉を切ってうつむいた。そして再び冬真の目を見て言った。

「だって大切な仲間だから。お願い」

 昨日、自分の事で精一杯でパーティーメンバーの気持ちを汲むことができなかった冬真は、自身の未熟さが恥ずかしくなった。こんな良い子にここまで言わせてしまった。

「分かった。昨日はひどいことを言ってしまって申し訳なかった。ちゃんと説明するよ」

「うん。ありがとう。でも、今はミッションを進めて足切りラインを超えないとまずい状況やから、今日のミッションが全て終わってからお願いしてもいい?」

「分かった。じゃあ一緒にがんばろう」

 玲央奈ちゃんが席を立って冬真の目の前に来た。冬真も席を立った。

 握手でもするのかな?

 玲央奈ちゃんは冬真の顔をじっと見ている。玲央奈ちゃんの整った顔立ち、少し潤《うる》んだ目でじっと間近で見つめられると……冬真は不覚にも少しだけドキっとしてしまった。

「ダーリン、そこは優しく抱きしめてあげるところだよー」

 なぎささんがにやにやして言う。

「悟さんが見てる前でそんなことできないでしょ。2人きりにしてあげましょうよ」

 蒼大くんもにやにやして言う。

「高校生相手だし。そもそもそんなセクハラできるわけないだろ!」

 冬真が笑って言うとみんなも一斉に笑った。

「うーん……、でも正直何も無しって、ウチ、物足りないわー。ま、ハグしてもらうのは今後の楽しみにとっておくわ」

 玲央奈ちゃんまでそんなことを言うので、なぎささんからの悪影響は相当なものだな、と冬真はげんなりした。

「じゃあ、これから予定が詰まってるから、急ぐわよー。ほらほら、みんな、遅れずにわたしに付いてくるんだよー」

 と、言ってなぎささんが会議室から出てスタスタと歩き出したので、みんなで慌てて後を追った。

 奈緒さんが冬真の横を歩きながら言った。

「私も冬真さんに頼るばかりじゃなくて、頼ってもらえるようにがんばりますね」

「既にいつも頼らせてもらってるよ。これからもよろしくお願いします」

「じゃあ、もっと頼ってもらえるように、私も成長しますから……、見ていてください」

 奈緒さんが笑顔になった。冬真はパーティーの雰囲気が、これまでよりも居心地が良くなった感じがした。


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