第15話【Stella of Dragon】応竜に挑む
仕事を終えて帰宅したわたしは、まっすぐ自室に向かう。律がリビングにいたので、ただいまと言っておいた。
今日は同僚と一緒に晩ご飯を済ませてきたので、着替えた後、すぐにノートPCでステドラを起動した。
ステドラとはtriangleX社が運営しているMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)のStella of Dragonのことだ。
ステドラにログインすると、わたしのキャラクターのナオがゲーム内の自分の家でくつろいでいた。
宅配物を受け取ったり栽培中の植物に水や肥料をやったりしながら、わたしは数日前に師匠達と4人でソルトジェネレーターのクエストをした時のことを思い出していた。
同行していた治療術士のコットンちゃんが持っていた片手棍棒が蟹に大ダメージを出していたので気になっていた。
後日、彼女に聞いたところ、蟹のような打撃属性に弱い魔物に更に追加ダメージを与える魔法武器で、少し前に競売所でたまたま出品されていたので少々値が張るが購入したということだった。
わたしは魔法効果にボーナスが上乗せされる杖を優先して購入していて、魔物を殴る時用の武器はしばらく買い替えていなかった為、ちょうどそろそろ新しい片手棍棒が欲しいなと思っていた。
ネットで調べたところNPCの武器屋には売っていない片手棍棒だったので、わたしは家を出て、プレイヤー間で物品を取引する施設である競売所に向かった。
競売所で目当ての片手棍棒の出品状況を調べてみると出品数0だった。取引履歴を見ると取引頻度が1~2週間に1度ぐらいしか無く、コットンちゃんの購入履歴がまだログに残っていた。
相場はまぁまぁ高価だが、わたしの手持ちのお金で購入できそうだ。
なんで取引頻度が少ないんだろうと気になった私は、別ギルドに所属する友人の木工職人オガミちゃんにチャットで聞いてみた。
「あー、あの片手棍棒ね。実用的には殴りたい治療術士しか欲しがらないから人気が無いんだよねぇ。にもかかわらず、トレントのレアドロップ素材の〝トレントの魔枝〟が必要だから出品価格を高額にせざるを得ないし、回転率が悪いしで木工職人があんまり作りたがらないのよ」
と、教えてくれた。
「じゃーさ、わたしが〝トレントの魔枝〟をゲットできたら作ってもらえる?」
「いいよ。他にも必要な材料があるけど、それは手持ちの素材在庫でまかなえるから。素材原価+破格の手数料で作ってあげるよ」
「わかったー、じゃあゲットできたら作成よろしくねー」
……と、いうわけで、わたしはトレント狩りに行くことにした。
トレントとは、師匠と月見魔草を採取しに行った時、森の中の広間にいた大きな木の魔物だ。
師匠は確か、わたしと2人なら、なんとか勝てるみたいなことを言ってたから、師匠を連れて行くか。
わたしの所属ギルド、ミックスペンギンのギルドチャットを確認すると今は師匠が参加していなかった。
でも平日の夜なら、師匠はログインしている可能性が高い。長い残業で帰宅が深夜になっていなければだけど……。
わたしはメニュー画面から冒険者検索機能を起動して師匠の居場所を探すことにした。
名前のThomasで検索してもいいのだけれど、それだと同名の冒険者が複数出てきてしまうので、わたしはいつも通り師匠のID、JP-0010412で検索した。
思った通り、師匠がログインしていたので現在、彼がいるエリア名が表示された。そして今はパーティーを組んでいるようだ。
念の為、師匠のいるエリアにどの冒険者が滞在しているか検索してみると、コットンちゃんがいたので、どうやら2人でデート中なのだと思った。
わたしと師匠が2人でデート中のときはコットンちゃんは極力連絡を避けてくれる。わたしとコットンちゃんの暗黙の了解でデート中はなるべくお互いに邪魔しないようにしているのだ。
……師匠はきっと、わたしがギルドチャットに参加していないときに、わたしのIDで検索して探したりしないんだろうなー。
ふと、そんなことを思うと胸がきりりと痛んだ。
仕方ない、ここは律に頼んでみるか。
わたしは視線をノートPCからリビングの方へ向ける。
こちらからは見えないが、律がいる気配がしたので、リビングに向かって声をかけた。
「律ー。ねね、今って暇? できたら、ステドラで手伝って欲しいことがあるからログインして欲しいんだけど」
「あれ? 師匠だけだと戦力足りない感じってこと?」
リビングから律の声が返ってきた。
「ううん、師匠は今、無理っぽいから律にお願いしたいの」
「オッケー、もう少ししたらいくわー」
よし、律がログインするまでに準備を進めておこう。
わたしはノートPCのゲーム画面とは別にブラウザを起動してネットで調べ物を始めた。
レアドロップということで、トレントを1体倒したところでゲットできる可能性は低いだろう。
わたしは魔物の生息域の情報を取り扱っているサイトでトレントの居場所の候補を調べてみた。
トレント自体があまり生息数の多い魔物ではないらしい。広大な森のなかで、ちらほらと生息してるようだ。
まぁ、強めの魔物だから、あまり数が多いと冒険者達が森を気軽に歩けなくなるというゲームバランスとしての配慮なのかもしれない。
ほどなくして律がログインしてきたので、森の近くの村で待ち合わせた。
律はゲーム内ではリッツ(Ritz)という名前で、ショートカットで茶髪の人間属の女性だ。
職業は戦士で、多数の武器種を扱うことができ、敵によって有効な武器を持ち替えることで効率よくダメージを与えることができる物理アタッカーである上に、防御力も高い万能な前衛である。
ところで……、リアル男性がゲーム内では女性キャラということで、わたしにはネカマとしか思えない。
律曰く、ゲーム中の多くの時間で見ることになるのは、自キャラの後ろ姿であることから、
「野郎のケツを眺める趣味は無い」
と言っていたので、代わりに女性のケツを眺めたいということらしい。このドスケベめ。
リッツと村で合流できたので、森へ向かう。
まずは、師匠と2人で行った時にトレントと遭遇した森の中の広間へ直行した。
到着すると、トレントが1体いたので早速、狩ることにした。
まず、リッツがトレントに両手斧で攻撃してターゲットをとり、わたしが少し離れた場所から回復魔法をリッツにかける。
トレントは全身を揺らして上から鋭い葉っぱや硬い木の実などをミサイルのように落としてくる強力な範囲攻撃を使ってきたが、わたしは範囲外にいるのでダメージを受けたリッツの回復のみをすれば問題無い。
リッツの両手斧の威力は師匠の片手剣よりもかなり強いが、トレントの物理防御力がそこそこ高く、更にHPがかなり多いため長期戦となった。
リッツが通常攻撃の合間に、高威力の武器スキルも数回使ってやっと倒すことができた。
戦利品をいくつかドロップしたが、全て通常ドロップのトレントの枝だった。やはりトレントの魔枝をゲットするには根気よくトレントを狩る必要がありそうだ。
ただし、リポップ(再出現)までにはかなりの時間がかかる。ここでリポップを待つよりもトレントの次の生息域候補へ向かったほうがいいだろう。
わたしが次のトレント生息域候補へ向けて歩き出したところ、
「勝つには勝ったけど、うーん……、硬いし、HPも多いしで効率よく狩るにはきつい相手だな」
と、リッツが早速、弱音を吐いた。
「そーねー。仕方ない、援軍を呼びますか」
わたしはギルドチャットを確認してみた。
コペル君とアジュール君がパーティーを組んでいないようだ。
わたしはギルドチャットで話しかけた。
「コペルくーん、アジュールくーん、もし暇だったらトレント狩るの手伝ってくれるー? レアドロップの〝トレントの魔枝〟が欲しいのー」
「わかったー、すぐ行くよー」
「僕も行きます」
よしよし、2人共、来れるようだ。
「じゃあ、錬金術師の住んでる村の入口で待ってるよー」
と、わたしは答えた。
「コペル君、村まで僕の移動魔法で送るよ」
「うん、ありがとう」
2人共、おそらくすぐに村まで来てくれるだろう。
村に戻って入口に到着したところで、すぐにコペル君とアジュール君が到着した。
アジュール(Azure)君は小人属のわたしよりは身長が高いけど人間属よりは小柄なドワーフ属で、黒色短髪の男性だ。職業は強力な攻撃魔法を扱う魔術師で、力が強くHPが高めのドワーフ属の特性とアンマッチだが、本人曰く、物理での殴りもできるちょっと丈夫な魔術師というコンセプトらしい。
魔術師がいるパーティーということで、トレントを強力な炎攻撃魔法で燃やす戦術を採ることになった。
4人で森に入ると早速、コペル君が探索士の探知能力で周辺を調べた。
「ボクがトレントがいる場所へ先導するね」
わたしの魔力探知では魔物の位置しか分からないが、コペル君の探知能力は魔物の位置だけでなく種類まで特定できる。
わたしがネットで事前に調べたトレントの生息域とは段違いの精度で居場所を特定できるので、すぐにトレントのいる場所までたどり着くことができた。
早速、リッツがトレントに攻撃を仕掛けてターゲットをとり、トレントの後ろからコペル君が短剣で攻撃を開始した。
わたしとアジュール君は少し離れた場所に位置取りした。
そしてリッツが確認する。
「コペル君、いい?」
「いつでもいいよ」
まず、リッツが炎属性の武器スキルをトレントに使用し、コペル君が更に武器スキルで衝撃を与えて炎を爆発させることで周辺に数秒間、〝炎属性の場〟を発生させた。
そこにアジュール君が少し前から詠唱開始していた高位の炎攻撃魔法がトレントに直撃し、更に〝炎属性の場〟で威力が強化されていたので大ダメージを与え、トレントがあっさり倒れた。
マジックブーストと呼ばれるパーティーでの連携戦術だ。
「やったー! 余裕だねー」
わたしは思わずリッツを叩いて喜んだ。
「ナオ姉、なんで叩くんだよ!」
リッツが不満そうだったが、わたしは、
「ん? じゃー、頭を撫でてあげればいいわけー? 甘えん坊さんねー」
と言うとリッツが何も言えなくなり、コペル君とアジュール君が笑った。
その後もコペル君が次々とトレントの場所へ先導してくれたので、わたし達はマジックブーストでさくさく倒していき、森の奥へと進んでいった。
そして7体目のトレントを倒したところでついに、〝トレントの魔枝〟をゲットすることができた。
レアドロップということで、最低10体以上は狩らないとダメかなと思っていたのだが、運が良かったようだ。
みんなから、おめでとうの祝福をもらって、わたしがありがとー、と言って満足したところで、
「じゃあ移動魔法で村までみんなを送りますね」
とアジュール君が魔法の詠唱を始めた。しかし、
「ちょっと待って!」
とコペル君が言ったのでアジュール君は慌てて詠唱を止めた。
どうやらコペル君は周囲を探知能力で調べているようだが……。
「森の更に奥、滝がある付近に正体不明の魔物がいる。何がいるのか確かめにいかない?」
コペル君が提案したので、みんな賛成した。
そのへんは特に何かがあるわけではなく、強いて言えば滝があるので興味本位で見に行く冒険者が稀にいるぐらいの場所だ。
コペル君の探知能力でも分からないという魔物にわたし達はワクワクしながら、滝のほうへ向かった。
滝の周囲は開けた場所になっていて、青々とした草が生い茂る原っぱになっている。
もうすぐ森を出て原っぱに到着というところでコペル君が足を止めたのでわたし達も止まった。
「見て、あれを」
コペル君が指さした方向へ目を向けるとなんと巨大なドラゴンが滝のあたりにいるのが見えた。
これぞ正統派の西洋のドラゴンというべき美しいフォルムで、雄大な翼を休めて寝転んでいる。
「あれってもしかして、神竜じゃない!?」
アジュール君が驚いて言った。
神竜は8柱存在する。この世界の創造に関わっているという神々だという伝説があり、神竜を信仰する宗教もあるほど偉大な存在だ。
「体が水色だし、応竜じゃないかな?」
リッツが推測した。神竜はそれぞれ異なる属性を持っている。応竜は水属性の神竜である。
「応竜って確か中国の神話発祥なのに、デザインが西洋的すぎるんじゃないかな……。本当に応竜かな?」
コペル君がちょっと冷めたコメントをしたので、わたしが、
「かっこいいんだから、別にいいじゃないのよー。あれは応竜に違いないわよ」
とみんなの夢を壊さないようにした。さすが、わたし。
「もう少し近付いて見てくる。みんなはここで森に隠れて待ってて」
コペル君がそう言ってから応竜のほうへ向かった。コペル君は探索士の能力で魔物から感知されにくいのだ。
そしてすぐに戻ってきた。
「Ouryuって表示されてたから、応竜で間違いなさそうだよ」
コペル君の報告でみんなが興奮した。
「ネットで見たことあるけど、神竜達って単に強いだけじゃなくて、AIが搭載されてて、会話もできるらしいよ。そんなのを発見しちゃうなんてすごいね!」
アジュール君は興味津々だ。
「ねね、戦ってみようよー。遭遇記念にどのぐらい強いか確かめたいよー」
わたしは無謀にも提案してみた。
「戦うのはいいけど、できるだけ戦力を集めたいね。でも、あいにくギルドチャットには今、他に来られそうなメンバーはいないな」
コペル君が困ったように言った。
わたしは、師匠とコットンちゃんを思い浮かべた。
「ちょっと待ってくれるー?」
わたしは師匠ではなく、コットンちゃんのほうにチャットした。
「ねね、この前コットンちゃんと一緒にクエストで行った森の奥で、たった今、応竜を見つけたの。記念に戦ってみたいからコットンちゃんも来てくれると助かるんだけど」
「ありがとうございます! 私も是非、応竜と戦ってみたいです。トーマスさんも連れていきますね」
さすがはコットンちゃん、察しが良い。これで2人戦力確保だ。あとは……ダメ元でオガミちゃんにもチャットを送ってみよう。
「ねね、トレント狩りしてたら、森の奥で応竜を見つけたの。記念に戦ってみるつもりなんだけどオガミちゃんも来るー?」
「えー!? すぐに行く!」
「じゃあ、うちのギルドのコットンちゃんに移動魔法で近くの村までオガミちゃんを運ぶように頼んでおくねー」
「ありがとう。助かるー」
わたしはコペル君達に3人加わることを説明した。
「ありがとう、流石はナオさんだね。じゃあ4人+3人の合計で7人のパーティー同盟になるね。まだ戦力として心もとないけど、お試しで戦うには十分かもしれない」
コペル君が褒めてくれたので、
「ふっふーん。わたしってば顔が広いからねー。どんどん頼ってちょーだい」
と言っておいた。アジュール君は笑っているがリッツは呆れているようだ。
全員が揃うまでにコペル君がどうやって戦うか作戦を練った。
しばらくして、師匠、コットンちゃん、オガミちゃんがわたし達に合流したのでパーティー同盟を組んだ。
オガミちゃんはアジュール君と同じドワーフ属で茶髪ショートカットの女性だ。職業は武器での物理攻撃に暗黒の力を乗せて大ダメージを与える純アタッカーの暗黒騎士で、ドワーフ属の特性とマッチしている。
コペル君が作戦をみんなに話し、師匠がレビューして作戦が固まった。
いよいよ挑戦の時だ。
みんなで応竜のほうへ歩いて近付いた。
応竜は目を閉じて寝転んだままだ。眠っているのだろうか?
「このまま先制攻撃しちゃう?」
とわたしが言ってみたがコペル君は、
「いや、止めておこう。きっとこちらに気付いてるよ」
と言って、コペル君だけが応竜に更に近付いて言った。
「応竜とお見受けしました。我々と勝負していただけますか?」
応竜が目を開けて立ち上がった。立ち上がるとますますデカい。それに威圧感が凄い。
「ほう。不意打ちしてこないのか。いいだろう。もしも我を満足させることができたら褒美を与えよう」
わたし達は素早く陣形を整えた。後ろにいるわたしには応竜の全身が見えるが、前衛達には応竜の下半身しか見えていないのではないだろうか?
リッツが片手斧で攻撃してターゲットをとった。オガミちゃんは両手剣、コペル君は短剣で応竜の後方へ行って攻撃を始めた。
わたしとコットンちゃんは、前方のリッツと後方のオガミちゃん、コペル君にも回復魔法が届くように応竜の横に位置取りをした。
師匠とアジュール君はわたし達回復役とちょっと距離を空けて位置取りをした。魔法で大ダメージを与えた際、応竜からの敵対心が急上昇して師匠達が狙われた時にわたし達が巻き添えになることを防ぐためだ。
リッツは片手斧と盾で防御重視の装備に加えて、戦士の能力で物理防御を強化してガチガチに堅めた状態で応竜の攻撃を受け止めているが、応竜の攻撃力はすさまじく、どんどんリッツのHPが減っていく。
わたしとコットンちゃんとで交代でリッツのHPを回復して、なんとか保たせた。
リッツが高威力の武器スキルで応竜にダメージを与えたところで応竜が防御アップの魔法を詠唱したが、素早く師匠が解除魔法を詠唱して防御アップ魔法を打ち消した。
すると応竜が師匠にターゲットを変更し、師匠に向かってブレスで攻撃した。
師匠とアジュール君が大ダメージを受けた。2人共なんとか耐えたが、アジュール君がもしHPの高いドワーフ属でなかったら戦闘不能になっていたかもしれない。
応竜はターゲットをリッツに戻して更にどんどん攻撃していくので、わたし、コットンちゃん、師匠の3人でパーティーの回復に手一杯となった。
なんとか立て直したところで、オガミちゃんが雷属性の武器スキルを使い、コペル君が更に武器スキルで振動を与えて周辺に拡散させることで数秒間、〝雷属性の場〟を発生させた。
事前に詠唱を開始していたアジュール君の高位の雷攻撃魔法と師匠の雷攻撃魔法が応竜に大ダメージを与えた。しかも応竜をスタン(数秒間身動きできない状態)させている。
応竜は推測通り、雷属性が弱点のようだ。作戦通りに上手くいった。
ただし応竜はHPが膨大で、マジックブースト攻撃を受けても応竜の全体のHPからするとほとんど減らせていない。おそらく勝利するのは無理だろう。
でも、これを継続していけば応竜といい勝負ができるかもしれない。
「ほう。なかなかやるではないか。では、これでどうだ」
応竜が巨大な尻尾をふるい、辺りを轟音に包むと共に衝撃波が発生した。
後方のコペル君とオガミちゃんには尻尾が直撃し、更に横にいたわたし達、後衛陣も衝撃波で大ダメージを受けた。
コペル君はHPが満タンだったのにもかかわらず、今の攻撃で一撃で戦闘不能になった。オガミちゃんも瀕死の状態だ。
応竜は手を緩めずにどんどんリッツを攻撃していく。これはまずい。わたしとコットンちゃんは範囲回復魔法を詠唱した。
パーティー全員のHPを回復し、コペル君以外のメンバーを立て直すことができた。師匠はコペル君に蘇生魔法を詠唱している。
しかし、応竜が今度はわたしとコットンちゃんの方向を向き、ブレス攻撃した。わたしは一撃で戦闘不能になり、コットンちゃんは瀕死状態になった。
応竜は続けてコットンちゃんに攻撃してトドメを刺した。回復役2人が倒れてパーティーは壊滅状態となった。
師匠はコペル君への蘇生魔法を詠唱完了後、すぐに続けてファストキャスト(詠唱短縮)のスキルを使って詠唱の長い蘇生魔法を短縮してわたしにかけた。
その間、リッツは応竜の攻撃を受け続けて手持ちのハイポーションを連続で使って耐えていたが戦闘不能になった。
「そろそろ少しだけ本気を出そう」
応竜がそう言った直後、応竜の体を巨大な水の球体バリアが覆った。
アジュール君が高位の雷攻撃魔法で水の球体バリアを攻撃したが、なんと0ダメージだった。
「おそらく、あのバリアは純水で出来てる! 純水は電気を通さない!」
コペル君が叫んだ。
応竜がアジュール君にターゲットを変えて連続で攻撃し、あっという間にアジュール君は戦闘不能になった。
「それなら、雷属性じゃない高威力の攻撃を打ち込んでいくよ!」
オガミちゃんが暗黒の力をのせて高威力の武器スキルを水のバリアに打ち込むと大ダメージを与えることができたが、応竜はオガミちゃんにターゲットを変えて連続で攻撃した。
リッツほど防御力が高くないオガミちゃんは、師匠とわたしで回復魔法をかけたが追いつかず、10秒ちょっとぐらいで戦闘不能になった。
師匠のMPが蘇生魔法2連発の影響もあってほとんど残っておらず、雷攻撃魔法を打つことが出来ない。いや、そもそも水のバリアで無効化されてしまう。
わたし達は有効な攻撃手段を全て失い絶望に包まれた。
コペル君が必殺技のミラージュステップを使った。
「時間を稼ぐから何か考えて!」
コペル君が応竜の連続攻撃を回避して耐えている。
「コンバート3秒前」
わたしは師匠に回復魔法を詠唱し、直後に師匠はコンバートを使いMPを全回復した。
そしてわたしの回復魔法が師匠の瀕死のHPを回復する。
すぐに師匠は必殺技のクイックキャストを使用して自身を更に回復魔法で全快したあと、ソルトジェネレーターを使った。
水のバリアに大量に生成された塩が混ざっていく。
師匠は雷攻撃魔法を連発して水のバリアを攻撃した。今度は水のバリアに大ダメージが入り、水のバリアのHPがどんどん削れていく。
しかし、しばらくして、師匠の雷攻撃魔法のダメージが0になった。ソルトジェネレーターの効果が切れたようだ。
コペル君のミラージュステップの効果も既に切れ、わたし達は本当に打つ手が無くなった。
ふいに応竜は攻撃を止めて師匠を見た。
「水のバリアに損傷を与えるとは見事だ。なかなか楽しめた。また挑んで来るがいい」
応竜はそう言って、雄大な翼を羽ばたかせて飛び去っていった。
ドロップアイテムが1つ出た。〝応竜の笛〟だ。
アイテムの説明文を見たコペル君が、
「これはボクが貰っておくね」
と言って〝応竜の笛〟をゲットした。
戦闘が終わったので、わたしと師匠で蘇生魔法をみんなにかけてまわった。
「うひゃー、めちゃくちゃ強かったね。でも楽しかったわ」
リッツが満足そうにしている。
「トーマスさん、すごいですね。水のバリアにダメージを与えるなんて」
オガミちゃんがすっかり師匠に感心している。
「咄嗟に、純水でダメなら塩水にすればダメージが入ると思ったんだけど、うまくいってよかったよ」
師匠はオガミちゃんに褒められて照れているようだ。もう、女の子に弱いんだからー。でも……。
「師匠、とってもかっこよかったよー。大好きー」
と思わずわたしは言ってしまった。だってかっこよかったんだもん。
「そうですね、トーマスさん素敵でした」
コットンちゃんまで褒めたのできっと、師匠の〝中の人〟はだらしなくニヤニヤしているに違いない。
「僕は水のバリアにダメージを与える前にやられちゃったので残念です……」
アジュール君ががっかりしているが、コペル君が、
「〝応竜の笛〟を使えば再戦できそうだから、今度はアジュール君のエレガントな魔法を炸裂させるといいよ」
と言ったのでアジュール君は、元気を取り戻したようだ。
わたしはオガミちゃんに〝トレントの魔枝〟とお金を渡して片手棍棒を発注しておいた。
オガミちゃんは完成したらわたしの家に宅配しておくと言ってくれたので楽しみだ。
移動魔法でみんなと村まで戻りパーティーを解散した。
そして、
「じゃ、わたし、そろそろ寝る準備するから。またねー」
とギルドチャットで挨拶してログアウトした。
ノートPCでステドラのアプリを終了したところで、律がわたしの部屋に入ってきた。
いつもはちょっと生意気そうにすました顔をしている律だが、今は少し顔が紅潮している。興奮しているようだ。
「応竜戦、めちゃくちゃ面白かったね。再戦するときは必ず呼んでよ」
「とーぜんでしょ。嫌がっても連れて行くわよ」
「師匠もかっこよかったねぇ。あんな絶体絶命のピンチで突破口を閃いて実行するの凄すぎだろ」
わたしは律を見てぽつりと言った。
「そうだね。リアルではどんな人なんだろ。会ってみたいな」
「じゃあリアルデートに誘ってみたらいいじゃん。ステドラの中でもよくデートしてるじゃん」
「うん……。そうだね。そのうち、タイミングを見てだね。さ、わたしは寝る準備するよー」
わたしは律を部屋から追い払って寝る準備を始めた。




