↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/38

第14話【2日目】崩壊する

 2日目のミッションを全て終えた冬真達は宿泊棟の自室でいったん、休憩した。

 夕方になって、冬真はミッションが終了して運営が後片付け中のプレハブ棟に向かった。

 のんびり歩いていると日差しに陰りが出てきて、ようやく少し涼しくなってきたなと感じる。

 プレハブ棟に到着し、悟さんが予約した会議室に向かう。

 冬真が会議室に入った時は誰もいなかったが、すぐに悟さんと神崎も会議室にやってきた。

 今後の方針を相談するために、悟さんが神崎と冬真を招集したのだった。


「今日もお疲れ様でした。早速ですが今後の方針について認識合わせをしようと思い、集まっていただきました」

 悟さんが切り出した。

「水無瀬さん、今後の方針にもかかわることなのですが、まずは私から前提について確認したいことがあります。よろしいですか?」

 と神崎が言い出したので悟さんがうなずいた。

「我々はお互い利があるからという前提でパーティー同盟を組んだ認識だ。私は山本さんと同行できるという利を説明したが、それとは別に当然、パーティーの戦力強化という点でも利があるからだと考えていた」

「そうですね。神崎さんは合理的な方ですから、自らの感情論だけではなく、打算的な利もあると思っていましたし、私も同じ認識です」

 悟さんが同調した。神崎がうなずき、続けた。

「そこで本題だが、『本ミッションでは参加していないパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する』と注記があるミッションでは、パーティー同盟全員の中からそのミッションに適したメンバーをその都度選出してミッションをこなすというスタイルが最も合理的ということで、我々もパーティー同盟後はそうしてきた」

 神崎はいったん、ここで切って冬真をちらりと見て更に続けた。

「私としてはこのスタイル自体に異論は無いが、一方で単純に能力だけで見れば選出メンバーが私のパーティーメンバーを主とした形に偏《かたよ》ることになるだろう。これに対して、奥村君達のパーティーが今後どういうバリューを示していくかがお互いの利を保てるかどうかのポイントになると考えている」

「そうですね。神崎さん達に頼り切りということではお互い利があることにはなりませんからね」

 悟さんは言って冬真を見た。

「冬真さん、これについて何か意見はありますか?」

「そうですね。神崎さんのおっしゃる通り、神崎さんのパーティーメンバーの実力に頼るほうがミッションを有利に進められるという現実があるのは否定しないですし、それでもいいと思っています」

 神崎は眉をひそめて言った。

「私は今、前提を確認しているだけであって、奥村君達が今すぐ具体的にどう貢献していくかという結論までは求めていない。しかし、今の君の答えだとそもそも、そういうつもりが無いというように聞こえるがどういうことだ?」

 冬真はうつむいたまま答えた。

「我々が何か貢献できそうな時は当然、アクションを起こすし、サポートもしますよ。ただ、基本は神崎さん達を主体にミッションをこなしたほうが優勝できる確率が上がると考えただけです」

「お互い切磋琢磨《せっさたくま》して優勝を目指さないのか? 昨日、実力の差を見せたにもかかわらず、今日、再び挑んできた気概《きがい》に感心していたのだが、私の見込み違いだったか」

 神崎はあからさまにがっかりしたような素振りで続けた。

「気概だけじゃない。ミッションで勝負した時はしっかりと我々に食い下がることのできる実力も示していた。なぜ態度が変わってしまったんだ?」

「我々が余計なことをして神崎さん達の足をひっぱりでもしたら、優勝できる確率が下がるでしょう? 神崎さんも優勝を狙ってるならそのほうがいいと思いますが」

「確かに優勝は狙っている。ただ、それはあくまで目標であり、真に達成するべきことは私や佐藤、織田の成長だと考えている」

 と、ここまで神崎が話して、はっと気付いたように冬真を睨《にら》んだ。

「そうか。優勝に執着するようになったのは褒賞に目が眩《くら》んだのか。情けないな。褒賞はどれも多かれ少なかれ、自らの努力で達成できる可能性のあるものばかりだ。そんなことで態度が変わるとは失望したよ」

 会議室の空気が淀《よど》んでいるような錯覚を覚えた冬真は息苦しさを感じた。

「神崎さんみたいに才能ある人達にとってはそうかもしれないですけど、俺のような凡人には努力だけじゃ達成できないこともあるんですよ。優勝したら自分の人生を変えられるかもしれない。その希望にすがることが情けないと思われるならそれでもいいです。優勝できるなら」

「軽々しく〝才能〟の一言だけで片付けないでくれないか? 当然、相応の努力をしている。苦しく地味なことを少しずつ積み上げて、毎日、自らを鼓舞《こぶ》しながら鍛えてきたんだ!」

「俺だって毎日自分のできる限界以上に必死に! 仕事してるんです! でも、そもそも才能の有無の差はそんなことじゃ埋まらないでしょう!?」

 神崎は興奮した冬真を見て少し冷静になったようだ。

「水無瀬さんから聞いたよ。君は上場企業でプロジェクトリーダーを務めているのだろう? 努力の積み重ね無しでは務められないポジションだ。しかし、単純比較は出来ないものの、おそらく更にそれよりもプレッシャーのかかる日本の最前線で我々は戦っている。責任を果たすために必死の毎日だ。〝才能〟という言葉だけで片付けないで欲しいという私の話も理解して欲しいね」

「それは……。そうなのかもしれない。でも、俺には強者の理屈にしか聞こえないです。今の俺にはこれ以上の何かをやれって言われても出来ないです……」

 神崎は長い溜め息を付いた。

「水無瀬さん、奥村君がこの状態では信頼してお互い利のある関係を築くことが出来そうにありません。こちらから持ちかけておいて申し訳ないですが、パーティー同盟は解消させていただきます」

「承知しました。期待に応えられなくて申し訳なかったですね」

 悟さんが頭を下げて言った。

「山本さんが……なぜ、奥村君を選ぶのか……、私には分からないよ」

 神崎は悟さんに会釈《えしゃく》して会議室から出て行った。

「悟さん、申し訳ありませんでした」

「いえ、私に謝る必要はありません。冬真さんが決めたことですから。ただ、神崎さんと袂《たもと》を分かった件は冬真さんから皆さんに説明してもらえますか?」

「はい……」

「では皆さんを呼びますね」

 悟さんはアプリのチャットでパーティーメンバーに連絡した。




 悟さんからの連絡を受けて、奈緒子達はプレハブ棟の会議室へ向かった。

 日が沈み始めていて、昼間の暑さはすっかり無くなり逆に涼しくなり始めていた。

 さっき、冬真さんから感じた嫌な予感が当たらなければいいけど。

 奈緒子が会議室に入ると悟さんと冬真さんが座っていた。

 冬真さんからの波動が弱々しい。間違いなく、何かがあったようだ。

 全員が揃ったところで悟さんが話し始めた。

「さきほど神崎さんと今後について話をしていたのですが、折り合いがつかず、パーティー同盟を解消することとなりました。冬真さんから説明していただきますね」

 と言って悟さんが冬真さんを見た。

「悟さんが今、言った通り神崎さん達とパーティー同盟を解消することになりました。原因は俺の力不足です。申し訳ない」

 冬真さんがみんなに頭を下げた。

「別に謝らなくてもええで。それなりの理由があったんやろ? 説明さえしてくれればそれでみんな納得してくれると思うで。ウチは冬真さんを信頼してるし」

 玲央奈ちゃんが優しく言った。

 冬真さんは、前提としてパーティー同盟に冬真達がどのように貢献するかを神崎さんから求められ、神崎さん達に頼るつもりだという意志表示をしたことで決裂に至ったと説明してくれた。

「話は理解したで。パーティー同盟の解消自体についてはウチはそれが冬真さんの意志なら問題ないと思ってる。でも、神崎さん達に頼りきりになるのは違うやろ。昨日、設定した強者に勝てるパーティーになるっていうビジョンはどこへいったん?」

「でも、冬真さんは第10チェックポイントで玲央奈ちゃん達を待っている間に、問題意識を持って、その上でどうやって役に立つか、がんばって考えようとしていました。決して頼りきりになるつもりじゃなかったと思います」

 奈緒子は冬真さんをかばった。

「そうだったんや……。ウチが勝手に勘違いしてたようやね。ごめんなさい」

 玲央奈ちゃんが冬真さんに謝った。

「いや……、玲央奈ちゃんが謝る必要はないよ。俺の態度が変わったのが原因なんだ。ビジョンの達成よりも優勝する確率を上げたいって思ったから神崎さんが失望したのは事実だよ」

「うん、分かった。でも理由があるんやろ? それを教えて欲しい。何か困ってる事とかがあるんなら相談して欲しい」

 玲央奈ちゃんが今度は慎重になって冬真さんに聞いた。

「どんな手を使っても、優勝したい。少しでも優勝する確率を上げたい。そう思ったのが本音だ」

 冬真さんがうつむいて、とても苦しそうに話した。

「褒賞がそんなに魅力的なんや?」

 玲央奈ちゃんは全く納得していないようだ。悲しみでいっぱいの波動が出ている。

「そうだよ。もしかしたら自分の人生を生きられるようになるかもしれない。その望みができた。だからそれにすがりたい。そのことで頭がいっぱいになった」

 蒼大君が手を上げた。

「あの、深刻な雰囲気なのにすいません。僕は神崎さん達が離脱したのは正直残念だと思いますが、このパーティーはいい雰囲気でよくまとまっているし、誘ってくれてとても感謝しています。この話はこのへんにしておいて、明日からみんなでがんばっていくために前向きな話をしませんか?」

 蒼大君がなんとか場を収めようとしている。蒼大君はかなり動揺した波動を出している。みんな、心穏やかな状態ではない。非常にまずい。

「前向きな話をする前に、ビジョンは昨日決めた通りでええかどうかは確認したいです。みんながまとまるためには重要なことやと思います」

 玲央奈ちゃんが自分を落ち着かせようと努めて冷静に話した。まだ高校生なのに立派だと奈緒子は思った。

「今日、神崎さん達と再戦して……。そして午後、一緒に行動して思い知ったよ。強者に勝つなんて無謀だって。俺にはとても無理だ」

 冬真さんがうなだれている。とても弱々しい波動なので奈緒子は心配になった。

「優勝するためには強者に勝たないとあかんやろ!? 冬真さんにとっても必要なことやろ!?」

 玲央奈ちゃんが今にも泣きそうな顔で冬真さんに訴えた。

「玲央奈ちゃんには才能があるから……だからそう言えるんだと思う。俺みたいな凡人には出来ない」

「冬真さんと一緒にパーティー組んで、冬真さんのこと、頼りになるし凄いってずっと思ってたんやで! ウチは冬真さんが神崎さんに敵《かな》わないなんて思えない!」

「もう……、限界なんだ。勘弁してくれ」

「……。冬真さん、今日は疲れてるやろうから……、だから一晩ゆっくり休んで……それでもう1回話したい。ダメ?」

 玲央奈ちゃんの波動が今にも悲しみの重圧に押しつぶされそうになっている。

「もう話すことはない。俺に期待しないでくれ」

「冬真さんが考えてること、ちゃんと知りたい……。教えて欲しいんや」

「子供には分からないことなんだよ!」

「!!!!! うっ……」

 バンッ!扉が大きく音を立てて乱暴に開いた。

 玲央奈ちゃんが会議室を走って出ていった。奈緒子は慌てて追いかけた。


 奈緒子が追っていくと、玲央奈ちゃんが別の会議室に入って行った。

 奈緒子が入ると、玲央奈ちゃんが椅子に座り、机に突《つ》っ伏《ぷ》していた。泣いている……。

 奈緒子は玲央奈ちゃんの隣の椅子に座り、そっと背中を撫《な》でた。

「玲央奈ちゃんは悪くないよ。冬真さん、あんな言い方は無いって私は思った。でも、今はお互い興奮してるし、今晩ゆっくり休んで明日、仲直りしましょう。私からも冬真さんにちゃんと頼れるリーダーとしての責任を果たすように言うから」

 玲央奈ちゃんは首を横に振った。

「違うんや……」

「え……?」

「冬真さんが悩んでるのに……。ウチ……、ウチが子供やから、力になれない! 無駄だと思われて話してもらえない! それがすごく悔しい!!」

 玲央奈ちゃんが奈緒子に抱きついてきた。

「早く大人になりたいよぉ……。うっ……」

 奈緒子は衝撃を受けて愕然《がくぜん》となった。

 私は……冬真さんに頼ることばかり考えていた……しっかりしてもらわなきゃって。私は大人なのに……。冬真さんが弱っている時に力にならなきゃって思えなかった……。

 奈緒子は体中から力が抜けた気がした。玲央奈ちゃんをなんとか抱きしめておくのが精一杯だった。




 冬真はプレハブ棟から宿泊棟に向かった。日が暮れて辺りはすっかり暗くなっている。頼りない足取りでなんとか自室に帰ってきた。

 しばらくしてスマホに通知が来た。

 玲央奈ちゃん、悟さん、奈緒さん、蒼大君がパーティーから離脱したという通知だった。

 呆然として冬真はそれを眺《なが》めたが何もする気力が起きず、ベッドに倒れ込んだ。

 そのままベッドで寝ていたが……なぎささんの顔が思い浮かんだ。

 スマホでなぎささんに通話してみた。

「もしもーし。どうしたのー?」

 いつも通りの調子でなぎささんが応じた。

「なぎささんも俺のことは気にせず、みんなと一緒に離脱しなよ」

「なーんだ、そんなことか。わたしはダーリンを最後まで見守るから、離脱しないよ」

 はっきりと言った。

「俺と一緒にいてもなんの得も無いと思うよ」

「いーじゃない。そんなのわたしの勝手でしょー。他に用事あるー?」

「いや……無い」

「じゃあ切るねー、わたし、これでも忙しいのよ」

 と言われてしまい、すぐに通話を切られてしまった。

 正直、すごく嬉しいと思う自分の気持ちに気付いた。

 なぎささんに救われている。感謝してもしきれない。

 明日以降、なんとかなぎささんの為にあと、もう少しだけがんばろう。

 冬真は少しだけ力が戻ってきたのを感じ、ベッドから起き上がりシャワーを浴びることにした。




 宿泊棟に戻った悟はシャワーを浴びた後、ベッドに座りスマホのチャットアプリでなぎささんに連絡した。

 ほどなくして、なぎささんの方から通話のコールがきたので悟が応答した。

「お疲れ様です。冬真さんの様子はどうでしたか?」

「うーん、たぶん大分参ってると思いますけど、わたしが最後まで見守るからって言ったら喜んでたので、多分大丈夫かとー」

「それなら良かったです。安心しました」

「いえいえー。お安い御用です」

「明日の朝の件ですが、玲央奈達との調整はどうなりましたか?」

「ばっちりですー。明日、ミッション内容を確認してから細かい調整に入りますよ」

「ありがとうございます。奈緒さんと蒼大君はどんな様子ですか?」

「奈緒さんはかなりへこんでたけど芯が強い人だから大丈夫だと思います。蒼大君は奈緒さんと玲央奈ちゃんが一緒ならおっけーって感じだと思いますよー」

「ははは。そちらのほうも問題無いようですね。流石はなぎささんです」

「いえいえー。任せてください」

「……大変な役割を担ってもらうことになってしまって申し訳ないと思っている。本当にありがとう」

「いえ……、いいんです……。これは贖罪《しょくざい》なので」

 玲央奈が数ヶ月前に心配していた違和感……、やはり何かあったのか。

「……分かった。今は何も聞かないことにしておくよ」

 悟は優しく言った。

「でも正直言うと、明日、うまくやれるかどうか心配でいっぱいですよー。悟さんがフォローしてくれることをアテにしてますよー」

「なぎささんのように若い人達は今日できなかったことが明日できるようになる、常に成長している。おそらく、私のような年寄りが手を貸さなくてもきっと乗り越えられるさ」

「悟さんもまだまだ十分お若いですよー」

「私のような年寄りは、昨日できたことが今日できなくなっていて愕然《がくぜん》とするという、ありがたくない日々の連続だよ。これが老化というやつなのだと実感する」

「……縁の下を支えながらわたし達を見守ってくれていつも感謝してますよ」

「ふふ、老害と言われない程度にがんばるよ。ところで、昨日、お願いしていた件はどうなっているかな?」

「バトルロイヤルに向けて、パーティー同盟は組まないけど協力関係を約束しておくチーミングの調査のことですよね? コミュニケーションアプリで他のパーティーの動向をチェックしてますが、今のところは無いですねー。今は明日の足切りラインを超えることでみんな頭がいっぱいみたいだから、動きがあるとしても明日の夜あたりじゃないですかねー?」

「ふむ。そうか……。いっそのこと運営がチーミングを禁止しなければ表でのコミュニケーションがあるだろうから手を打つことも可能だが、もしも禁止になると裏に潜られてしまうからやっかいだな」

「禁止になりますかねー? そもそも禁止にするなら予《あらかじ》め禁止にしとくんじゃないですかねー?」

「禁止されていない今の内に強者パーティーはチーミングの段取りをつけておくだろう。そして運営が後出しで禁止にすれば、先に動いていたパーティーが有利になる。運営側でそうした強者のパーティーを優遇する意図があるのかもしれない」

「なるほどー。強者はもう動いてるってわけですねー」

「そうだ。神崎さん達が我々とパーティー同盟を組んだのもバトルロイヤルを見据《みす》えた〝表〟の戦力強化の一環だろう。おそらく〝裏〟のチーミングについても何かしらの対策に動いてるはずだ。特に強者は集中攻撃の標的になりやすいからね」

「なるほどー、強者は常に先を見据えて手を打ってるんですねー。わたし達もチーミングしちゃいます?」

「いや、今の我々は崩壊状態だから、まずはこれに全力を傾けて対応すべきだ。それに……雰囲気にマッチするかどうかという視点もある」

「雰囲気……ですか?」

「うん、我々のパーティーの雰囲気は奈緒さんを中心として醸成《じょうせい》されていると思う。〝裏〟であれこれやるのはパーティーの雰囲気にそぐわないだろう。特に運営がチーミングを禁止した場合はね」

「確かにそんな気がしますねー。じゃあ、昨日から玲央奈ちゃんと相談しながら進めていた例の件を、明日なるべく早めに実現できるように進めておきますねー。こちらは〝表〟なので問題無いかとー」

「うん。よろしく頼むよ」

「悟さんってすごいですねー。パーティーがこんな状態なのに、なんとかなりそうって思えちゃいます」

「別にすごくは無いよ。冬真さん達はミッションクリアで精一杯だからね。こういうことはマネージャーならできて当たり前のことだから」

「そうですかー。あ、もうこんな時間。そろそろ寝る準備をしなきゃなんで、ここで通話切ってよろしいですかー? 何かあればチャット入れておいてもらえれば」

「うん、遅くまですまなかったね。おやすみ」

「おやすみなさいー」

 悟は通話を切った。


 悟はベッドに寝転がって、冬真さんのことを考えた。

 上場企業に就職した冬真さん、氷河期世代で就職に失敗した悟。

 一見、冬真さんは恵まれているように見えるが、自分の人生を生きられないという激痛はどの世代でも共通なのだ。

 悟は手帳を手に取って開いた。

 悟、佐伯さん、ペーパータワーの運営スタッフ、そして藤堂のIDをメモしてある。

 玲央奈達、通常の参加者のIDの最初の2文字はJP、悟と運営スタッフ達、それに藤堂はOTである。

 OTとはおそらくOtherのことを指しているのではないだろうか。

 悟は何らかのイレギュラーでトリニティミッション2週間前に急に招待されたのでOTのIDが割り振られているのではないか。

 そして藤堂のIDは〝OT-1000001〟でトップナンバーだ。藤堂がこのイベントの首脳の立ち位置なのではないだろうか。

 褒賞の設定に藤堂が関与している可能性がある。冬真さんのような若者達に、ともすれば劇薬となるような褒賞を仄《ほの》めかして何を狙っている?

 藤堂はなぜ、運営スタッフ証ではなく、参加証を身に付けていた? 自らこのイベントをテストプレイする為か?

 いずれも憶測に過ぎないが、機会があれば藤堂と直接話をしたいものだ。

 その前にまずは……、明日を乗り切らなければならない。

 悟はスマホを机の上で充電し、ベッドに入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。