第13話【2日目】劇薬を与える
奈緒子達が第8チェックポイント会場の体育館の中に入ると蒸し暑い空気がむわっと漂っていた。
出入り口や窓が開けられて換気はされているが、午後の強い日差しによる暑さを軽減できるほどではない。
昼食後に食堂自販機で各自ドリンクを購入してきたがすぐに無くなってしまいそうだ。
みんなで卓球台がたくさん設置されているエリアに向かった。
冬真さんが第8チェックポイントの受付を済ませてきたので、奈緒子はミッション内容を確認してみた。
<第8チェックポイント【体力】>
・卓球
※基本ルールは別項を参照すること。
・任意の対戦相手と試合すること。
3戦行う。
<獲得スコア(1戦毎):勝利時40、敗北時20>
※なお、本ミッションでは試合に参加していないパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・試合は11点制で1ゲームとする。
・3戦の内、最初の2戦はシングルス、最後の1戦はダブルスとする。
・パーティー人数が4人以上の場合、同じメンバーが複数の試合に出ることはできない。
・パーティー人数が3人以下の場合、同じメンバーが重複して試合に出ることができる。
ただし、全メンバーが最低1試合出なければならない。
「まずは出場メンバー4人を決めましょうか」
冬真さんが神崎さんを見た。
「そちらのパーティーで特に突出した適任者がいないなら、シングルス2試合は織田と佐藤に任せてもらえるだろうか? ダブルスは私が出ることもできるが、おそらく運動不足の社会人相手なら有利を取れるぐらいの腕前だ」
神崎さんは自信満々だ。神崎さんパーティーは文武両道なんだなぁ、と奈緒子は改めて感心した。
冬真さんがうなずいた。
「ではシングルス2戦はお任せします。ダブルスはどうするかな……」
「ウチと蒼大さんがいくわ。ウチらのコンビネーションを見せつけてやるで」
玲央奈ちゃんがやる気満々のようだ。
「え……。玲央奈ちゃんとのコンビネーションなんて初めてだけど……」
蒼大君が戸惑っている。
「蒼大さんって球技全般得意やろ?」
「うーん、どちらかというと蹴るほうが……。でも卓球もまぁまぁできると思うよ」
「なら大丈夫や」
「玲央奈ちゃんがそう言うならがんばってみるよ」
蒼大君もやる気になったようだ。良かった。
「じゃあダブルスは玲央奈ちゃんと蒼大君に任せるということで」
と、冬真さんが言い、神崎さんがうなずいた。
「シングルスの2試合なんですが、佐藤先輩と先にどちらが試合するかは自分の判断に任せてもらえますか?」
織田さんの提案に冬真さんがうなずいた。
こちらの出場メンバーが決まったところで、なぎささんが対戦相手を連れてきた。流石の手際の良さだ。
お互いに挨拶して卓球台に移動する。
奈緒子が対戦相手チームのステータスを確認したが、幸い、体力+以上は1人もいないようだ。
織田さんが、
「相手チームに1人、手強そうな男性がいます。彼の相手は自分がします」
と言うので神崎さんが、
「織田は相手の体つきと歩き方を見れば、だいたいの運動能力を推定することができる。ここは織田の言う通りにしたほうがいいだろう」
と補足した。
すごい……。やっぱり+が付いてる人達は奈緒子とは異次元の存在のようだ。
1戦目。対戦相手チームの男性が出てきた。佐藤さんが相手をすることになった。
すぐに試合が開始された。
佐藤さんのサーブで始まり、打ち合いになった。
すぐに佐藤さんが相手を押す形になり、先制点を奪取した。
奈緒子の目には佐藤さんの鋭くて速い球が相手陣地に突き刺さっているように見えた。
神崎さんがなぎささんに解説する。
「佐藤はドライブ型といって、ボールにトップスピンをかけて戦う攻撃型のスタイルだ」
「へー。神崎さんのご説明は端的で分かりやすいですねー。勉強になります」
神崎さんは好意の波動で溢れている。なぎささんの〝接待〟が絶好調のようで流石だなと奈緒子は思った。
佐藤さんはそのまま相手を圧倒し続け、途中ミスはあったものの11-2のスコアで余裕の勝利だった。
強い……佐藤さんでこのレベルなら、織田さんはどうなっちゃうんだろう、と奈緒子は想像もつかなかった。
2戦目。織田さんが警戒していた男性が出てきたので、織田さんが相手をすることになった。
相手の男性サーブで試合が開始され、すぐに激しい打ち合いになった。
2人共、さきほどの佐藤さんのようなドライブ型のように奈緒子には見えた。
そして、先取点は相手に取られてしまった。かなり手強いようだ。
神崎さんがなぎささんに解説する。
「相手はかなりやるようだ。このままだとおそらく互角の戦いになり勝率が落ちる。織田はスタイルを変えて対応するだろう」
「織田さんは複数のスタイルを使い分けられるんですねー。すごいなー」
織田さんが後ろに下がって位置取りするようになり、奈緒子には返球を重視したような感じに見える。
ラリーが長めに続き、ミスでどちらかに得点が入る感じになってきた。スコアは拮抗していて3-3となった。
「織田は守備型のプレースタイルに切り替えてラリーを長くして相手のメンタルを削る戦略のようだ。どこかでチャンスがあれば相手を一気に突き崩す一手を指すつもりだろう」
「単純にぶつかりあうんじゃなくて、考えながら戦いを進めてるんですねー」
奈緒子は両者をじっと見た。相手は疲れがでてきたのか、少し集中力が揺らいできている感じがするが、織田さんの波動からは一切の動揺が感じられず、安定している。
この状況を打破しようとしたのか、不意に相手がフェントで短いボールを返してきたが、織田さんはそれを読んでいたように前に出てきてバックハンドで打ち返した。
ボールが鋭く曲がり相手陣地に返っていったが、虚を突かれたようで相手は動けずに驚愕の表情を浮かべている。
「あれは相手から返ってきた浅いボールに回転を加えて打ち返すチキータというテクニックだ。長いラリーにしびれを切らしてフェイントをかけてくるのを、織田が完全に読んでいたな」
「なるほどー。これで相手はフェイントをチキータで返されて打つ手が無くなるから追い詰められちゃうってことですねー」
またラリーが続くが、織田さんはミスをせずに安定して対応しており、点差が少し開いて7-5とリードした。
そして相手が再度、フェイントで短いボールを返したが織田さんが余裕をもってチキータで返球し、8-5となったところで織田さんが前に位置取りを戻した。
相手の波動がかなり揺らいでいる。完全にリズムを崩されているように見えた。
「これでとどめを刺して終わりだろう」
「完全に織田さんが試合を支配してますねー」
織田さんはドライブ型に戻して相手と激しい打ち合いになったが、相手のミスが増えて織田さんが有利になり、11-6で勝利した。
「やれやれ、めちゃくちゃ手強かったっす……」
流石の織田さんにも疲労が見える。
「お疲れ様でした。もしかして会社で卓球部に所属してるんでしょうか? すごく上手かったですね」
奈緒子が感嘆の声で労った。
「いえ、自分は卓球部じゃないっす。ガチで卓球やってる人には全然敵わないっす。以前、卓球部の人と遊びで試合したことがあったんですが、ボコボコにやられましたから」
織田さんは謙遜したが、奈緒子には想像できないような更に高度な次元の世界があるのだと実感した。
3戦目。玲央奈ちゃんと蒼大君の出番がやってきた。
「既に勝ち越しは決まったから気楽にいくで」
玲央奈ちゃんが蒼大君の緊張をほぐそうとしていた。
「うん、さっき打ち合わせた通りでがんばるよ」
相手は女性2人のようだ。蒼大君が男性なのでこちらのほうが有利かな、と奈緒子は思った。
そして試合が始まった。ダブルスは2人で交互に打つ必要がある。
玲央奈ちゃんと蒼大君は時計回りに円を描くような感じで動いてスムーズに交代していた。
相手側もさきほどまでの男性2人には及ばないものの、そこそこ上手いのではないかと奈緒子は感じた。
しかし、玲央奈ちゃんが相手の位置を見て取りにくそうなコースに返球し、相手がなんとか返してきたところを蒼大君が強く打ち返すコンビネーションはなかなか強力で点差がみるみる開き、リードを奪った。
気付けば11-5であっさり勝利した。
これにて3連勝でミッションクリアとなった。
佐藤さん、織田さん、玲央奈ちゃん、蒼大君の4人が少し疲れていたので水分補給を兼ねて、体育館の端へ行って少し休憩することにした。
やはり神崎さんのパーティーは圧倒的に強い。
今まで奈緒子達が各ミッションをなんとか工夫してクリアしてきたのが嘘のように、余裕を持ってクリアできてしまう。
「もしかしたら5日目まで残って上位に食い込むことも視野に入ってきたかもしれませんね」
つい、奈緒子が少し興奮気味に言ってしまったところで、神崎さんが、
「当然だ。優勝を狙うぞ」
と宣言した。
玲央奈ちゃんが優勝という言葉に反応したようだ。
「そういえば優勝したら褒賞がもらえるってことみたいやけど、褒賞ってなんやろな?」
「一般的に政府が出す褒賞と言えば、国として表彰する際に授与する各種の褒章だが、今回は何の情報も無いから分からないな。ただ、賞金であればそう表現するはずだから何らかの特典のようなものかもしれない」
と神崎さんが予想した。
「いつ、褒賞を発表するんだろうねー?」
なぎささんが首をかしげた。
「分からない。何か狙いがあって最初から発表せずに後で明かす形にしているんだろうが……」
神崎さんも予想がつかないようだ。
水分補給でみんなが落ち着いたので、本日最後のミッションにとりかかることになった。
体育館は第10チェックポイントの会場も兼ねている。
卓球台エリアから離れた場所に折りたたみ机と椅子がたくさん設置してあるエリアがあり、第10チェックポイントの看板があった。
冬真さんが第10チェックポイントの受付を済ませたので奈緒子はミッション内容を確認した。
<第10チェックポイント【知力】>
・ナンバープレイス
※基本ルールは別項を参照すること。
・出題された9×9マスの内、空いてるマス全ての数字を参加メンバー全員が正解した際、下記のスコアを獲得する。
<獲得スコア:初級クリア時80>
・なお、追加で下記ボーナスミッションを達成するとスコアが更に増加する。
①参加メンバー全員が中級クリア時<ボーナススコア+20>
②参加メンバー全員が上級クリア時<ボーナススコア+20>。
※なお、本ミッションでは参加していないパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・パーティーメンバー全員が参加すること。参加者は1~4名とする。
5名以上の同盟を組んでいる場合、強制的に上限の4名参加とする。
・制限時間は1時間とする。
・初級→中級→上級の順番に解くこと。
・各メンバーへの出題内容は別々の内容とする。原則、相談はせずに1人で解くこと。不明点は運営スタッフに質問すること。
「ナンバープレイスはやったこと無いな。基本ルールを見た感じ、ノノグラムみたいになんとか対応できそうな気はするけど……」
冬真さんが自信が無さそうにつぶやいた。
「4名の内、私、佐藤、玲央奈ちゃんの3名は確定だろう。他にナンバープレイス経験者がいないか確認しよう」
と神崎さんが言ったので織田さんが手を上げた。
「ナンバープレイスやったことあるっす」
「他にいないなら、4人目は織田にしよう。問題無いだろうか?」
……他に経験者はいないようなので、4人目は織田さんに決まった。
奈緒子達は体育館の端へ移動して彼らがミッションクリアするのを待つことにした。
「なんだか神崎さん達に寄生してるみたいになってしまったな……」
冬真さんがぼやいた。
「ま、わたしが神崎さんのやる気を出してあげてるんだから、感謝してよねー」
なぎささんがニヤニヤして言ったが、すぐに冬真さんに寄っていき、そして、
「わたしが神崎さんと仲良くお話してたから、ダーリンってばジェラシー感じちゃった?」
とちょっと心配そうに言った。
「え……。いや、そんなことないよ。ありがとう。助かってるよ」
冬真さんは少し元気が無さそうだが波動は安定している。きっとなぎささんを信頼しているのだろう。ジェラシーは感じてなさそうだ。
「へー。素直じゃん。ま、いいことだけどー」
なぎささんは嬉しそうだ。良かった。
私もなぎささんに負けないように、もっと冬真さんと仲良くならないとな、と奈緒子は思ったので、
「でも、冬真さんもとてもがんばってみんなを引っ張ってきたと思います。神崎さんが認めるぐらいすごいことだと思います」
と励ましてみた。
「ありがとう、奈緒さん」
冬真さんから好意の波動が出た。嬉しいな。
「それにしても、神崎さんパーティーって知力も体力もどっちも兼ね備えていて、改めてすごすぎますよね……。僕もまぁまぁ今まで両方こなしてきたつもりだけどレベルの違いを感じました」
蒼大君が感心している。奈緒子もうなずいた。
「俺達にもきっとできることがあるはずだ。具体的にすぐこれっていうものは思いつかないけど、諦めずにがんばっていこう」
と冬真さんが言ってくれたのでやっぱり素敵な人だなと奈緒子は思った。
しばらく雑談していると神崎さん達がこちらにやってきた。どうやら終わったようだ。
「全員、上級までクリアできたからスコア120獲得だ」
「お疲れ様でしたー。当然なのかもしれないけど、キッチリやり遂げるところが素敵ですねー」
なぎささんが褒めると、神崎さんは一見無表情だが好意の波動で溢れていた。完全になぎささんに夢中になっているようだ。
悟さんが、
「いったん、宿泊棟に戻って一休みしよう。神崎さんと冬真さんとは今後の方針を話し合いたいから、後でプレハブ棟の会議室へ来て欲しい」
と提案したので神崎さんと冬真さんが分かりました、とうなずいた。
みんなで体育館を出た。もうじき夕方といった時間だが西日が強く暑い。
ミッションが早めに終わったから宿泊棟で一休みできるのはありがたいな、と奈緒子は思った。
宿泊棟へみんなで移動中に、少し離れた場所からこちらをじっと見ている50代ぐらいの男性に奈緒子は気が付いた。
西日が男性を強く照らし、地面に深く黒い影を描いている。
目線の先をよく見ると彼は悟さんを見ているようだ。悟さんと同じく、頼もしく安定した波動だ。おそらくただ者ではない。
玲央奈ちゃんも気付いたようだ。玲央奈ちゃんがその男性の元へ歩いて向かった。
なぎささんも気付いたようで、
「ちょっと、ダーリン、玲央奈ちゃんに付いていってあげてよー」
と背中を押したので、冬真さんも玲央奈ちゃんの後を追った。
「父に何か御用ですか?」
玲央奈ちゃんは単刀直入に話しかけた。
「今の時点では……、特に用は無い」
と男性が返したところで冬真さんが玲央奈ちゃんの横に立った。
男性が冬真さんをじっと見た。
「もうじき、優勝した時の褒賞が発表される。君のような若者達がどう思うのか楽しみにしているよ」
と、言って男性が立ち去ろうとしたところで、いつの間にかそばまで来ていたなぎささんが、
「失礼します」
と言って、男性の参加証のQRコードをスマホで読み取った。
男性は少しひるんだが、苦笑しながら足早に去っていった。
「情報ゲットしてきたよー」
なぎささんが意気揚々と引き上げてきたが、冬真さんが呆れている。
「無断でQRコード読み取るの止めたほうがいいよ」
「いーじゃない? あっちのほうが先に悟さんを見てたんだから。何者か知る権利があるでしょーよ」
これには神崎さんも苦笑しているが、なぎささんは意に介していないようだ。
「お父さん、知ってる人なん?」
「いや、分からないな……」
悟さんは心当たりが無いようだが……。
なぎささんが自分のスマホをみんなに見せてくれた。
男性の名前は、藤堂誠一郎というらしい。クラスはM5(男性・50代)で国家公務員、知力++だ。
「中学時代の同級生だな。すっかり風貌が変わっていて分からなかったが、面影は残っているようだ」
悟さんが思い出したらしい。
「知力++なら、我々が優勝を狙うにあたって警戒すべき相手のようだ」
神崎さんが気を引き締めている。
悟さんがなぎささんのスマホを見て何か考え込んでいたが、手帳に情報を写し始めた。
「うーん、お父さんの顔を懐かしがって見てたんかな。お父さん、若い頃の面影残しまくりやろうし」
玲央奈ちゃんが感想を言ったところで、そうかもしれないなという感じでみんなで笑った。
不意にみんなのスマホに通知が来た。どうやら運営からの連絡のようだ。
奈緒子は早速確認してみた。
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優勝時の褒賞について。
優勝したパーティーに所属するメンバー及び同盟メンバー全員に、下記褒賞から各自希望するもの1つを授与する。
・政府より受賞者へ賞金100万円(無税)を支給する。
・政府要請により受賞者が所属企業において任意の1か月間、特別有給休暇を取得できる。
・政府要請により受賞者の所属企業における社内人事評価を1段階向上する。
・政府推薦で受賞者が任意の上場企業の最終面接を受験できる。当該企業は誠意をもって前向きに採用を検討する。(採用を保証するものではない)
・政府推薦で受賞者が任意の国立大学の面接を受験できる(筆記試験免除)。 当該大学は誠意をもって前向きに入学を検討する。(入学を保証するものではない)
・政府努力により受賞者が任意の著名人(日本国籍、国内在住)と面会できる。(面会を保証するものではない)
以上
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うーん、この中だとどれがいいかなぁ。長期の旅行に行けそうな特別有給休暇かなぁ。
奈緒子がぼんやり考えていると……。
冬真さんが深刻な表情になり、波動が激しく動揺していることを示している。
奈緒子は視界が急に狭まったように思えた。冬真さんをじっと見つめていると、とてつもなく嫌な予感がした。




