第11話【2日目】強者に再び挑む
冬真達がプレハブ棟のロビーに行くと神崎さん他2名の計3名が椅子に座って待っていた。
ロビーはミッション受付をする参加者達でそれなりに混雑していたが、冬真はこの3名から強い存在感を感じたのですぐに分かった。
「山本さん、勝負を受けてくれてありがとう」
神崎さんが立ち上がり、なぎささんに話しかけてきた。
「いえいえー。ところで、わたし達が勝った時の約束、忘れないでくださいねー」
「もちろんだ。そう簡単に負けるつもりはないがね」
神崎さんは自信を持って答えた。
冬真達が現時点で神崎さん達に勝利するのは難しいだろう。
でも強者との対戦経験を積んでおくことはビジョン達成に不可欠だろう。ここは腹をくくってベストを尽くしてぶつかるしかない。
「神崎さん、よろしくお願いします。我々も簡単には負けないつもりです」
冬真がなぎささんの隣に並んで言った。
「山本さんから聞いているよ。君がダーリンだね。山本さんに相応しい相手なのかどうか、見定めさせてもらうよ」
なんであんたが〝相応しい相手なのかどうか〟を勝手に判断するんだよ。ずいぶん偉そうだな。っていうか、勝手にダーリンにされているぞ。
冬真はなぎささんを見たが、彼女は涼しい顔をしている。
「はい。わたしのダーリンはきっと期待に応えてくれると思いますよー」
なぎささんは笑顔で返すが、冬真は勝手にハードルを上げないで欲しいんだが……と思った。
ロビーで第6チェックポイントの受付を済ませて、会場の会議室へみんなで向かった。
指定された会議室に入ると、昨日のテキサスホールデムポーカーの時にディーラーを務めてくれた佐伯さんが待っていた。
会議室内は中央に折りたたみ机2つがぴったり合わせて設置され、対面する形で椅子が置いてある。
みんなで着席したところで、佐伯さんが説明を開始した。
「このミッションを開始する前に、私の方から流れを説明させていただきます。みなさん、第6チェックポイントの基本ルールを参照しながら聞いてください」
<第6チェックポイント【運】>
・対戦型お題当てゲーム(NGワード付き)
※基本ルールは別項を参照すること。
・任意の対戦相手と試合すること。3戦行う。
・運営が用意したお題に対し、自パーティーの説明役がNGワードを回避して説明し、自パーティーの回答役がお題を正解すれば勝利。不正解なら相手パーティー側の勝利。
もしくは相手パーティーが説明役の使用したNGワードを指摘できれば相手パーティー側の勝利。
<獲得スコア(1戦毎):勝利時40、敗北時20>
※なお、本ミッションでは試合に参加していないパーティーメンバー、及びパーティー同盟メンバーにもスコアを加算する。
以下、基本ルールには記載の無い事項を補足する。
・説明役は1名とする。
・回答役は1名から最大3名までを選ぶことができる。
佐伯さんが続けて説明する。
「お題を当てるパーティーAとNGワードで妨害するパーティーBに分かれて対戦します」
ここで佐伯さんが神崎と冬真を見た。
「仮に、神崎さんパーティーをA、奥村さんパーティーをBとしますね」
神崎と冬真はうなずいた。
「基本ルールとして①から⑥までの流れが設定されていますので順に説明していきます。①、まず運営側が用意したお題候補から、奥村さんのパーティーメンバーの誰かからお題を無作為に選定していただきます」
佐伯さんは16枚のお題カードを裏返した状態でテーブルの上に出した。
その内の1枚を表にする。〝富士山〟と記載してある。
「このお題〝富士山〟は②の段階で奥村さんパーティー全員に開示します」
みんながうなずく。
「②、奥村さんパーティーの全員が、私と一緒に別会議室へ移動します。別会議室では全員で〝お題に直接関連する単語〟でNGワード最大5つを決めていただきます。制限時間は10分です」
神崎がここで手を上げた。
「〝お題に直接関連する単語〟かどうかは運営スタッフで判断するということですか?」
「はい、その通りです。私がその場でNGワードの適否を判断します。ちなみに、ここで決まったNGワードは〝山〟、〝日本〟、〝高い〟、〝登山〟、〝世界遺産〟だとします」
と、佐伯さんが回答し、神崎がうなずいた。
「③、我々がここの会議室に戻り、神崎さんパーティーの説明役にお題とNGワードを開示します。制限時間3分以内で説明役の方は回答役のために説明する案を検討してください」
神崎が更にここで手を上げた。
「さきほどのNGワードで、類義語や言い換えも同様にNGとなりますか? 例えば登山の類義語である山登り、山を英語にしてmountain等です」
「後述する⑤のフェーズで奥村さんパーティーのメンバーから類義語や言い換え等でNG指摘があった際、私が指摘の正否判定を行います」
「なるほど。説明時は類義語や言い換えは極力、避けたほうが良さそうですね」
神崎は納得したようだ。
「④、説明役がNGワードを回避してお題の〝富士山〟を回答役に説明します。制限時間30秒以内で説明できるように準備しておいてください」
30秒以内か、なかなか厳しそうだ。冬真達の説明役は玲央奈ちゃんにやってもらうしかないだろう。
「⑤、説明が終わったら奥村さんパーティー側の説明役と回答役の合わせて最大4名でNGワードを指摘してください」
冬真が手を上げた。
「⑤の制限時間は無いのでしょうか?」
「はい、制限時間はありませんが、私の判断で頃合いを見て打ち切ります。1分以内を目安と考えてください」
冬真はうなずいた。
「最後の⑥です。⑤でNGワードの指摘が無ければ、神崎さんパーティーの回答役がお題の〝富士山〟を当ててください。制限時間3分です。説明は以上で終わりですが何か他に質問はありますか?」
佐伯さんが見回したが、全員、他の質問は無いようだ。
「では、各パーティーで説明役1名と回答役最大3名を決めていただきます。神崎さんパーティーはいかがですか?」
「説明役は私、神崎とします。回答役は残りの織田と佐藤です」
佐伯さんがうなずいた。
「奥村さんパーティーはどういたしますか?」
「説明役は水無瀬玲央奈さん、回答役は山本なぎささん、青木さん、私の3名です」
「承知しました。では続いて1日目終了時点のパーティー平均スコアが高い神崎さんパーティーに、3戦でAとBどちらを担当するかの組み合わせを決めていただきます。ABA、もしくはBABのいずれかを選択してください」
神崎は少し考えて、
「ABAでお願いします」
と答えた。
「承知しました。では1戦目は神崎さんパーティーがA、奥村さんパーティーがBとして進行します」
みんながうなずいた。
「では早速ですが、奥村さんパーティーの……、そうですね、説明役でも回答役でもどちらでもない、水無瀬悟さんにお題を決めていただきます」
佐伯さんは机の上にお題カード、15枚を並べた。
あちゃー……、よりによって運マイナスの悟さんか。大丈夫かな? 冬真は心配になった。
悟さんが1枚選んだ。
「1戦目のお題が決まりました。では、奥村さんパーティーは私と一緒に別会議室へ移動していただきます。神崎さん達はここで待機お願いします」
佐伯さんが先導して、冬真達は別会議室へ移動した。
佐伯さんが会議室の扉を閉めて言った。
「1戦目のお題は〝カレーライス〟です。制限時間10分以内でNGワードを最大5つ、選定してください。私のタイマーアプリでカウントします」
佐伯さんは机の上に自身のスマホを置いてタイマーをスタートさせた。
「あー、やっぱりお父さん、簡単そうなお題を引いちゃったみたいやねぇ」
玲央奈ちゃんが額に手を当てて天を仰いだ。
「すまない」
悟さんが謝る。
とはいえ、がっかりしている時間がもったいない。ここは冬真が主導することにした。
「まずNGワードの候補を5W1Hでそれぞれ各1分で洗い出そう。残り3分ぐらいでその中からNGワードを選定しよう」
「5W1Hって何なん?」
玲央奈ちゃんが質問した。
「社会人が物事を説明するときに整理するための方法だよ。実際に今から検討を進めていく過程で玲央奈ちゃんなら理解できると思う」
と、冬真は言ってホワイトボードに書いていった。
「1つ目はWhat。ここでは材料等、カレーライスを構成するもので思いつくものをみんなで挙げていこう」
「構成するものでいくなら、〝ルー〟と〝ご飯〟だよねー」
なぎささんが提案した。
「材料なら、〝スパイス〟、〝肉〟、〝野菜〟、〝米〟ですね」
奈緒さんも案を出してくれた。
続いて、Whereは発祥地や食べる場所・シーンとして、〝インド〟、〝レストラン〟、〝給食〟、〝外食〟。
Whenは食べるタイミングとして、〝夕食〟、〝昼食〟。
Whoは作る人や食べる人として、〝父〟、〝母〟、〝子供〟、〝家族〟、〝生徒〟。
という要領でどんどん冬真がみんなの案をホワイトボードに書き出していった。
「Whyは人気の理由、特徴等をあげていこう」
「〝定番〟、〝簡単〟、〝お手軽〟とか、やなぁ」
「〝辛い〟、もありますよね? 甘口カレーもあるけど」
蒼大君が思いつくべき重要なキーワードを挙げてくれた。
「あ、すっかり忘れていた、助かったよ」
冬真はお礼を言った。
「いえいえ、辛口のカレー、大好きなので」
蒼大君が照れながら答えた。
「最後のHowは調理方法で検討しよう」
と、冬真が案出しをみんなにうながした。
「なんといっても〝煮込む〟、ですよね。よく煮込んだカレーは想像するだけでお腹が空きそうです……」
蒼大君がお腹を押さえて言った。そろそろお腹が空いてきたのかもな。お昼はカレーがいいなと冬真は思った。
あとは〝炒める〟、〝混ぜる〟などが候補にあがった。
「よし、5W1Hで候補は出せたと思うから、この中からNGワードを決めていこう」
と言って冬真はみんなを見た。
「この中だと、カレーライスそのものを指しているWhatの優先順位が高そうやなぁ」
「〝インド〟、と〝辛い〟も外せなさそうですよね……」
蒼大君がしみじみと言った。インドカレーが好きなのかもしれない。
みんなで検討してみて、とりあえず〝スパイス〟、〝ルー〟、〝インド〟、〝辛い〟、〝煮込む〟の5つに絞り込んだ。
「この5つでよろしいですか? どのNGワードも私の適否判定はOKです」
と佐伯さんが確認した。
「ちょっと待った」
玲央奈ちゃんが止めた。
「お題がカレーライスやし、〝ご飯〟は入れるべきやと思う。ご飯にかける、とかで説明される可能性があるやろ」
なるほど、確かに。
「〝ご飯〟は状況によって、ライス以外にも例えば〝昼ご飯〟など食事全般にまで範囲が広がるのでNGとさせていただきます」
佐伯さんに止められてしまった。続けて、
「ただし、〝ライス〟ならOKです。もしも神崎さん達がライスの言い換えの意図で〝ご飯〟と言った場合は類義語として判定します」
と提案してくれた。じゃあ〝ライス〟にするか。
更にみんなで話し合って〝煮込む〟を外して〝ライス〟を設定した。
「では、NGワードを〝スパイス〟、〝ルー〟、〝インド〟、〝辛い〟、〝ライス〟で設定しますね」
佐伯さんが確認し、みんながうなずいたので決定した。
佐伯さんに連れられて冬真達は神崎達が待つ会議室に戻ってきた。
「これから説明役の神崎さんにお題とNGワードを開示します」
佐伯さんはお題カードを追記したNGワードと共に神崎に見せた。そして続けて、
「制限時間3分以内でNGワードを回避した説明案を検討してください。私のタイマーアプリでカウントします」
と言って佐伯さんは自身のスマホを机の上に置いてカウントをスタートした。
冬真は奈緒さんを見た。
「どう?」
「少し困ってるけど、なんとかなるような雰囲気だと思います」
奈緒さんが残念そうに答えた。お題が簡単そうだし、ちょっと厳しいか。
残り1分ほどで神崎が手を上げた。
「もう大丈夫です」
「では、30秒以内で説明お願いします。どうぞ」
「茶色っぽいとろみのある料理で、肉やじゃがいも、人参、玉ねぎなどをじっくり煮込んで作る。福神漬けやらっきょうを添えることもある。給食でも家庭でも人気の国民食だ」
さすが神崎だ。端的にカレーライスを説明している。外した〝煮込む〟もしっかりと使われてしまった。
「奥村さんパーティーからNGワードの指摘はありますか?」
冬真はなぎささんと奈緒さん、玲央奈ちゃんを見た。3人共、首を横に振った。
「ありません」
冬真は仕方なく答えた。
「では、回答役の方、回答どうぞ。制限時間3分です」
織田さんが手を上げて答えた。20代前半の男性で見るからに筋肉質でスポーツ万能をイメージさせる体と精悍な顔つきをしている。
「カレーですか?」
佐伯さんが首を横に振る。
「では、カレーライス」
「お見事。正解です」
織田さんがガッツポーズした。神崎が余裕の笑みを浮かべた。
「では、1戦目は神崎さんパーティーの勝利とします」
佐伯さんが宣言して1戦目は終了した。
「では、2戦目はAとBを交代します。お題カードを佐藤さんが選択してください」
佐藤さんがお題カードを選択した。こちらは賢そうなイケメン男性で、神崎と違って人当たりが良さそうな雰囲気だ。冬真と同年代である。
「お題が決まりましたので、神崎さんパーティーは私と一緒に別会議室へ移動します。奥村さん達はこの会議室で待機しておいてください」
冬真達は10分程度、神崎達がNGワードを決める間、待つことになった。
「神崎さん達、NGワードをしっかり刺さるやつに設定してきそうで、きつそうやなぁ。心配や」
説明役の玲央奈ちゃんが不安そうにしている。
「玲央奈ちゃんならきっとうまく対応できるよ。俺達とは頭の出来が違うし、十分対抗できるはずだ」
「ウチ、そんなにすごくないで。冬真さん達も十分賢いと思うで」
「玲央奈ちゃんは知識だけじゃない。知識を活かすための知恵や発想力も高いと思う。もしも玲央奈ちゃんで駄目だったら他のメンバーの誰がやっても駄目だと思う。思い切ってぶつかってほしい」
冬真が励ました。
「うん、ありがとう。がんばるね」
玲央奈ちゃんが笑顔になった。自信を取り戻したようだ。
「へー。ダーリン、かっこいいじゃん」
なぎささんが珍しく素直に褒めてくれた。
「冬真さん、素敵です」
奈緒さんも褒めてくれたので冬真は照れた。
「冬真さん、デレデレしなかったらもっとかっこいいのにもったいないです……」
蒼大君が言うと女性陣が大きく頷きながら笑った。
蒼大君、君は味方じゃなかったのか……冬真はちょっと裏切られた気分になったが、雰囲気が明るくなったのでこれで良しとするか。
佐伯さんと神崎パーティーが会議室へ戻ってきた。
「これから説明役の水無瀬玲央奈さんにお題とNGワードを開示します」
佐伯さんはお題カードを追記したNGワードと共に玲央奈ちゃんに見せた。
玲央奈ちゃんの表情が途端に険しくなる。どうやら予想通り、かなりきつめのNGワードが設定されたようだ。
「制限時間3分以内でNGワードを回避した説明案を検討してください。私のタイマーアプリでカウントします」
玲央奈ちゃんが目を閉じて頭を抱えて考え込んでいる。冬真達は玲央奈ちゃんを信じて見守った。
「かなり厳しそうです」
奈緒さんが冬真にそっと耳打ちした。幸せを感じる余裕は無かった。
残り時間が10秒を切ったところで玲央奈ちゃんが手を上げた。
「OKです。説明できます」
「では、30秒以内で説明お願いします。どうぞ」
「お店ではカウンター越しに職人さんが目の前で作ってくれることが多く、醤油をつけて食べます。回転するベルトコンベアで運ばれてくるお店もあります」
「神崎さんパーティーからNGワードの指摘はありますか?」
神崎は織田さんと佐藤さんを見たが、全員指摘無しのようだ。
「ありません」
「では、回答役の方、回答どうぞ。制限時間3分です」
なぎささんが手を上げて答えた。
「寿司屋さん、もしくは寿司だと思います」
「お見事。寿司で正解です」
玲央奈ちゃんが手を叩いて喜んでいる。蒼大君となぎささん、奈緒さんは3人でハイタッチしている。やった! 神崎達に一矢報いたぞ!
「では、2戦目は奥村さんパーティーの勝利とします」
佐伯さんが宣言して2戦目が終了した。
「では、3戦目は再びAとBを交代します。お題カードを今回は山本蒼大さんが選択してください」
蒼大君がお題カードを選択した。
「お題が決まりましたので、奥村さんパーティーは私と一緒に別会議室へ移動します。神崎さん達はこの会議室で待機しておいてください」
別会議室へ移動する途中、玲央奈ちゃんが冬真に話しかけてきた。
「NGワードは〝魚〟、〝酢飯〟、〝ネタ〟、〝握る〟、〝日本料理〟で寿司の説明に必要な言葉を封じられて困ってたんや。でも冬真さんの教えてくれた5W1HでWhereなら寿司じゃなくて寿司屋さんを説明すればいいことに気付いたんや。冬真さんのおかげやで」
「そっか。でも教えたことをすぐに活かせるのはやっぱりすごいよ。さすが玲央奈ちゃんだね」
「ありがとう。すごく嬉しいわー」
冬真と玲央奈ちゃんのやりとりを見て、佐伯さんが穏やかな笑顔で言った。
「若者の成長を目の当たりに出来て、運営冥利に尽きます」
冬真達が別会議室へ到着し、佐伯さんが会議室の扉を閉めて言った。
「3戦目のお題は〝有給休暇〟です。制限時間10分以内でNGワードを最大5つ、選定してください。私のタイマーアプリでカウントします」
「お題が物じゃないからこれは難しいぞ。蒼大君、でかした!」
蒼大君が照れている。勝つチャンスだ、気合を入れていこう。
今回も冬真が主導して進めていく。
「Whatは制度の説明だから、〝休み〟だな。類義語もなかなか広くなりそうだし」
冬真は佐伯さんを見た。
「〝休み〟はOKとします」
よし、この調子でどんどん決めていこう。
Whereは関係する場所ということで、〝会社〟、〝職場〟。
Whenは有休の取得タイミングや期間・日数ということで、〝平日〟、〝年間〟、〝日数〟。
Whoは関係者ということで、〝上司〟、〝社員〟、〝従業員〟。
Whyは目的や理由ということで、〝リフレッシュ〟、〝体調〟。
Howは取得方法や手続きということで、〝申請〟、〝取得〟、〝届け出〟
と出していった。
「この中からNGワードを決めるとなると……」
「〝休み〟、〝会社〟あたりは外せなさそうよねー」
なぎささんが言ってみんなが同意した。
「〝上司〟と〝申請〟も必要だと思います」
奈緒さんが続けた。
「残りは目的から選ぼうか。〝体調〟かな」
冬真は自身の主な有休取得理由を思い浮かべた。
なぜか、なぎささんと奈緒さんが笑っているが、同意してくれた。
蒼大君と玲央奈ちゃんは社会人3人に任せた感じの姿勢だが……。
玲央奈ちゃんがふと思いついた感じで待ったをかけた。
「あ、ちょっとまずそうやで。〝体調〟を入れると、他の目的で説明される可能性があるで。〝目的〟の観点を神崎さんの頭から除外するためにあえて〝体調〟を入れないほうがええんちゃうか?」
それもそうか。
「じゃあ取得できる日数に注意しながら使うものだから、〝日数〟を入れとけばー?」
なぎささんが提案したので、じゃあそれでいくか、ということになった。
「NGワードは〝休み〟、〝会社〟、〝上司〟、〝申請〟、〝日数〟とします」
冬真は佐伯さんに申告した。
「OKです」
佐伯さんが判断したのでこれで決まった。
冬真達は神崎達が待つ会議室に戻ってきた。
「これから説明役の神崎さんにお題とNGワードを開示します」
佐伯さんはお題カードを追記したNGワードと共に神崎に見せた。そして続けて、
「制限時間3分以内でNGワードを回避した説明案を検討してください。私のタイマーアプリでカウントします」
神崎の表情は一見、変わっていないように見える。
「どう?」
「珍しく少し動揺しています。厳しいのだと思います」
奈緒さんが安心した感じで報告してくれた。
神崎は目を閉じて考え込んでいる。〝目的〟の観点を思いつかなければ勝機があるかもしれない。
静まり返る会議室の中で、冬真は佐伯さんのスマホがいつもよりゆっくりカウントダウンしているように感じた。
残り30秒を切ったところで神崎が手を上げた。
「OKです」
「では、30秒以内で説明お願いします。どうぞ」
「労働者が持っている権利の一つだ。業務をしなくても給料がもらえる仕組みのことだ」
「奥村さんパーティーからNGワードの指摘はありますか?」
冬真はなぎささんと奈緒さん、玲央奈ちゃんを見た。3人共、首を横に振った。
くそ……。完全にやられた。こちらが想定していた、有休を取得する〝目的〟の観点じゃなくても、適切な説明ができるんだな。
「ありません」
冬真は残念そうに答えた。
「では、回答役の方、回答どうぞ。制限時間3分です」
佐藤さんが手を上げて答えた。
「有給休暇制度、もしくは有給休暇、有休」
「お見事。有給休暇で正解です」
神崎は相変わらず余裕の笑みを浮かべている。だが、奈緒さんからの情報が確かなら、少しは苦しめることができたはずだ。
「では、ラスト、3戦目は神崎さんパーティーの勝利とします」
佐伯さんが宣言して3戦目が終了した。
冬真は神崎から視線を逸らした。
1勝2敗。残念ながら、冬真達は強者の壁を超えることができなかった。




