蛮人どもの襲撃がはじまったっpart3
俺が陸上競技の投擲法で投げた槍は、ガンツォ達の隠れている家の屋根を越え、その向こうまで飛んでいった。
おおお、と言う胸毛マン達の動揺する野太い声が聞こえてくる。
ふふふ。今日は肩の調子がいいようだぜ。んふふふっ。
投げ返せる槍はまだまだ沢山落ちている。俺は次の投擲に備え、落ちている槍を何本か拾い集め、出来るだけ曲がりが少ないものを選んでいった。
早い話。
大学の陸上部にいたとき、やり投げチームに飲み会仲間が居たのだ。
そんな感じで時々練習にも大会にも参加していた。
その時の経験が生きた。
陸上部ってなにげに戦闘能力高いよな……結構。
よく考えるとそこそこ野蛮というか。
ハンマー投げだの砲丸投げだの。ハードル走とか逃げ足速そう。
競歩は……えーっとー……。
恥ずかしながら、大学で競歩をやる前、高校時代八種競技にも少し手を伸ばしていたのだ。
ランニングでは各距離専門ランナーに太刀打ち出来ず、今ひとつ芽の出なかった俺がなんか可能性はないか、といろいろ試してみていた時期があった。
まぁ……こっちはこっちで超人!的な総合競技専門アスリートがいたりして、たいした記録も残せてはいないのだが!
短距離、中距離、中長距離、ハードル、幅跳び高跳び、やり投げ砲丸投げ、専門性が高い競技ではホント、たいした記録は出てないんだけど……
オールラウンダー、デカスロンとか言われるには、ホントたいしたことなくて恥ずかしいんだけど!
一応一通り、トレーニングは積んでいる。
その中でも投擲種目は意外とよかった方かな。
上半身にたっぷり筋肉の乗った専門アスリートとは格段の差があるが。
アイツらまったく無名の選手でも四十メーター五十メーターは普通に投げるからなぁ……六十超えて、ちょっと注目される、と言う世界なのだ。
でも まぁ、複合の中ではそこそこのポイント稼げたくらい。
結構ゆるゆるの雰囲気だったウチの大学の陸上部は選手の貸し借りなんかもよくしていた。
競歩チームなんて、あまり大会も無いのだ。
八種競技経験者で遊軍だった俺は、同じ陸上部メンツの飲み会仲間に誘われることも多く、結構いろんな競技の練習をしていたりしたのだった。
投擲競技とかマイナーだから、選手の頭数増やす為だけにとか。
遊び半分だけどね。
しかし、それでもオトコの筋力に任せた投げ槍と女性の引き絞る短弓とでは飛距離が違う。
蛮人どもが投げ込んでくる大槍に苦戦することが多かったアマゾネス勢としては、こちらにも投げ返せる者がいる、ということは大いに心強かったのだろう。
俺が投げ返した槍の飛距離におおう、と歓声を上げたのは胸毛マン達だけではない。なんか小さい拍手までアマゾネス達の中から起こっていた。
まして、ただ投げるだけでは無い。
飛距離が出る為に研究され尽くした陸上競技用フォーム、というものがあるのだ。
投げる距離は蛮人のそれより、やり投げちょい囓りの俺の方が遙かに勝っていた。
真正面向いて、走る勢いもろくに付けず投げつける蛮人ども。
助走をたっぷり取り、身体を射出方向に横にし、投擲のステップを踏み、身体を捩り全身の力を込め、槍を回転させて投げるという陸上競技フォームの俺。
蛮人どもがせいぜい二十メートル足らずなら俺は三十メートル以上投げれた。
四十までいったかな。今日は中々調子がいい。
頭の上を遙かに越えて飛んでいく槍を見て蛮人どもは明らかにビビっていた。
投擲後の放声も、奴らには戦咆哮ウォークライと聞こえているようだ。
まぁ、これは遠くに投げる為のフォームなので水平に狙って投げることは出来ないのだが。
工夫すれば出来るか……? ま、今はそこまでは。
狙って殺すまでするつもりはない。運悪く当たったらそれは知らん。
向こうだって思いっきり狙って投げつけてきているのだから。
因果応報だろう。不運を恨め。
つか、飛びすぎで誰もいないトコに墜ちてるから、当たってないだろ。きっと。
俺の投げ槍の飛距離で蛮人どもの進軍の足が止まったせいか、アマゾネス達の反転攻勢が効いた。
「一気に詰め寄る! 短弓の射程距離ギリギリに入れろ! 近づきすぎるな!」
リザレオの端的で的確な指示の元、女戦士達が一斉に家の影から飛び出し、何も遮蔽物のないところを走る。
その勇気は驚嘆すべきだ。まだ槍を構えているガンツォ達がいるというのに。
その中の一人にリザレオがいる、と言う事実が俺を奮い立たせる。
援護射撃のやり投げで、胸毛マン達を足止めする。
投擲後の怒声は飛距離を少しだけ伸ばす、という。
どんなこと言ってもいいけど、大声ほどいい、最後はあの音で終わると一際いいのだとか。ホントかどうか知らないが専門の選手がそう言っていた。
「どらっしゃいっ!んだこらぁぁぁっっっ!」
その激しい怒声も乗せて俺の放った槍が胸毛マン達が隠れている家を遙かに超えていく。
投擲角度を変えて放った一投が、その家の屋根を壊し、突破して破片を飛び散らせた。
その一投でヤツらのおびえは確定的となった。
数に勝る短弓部隊の斉射が始まった。
背を見せて森に逃げようとするガンツォに雨のようにカエル毒付き矢が降り注ぐ。
小さな盾を持っているヤツらがそれを振り回し、何とか命中を避けながらじりじりと後ずさりで森の方に擦り寄っていく。
アマゾネス短弓部隊の斉射は二段階に続き、切れ目なく胸毛マン達に襲いかかる。足を止めて防御に徹したヤツだけが残り、背を見せて森に駆け込もうとした連中は全て倒れ、しばし足をばたつかせると動きを止めた。
その時、ぼぇぇぇぇぇ……と、低い振動音が鳴った。それは地を這うように、どこまでも伸びるように漂ってきた。
「やめっ! ジェロエスタっ! ジェロエスタっ!」
リザレオの短い声が響き、放たれる矢が止まった。
小さな盾を振り回していたガンツォの一人がほっとしたように、その盾の影から顔を覗かせる。
なんだどうした? いきなり止まった戦闘に勢い付いていた俺は最後の一投を放とうかと構えた。
「マキタっ! 投げるなっ!終わりっ!もう終わりっ!」
リザレオの声にはっとし、構えを解く。もう矢を放っているものは誰もいず、生き残った胸毛マン達は半分もいなかった。
飛び出していったアマゾネス達がぞろぞろと戻ってくる。それでも生き残りを警戒しながら、後ろ向きでだ。リザレオもその中にいる。
あの低い低い音がしてから、胸毛マン達は悔しげな表情を残しつつも、どこか弛緩している。本当に戦闘は終わったのだ。
生き残りの蛮人達は、面倒くさそうに倒れた他のガンツォ達の遺体を回収し始めた。
蛮人達の度胸もすごいもので、まだアマゾネス達が取り巻いているその射程距離の中にまで踏み込み、一番遠くで倒れたガンツォの遺体を持ち帰っていく。
どうだ、撃てるものなら撃ってみろ、と言うジェスチャーすら見せる。
そのふてぶてしさをアマゾネス達は苦々しげに睨み付けていたが、誰一人弓矢を構えるものはいなかった。
味方の死体を担いだり引きずったりしながら、蛮人達が森に去って行く。負傷者はいない。
全て生きているか死んでいるかだ。
こちらの被害がほとんど無く、アマゾネスの攻撃も毒矢中心の為、首が切り取られたり内臓巻き散らかしたりという無残な有様がないのがちょっとだけ救いだな。
彼らなりのルールがあるのだろう。アマゾネス陣の弓の射程内に倒れている遺体までも一人残さず全員連れ去って行くのには感心した。
薩摩武士かあいつらは。
最後の一人が両手に他のガンツォの遺体の足首を引きずり、森の中にその背を消したとき。
ふぅぅ……と、アマゾネス達の安堵の息が漏れた。
そして打って変わって。
きゃぁぁぁっ!と言う歓喜の声が、その広間いっぱいに響き渡った。
ぴょんぴょんと歓びに跳びはねているのは何とも若い娘らしくて可愛らしい。おのおの近場の戦友に抱きついたり、手を握り合ったり。
今の今まで目を鋭く光らせ、殺意に満ち満ちたアマゾネス戦士達は、ようやっと年なりの女の子の顔を見せていた。
今回の襲撃は無事追い払うことが出来た。
こちらの陣営は無傷と行ってもいい。完勝と言って過言ではない。
指揮官として最前線に立っていたリザレオが一直線に駆け戻ってくる。
勝利の昂揚で頬を紅く染めながら。
マキター!と叫びながら。
驚きと歓喜で瞳をぴっかぴか光らせながら。
飛びかかって首っ玉に抱きついてきた。
足まで絡めて飛びついてくるからしょうが無く、デカくてふやふやの魅惑のリザレオ尻を両手で支える。
はっきり言って駅弁体位。エロっ。今晩はこれにしよう。むふふふ。
でも、リザレオのふかふかで温かい身体に抱きつかれるのはいつだって、どこでだって嬉しくて気持ちイイ。
俺も抱きついてくるリザレオに負けず劣らずぎゅーと、その腕の中のリザレオを抱きしめ返した。
あったかくって、ふわふわで、いつでも大歓迎。大好きだ。リザレオを抱くのもリザレオに抱きつかれるのも。
「マキタ!おまえ戦士だったのか!」
「いや、陸上部だ」
俺の返しは完全に理解不可能だったようだ。
リザレオの首がこてん、と倒れ、頭の周囲に?マークが何個も立っていた。




