蛮人どもの襲撃がはじまったっ!part1
戻り方向の家々から、わらわらと人が、全て女性が走り出てきて、方角を探っている。指を差し、同じ言葉を叫ぶ。
ガンツォ!
ガンツォ!ガンツォ!と廻りの女の子達が騒ぐ。なんだ何が始まった??
それって確か胸毛? 何?
「なんだ?! ガンツォって?!」
「敵だ! 胸毛だ!胸毛が来る!」
胸毛……? むなげ……?
教授翻訳マシン様……ホントに合ってる? ちゃんと仕事してる?
しかしまもなく。
それはまったく正解だったし、一目見て、そうとしか思えなくなる、と気付くことになった。
せっかくのエリゼの心づくしの葉包みはちゃんと固く抱いたまま、俺達は駆けていくアマゾネス戦士達の後を追うように声のする方向に走り出した。
次々と現れるアマゾネス戦士達が併走する人数を増やしていく。
その中の一人にリザレオが鋭く問いかけた。
「方角は?」
「あなたの持ち場の方です。カーマ・リザっ」
その短い答えを返したアマゾネス戦士はきっとカーマ・ハファの者だったのだろう。答え方に少しだけ尊意が欠けている。
言外に、何故この様なところにいるのか、と言っているのが俺にも感得できた。
リザレオの駆けるスピードがまた少し上がった。
リザレオの足は集落の中を飛ぶように駆けていく。元陸上部の俺ですら油断していると置いて行かれそうだ。ま、俺は競歩なんだけどなっ!
その足は廻りの女戦士達よりも遙かに速い。
あっという間に集落の中央を過ぎ、わらわらと人が集まっている所の横を駆け抜けていく。その集団の中心にあのち○こ岩があった。
グロルルとか言ったな。その直立する長い岩の周囲に、防壁を作るように人が並び、その外を取り巻いている土壁の裏にアマゾネス戦士達が潜んでいく。
中央にほど近い土塁の上に立ち、大声を出して指示を飛ばすハファエラの姿が在った。
リザレオもそれをちらりと確認し、なおも走るスピードを上げる。
声がけするかと思ったが、それよりもまずカーマ・リザ側の最前線に行くらしい。
おれもエリゼの心づくしの葉包みを両手に抱え、リザレオの後に続いた。
まずは武器。戦士達は武器庫に集結し集会所に殺到していた。
途中の集会所前ではうっすらと見覚えのある女戦士達が集まっている。こちらを確認し、カーマ・リザ! カーマ・リザ!とさざめきが起こる。
「至急装備し、前線へ! 方角はっ」
少しだけリザレオは走りを緩め、手近な女戦士に問いかける。
「武器庫の裏手に集結しているようです。森の中を移動してくるかと!」
「突入地点は必ず探れ! 私は一度家に戻り、指示を出す!」
それだけを言い残し、またリザレオがスピードを上げる!
俺も後れを取らぬよう、その後に続いた。
通り過ぎる武器庫裏では、せわしなく装備を運び出し、武器庫そのものを遮蔽物とし物陰に身を潜めて森の中と対峙する数名のアマゾネス戦士達がいた。
その中に立ち番をやっていたジオヴァーナの姿も在った。
「突入を確認したら直ぐ下がれっ! 武器庫は放棄する! 集落の家々から反撃すること!いいなっ!」
リザレオが走り抜けながらそれらの女戦士達に指示を飛ばす。
もう彼女らはカーマ・リザの一員なのだろう。リザレオを見てほっとした顔をしている。数名がこくこくと頷いている。
俺とリザレオはその勢いのまま、リザレオの家まで戻り、そのシェイドを跳ね上げて中に駆け込んだ。
手早く葉包みを置くと、リザレオがその戦士装備を身につけていく。羽根飾りを被り、アガールを腰に身につけ、弓矢一式を下げると、手荒く何かの香料を額になすりつけた。そのまま両目の下に朱い太い線を引く。
戦化粧か。額の紋様、頬の太い朱い線は目に沿って吊り上がる。
振り返ったリザレオの顔は戦意に猛り、殺意を漲らす猛獣の目をしていた。
「マキタ!どうする?!」
「まだ把握してない! リザレオは務めに戻れ!俺はしばらく見に廻る! その上、何が出来るか見極めたら動く!」
「……ごめん。リザレオは……カーマ・リザがある…………一緒にいてやれなくて……」
「大丈夫だ。それよりもみんなの所に行け!待ってるぞっ」
一つ力強くリザレオはうなずくと、放たれた矢のように部屋の中から駆けだしていった。
リザレオにはカーマ・リザの務めがある。俺は……セルフディフェンスだな。
なんか雰囲気的にかなりヤバいようだが……いろいろと見て回れる限り見ておこう。
俺は部屋から出ると、一度昇ってみようと思っていた監視塔に向かった。
リザレオの家にくっついている監視塔に上がるには、簡単に横棒状にくくりつけられているはしごの枝をよじ登っていくしかない。ホントに身軽な人専用だ。
そういえば集落でデブは一人も居なかったな。ナイスバディは目の毒なほどいたが。そこまで栄養状況は良くないのか、日常に運動がふんだんにあるせいか。
きっと後者だな。
俺はうんうんと唸りながら、その今にも折れそうなはしごをよじ登っていった。
上がりきった先にある簡易な小屋は四畳半ぐらいの狭いスペースで、ただ蓑屋根をかぶせただけ、陽除け雨除けになるだけの簡単な作りだった。
足下は枝々を束ねて板状にはなっていたが、所々隙間があって下が見える。こわい。足が抜けるほど大きくはないが。
さすが監視塔だけあり、ベランダ的な飛び出しと手すりが結構大きく取り巻いている。これは下からも見えていた。監視塔であると断じた理由の一つでもある。
さっきの武器庫はここからほど近い。上から見れば直ぐ近くにあるようにも見える。
駆け寄ったリザレオが、彼女達から情報を集め、一度引くよう手振りで指示している。中にリザレオが飛び込み……しばらくして、武器庫内から煙が上がった。
飛び出してきたリザレオが少し咳き込み、離れていくと同時に紅い火が微かに上がった。
煙は勢いを増し、上空まで届いていく。俺の目の前まで流れ込んできた。
敵に武器を渡すぐらいなら燃やす、という所なのだろうか。全て木製の武器庫はあっという間に炎を上げてその屋根を紅く染めていく。
森の中で何かが潜んでいる。大勢の気配。
そのごそごそとした集団がゆっくりと森の中を移動し始めた。
衝突の場はここを去って行く。そう判断した俺は、またはしごを下り、移動することにした。昇るより降りる方が難儀だ。足で探り探り降りていくと意外と時間がかかってしまった。
もう降りた先には森の中に気配はなく、しんがりで走り去っていったリザレオの背中もない。
ただ、もうすでに炎に包まれている武器庫があるだけだ。
そのきな臭い匂いを嗅ぎながら、俺は大きく何かが潜んでいるような森から距離を取るように、集落の端を走り抜けていった。
通り過ぎる家々の影には、アマゾネス戦士が分散して潜んでいて、森の中を移動していくナニモノかを監視しているようだ。そのナニモノかが移動していくたび、家々の影を渡り、ぴったりと追走している。
そのナニモノか、達の動きは遅い。森の中だからか。
平地を走る方が先回りできるだろう。俺はさらに走る足に力を入れて先を急いだ。
家々が増え、集落は先細りの部分から一気に中央部の広がりに変わった。
一つ一つの家は数を増してはいるか、その間隔は広く大きくなっている。
散在する家の影は全てアマゾネス戦士を潜ませている。市街戦の様相すらある。
俺はその中の一つの家の陰に身を潜めたが、同じ場所にいた女戦士達がばらばらと走り去っていく。
なんだよ。足手まといか?
どうもずいぶんイヤがられている気配。
リザレオがいないとこんなもんかー。
がっくり。
そのリザレオは今はどこにいるのか、姿は見えない。
ごそごそと移動していく森の中の影はまだ歩みを止めない。
その進行方向先の森の中で狼煙が上がった。影達の足が止まった。
ここに居るぞ、と言うしるしの狼煙なのだろう。それ以上は進ませないぞ、と言う意思の表れでもある。
影達は少し戻り、そして……森の中からぬっと姿を現した。
ガンツォ……胸毛だった。
ひっじょうに……わかりやすかった。




