アマゾネスの集落はぜっけいだった!ほかのも!part1
「はやくー……マキター……さきいくぞー」
かなり小さくリザレオの声が聞こえる。うわ。もうあんなに。
うへ。高所恐怖症でなくてよかった。ないはずだ。ないはずだった!
俺もつたないなから恐る恐るその足場を使って上がっていく。
大樹はうまく伐採されていて、登るに支障のある枝とかは切り落とされている。
体を幹に擦り付けるようにして登っていく。気付くと、その歩くところの幹のでこぼこも削り落としているようだ。
一応、登りやすいようにだろう。
「おそいぞー……マキタぁー……こわい?」
待っていてくれたリザレオが、枝を掴んでその細い足場の上に立っている。
こわいっちゃこわいよっ!なんせ、そのリザレオの足の下は丸々空間で、何もなく地面までスカスカだ。折れたら……とか、悪い想像が浮かぶ。
「なんとかだいじょぶだけど……えっと。ゆっくりお願いします。リザレオちゃん」
「んー……さっきのカノ・イススなら……瞬き三、四回で登っちゃうんだけど……」
「け、景色を愉しみながらっ! って言うのがいいかなっ!」
うそです。コワいです。掴まるところが欲しいです。
「ん。初めてだから楽しい。わかる。じゃ愉しみながらゆっくり行こう。さ。マキタ」
リザレオがくるりと振り返り、ゆっくりと登っていく。
後を追い、細い足場を登っていくけど……景色を愉しむどころか、喉奥からひー、と言う細い声が出る。ぐるぐるでっかい樹を回っていっても……まだまだ、小屋は頭上遙かにある。
イスス……すげえな。やっぱ忍者だ。アマゾネス忍者。
上がれば上がるほど、どんどん幹に抱きつくようにして……そんなことしても無駄だとわかっちゃいるがなっ!……俺の歩みはどんどん遅くなっていった。
「マキター……きてるー?……落ちちゃったー?」
ひたすら無言になっていく俺を気遣い、リザレオが振り向いた。
その上半身がくねりとねじれ、背を反らし、雄大なヒップが更に迫力を増した。
そうだっ……俺にはこれがあったっ!
ぴかん!と俺の目が光る!
不思議そうに見つめている階段上のリザレオは身体を捻っている分、そのくびれが強調され、ナイスバディがことさらナイスにっ!
しかも!忘れてた! リザレオがノーパン娘である事をだ!
しまった!なんという愚かなっ!
高いがどうした!絶景はそこにあったではないかっっ!
「いいぞーリザレオっ! すごい景色だなー絶景だなー愉しんで登ってるからーなるたけゆっくりなー」
「ん。あとちょっとで着くかなー。じゃ行くよう!マキタっ」
上を見ながら登り始めるリザレオ。言った通り、ゆっくりと一足ずつ。
食い入るような目で見つめる先には、くりくりと動く褐色尻が!
そして、その風に揺れるミニスカートの奥にはっ! くはぁっ……!
もう何もコワくない。高いも低いもない。
俺はただ一点に集中し!視線を固定し!魅惑の褐色リザレオ尻だけを追い!
ズンズンと足取り軽く登っていった。
え、景色? 見てない。
ふんふんと鼻息荒く小屋に辿り着く頃には、もうリザレオ褐色尻は目の前。匂いまでかげるか、というほど至近距離で見つめていることに気付いていないリザレオは、階段の終わりにぴょんと跳び、板を敷き詰めて床にしてあるところに飛び乗った。
「さ、ここっ! 司令塔だ。王宮の向こうに同じのがある。そっちはハファエラが付く。リザレオはここ。さぁどうぞっ」
楽しげに俺に腕を広げ、その地平線が見えるほどの高さに据え付けられた小屋を見せる。
俺はいろいろあって……息が荒い。ちょっと待って。
「さあどうぞ……マキタっ……さあさあ……」
膝に手を突き、ハアハアとしている俺の腕を強引に抱きかかえ、リザレオがいそいそと小屋の中に連れ込んでいった。
平たい板が敷き詰められてるのはスゴい安心感がある。そして、大きく窓を切ってあるところから外を眺めると……
確かに絶景はこっちにもあった。
眼下に広々と王宮を中心とした眺めが有り、今まで辿ってきた道も、高台が付いているリザレオの家まではるか彼方に見ることが出来る。
どこよりも高いところからの鳥の目線での俯瞰だ。
一望、と言う言葉がまさしくふさわしい。
このアマゾネス集落の全てが眼下にあった。
そこは集落の中心部なのだろう。
一つの巨大な館がある。これだけ遠目に見ても、うは、と思わず声が出てしまうほどの大きさだ。
造りは他の家々と構造が似ているようだが、それを幾つも幾つも並べてつなぎ合わせ、一つの大きな固まりとなっている。
それを取り巻くように立っている家々は、ランダムに周りを囲んでいる。
真ん中に辿り着く道が迷路になっているパズルを思い浮かべて、腑に落ちた。
城下町の基本的構造だ。
窓際に並び、ぴったりと寄り添うリザレオが、身を乗り出して指さした先に大きな王城があった。
「あれが王宮だ! この集落の王が住まっている。前代のアマゾネスの英雄だ! 誰もが尊敬している……」
うっとりとリザレオが呟く。ほー。やはり王様がいるのか。と言うか女王様だな。統治組織はやはりそうなっていたのか。
「リザレオはその女王様に会ったことはあるのか?」
「何度か! ああ……神々しいお姿だった……伝説のアマゾネス戦士! 大敗北と言われた災厄を一人で食い止めた御方……あの御方がいなければ、この集落は滅していた、とまで言われている……一度お声を聞けただけでも……リザレオは身が震えるほど感動した……はぁ……身に余る光栄とはこのこと……」
ほう、と両頬を両手で押さえ、リザレオは赤らめた顔をうつむかせ、熱い吐息をついた。そんなに?
「そっかー。リザレオでさえ、何度かしか逢えないんじゃ、俺なんか無理かな。一度会ってみたい気がするが」
「お呼びがかからないと無理。こっちから会うことは出来ない。あそこに立ち入るだけで大きな罪だから。グラビオラ様のお望み次第……はぁ……その名を口にするだけで……身が引き締まる……ふぅ……」
グラビオラ……ね。その名はしっかり脳裏に刻んでおく。
「グラビオラ様は日々、アウロラ神に祈りを捧げている……だから、この集落は安泰なんだ……尊い方だ……マキタも一度会えばわかる……ほう……」
こんなにリザレオが大絶賛する、と言うことは、相当名を残した戦士だったのだろう。
戦闘集落において、英雄となればやはり女王として君臨するのが自然だ。
統治の命令系統が見えないが、それはおいおい、だな。
人口規模、敷地面積、農業の有無、建物の数と大きさ……色々。色々。
目に入る景色はまさにフィールドワーク的に情報の宝庫だ。
ここに連れてきてくれたリザレオの好意に大いに感謝し、俺は各データを頭の中に蓄積していった。
疑問が浮かぶとリザレオに質問する。リザレオは極めて明晰に答えを返してくる。
それはカーマ・リザとして全容を把握していなければならない、と言う事情の他にも、地頭の良さ、のようなものを感じる。
この明快、明晰さが、リザレオをして、カーマ・リザへなさしめたに違いない。
なによりこの景色の絶景を味わいながら。
肩を時折くっつけてリザレオと話をするのは……えっと……よかった。
デートみたい、と言うと言い過ぎかも……そうでもないかも。
なんか自然と笑みが出るような一時。
それは鋭い声で打ち破られた。




