幕間 登場人物紹介と、十三番窓口のこと
お読みいただきありがとうございます。
人物が増えてきたので、今回は整理の回です。本編は次回から再開します。
読み飛ばしても本編は追えますが、ここにしか書いていない話が、いくつかあります。
◆リオ・アルクス
主人公。アルフェン高等技能院一年、テイム術の一芸推薦生。
契約量、記録上ゼロ。いつも眠そうで、遅刻と居眠りが多く、テイマーなのに魔物を連れていない。友人たちの評価は「夜に大変なアルバイトをしているらしい、ちょっと変わったやつ」。
だいたい合っている。大変さの桁だけが、合っていない。
宿屋「眠り鹿」在住。寝癖は魔物に舐められるたびに版図を広げる。
◆セナ・ラティス
契約術科の才媛。小型十匹、契約量十で一芸推薦。
毎朝リオの襟を直す。正論の在庫が豊富で、出すタイミングだけが悪い。
十匹の名前と役目はもちろん、好物と寝相の癖まで全部言える。言えると引かれることも、最近学んだ。
◆カイル
剣術科。飯は人生。人の話は三割誤解で聞くが、核心だけは悪気ゼロの直球で突いてくる。
最近「なんかやべえ時に下がる感じ」を掴みかけている。本人はまだ、その意味の半分も分かっていない。
◆ロディス・ラティス
セナの兄。ギルド所属の職業テイマー。契約量十三(大型一、中型一)。
人でも魔物でも初対面で値踏みして口に出す癖がある。悪気はない。本当にない。
鎧殻熊ゼグの耳の一件以来、リオを「また連れてこい」枠に認定している。
◆ゼグ
ロディスの鎧殻熊。大型。荷馬車が丸ごと甲殻をまとって蹲っているような寸法。
耳潜り事件の恩人にだけ、喉を見せる。契約主は少し複雑である。
◆ヴァンス
同期のテイマー推薦生。特殊大型・嵐鷲と契約、換算十五。
信条は「一体を深く」。従魔を増やす気は、ない。
朝の日課は鷲の羽繕いで、お返しに髪を嘴で梳かれて登校してくる。
◆ダリオ
牙狼使いの同期。リオへの対抗心が服を着て歩いている。
リオの言うことは、正しくても一度否定してからでないと聞けない。損な性分である。
◆マリウス教官
騎士団帰りの教官。体は岩、中身は実務家。
生徒の才能に本気で喜び、本物の強者には自分から頭を下げられる人。
◆ドレン教諭
契約術科の教師。皮肉屋だが、公平。補講の主。
口癖は「その返事で善処された記憶がない」。
◆フェルモ教諭
貴族派の重鎮。一芸推薦の制度には今も反対している。
ただし、自分の課した試験の結果は絶対に曲げない。規定に穴があれば、自分で書き直す。敵に回すと固く、味方につくともっと固い。
◆白紙先生
図書館の臨時司書。本名を知る者は、いない。
延滞は罪。予定は、いつも先に決まっている。
◆マルタ
眠り鹿の宿の女将。うまいスープと、詮索しない距離感の人。
現在、干し芋をスープに沈める研究に取り組んでいる。樽は、まだ半分残っている。
◇
【十三番窓口編】
王都には、十二の公認窓口がある。冒険者ギルド、商業ギルド、職人組合――表の困りごとは、そのどれかが引き受ける。
では、表に出せない困りごとは、どこへ行くのか。
西の三番通りの裏、古道具屋の角を曲がった行き止まり。真鍮の板に「十三」とだけ彫られた、古びた木の扉の向こうへ、である。
依頼の九割は、本物の人材派遣。残りの一割が、俗に言う十三番窓口になる。
彼らは義賊ではない。正義の味方でもない。金の動く正式な依頼を受けて、静かに片付けて、手柄は表に譲る。それだけの組織である。
なお、窓口のさらに後ろには、ヴェイル財団が控えている。表の顔は、学園や医院への後援で知られる篤志の財団。裏の顔は、アーティファクトの保護、貴重なダンジョン資源の収集、古代遺跡の保全――「表に出せない、価値あるもの」の番人である。十三番窓口が人の受付なら、財団は物と場所の受付、と言えばいい。
さて、十三番窓口に持ち込まれる小さな依頼は、後を絶たない。迷子の捜索から、夜泣きの子守り、質の悪い借金取りの説得まで。その大半は、名もない構成員たちが日々こなしている。
その構成員の中でも、特別な者にだけ与えられる番号がある。
ナンバーズ。十二の席。
現在、埋まっているのは、十。
◆一番 グラント・ヴェイル――帳の主
窓口の長。表の顔は人材屋の親父。
手紙は一行。依頼は三語。心配の出し方は、雑。
手紙の最長記録は三行で、これはミラ宛てだった。ミラは今もこの記録を「私の勝ち」と呼んでいる。
◆二番 ガルド・レイヴン――剣聖崩し
対人戦闘の総合芸。剣は看板で、実際は石でも砂でも外套でも、彼の間合いになる。
一対一で人間相手なら、王都で一番厄介。ただし獣は専門外で、本人もきっぱり割り切っている。
教え子の褒め言葉は、必ず本人のいない場所に落とす男。最近、とある学園に不定期出没している。
◆三番 オルフェ・アシュレイ――灰の魔女(本編では声と煙のみ登場)
香の店の奥にいる。姿をまともに見た者は、組織の中でも少ない。
口数は最小。「預かる」「三日」。それで全部通じる。
リオはあの店の煙が苦手で、いつも外で待つ。
◆四番 ネム・アルレット――眠らせ屋
王都最強の乳母。眠れない子供のいる家に派遣され、眠りを取り戻して去る。
リオが絡むと保護者モードが暴走する。任務中の伝令に健康の注意書きを添える人は、組織で彼女だけである。
◆五番 バルカ・ロンド――毒味の料理人
三番街の高級店ロンド亭のオーナーシェフ。表の一皿は、リオの宿代ひと月分。
舌の精度は異常の域で、三百束の香味草を一枚ずつ囓って異物を選り分けたことがある。
裏口から来る客の飯は、日替わりで、なぜか少年が来た日だけ量が多い。
◆六番 シェラ・リュート――糸繰りの舞台屋
歌劇団の座長。錠は素通り、声は四方から届き、幕が下りる頃には全員吊るされている。
リオの笛と立ち居振る舞いの師匠。「リオちゃん」と呼びたいのを、本人の抗議で「リオ」に譲歩中。譲歩したとは言っていない。
◆七番 リッツ・カーヴァン――鍵無し(本編未登場)
古物商。開けられない物の方が珍しい、と本人は言う。
このところ店番続きで出番がなく、ぼやいているという噂である。
◆八番 ミラ・フォルカ――第十三厩舎の主
厩舎という名の、牧場の主。行き場のない魔物たちの、行き着く場所を守っている。
挨拶は魔物が先、人は後。番号で呼ぶのは禁止。命名は必須。
優しさは全部「決まりだから」の形で出てくる。騙される者は、いない。
◆九番 白紙の司書
学園の図書館にいる、あの白紙先生その人である。
表と裏の両方に籍を置くのは、組織でもこの人だけ。なぜ学園に置かれているのかは、まだ誰も語らない。
◆十番 ラウル・ベルカント――葬送楽師(本編未登場)
まだ、王都に戻っていない。
彼の楽器が鳴る夜は、静かな夜と決まっている。
◆十一番 ――
◆十二番 ――
欠番である。
理由を、昔、新入りの構成員が尋ねたことがある。
答えた者は、いなかった。ただその晩、酒場の隅で、古参たちの杯が一度だけ、同じ方向に傾いたという。
◇
【協力者と、牧場の住人たち】
◆ソル
配達係の青年。リオの二つ上。荷を遅らせたことが一度もない。
礼の桁がおかしい(現物支給・樽単位)。
◆ロロ
第十三厩舎のロックハウンド。中型。鼻は王都一(ミラ定義。異論は受け付けていない)。
◆チェーンスネーク
療養中の大蛇。飯の催促が日に日に元気になっている。
来客の膝を枕にする癖があり、膝の側の被害が報告されている。
◆ガロとジド
グリムウルフの二頭。人との距離、現在三歩。
牧場は、逃げずに待っている。
◆スナ
グランリンクス。左耳の番号は、もう誰も呼ばない。
初めての眠りを覚えたばかりの、名前持ちである。
◇
最後に、組織の非公式な番付をひとつ。
ナンバーズの間で毎年こっそり更新される「怒らせてはいけない人」の順位は、一位が満票で白紙の司書である。
理由を聞くと、全員が目を逸らす。
二位はミラ(魔物を雑に扱った者の末路を、皆一度は見ている)。三位はネム(理由は、怒鳴らないから)。
なお、この番付を集計しているのが誰なのかは、これも誰も答えない。ただ、集計結果はいつも、一枚の紙に綺麗な字で書かれて、事務所の壁に貼られているという。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回から本編を再開します。
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