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一体契約のテイマーと十三番窓口〜眠そうな学園生は、裏で魔物案件を片付ける〜  作者: じぇいじぇい


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第58話 十三個目

お読みいただきありがとうございます。


第58話です。二年生編、締めくくりです。

 年度末の学園は、紙の匂いがする。

 期末試験の季節と言いたいところだが、リオにとっては補講の季節だった。


「リオ君。ここの答案、白紙です」

「……考え中の欄です」

「考えた結果を、紙に」


 図書館の机の向かいで、白紙先生が答案の束を几帳面に揃えた。座学の再試は三科目。実技の評価は今年も付けようがなく、評価欄には例年通り「別紙参照」とだけ書かれるらしい。別紙を誰が書くのかは、聞かないことにしている。


「進級、できますか」

「できます。ぎりぎりで」

「ぎりぎりなら、十分です」

「その台詞、二年連続ですよ」


 隣の机ではカイルが頭を抱えていた。実技は剣術科で頭一つ抜けたくせに、座学の点はリオと似たり寄ったりだった。


「なあリオ。俺とお前、足して二で割ったら、ちょうど一人前だよな」

「割るな。両方半人前になる」

「……言うようになったなお前!」


     ◇


 同じ頃、職員室では茶が入っていた。

 年度末の成績会議の休憩だった。


「……しかし、妙な学年ですな。あの二年は」


 マリウス教官が湯呑み越しに言った。


「剣が光る男がいる。十二匹抱えて学年一位の娘がいる。工人展で名工の名簿に載った職人がいて、劇をやれば侯爵家から商談が来る委員長がいる」

「評価のつけようがない生徒も、いますね」


 テイム術科の教官が帳簿の一点を見た。契約量の欄が、二年間ゼロのままの生徒だ。ゼロのくせに、実技に出せば演習場中の獣が寄ってくる。


「あれは何なんだ、実際」

「さあ。……獣に好かれる体質、だそうですが」

「三年になったら、どうなるんだか。あの学年は」


 部屋の隅で答案を揃えていた臨時司書が、手を止めずに言った。


「……静かに卒業していってくれると、いいですね」


 声だけは、心からそう言っているように聞こえた。


     ◇


 進級発表の日、掲示板の前は人垣になった。

 二年の首席は、今年もセナ・ラティスだった。入試から数えて、三度目の一番になる。本人は一瞥して頷いただけで、人垣の後ろの方を探していた。

 探された男は、掲示板の下から三番目に自分の名前を見つけて満足そうに欠伸をしていた。


「ぎりぎりじゃない」

「進級は進級だ」

「少しは悔しがりなさいよ」


 騒ぎの中心はむしろカイルで、実技一位の張り出しに剣術科が沸いていた。ノアが人垣の外から「先輩! 来年もご指導お願いします!」と叫び、カイルが「おう、任せろ!」と返し、セナが「あなた座学は下から五番目でしょう」と刺した。

 春の廊下で、リオのポケットからあかりが顔を出した。


「しんきゅう、って、なに」

「……上に、上がることだ」

「りおも、あがった?」

「ぎりぎりな」

「ぎりぎり、えらい」


 えらいのかどうかは、分からなかった。


     ◇


 放課後、セナに袖を引かれた。


「付き合いなさい。……歩きたい気分なの」


 向かった先は、聞かなくても分かった。街道が王都を出る手前、川が大きく曲がる場所。秋の休みの日に、夕日を見た川辺だった。

 春の川は、水の嵩が増えていた。雪解けの水が、石の上を速く流れていく。

 二人で石に座ると、セナの鞄からスズが顔を出した。出して、当然のようにリオの膝へ移った。


「……うちの十二匹で、あなたのことが一番好きなのよ、この子」

「光栄だ」

「複雑なの、こっちは」


 セナは前を向いたまま言った。


「十二個目、まだだったわね」

「……ああ」

「ずっと、言う場面を探してたの。中途半端な場所で言うのは、嫌だったから」


 セナは膝の上で指を一本ずつ折った。十一本。倉庫の朝からの、数の続きだった。


「十二個目。……人に、こんなに心配をかけたこと。私、あの倉庫の夜、一晩で何年分も心配したわ。あなたが扉から入ってきてから助かるまでの間、ずっと。だから十二個目は、一番怒ってるの」

「……悪かった」

「よろしい」


 川の音が、二人の間を流れていった。

 それで十二個、終わりのはずだった。

 セナは折った指を、一度ぜんぶ開いた。


「……でね。あのあと、数え直したの」

「うん」

「十三個目が、あったわ」

「……まだあるのか」


 リオが身構えると、セナは初めてこちらを向いた。

 向いて、笑った。


「ありがとう。……助けに来てくれて」


 川の音だけが、続いた。

 リオは何か言おうとしてやめ、結局短く答えた。


「……ん」

「返事まで眠そうね」

「起きてる」

「知ってる」


 それきり、どちらも喋らなかった。

 どちらも、呼吸を数えなかった。

 雪解けの川が流れて、春の夕日が沈んで、天気の話は今日もどちらからも出なかった。

 二年生が、終わった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


二年生編にお付き合いいただき、ありがとうございました。次回から少しだけ幕間を挟んで、三年生編に入ります。


面白い、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります。

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